薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第二章

紅玉のお泊まり*(1)

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 紅玉は初日からラウンジのショーウィンドウにすわされて緊張の連続だった。彼の顔は赤く染まり道行く人は新人遊女の初見せを優しく見ていた。彼はお客様からのご指名があると少しホッとした。やはり妓楼『藤ノ井』はラウンジでも30分遊女と過ごすと最低でも2万円なのが功を奏して客筋は良い。遊女とは話すだけでタッチすることはないので、紅玉は、とても楽しく過ごせた。
 だが、一週間で次の段階になると個室の部屋でのお接待になる。遊女は横に座りお酌をする、タッチも手や腰などを触らせる。ゆっくりそれまでより時間をかけてお互いに付き合えるかを探る。紅玉は、始めた時は身体が硬直して動きもぎこちなかったが、お客様の方が遊び慣れている方々が多くて自然とリラックスできるようになった。紅玉のような新人でもお花代は最低5万は必要で、遊女のランクや発情期までの期間など様々な条件が付くと金額が張っていった。
 紅玉は発情期を迎え、とうとうお客様とのお泊まりの日を迎える。その日は朝から熱っぽく発情期の始まりを感じていた。遊女は発情期を売って金を稼ぐ、その為に抑制剤を飲む事はできないし、してはいけない。紅玉は、昼ご飯の前に竹の間の茨棘に挨拶に行く。
「おはようございます、紅玉です」
「おはよう、体調はどうだい、紅玉、中へ」
「はい、失礼します。体調はそろそろ始まると思います。夜に合わせる為に村雨さんがお薬を持ってきてくれましたので今は大丈夫です」
 紅玉は頭を下げたまま答える。
「そうか、それじゃこの部屋の内風呂に入って、おいで」
 と茨棘が、唐突に言ったので、その真偽が分からずに顔を上げた。
 そこには茨棘が着物の掛かっている衣桁の前でにこやかに笑っていた。衣桁に掛かって着物は友禅染めの美しいりんご園の様子が書かれていた。肩から裾に向かって薄緑色から赤い色のグラデーションにりんごの木の下で童子が遊んでいる絵が描かれていた。とても高級感ある絹で作られていた。
「にいさんそれは」
「コレ、今日のお客様梶山様からのお届け物です、今日の記念にと贈ってくださった」
「そっ、そんな」
 紅玉は、あまりの事に驚いて尻もちをついた。
「紅玉、もうお前は遊女なんだ、贔屓のお客様が居てその中から梶山様が旦那様に名乗りを上げてくださった。お前がショーウィンドウに立った時にすぐに楼主に話があったそうだよ。自分がいの一番の旦那になると、それでお忙しい方なのに遊郭の掟通りに今日を待たれた。その気持ちを込めての贈り物だから、お前は誠心誠意でおもてなしをすれば良い。あの方は奥様もよく出来た方だからそれに対しても誠心誠意尽くしなさい」
 茨棘は、紅玉を見つめて言いながら弟を送り出すような気になった。いい方が旦那様になってくださったことがうれしく思った。
「ありがとうございます。紅玉はもう何も迷いません。ここまで私のような者に心を尽くしてくださる梶山様に感謝して誠心誠意尽くします」
 紅玉は、茨棘がとても優しく笑っていたことが嬉しかった。彼は普段のクールな顔よりも笑顔がとても美しいからだった。
「もうお昼も近い、早くお風呂に入って今日は私が着付けてあげるから」
「ありがとうございます」
 紅玉は、竹の間の風呂場に入った。そして、茨棘が風呂上がりの下着も全てシルクの物に変えてくれた。美しいりんご園の着物と真っ赤な長襦袢を帯一本でしっかりと着付けてくれる。そして最後に、茨棘の持つ羽織を掛けてもらった。
 そして、平太にお昼の呼び出しを受けて一階の食堂に下りた。
 そこには遊女達が頭を下げていた。
「初床入りおめでとうございます」
 松の位の瑞葵が言って頭を下げる。
「皆さんありがとうございます、本日より皆さんの正式なお仲間として誠心誠意尽くします、よろしくお願いいたします」
 紅玉は、そう返した。
 村雨より、
「梶山様より、皆に金一封を頂いています」
「「ありがとうございます」」
 遊女は元より下女下僕の下々まで今夜仮初めに梶山様の嫁になる紅玉に頭を下げたのだ。
 お泊まりは、夜半から夜が明けるまでの時間に事込みでのお付き合いとなる。
 紅玉は、梶山様が来るまで、今日用意された部屋でじっと彼の到着を待つ。遊び慣れた梶山様なら、10時頃迄は現れないからと言われたが、1分が過ぎていくのを長く感じてソワソワしていた。熱っぽくなる自分の身体を感じながら待っていると平太が、来て告げる。
「旦那様がお着きになります。お出迎えをお願いいたします」
「わかりました」
 緊張している声だがかろうじて言えた言葉にホッとする。
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