薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

文字の大きさ
57 / 77
第四章

運命のイタズラ

しおりを挟む
 将克は、家族との電話の後から同じ事を考え続けていた。何が悪かった? 何がダメだったのか? αなのに医者に成れなかったことが悪いのか、両親が俺の本質を見ずに自分たちの引いた通りに歩ませようとしたからなのか? 将克の頭は、それらの事で堂々巡りして何も手がつかなくなった。帰国してからずっと同じところで足踏みしているようだった。
 中学生から連んでいた後輩の明は、リネン室の事件の当時彼の親父が病気で家の仕事を手伝っていて忙しそうだった。だから彼をあのリネン室事件には誘わなかった。明の幼馴染みの竜介はまだ中学生だったから誘うことさえ思いつかなかった。あの頃に竜介は小さいのに悪ぶっていたのが可愛くて勉強や子守りの手伝いをしてあげた。
 ハワイから戻って将克が直接会ったのは彼らだけだった。2人共真面目に仕事をしていた。だが、あのリネン室にいた友人だと思っていた奴らとはどうしても会えなかった。利害関係がうっすらと見えると二度と会えないと思った。
 『藤ノ井』で働く竜介に誘われて、南川遊郭に足を向けた。将克にとってそこは医学部に入ったら絶対行くと決めていた場所だった。だから、今迄その場所に踏み込んだことはなかった。やはり華やかなところだった。
 超一流の妓楼『藤ノ井』が、リニューアルオープンして、本日の目玉は、ラウンジでの遊女全員のお披露目があった。竜介の手引きでその場所の後ろの立ち見席に明と入り込んだ。次々に出てくる美しいΩ達をみて、今の自分がとてもみすぼらしく思えてくる。ラウンジの前を締める旦那衆や贔屓のお客様と呼ばれる紳士たちの服装は、どれもピカピカキラキラしている。成功者の風格がある。彼らが、自分のお目当ての遊女をエスコートしてラウンジ出て二階の祝賀会場にいくのをため息が出るように眺めた。そして、最後に二人のΩがトリを務めた。一人はタキシードを着ていた。もう一人は、着物を遊女風に着ていた。どちらも美しい。前にいる少し年配の旦那衆が立ち上がり2人をエスコートして出ていく。そして奥へと進んで行った。
 将克は一瞬の事だったが、着物のΩが下を向いた時に自分の知っているΩだと思った。『誰だ、遊女に知り合いはいないが、あの顔は知っている』
 ショータイムが終わってラウンジで食事をしている間も家に帰ってからも考えていた。『他人の空似とは思えない、絶対に知った顔だ』と思った。
 竜介は、始めこそ不真面目な態度をとって、親代わりの圭太夫妻をなやませたが、紅玉のさりげないフォローで、侍従の仕事も一人前にこなすようになった。『藤ノ井』のリニューアルが、思った以上かかったので、竜介のさぼり癖が出ないかと思ったが、紅玉と茜凛にこき使われてそれどころではなかった。その褒美として、友人を2人なら招待しても良いよと楼主が言った。
 竜介は、幼馴染みの明と一緒に小学生の頃からいろいろと勉強を教えてくれたり遊んだりした将克を呼んだ。2人とも両親が仕事で忙しく兄弟の世話をしている竜介に手を貸して手伝ってくれた恩人だった。途中2人がぐれて不良になったが、将克がアメリカからかえってきた時に食事をして旧交を温めた。将克は荒れた感じが収まっていて自分を可愛がってくれていた彼に戻っていたことが嬉しかった。荒れた彼はあの頃から無理をしていると思っていた。

 久乃は、浮世草子を閉じて考える。人との巡り合わせは、予期せぬことが起きてしまう。縁がないと絶対に会えなくなる事もあるのにちょっとしたことで会えて縁が繋がる。そんな出会いの中に悪意や善意が潜んでいて人を惑わせる。穏やかに過ごして欲しいと思っていたが、騒動はまた密かに進行していたと今では思える。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

落としたのは化粧じゃなく、みんなの心でした

444
BL
『醜い顔…汚らしい』 幼い頃、実母が病気によって早くに亡くなった数年後に新しい義母からそう言われたシリルは、その言葉が耳に残って16歳となった今も引きずっていた。 だが、義母のその言葉は真っ赤な嘘でシリルはとても美しかった。ただ前妻の息子であるシリルに嫉妬した結果こぼした八つ当たりの言葉であったのをシリルは知らずに、義母のいう醜い顔を隠すために化粧をする。 その結果、彼は化粧によって本当に醜い顔になってしまった。そんな彼が虐げられながらも徐々に周囲を絆す話 暴力表現があるところには※をつけております

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...