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第四章
貴文と紅玉(1)
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そんな時に、紅玉にお接待のお客様の予約が入った。
紅玉の部屋で待っていると、村雨が、お客様を案内してくれた。ノックの後お客様が入ってくる。紅玉は、床に頭をつけて
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ただいま、紅玉さん」
紅玉は、ヒノキの香りを感じて前を見る。そこには安堂貴文が立っていた。
「今日は、君に話があって来ました。誰彼と聞き耳を立てて欲しく無くて接待という形をお願いしました。ソファに座りましょう」
「はい」
紅玉は、貴文の座るソファ横にある一人掛けのソファに浅く腰を掛けた。貴文は、徐に紅玉の顔を見つめた。
「先ずは僕の話を聞いてください。君も知っていると思いますが、僕の名前は、安堂貴文です。君が手伝っている南川下町診療所の医院長の安堂久乃は祖母で、安堂総合病院の医院長の安堂靖子は、母親です。父親も医者です。安堂総合病院で整形外科の医者をしています。だから、僕は幼いころから医者に成るのが当たり前でした。だけど、僕の家族は誰一人僕に医者に成れとも言わなかったし、安堂総合病院を継げとも言わなかった。それなのに医者に成りました。医者に成れたことを素直に喜べるのは僕には嬉しいことです。だから、医者だから一番の気がかりは患者なのです。その事は、もう習性であり、どうしても外せない身についたものなのです。
幼いころから心臓外科医になりたくてアメリカに留学して、アメリカで救急救命医として働き、心臓外科医としてのキャリアを積みました。留学は2年でしたが、1年延長して今回帰国しました。
3年前の春の終わりに僕は、アメリカの留学生として訪米する前の日に、ある病院のアルバイト医師のピンチヒッターとして一日だけ勤務しました。あの日は難しい患者が一人いましたが、落ち着いていたので他の急患も来ないので、仮眠を取りに医局に帰る途中にあったリネン室の前を通りかかった。中で喧嘩をしているような声が聞こえて少し躊躇しましたが、意を決して携帯電話を持ってリネン室のドアを開けました。そこには男が5人以上いて何やらとんでもないことをしているのはわかりましたが、彼らは俺を突き倒して蜘蛛の子を散らすように出ていきました。
俺は一瞬頭を壁に打ちつけてくらくらして立ち上がった時にリネン室を覗く前に病院の携帯電話がなりました。患者の急変の報告でした。僕は何よりも患者を優先し、患者の元に駆けつけました。患者が、落ち着いたのは翌朝でした。
アルバイトの医師としての拘束時間を終えて医局に帰る時にリネン室の前を通った時に中を見たら、全てが掃除された後でした。
僕が、もう少し早くここを通れば被害者を助ける事ができたかもしれないと思うととても悔しくてたまりませんでした。その時に一応写真を撮っておこうと思ってリネン室に入って写真を撮り、そしてこれを見つけました。
落とし物かと思いましたが、リネン室に残っている匂いが、それからも匂ったので被害者の物だと思いました。そして、それをビニール袋に入れて家に帰りました。
リネン室の掃除を夜中にできる人間、指示できる人間のことを考えると部外者であったとは思えなかった。だから、もしいつかこの持ち主に遭った時は必ずこれを返し、僕が家の病院で契約している顧問弁護士を立会人にして制作した状況報告書と写真とこのネームホルダーについている指紋の記録を渡したいと思っていました」
貴文は立ち上がり紅玉の前に座った。涙を拭うこともせずに貴文を見つめる紅玉に彼の拾ったネームホルダーが入ったビニール袋を渡す。紅玉はそこに印刷された野末病院の文字と准看護師咲山紅の文字を見つめた。
「僕は、野末病院から、大学の医局で指導教授達に留学の挨拶のあとすぐに連絡していた顧問弁護士の事務所に行って、供述書を作って、自分のDNAと指紋を提出し、写真データも託して飛行機に乗りアメリカに行きました。でも、あの朝にあのリネン室に残っていたリンゴの甘い匂いを忘れたことはありません。その匂いは、アメリカで毎日3時間しか眠らないで必死に頑張る自分を支えてくれました。本当にありがとうございました」
貴文は偽りのない気持ちを紅玉に伝えたかった。あの時から紅玉の事が好きでそれを信じて欲しかった。
