薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

文字の大きさ
46 / 77
第三章

瑞葵の罠(2)

しおりを挟む
 郷原が、沖縄のリゾートホテルの視察に行っている間なら、ワンチャン瑞葵を自分の物にできると思って『藤ノ井』を訪れた。
 時間は、11時だったが、瑞葵は会ってくれた。
「どうしたんです」
 瑞葵は少し濡れた髪を手櫛で梳かしながら少し憂いを見せた。
「お前に会いたくなった」
 その蠱惑こわく的な顔を見ながら、高木は、こいつを堕としたいと希う。瑞葵は、興味なさげに高木を煽る。『今日は、郷原が出張でここには来ない、それを見越してきたに違いない』と確信しながら見つめる。
「……フー……ンそうなんですね。今日はお泊まりのお客様が明日お仕事で出張に行かれると言うので、早めに帰られたんですよ」
「だ、抱かれたのか?」
 高木の嫉妬を楽しみながら酒を注ぐ。
「えぇ、それが仕事ですから、当たり前じゃないですか」
 高木の目が、鋭く瑞葵を見つめる。それを見ても何も気づいていないようなふりをして話を続ける。瑞葵は高木の不安を見てとって彼にお酒を誘う。
「良かったら、お酒良いのを出しますよ。今日のお客様が、持ち込んでプレゼントしてくれたお酒なんですが、とっておきなんです。良かったらいかがです?」
 更に高木の嫉妬心を煽る。高木は見知らぬ男に嫉妬してしてしまうほどに瑞葵の事を独占したいと思えてくる。居もしない人間に挑んでしまう。
「もらう」
「どうぞ、ゆっくりと飲んでくださいよ、結構度数が高いので」
 高木の前に琥珀色のストレートのウイスキーをグラスに満たす。高木は、一気に飲み干す。瑞葵はさらにグラスを満たすと彼もまた一気に飲み干して見せると高木は、さらに二杯続けて飲み干した。瑞葵はまた、グラスを満たす。
「今日は、ペースが速いようですね」
「お前は、俺が初めて惚れた女に似ている」
 高木は、急にしゃべりだした。注がれた酒をまた飲み干す。
「へぇ、俺は男で、Ωだよ、女じゃない」
 胸が高鳴り、ドキマギするが、気取らせないと目に力を入れて高木を見る。
「しかし、似ているんだ保奈美にお前は、初めて保奈美を見たのは音楽会だった。彼女は、フィアンセと一緒に来ていた。フィアンセは、徳田商事の御曹司だった。相思相愛の2人は絵にかいたようだった。俺は、郷原のお供で保奈美の父親に会う為に行っていた。烏丸保高だ、彼は、誠実な愛妻家で真面目が服を着ているような人で、美しい奥様を連れていた。奥様の名前は珠子、彼女は郷原がずーっと恋い焦がれている女性だった。郷原は3年待てるからその間に烏丸保高を詐欺の片棒いいや、主犯にして抹殺しろって命令したんだ」
 注がれた酒を飲み干す。高木が飲んでいる酒は、自分の奥底にたまった不安を言いたくなる成分が入っている。それは今の時代のものではなく戦時中に情報局が使っていたもので、今は製法も分からない代物だと洋司に言われた物だった。どこで見つけてくるのか本当に胡散臭い人間だが、役には立ってくれる頼もしい旦那様だ。瑞葵はほくそ笑む。
「それってどこかで読んだお話ですか? 高木様、酔っぱらったの」
「いいや、『陰謀の真実』は時代こそ違えど中身は真実に基づいている。俺は、これを書いたのは烏丸保高の息子保津巳だと思う。探しても探しても保津巳の尻尾がつかめない。彼は無理心中で亡くなっている」
 そりゃそうだ、保津巳は瑞葵なのだからと笑う。
「フーン、それじゃ、保奈美はどうなったの?」
 再び酒を飲む。
「まぁ聞け、烏丸保高に郷原の命令で資産家の待田と言う爺さんを紹介した。その爺さんはケチで結婚しても嫁が病気になっても病院に行かせずに死なした。それを嫌って一人息子は家出して、チンピラになってしょぼい喧嘩で死んだ。爺になって自分のしたことに気づいた爺さんは資産を死んだら国に寄贈すると言い出した。その手続きを烏丸保高にお願いした。
