薄明を待つ天女達~南川下町診療所浮世草子

風鈴

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第四章

紅玉誘拐と将克(2)

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 紅玉は、将克の言葉に驚き声を上げる。
「そんな」
「はいって言ってくれれば、警察で供述するから」
 紅玉は諭すように将克に話しかけた。
「アレは、あなただけが悪い訳じゃ無いですよね。私をあのリネン室に送り出した指導看護師がいました。彼女は、あなたに頼まれたことを言っていましたが、本当は、あなたの両親に頼まれたことをネタにあなたの両親を恐喝しています。あなたの後輩たちもです。それはどうするんですか?」
「あぁ、それは良いです。両親は自分のした事で報いを受けているのだからそれはそれです。君の事は、俺が全部悪いのでこれはこれです。俺が、医学部に合格しなかったことが悪いんです。それをきっかけに人生を踏み外したと思ってくれませんか? 君には迷惑をかけてたから、君が遊女になったのも俺が全部悪いのでそれもこれも同じことなので自分に罪を被せてください」
 将克は人生を諦めたように話した。
「私は、あなたの事を調べてもらいました。あなたは元々文系なのに理系の勉強を押し付けられたと聞きました。それで、優しい人なのに医学部を落ちてから急に人が変わってしまったと竜介が言ってました。あなたの弟さんからは、兄貴は両親いいえ自分も含めた家族の犠牲者だと、そのおかげで、自由に勉強できて両親に復讐もできたと言っていました」
「そんなことより、あのリネン室の事は俺が主体で行ったことなので、俺だけを断罪して欲しいんです」
「それはできません。僕は、あのリネン室の事を利用してΩ保護法を改正させたいんです。あんな悪法を撤廃してやりたい。Ωだからβだからαだからと親が子供を選り好みする風潮に風穴を開けたいのです」
 紅玉は、思いを強くした。将克は紅玉の話が荒唐無稽だと思う。
「そんな事できる訳ない」
「だから、時間をかけて調べてもらっています。あなたが罪を被るだけでは、ダメなのです。あれに関わった人それぞれが、それ相応の罪を負うことでΩだけの問題じゃなくて全てのバースの問題に広げたい。
 今、バースの問題深刻なのは子供のバースを選り好みしている現状があります。それによってαは本人の希望を無視して進路を強制的に決めらてしまう、βに生まれてもαじゃないと言ってネグレクトする、Ωは、隠されて育てられて満足な教育も受けさせない、最後は女衒のような業者に渡してお金にする、あまりにも子供をないがしろにする輩が多い。それらの問題が世の中からなくなって欲しい。その上でΩの子育てを支援して欲しいんです。だから、全てを白日の下に曝け出してその全てに相応の罪を償って欲しいと思っています」
 将克は、紅玉の考えに賛成する。彼の兄弟はそれぞれに親から見えないじわじわとした締め付けの中で負わされた重荷を抱えていたと思った。よく考えたら弟は将克の目から見ても虐待とも見えていたが、子供の意思を無視して親の希望通りの中で生きていけないように育てていられた将克本人も未自覚な虐待された子供だったんだと理解した。だから、彼を身勝手に扱い貶めたのだと思った。
「俺だけが罪を被ると君に慰謝料をしっかり払わせようと思っていたのに」
 将克の考えが虚しく響く。
「慰謝料はいりませんと前にも言いました。それは今でも変わっていません。
 私は遊女になった事は、良かったとも思っています。番がいないΩが、発情期を安全にαの精液を体内に取り入れて避妊薬を飲ませてもらえるその上報酬を得られるのです。そしてその不特定多数の中から番を見つけられました。お互い自分の各々の目標があるので、私は自分の目標を達成するために仕事をしてお金を貯めます」
 強くしなやかな紅玉の言葉を知って将克は逃げてばかりの自分に問いかけするように言う。
「大変じゃないんですか?」
「大変かもしれませんが、高卒認定試験や受験勉強をしたいので、お金よりも時間が必要なんです」
「そうなんだ、あなたはすごいですね。勉強をしたいなんて、俺はほんと愚かなαです。勉強なんか全然好きじゃないです。
 本当は、医者になるよりも学校の先生になりたかった。僕歴史が好きで、これでもハワイにいた時に先住民のお客様の話を聞いて色々と調べていたんです。沢山の埋もれていく歴史を掘り起こしたいと思ってました。
 僕はハワイでほんとに好きな人ができて恋人同士になって心と身体を繋げたら、君にしてしまったことを考えるようになりました。一度でいいから君に会いたいと思ったので、帰って来たんです。そしたら両親の病院は閉院していて、訴訟されている上に色々あるようなのでもう呆れてしまいました。
 今日はたまたま買い物に来てたら竜介の横に立っている君を見て謝ろうと思っていたんです」
「学校の先生ってとてもあなたに合っていますね。竜介は、あなたがハワイから帰って来てあったら、昔よく可愛がって勉強を教えてくれた将克さんだったから『藤ノ井』のリニューアルに誘ったと言ってました」
「あいつがそんなことを言ったんですか、それじゃもう何も言いません、咲山さんがやりたいように訴えてください。僕は僕の罪を償います」
 将克は、吹っ切れた自分のやってしまった罪をしっかり償ってハワイに戻ってあの小さな喫茶店でお客様にコーヒーを淹れて話して子育てして、そんなささやかなことをして過ごしたいと思えて来る。
「わかりました」
 将克と紅玉が、これからの事を話し合っていると突然野末夫人が、部屋に入って来た。
「結構仲が良いのね」
「母さん、もういい加減にして、彼を解放してあげて欲しい」
 将克は母親に怒って言うが、彼女は聞く耳を持たないまま叫ぶ。
「何を言っているの、遊女って気取っているけど売女だよ。そんなΩなのよ」
「遊女って言う仕事だよ。本当なら正看護師になれたんだ。それを僕達が潰したんだから本当ならこっちが彼に謝らないとダメなんだ」
 野末夫人は烈火如く自分の息子を何度も何度も蹴りあげてサッカーボールのように扱う。
「お前は本当に甘い、甘すぎる。だから医者になれなかった。だからこの病院も閉院した。だから父さんが病気になっちゃう。全てお前が、ちゃんとしたαじゃないからだろ。そしてあの日、御膳立てしてやったのにコイツを自分のものにも出来なかったんだ」
 将克は、蹴られてもへこたれずに叫び続けた。
「僕は、その呪いを甘んじても受けるから彼を解放してあげて欲しい」
「先ずは、コイツにこれを打っておけば、へっぽこαでも立つだろう」
 野末夫人は、注射器を見せて紅玉の腕に刺した。
「辞めろ」
 将克は、渾身の力で立ち上がり野末夫人に体当たりする。
「あぁ、これでαの赤ちゃんが生まれる。こんなへっぽこαじゃないまともなαが産まれる。又、野末病院が復活してまともな生活ができるのよ、あっ、はっ、はっはー」
「狂っている」
 紅玉は、思わず声に出した。
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