薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第四章

あの日の後悔

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 久乃は、孫の貴文と紅との巡り合いを神に感謝したことを思い出す。貴文は、紅玉に会いに行くことは両親も久乃も知らされていなかった。良弥に手配してもらい紅玉に会った。良弥は多分あの日の紅の様子を教えたと思う。久乃が、紅を守りたいと思ったのもあの日微かに貴文の匂いを無意識のうちに感じ取ったからだと思える。
 あれから野末病院は院長の病気で閉院してしまった。長男で紅をレイプした野末将克のずえまさかつは外国に住んでいると聞いていた。紅玉の前に現れないで欲しいと願っていたが、そうはならなかったと思い出す。

 世の中の移ろいの中に取り残されたようにひとり杉本町のアパートを出てコンビニに向かう将克がいた。
 彼は、自分がαだと言う事ですべてを手に入れられると勘違いして人生を歩んでしまった。実際彼も医学部より文系の史学などに造詣が深くそちらの勉強をする方が好きなのだが、両親は医学部に入って医者に成ることを厳命し、他の道に行くことを閉ざした。まさか、自分の年子でβの弟が、医学部に入るなんて予期していなかった。そして、自分が医学部を2年も落ち続けるなんてことも理解できない。その反動で、ぐれてしまった。後輩を引き連れて遊びまわり女を犯し、Ωを犯した。鬱憤を吐き出すように自宅で暴れ、母親を殴った。
 そして、最後に親の病院にいた超美人のΩを自分のものにするために仲間と一緒にレイプした。だが、アルバイトの医者に見つかり、両親はそれを隠すために息子をハワイに閉じ込め、家に帰らないように言われた。
 ハワイは、将克を束縛していた両親が居ない。住めば都だった。就労ビザもあり働く所も見つけた彼にとってゆっくりと過ごせた。それで初めて自分を振り返って見た時にあまりの自分の過去にしてしまった様々な事柄について自責の念にとらわれた。
 そして、3年間のハワイでの生活を経て、極秘に帰国した。
 帰国にいる金と当面の生活費は、親からの金と足らないお金はその時付き合っていた恋人が家に置いてあった金を持ち出した。恋人は、ハワイでも上流家系の人間だった。少し束縛が激しくて辟易することもあったが、愛していた。恋人の金を盗んだことでもうこれ以上合わせる顔もないと思い帰国した。
 帰国後、両親に電話をする。
「家には帰って来るな。お前の部屋もここにはない。家の病院の後を継がすはずの弟は離島の病院に就職して、家を出て行った。父さんはその時に脳溢血で倒れて、病院も閉めてしまった。だから、お前が帰国するのは勝手だが家に帰ってもお前を食べさせることはできない」
 と大声で母親に泣かれてしまった。母親の事実確認の為に弟に連絡すると、
「兄貴は、あの二人の犠牲者だと思う。兄貴は医者なんて向いてもいないのにあの二人に医学部以外の受験を阻止された。おれは、たまたま医者に成りたかったから医学部に入ったが、これ以上あの二人に振り回されたくなくて、地域医療の現場にいる。お金が必要なら送る」
 弟が、あんなに両親を恨んでいたとは知らなかった。男は一言
「金ならある。だが、お前は父さんの脳溢血についてどう思っているんだ」
「あれは、とても軽い症状で、リハビリをちゃんとすれば治るのに母さんが自分の事ばかり優先するので、リハビリが遅れてしまった。その上に親父の年金額がそこそこあるから母さんは一緒に暮らしているだけだよ」
「そうなのか、俺はハワイに居て、何も知らされていない」
「そうだよな、ハワイに兄貴を送って俺に兄貴は厄介者だと言った。その上あれだけ嫌悪していた俺に猫なで声ですり寄ってくる母さんが嫌だった。だけど、俺が父さんの事を兄貴に言えば、兄貴は優しいからひどいこと言われても父さんたちの犠牲になると思えたんだ。兄貴も母さんから三行半を言われたなら、ありがたく受け止めて違う人生を送って欲しい」
 弟の言葉は、とても冷たく両親の事を静かにののしる。克哉は思い出した。自分がαだったそれだけで弟の事を冷たくしていた両親の態度と言葉を覚えている。多分弟はその反動で、両親を憎んだ。彼は、何も言えずに電話を切った。
 
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