 真面目な彼はちゃんと手続きをした後に爺さんの孫が出てくる。爺さんは喜んで孫に遺産を渡す手続きに代えろと言うが、もう国に渡す手続きを終えていたためにすぐにはできないと保高は言った。爺さんに騙されたんではないかと孫が言い出して、爺さんもその気になって言い出すように誘導した。そうこうしているうちに国への寄付は取り消しが完了した。
 その最中に爺さんが死んだ。遺産は孫に渡った。その後に本物の孫が現れて訴訟を起こす。始めに孫と名乗ったやつが警察に捕まった。そこで、主犯は烏丸保高だと主張した。様々な証拠を提出して保高に罪を被せた。その上で、記者にあることない事吹き込んでセンセーショナルにマスコミで疑惑を煽った。罪は冤罪だとわかって釈放されたが、一度ついたレッテルはなかなか外せなかった。
 本物の孫とは示談が成立して烏丸保高は、昔から持っていた家屋敷を売る事にし友人の金持ちに相談した。しかし、どうしても上手く行かなかった。それは俺もわからないが、保高に金を貸す相手側が本物の孫のことを調べ始めたので郷原は訴訟自体消滅してしまった。そこで郷原は烏丸保高を自殺の見せかけて殺した。それには当時の管轄の警察官も加わっているし警察署長も加わっている」
「どうして、警察が?」
「郷原は、人里離れたリゾートと言ってリゾート開発をして儲け始めた、その中の一軒に秘匿中の秘密があった。裏カジノと高級コールガールを使ったパーティがある。それは、少人数の会員から始まった。そこには、政治家は勿論警察関係者も含まれていて、お互いの秘密を握り合っていた。あの時の警察署長は、女を絞め殺してしまったことを握られて些細な事だと思って手を貸したんだ」
「ほんと、小説より面白い」
 なんて、やり方が堅気の人間がやる事ではないとヘドが出る。
「そして、郷原は、烏丸保高の葬儀も終わった後に携わった者を集めて珠子と保奈美をみんなでレイプしたんだ。本当なら保津巳もやる予定だったが、珠子が、『保津巳はお使いに実家に行かせたばかりだから今日は帰って来ない』と言ったのを信じた。後からでも殺せばいいと郷原は思っていたようだった。が、あいつは母親と姉と共に死んだ」
「だから、誰もあの事件について口をつぐむんだ」
 瑞葵は高木の酔いを確かめるように正解を求める。そして、『母親が自分を守るために嘘をつき、姉は僕を逃すために放火魔を殺して彼を必死に抱き込んでボロボロになって死んだんだ』と、そして、洋司さんの証言があっても俺を探さなかったんだと思った。
「そうだ、悪事の共有をさせて、お互いに口をつぐむようにさせたのは郷原だ」
「へぇ、高木様そんなことを言って大丈夫なの?」
「もう、証拠は無い、保津巳が生きていようと俺たちがあの二人を犯したと言う証拠は焼けて無くなった」
「それじゃ、あれば、大変だね」
「ないものはない」
「そう、ありがとうね、高木様飲み過ぎだよ。ゆっくり寝てね」
 瑞葵は、高木を氷のような顔で見つめて、彼の二の腕に針を刺す。高木は痛がりもせずに寝ていた。最後に一言言った。
「お休み。しっかり、ボイスレコーダーに収めたよ。ありがとうございました」
 そして、瑞葵は高木の髪の毛を抜いて、ビニール袋に入れる。『これで、全部の髪の毛が揃った』と瑞葵は思った。そして、高木をそのままにして、圭太に
「高木様が、寝て終われた。ベッドに移してあげて」
 と指示して、自分の自室に行って、机の前のパソコンに入力を始める。今日仕入れたことをフィクションに混ぜながら『陰謀の真実』の最終章を書き進めていく。
『お父様、お母様、お姉様あと少しです。最後まで見守ってくださいね』
 と言心の中で呟いて瑞葵は数時間眠るのだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

処理中です...