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第四章
瑞葵の結末(1)
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茨棘の叫び声が合図だった。男たちが松の間に雪崩れ込んだ。茨棘は泣きながら瑞葵の身体を抱える、郷原は腕に刺さったナイフを抜いて落ちた自分のナイフを探していた。
「だ、誰か、瑞葵が、み、瑞葵が死んじゃう」
楼主が素早く部屋に入って、泣き叫ぶ茨棘を後ろから抱きしめる。そして彼の耳元に『茨棘、大丈夫だから』とそっと言って瑞葵の側から離して、部屋の外にいる茜凛に茨棘を渡す。茜凛は茨棘を支えて竹の間に連れて行った。
紅玉が竜介を連れて、部屋に入って瑞葵の救急救命作業に取りかかる。瑞葵の傷口を見てガーゼと包帯で止血を始めた。現行犯として郷原と高木は支配人や警官に取り押さえられて『藤ノ井』の玄関に止められていたパトカーにのせられて出ていった。救急車が来て、瑞葵と紅玉を安堂総合病院に運んだ。
瑞葵は片肺を傷つく怪我で運ばれて緊急手術になり、貴文が、アメリカ仕込みの救命医として執刀した。しかし、肺の傷は表面部分だったが、傷口が心臓部の近くのために手術は8時間かかると言われて、紅玉は、一度『藤ノ井』に戻ることになった。
茨棘は、竹の間で待っていた久乃に点滴を打たれて少し落ち着いた後に久乃に見守られながら警察の事情聴取を受けた。郷原の腕に突き刺したのは瑞葵を助ける為に咄嗟に刺した。殺傷力のないペインティングナイフは隣の部屋が不穏だった為に護身用に持っていた。ペインティングナイフ自体殺傷能力は少なく殺意もないと判断されて警察署には出頭しないでも良いと言うことが決まった。
紅玉は、病院から戻って茨棘の様子を見に行くと、茜凛が竹の間で茨棘の看病していた。
「茨棘にいさんどう?」
紅玉は、小声で茜凛に声をかけて茨棘を見た。
「さっきまで、久乃先生が怒りながら付いていてくれた。点滴中だから動かないようにって言って帰って行った」
茜凛は、その場面を思い出して声を立てずに笑った。
「瑞葵にいさんは? どうかなぁ」
茜凛は、紅玉を見て言う。
「多分大丈夫だって、肺が破れる程では無かったって、だけど場所が心臓部の近くだから手術は慎重に進められている。ただ、ナイフが刺さって他の部分も傷ついてはいるからって靖子先生が伝えてくれた。手術後は、ナイフが汚染されていただろうから敗血症などの感染症対策が必要だけど、瑞葵にいさんが相当弱っているのが一番の問題らしい。睡眠薬やお酒も飲んでいたから、麻酔が中々効かずに時間がかかるようだった。靖子先生が笑いながら、鮫島先生が明日ドイツから一時帰国するらしいって言っていた」
「えぇ、あの2人やっぱりそうなの? だって、鮫島先生はΩ嫌いのバース研究者で有名でしょう」
「運命的な関係らしい、鮫島先生はΩが嫌いではないよ、バースと言うのにあぐらをかいている人が好きじゃないってことだよ」
「なるほど、瑞葵にいさんは確かにΩにあぐらをかいていないわ」
「ただ、あの2人は結構拗らせているから簡単に素直にはならないと思う」
「賛成、こっちはどう考えているのだろう、さっき茨棘にいさんが寝落ちしたのを見計らって楼主がここに顔を出していた」
「こっちの2人は茨棘にいさんの清算後にはなるようになるって感じ?」
「そうでしょうね、だけど瑞葵にいさんも茨棘にいさん2人してどうしてこんなに恋愛が下手なんだろう。2人揃って素直じゃない」
紅玉と茜凛は茨棘の顔を見て微笑んでいた。
「でも、緊張した。計画を聞いたのも夕方でそれからずーっとドキドキしっぱなしだった。茨棘にいさんがふらりと松の間に行った時は本気どうなるのか心配だった。もう終わりだよね。明日から1週間は休みだけど、もう夜明けだ。お腹空いてない?」
