薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第二章

茨棘の本心

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 茜凛の初発情の騒動後に、紅玉の一か月遊女見習いが終わり遊女として初見世はつみせの段取りになった。
 その前日に茨棘から遊女としての心構えを言われた。
「Ωの遊女なら発情期を売って金を稼ぐのが、基本なのだというのは建前で、『藤ノ井』の遊女と事はこの国ではある意味ステータスだと聞く。『藤ノ井』の遊女はそれだけで富の象徴だと言う人もいる。だから、普通の妓楼より高くてもそれを手に入れるために必死になってここを目指している。だから『藤ノ井』の遊女は、それを踏まえたお客様へ良い思い出と記憶を残すために気を配り最高のおもてなしでお相手する。お客様はそれを胸にお仕事を頑張っている。その向こう側にお泊まりがある」
 と、茨棘は言う。彼の仕事をつぶさに見ていると紅玉は自分にできるのか心配になる。茨棘は続けて
「Ωの心は正直だ、好きなお客以外には触られたくないのが本音だ。だが、仕事だと自分に言い聞かせて自分に魔法をかける。そして、発情期であろうともなかろうともお客様の夢を叶えるためにどんなお客様とでも疑似恋愛し脳内で愛する人に塗り替えて事をこなす。上手に魔法をかけられないと少しずつ心を病む、そして動けなくなって堕ちていく。堕ちる先は人それぞれあるが、それを今お前に言って怖がらせたくない。追い追いわかることでその時によく考えろ。『藤ノ井』の常連のお客様は筋の良い方が多いので心配しなくていい。冷静にお客様とお付き合いを進めていけば、何人の人とお付き合いしてもこなしていける」
 と言うとお茶を一口飲んで続けた。
「瑞葵のように上手く疑似恋愛で相手を翻弄しできるだけ事をしないで発情期のときに稼ぐやり方もあるが、それでもいつもそうはいかないし、上の位になれば付き合っていく人も増える一方で付き合いが深くなる相手も増えていく。紅玉がこれからお客に対しどんな感じでアプローチかけるのかはもっとたくさんのお客と接する中で見つけていくものだから頑張るしかない。紅玉スタイルを見つけて指示してもらえたら本物だと思う。
 だけど紅玉が始めのお客さんと失敗したとしても恥ずかしがらず自分の秘めた恋情を思い出しながらでもかまはないただ、固有名詞は言ってはいけないけどそれを使えば相手も分かってくれるよ」
 と笑いながら茨棘は言った。
「僕、強姦レイプされたんです。だから、お客様と上手く事ができるのかが心配でお客様に不愉快な事をしてしまうかもと思うと不安なんです」
 紅玉は、思い詰めたように茨棘を見た
「強姦か、それは大変だったね。お客様と事は多分おまえが考えているその嫌な思い出とは雲泥の違いがあるよ。疑似恋愛だけれども恋愛なんだよ。その時はその人を愛している。その人の事を一番だと思っている。お客様もお家に帰れば愛する妻がいて恋人もいるが、ここでお前と会っている時はお前を愛してくださるよ。
 強姦には愛はないが、された事実を忘れようとしても簡単に忘れられないし、忘れることは無理だから、そんな時はお客様の事を一心に考えればいいんだと思う。そうすれば、気持ちがぶれないでお勤めできるのだと思う。ただ思いだしたらその上に違う色を使って新しい楽しい思い出を書けばいい。それを続けるといつが、忌まわしい思い出がどれだったかわからない程の楽しい思い出に塗りつぶされているよ」
 茨棘は、常に冷静に前を向いている想い人の背中を思い出す。立場が遥かに違うが彼は茨棘に俺の背中はお前だけが見つめて良いと言ってくれた。紅玉に言い聞かせながら自分に言い聞かせるように茨棘は答えた。紅玉もこの言葉を忘れなかった、茨棘の本心だと思った。この時の美しい顔は本物の茨棘だと確信した。
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