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奴隷としての生活
しおりを挟むレオン7世の白亜の城より、遥か北。
極寒の荒れ地に、魔神の居城はあった。
年中、雪に閉ざされた其処は、最早、悪の祝福を存分にうけ、凄まじい猛吹雪が荒れ狂っている。
そんな、悪の居城の最下層。
世界から忘れ去られたかのような、遥か地下深くに、彼らは居た。
かろうじて局部を覆い隠す、粗末な薄い布切れのみしか身につけることを許されない彼らは、何時も、寒さに震えていた。
与えられる食事といえば、カビかけた固いパンの欠片が一欠片…。
彼らは、何時も空腹だった…。
そして、『魔力』の力の源となる、『魔石』を発掘させられていたのだ。
重い手枷、足枷を嵌められ、魔物どもに、悪戯に鞭打たれる日々………。
かつて、勇者と誉れ高かった、少年マルスと、その仲間達の姿が、そこにあった………。
いや、彼らだけではない。
レオン7世をはじめとする、各国の王族達が、重罪人として、この呪われた石切場で働かされていたのだ。
女子供は、水汲みをさせられたが、歩くときはケダモノの様に四つ足で歩くことを強要され、あくまでも逆らう矜持の高い妃とその子供達は、従うまで父親が鞭打たれるはめにおちいった。
そして、やっと長い1日の労働が終わると、今日もマルスにむかって、国王達から、怨嗟の呪詛がなげつけられるのだった………。
「おお、勇者マルスよっ! 負けてしまうとは、情けないっ! おかげで私達は、人としての尊厳を奪われ、呪われた地で、奴隷として、残りの余生を、過ごすはめになったっ!
それも、これも、すべて、お主が不甲斐ないからじゃっ!!」
「そうじゃっ! そうじゃっ!」
「片田舎の若造がっ! 女神様に選ばれたのが、そもそもの間違いだったんじゃっ!
あの時、身のほどをわきまえて辞退しておれば、こんなことには、ならなんだものをっ!」
「恥を知れっ!!」
「死んで詫びろっ!」
「てめぇらっ! いい加減にしろよっ!」
ただ、黙して俯いて、呪詛の言葉に晒されていたマルスの前に立ちはだかったのは、かつての旅の仲間の1人。
遥か極東の拳法家、リュインだった。
「………。」
無言でマルスを庇ったのは、リュインと同じく、旅の仲間で、ホムンクルスのクロウリーだ。
「ふんっ! 汚らわしい異民族と、出来損ないの人形風情が、いきがりおってっ!」
「仲間までも、つけあがっておるようようじゃなっ!」
「そうじゃっ! そうじゃっ!」
「ちょっと、まってくださいっ!」
それまで、項垂れて、言葉の刃に黙って耐えていたマルスだったが、仲間を侮辱された途端、猛虎の如く噛みついた。
「僕のことは、いくら悪く言ったっていい!
でも、仲間のことにを侮辱するのは、やめてください!!」
これには、流石の王達もたじろいだ。
が――――――。
「お父様達、もうやめてぇっ!」
今にも掴み合いの抗争が勃発しようとしていたのを止めたのは、澄んだ少女の心の叫びだった。
レオン7世の愛娘、ローザ姫である。
毎夜繰り返される醜い争いに、心ない者達は我先にと加担し、良識のある者達は、心から涙を流していたのだ。
「みんな、わからないの?! こんなことをしていたって、魔神を悦ばせるだけよ!
見て! 今もあの水晶玉から、わたくし達のいさかいを、人間の心の弱さを、酒の肴にしているにちがいないわ!」
ローザ姫の言葉に、皆が我にかえって、頭上を見上げた。
其処には、人の頭ほどもある水晶玉が光っていて、昼も夜もなく、勇者と王達を観察しているのだった。
皆、一様にゾッとした。
身体と尊厳だけではない。
『心』まで魔神に蹂躙されるところだったのである。
「おお、ローザよ。 許しておくれ。 達が愚かだった。
勇者よ。 仲間達よ。 酷いことを言った。
どうか、許してほしい……。」
先に頭を垂れたのは、レオン7世だった。
他の加担していた者達も、見習って次々と頭を下げていく。
「…いえ、僕のほうこそ、頭に血がのぼっちゃって…。
恥ずかしいです…。」
マルスは、ローザ姫を、熱い眼差しで、ありったけの感謝を込めて見つめた。
「ローザ姫。 ありがとう。 君のおかげで、僕達は人として、失くしてはならないものを、守ることができたよ。」
マルスに、面と向かって話しかけられると、ローザ姫は、すっかりやつれた、しかし、美しい白磁の頬を朱にそめる。
「あの…。 いえ…。 わ、わたくしなんか……。」
すっかり和やかになった石牢の鉄格子の扉が開かれ、1体の屈強な魔物が入ってきた。
「そこの女。 服を脱げ。」
と、なんとローザ姫を名指する。
「えっ?!」
「魔神様からの御達しだ。 今からお前は服を身につけることすら禁じられる。
さらに、食事も手を使わない犬食いだ。
ククク…。
本物のケダモノの様にされても、その健気さ、気高さ、失わずにおれるかな…?
ククク…。」
厭らしく嗤いながら、魔物がローザ姫に、穢れたその手を伸ばす。
「い、嫌ぁっ!!」
「や、やめろっ! 娘に手を出すなっ!」
レオン7世が、果敢に挑んだが、呆気なく壁まで吹っ飛ばされ、王は頭を強かに打ち付け、気を失った。
「やめろっ! 彼女には指1本、触れさせないぞっ!」
マルスが、ローザ姫を背に庇った。
魔物は厭らしく嗤いながら、歩を詰める。
「これはこれは、『元』勇者様。 ご機嫌麗しゅう…。」
ジリジリと、壁まで追い詰められていく…!
「ククク…。 指1本触れさせないって? どうやって?
剣も無いお前に何ができる?」
ついに、壁まで追い詰められた。
魔物の手が、ゆっくりと、いたぶるように、伸びてくる。
もう駄目なのか!
「剣ならあるよっ!!!」
その叫びと共に、見たこともない風采の『少年』から、マルスに差し出されたのは、遥か彼方。
『地球』で最強最高の硬度を誇る伝説の鉱物、『緋緋色金』で『創造』された、かの伝説の名刀、『童子切安綱』である。
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