「終わりにしてくれるでしょう、あんなこと何回もあったら身が持たないもの、薄明の空か、なぁ朝ご飯食べて茨棘にいさんの横で寝よう」
紅玉と茜凛は頷きあって茨棘を見つめた。食堂からは食事を用意する音と匂いが、『藤ノ井』を満たし始めた。
手術が終わって2日後に瑞葵は目覚めた。警察の取り調べは面会謝絶の為にもう少し後になった。
瑞葵は、潮騒の匂いに気がつく。鮫島がいたんだと思う。彼を自分の騒動に絶対巻き込まないと決めていた。世界的に有名なバース研究者でありΩだけで無くαの抑制剤の開発に関する研究と論文は、世界的に指示されている。今はドイツの大学で教える傍ら新しい抑制剤の開発に携わっているのに、心配をかけてしまった。
瑞葵は少し落ち込んだ。郷原が護身用のナイフを持っているのは知っていたが、お泊まりの日にそれを持ち込んでいたことは誤算だった。遊女とまぐわう日には下の受付で預けることになっているので、まさかと思うより先に茨棘を庇っていた。
鮫島は瑞葵が目覚める前には病室から出て行く、そうではない、瑞葵自体が鮫島の出て行くのを待って目を開ける。紅玉や茜凛に言わせると焦ったい、と笑われるが、長年そうしてすれ違っていた2人にはきっかけが無さすぎて無限ループのようだった。罪は認めた後は起訴状が出る迄は入院を余儀なくされるだろう。
靖子先生から、今までの無理が募って子宮の状態があまり良くないと言われた。子供が欲しいとは考えていなかったが、子供を産み育てることを望んでいた姉の無念を思うと子供を産んで育てるのも良いかもしれないと思う。それには長期休養が必要で、遊女の仕事は続けられないと言われた。このまま引退も視野に入れて、次の人生を考えないといけないが、未来は広がっている。
18から24迄の6年間、自分の人生の4分の1を『藤ノ井』で過ごした。あそこにいる人全てが家族のように接してくれたのでたまに復讐を忘れたくなった。だが、復讐の糸口が中々出てこないと、洋司さんにくだをまいた事も一回や二回ではない。そんな自分を守ってくれた洋司さんより鮫島先生が好きな自分の心を恨んだこともある。
鮫島先生が、帰る前に一度目を合わせたい。
「だ、誰か、瑞葵が、み、瑞葵が死んじゃう」
楼主が素早く部屋に入って、泣き叫ぶ茨棘を後ろから抱きしめる。そして彼の耳元に『茨棘、大丈夫だから』とそっと言って瑞葵の側から離して、部屋の外にいる茜凛に茨棘を渡す。茜凛は茨棘を支えて竹の間に連れて行った。
紅玉が竜介を連れて、部屋に入って瑞葵の救急救命作業に取りかかる。瑞葵の傷口を見てガーゼと包帯で止血を始めた。現行犯として郷原と高木は支配人や警官に取り押さえられて『藤ノ井』の玄関に止められていたパトカーにのせられて出ていった。救急車が来て、瑞葵と紅玉を安堂総合病院に運んだ。
瑞葵は片肺を傷つく怪我で運ばれて緊急手術になり、貴文が、アメリカ仕込みの救命医として執刀した。しかし、肺の傷は表面部分だったが、傷口が心臓部の近くのために手術は8時間かかると言われて、紅玉は、一度『藤ノ井』に戻ることになった。
茨棘は、竹の間で待っていた久乃に点滴を打たれて少し落ち着いた後に久乃に見守られながら警察の事情聴取を受けた。郷原の腕に突き刺したのは瑞葵を助ける為に咄嗟に刺した。殺傷力のないペインティングナイフは隣の部屋が不穏だった為に護身用に持っていた。ペインティングナイフ自体殺傷能力は少なく殺意もないと判断されて警察署には出頭しないでも良いと言うことが決まった。
紅玉は、病院から戻って茨棘の様子を見に行くと、茜凛が竹の間で茨棘の看病していた。
「茨棘にいさんどう?」
紅玉は、小声で茜凛に声をかけて茨棘を見た。
「さっきまで、久乃先生が怒りながら付いていてくれた。点滴中だから動かないようにって言って帰って行った」
茜凛は、その場面を思い出して声を立てずに笑った。
「瑞葵にいさんは? どうかなぁ」
茜凛は、紅玉を見て言う。