貴文は、今紅玉が漏らす匂いをすっと嗅ぐ、あまりの良い匂いに自分の理性が飛びそうになる。紅玉もまた貴文から香るヒノキの匂いに懐かしさと好きだと思う気持ちで胸いっぱいになった。
紅玉の部屋で待っていると、村雨が、お客様を案内してくれた。ノックの後お客様が入ってくる。紅玉は、床に頭をつけて
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ただいま、紅玉さん」
紅玉は、ヒノキの香りを感じて前を見る。そこには安堂貴文が立っていた。
「今日は、君に話があって来ました。誰彼と聞き耳を立てて欲しく無くて接待という形をお願いしました。ソファに座りましょう」
「はい」
紅玉は、貴文の座るソファ横にある一人掛けのソファに浅く腰を掛けた。貴文は、徐に紅玉の顔を見つめた。
「先ずは僕の話を聞いてください。君も知っていると思いますが、僕の名前は、安堂貴文です。君が手伝っている南川下町診療所の医院長の安堂久乃は祖母で、安堂総合病院の医院長の安堂靖子は、母親です。父親も医者です。安堂総合病院で整形外科の医者をしています。だから、僕は幼いころから医者に成るのが当たり前でした。だけど、僕の家族は誰一人僕に医者に成れとも言わなかったし、安堂総合病院を継げとも言わなかった。それなのに医者に成りました。医者に成れたことを素直に喜べるのは僕には嬉しいことです。だから、医者だから一番の気がかりは患者なのです。その事は、もう習性であり、どうしても外せない身についたものなのです。
幼いころから心臓外科医になりたくてアメリカに留学して、アメリカで救急救命医として働き、心臓外科医としてのキャリアを積みました。留学は2年でしたが、1年延長して今回帰国しました。
3年前の春の終わりに僕は、アメリカの留学生として訪米する前の日に、ある病院のアルバイト医師のピンチヒッターとして一日だけ勤務しました。あの日は難しい患者が一人いましたが、落ち着いていたので他の急患も来ないので、仮眠を取りに医局に帰る途中にあったリネン室の前を通りかかった。中で喧嘩をしているような声が聞こえて少し躊躇しましたが、意を決して携帯電話を持ってリネン室のドアを開けました。そこには男が5人以上いて何やらとんでもないことをしているのはわかりましたが、彼らは俺を突き倒して蜘蛛の子を散らすように出ていきました。
俺は一瞬頭を壁に打ちつけてくらくらして立ち上がった時にリネン室を覗く前に病院の携帯電話がなりました。患者の急変の報告でした。僕は何よりも患者を優先し、患者の元に駆けつけました。患者が、落ち着いたのは翌朝でした。
アルバイトの医師としての拘束時間を終えて医局に帰る時にリネン室の前を通った時に中を見たら、全てが掃除された後でした。
僕が、もう少し早くここを通れば被害者を助ける事ができたかもしれないと思うととても悔しくてたまりませんでした。その時に一応写真を撮っておこうと思ってリネン室に入って写真を撮り、そしてこれを見つけました。
落とし物かと思いましたが、リネン室に残っている匂いが、それからも匂ったので被害者の物だと思いました。そして、それをビニール袋に入れて家に帰りました。
リネン室の掃除を夜中にできる人間、指示できる人間のことを考えると部外者であったとは思えなかった。だから、もしいつかこの持ち主に遭った時は必ずこれを返し、僕が家の病院で契約している顧問弁護士を立会人にして制作した状況報告書と写真とこのネームホルダーについている指紋の記録を渡したいと思っていました」
貴文は立ち上がり紅玉の前に座った。涙を拭うこともせずに貴文を見つめる紅玉に彼の拾ったネームホルダーが入ったビニール袋を渡す。紅玉はそこに印刷された野末病院の文字と准看護師咲山紅の文字を見つめた。
「僕は、野末病院から、大学の医局で指導教授達に留学の挨拶のあとすぐに連絡していた顧問弁護士の事務所に行って、供述書を作って、自分のDNAと指紋を提出し、写真データも託して飛行機に乗りアメリカに行きました。でも、あの朝にあのリネン室に残っていたリンゴの甘い匂いを忘れたことはありません。その匂いは、アメリカで毎日3時間しか眠らないで必死に頑張る自分を支えてくれました。本当にありがとうございました」
貴文は偽りのない気持ちを紅玉に伝えたかった。あの時から紅玉の事が好きでそれを信じて欲しかった。
貴文は、今紅玉が漏らす匂いをすっと嗅ぐ、あまりの良い匂いに自分の理性が飛びそうになる。紅玉もまた貴文から香るヒノキの匂いに懐かしさと好きだと思う気持ちで胸いっぱいになった。
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