「多分大丈夫だって、肺が破れる程では無かったって、だけど場所が心臓部の近くだから手術は慎重に進められている。ただ、ナイフが刺さって他の部分も傷ついてはいるからって靖子先生が伝えてくれた。手術後は、ナイフが汚染されていただろうから敗血症などの感染症対策が必要だけど、瑞葵にいさんが相当弱っているのが一番の問題らしい。睡眠薬やお酒も飲んでいたから、麻酔が中々効かずに時間がかかるようだった。靖子先生が笑いながら、鮫島先生が明日ドイツから一時帰国するらしいって言っていた」
「えぇ、あの2人やっぱりそうなの? だって、鮫島先生はΩ嫌いのバース研究者で有名でしょう」
「運命的な関係らしい、鮫島先生はΩが嫌いではないよ、バースと言うのにあぐらをかいている人が好きじゃないってことだよ」
「なるほど、瑞葵にいさんは確かにΩにあぐらをかいていないわ」
「ただ、あの2人は結構拗らせているから簡単に素直にはならないと思う」
「賛成、こっちはどう考えているのだろう、さっき茨棘にいさんが寝落ちしたのを見計らって楼主がここに顔を出していた」
「こっちの2人は茨棘にいさんの清算後にはなるようになるって感じ?」
「そうでしょうね、だけど瑞葵にいさんも茨棘にいさん2人してどうしてこんなに恋愛が下手なんだろう。2人揃って素直じゃない」
紅玉と茜凛は茨棘の顔を見て微笑んでいた。
「でも、緊張した。計画を聞いたのも夕方でそれからずーっとドキドキしっぱなしだった。茨棘にいさんがふらりと松の間に行った時は本気どうなるのか心配だった。もう終わりだよね。明日から1週間は休みだけど、もう夜明けだ。お腹空いてない?」
「終わりにしてくれるでしょう、あんなこと何回もあったら身が持たないもの、薄明の空か、なぁ朝ご飯食べて茨棘にいさんの横で寝よう」
紅玉と茜凛は頷きあって茨棘を見つめた。食堂からは食事を用意する音と匂いが、『藤ノ井』を満たし始めた。
手術が終わって2日後に瑞葵は目覚めた。警察の取り調べは面会謝絶の為にもう少し後になった。
瑞葵は、潮騒の匂いに気がつく。鮫島がいたんだと思う。彼を自分の騒動に絶対巻き込まないと決めていた。世界的に有名なバース研究者でありΩだけで無くαの抑制剤の開発に関する研究と論文は、世界的に指示されている。今はドイツの大学で教える傍ら新しい抑制剤の開発に携わっているのに、心配をかけてしまった。
瑞葵は少し落ち込んだ。郷原が護身用のナイフを持っているのは知っていたが、お泊まりの日にそれを持ち込んでいたことは誤算だった。遊女とまぐわう日には下の受付で預けることになっているので、まさかと思うより先に茨棘を庇っていた。
鮫島は瑞葵が目覚める前には病室から出て行く、そうではない、瑞葵自体が鮫島の出て行くのを待って目を開ける。紅玉や茜凛に言わせると焦ったい、と笑われるが、長年そうしてすれ違っていた2人にはきっかけが無さすぎて無限ループのようだった。罪は認めた後は起訴状が出る迄は入院を余儀なくされるだろう。
靖子先生から、今までの無理が募って子宮の状態があまり良くないと言われた。子供が欲しいとは考えていなかったが、子供を産み育てることを望んでいた姉の無念を思うと子供を産んで育てるのも良いかもしれないと思う。それには長期休養が必要で、遊女の仕事は続けられないと言われた。このまま引退も視野に入れて、次の人生を考えないといけないが、未来は広がっている。
18から24迄の6年間、自分の人生の4分の1を『藤ノ井』で過ごした。あそこにいる人全てが家族のように接してくれたのでたまに復讐を忘れたくなった。だが、復讐の糸口が中々出てこないと、洋司さんにくだをまいた事も一回や二回ではない。そんな自分を守ってくれた洋司さんより鮫島先生が好きな自分の心を恨んだこともある。
鮫島先生が、帰る前に一度目を合わせたい。
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