7 / 7
しゅらば
しおりを挟む
「ねえ、そこで何しているの」
木曜日だった。私は決意を新たにうるを殺していた。とりあえずいつものように心臓と喉を刺して死なないことを確かめる。今日こそは、と思ったがダメだった。まあ良い。外傷が効かないなら兵糧攻めだ。閉じ込めて餓死させてやる。そう言ったのに、うるは意に介さないどころか、私に尾鰭を巻きつけて楽しそうにしている。呑気にしていられるのも今のうちだけだ。暗い洞窟に何ヶ月も独りで閉じ込められて発狂しながら死んでいくが良い。人魚の湿って重たい体を引きずりながら、頭の中はそんな呪詛でいっぱいだった。だから、気づけなかった。あの子が近づいてきたことに。
「違、えっと、あの、」
「何で私の恋人を抱いてるのって聞いてるんだけど、答えてよ」
瑠璃ちゃんは目に涙を溜めながら震えている。今すぐこいつを投げ捨てて抱きしめたいのに、締め付ける力は一層強くなる。側から見れば強く抱き合っているように見えるだろう。この状況を上手く収められるコミュ力は、おそらく私にはない。
「……触らないでっ」
「う、うん、ごめんね、落ち着いて……」
瑠璃ちゃんが掴みかかってくる。私からうるを剥がそうとしている。うるはクルルっと喉を鳴らして大人しく離れた。びちびちと岩場を這って海に落ちる。くそ、あいつ逃げやがった。せっかくここまで運んだのに。残ったのは鬼の形相でこちらを睨みつける瑠璃ちゃんだけだった。絶対絶命のピンチ。デス、オア、ダイ。どうしよう。
「私ね、新垣さんのこと友だちだと思ってたよ」
「照屋さん、聞いて、」
「ショックだな。あなたも私を裏切るんだね。やっぱり人間なんて信用できないね」
そう言うと瑠璃ちゃんは足元の包丁を取り上げた。私のだ。私が丹念に研いだ切れ味の良い包丁。まずいまずいまずい。
「消えてよ、ねえ、消えて? 私の前から、永遠に」
瑠璃ちゃんが飛びかかってきた。瑠璃ちゃん、狙いが間違ってる、お腹は死ににくいんだって。包丁はね、逆手で握って刺したら手を回して、内臓を傷つけて致命傷にするんだよ。頭の中にどうでも良い情報が流れてくる。結局、どれもうる相手には何の役にも立たなかった知識。今は刺す側じゃなくて、刺される側の対処法が知りたいんだけどな。でも瑠璃ちゃんって結構か弱い。きっと全力なんだろうけど、頑張れば抑え込める。私より背が高くてスポーツ万能な瑠璃ちゃんが、私の腕の中で踠いてる。可愛い。愛しい。小動物みたい。私の瑠璃ちゃん。完全に副産物だけど、体力ついてて良かった。あいつ重いから。
「酷い酷い酷い」
「え、あっ……!」
瑠璃ちゃんの膝が鳩尾にめり込む。体勢が崩れた。瑠璃ちゃんが刃を突き出してくる。咄嗟に手で掴んだ。海風で冷やされた手に痛みは感じない。掌にじんわり熱いものが広がる。離したら終わりだ。一本の包丁を綱引きのように引っ張り合った。何で私は好きな子に刺されそうになってるんだろう。
ぐるりぐるりと視界が回る。思わず笑みが浮かんだ。何だろう、何だか楽しいな。今の瑠璃ちゃんは、化け物に浮かされた瑠璃ちゃんじゃない。私を、私だけを見つめている瑠璃ちゃんだ。ああ、踊ってるみたい。岩場の上で波を音楽にステップを踏む。ずっとずっとこの時間が続けば良いのに。
けれど、それは突然に終わった。私の身体を回していたはずの瑠璃ちゃんが突然蹲った。瑠璃ちゃんから赤いものが流れていた。血だった。私と瑠璃ちゃんの間を繋いでいたはずの包丁は、いつの間にか私の手を離れて瑠璃ちゃんのお腹に深く刺さっていた。
木曜日だった。私は決意を新たにうるを殺していた。とりあえずいつものように心臓と喉を刺して死なないことを確かめる。今日こそは、と思ったがダメだった。まあ良い。外傷が効かないなら兵糧攻めだ。閉じ込めて餓死させてやる。そう言ったのに、うるは意に介さないどころか、私に尾鰭を巻きつけて楽しそうにしている。呑気にしていられるのも今のうちだけだ。暗い洞窟に何ヶ月も独りで閉じ込められて発狂しながら死んでいくが良い。人魚の湿って重たい体を引きずりながら、頭の中はそんな呪詛でいっぱいだった。だから、気づけなかった。あの子が近づいてきたことに。
「違、えっと、あの、」
「何で私の恋人を抱いてるのって聞いてるんだけど、答えてよ」
瑠璃ちゃんは目に涙を溜めながら震えている。今すぐこいつを投げ捨てて抱きしめたいのに、締め付ける力は一層強くなる。側から見れば強く抱き合っているように見えるだろう。この状況を上手く収められるコミュ力は、おそらく私にはない。
「……触らないでっ」
「う、うん、ごめんね、落ち着いて……」
瑠璃ちゃんが掴みかかってくる。私からうるを剥がそうとしている。うるはクルルっと喉を鳴らして大人しく離れた。びちびちと岩場を這って海に落ちる。くそ、あいつ逃げやがった。せっかくここまで運んだのに。残ったのは鬼の形相でこちらを睨みつける瑠璃ちゃんだけだった。絶対絶命のピンチ。デス、オア、ダイ。どうしよう。
「私ね、新垣さんのこと友だちだと思ってたよ」
「照屋さん、聞いて、」
「ショックだな。あなたも私を裏切るんだね。やっぱり人間なんて信用できないね」
そう言うと瑠璃ちゃんは足元の包丁を取り上げた。私のだ。私が丹念に研いだ切れ味の良い包丁。まずいまずいまずい。
「消えてよ、ねえ、消えて? 私の前から、永遠に」
瑠璃ちゃんが飛びかかってきた。瑠璃ちゃん、狙いが間違ってる、お腹は死ににくいんだって。包丁はね、逆手で握って刺したら手を回して、内臓を傷つけて致命傷にするんだよ。頭の中にどうでも良い情報が流れてくる。結局、どれもうる相手には何の役にも立たなかった知識。今は刺す側じゃなくて、刺される側の対処法が知りたいんだけどな。でも瑠璃ちゃんって結構か弱い。きっと全力なんだろうけど、頑張れば抑え込める。私より背が高くてスポーツ万能な瑠璃ちゃんが、私の腕の中で踠いてる。可愛い。愛しい。小動物みたい。私の瑠璃ちゃん。完全に副産物だけど、体力ついてて良かった。あいつ重いから。
「酷い酷い酷い」
「え、あっ……!」
瑠璃ちゃんの膝が鳩尾にめり込む。体勢が崩れた。瑠璃ちゃんが刃を突き出してくる。咄嗟に手で掴んだ。海風で冷やされた手に痛みは感じない。掌にじんわり熱いものが広がる。離したら終わりだ。一本の包丁を綱引きのように引っ張り合った。何で私は好きな子に刺されそうになってるんだろう。
ぐるりぐるりと視界が回る。思わず笑みが浮かんだ。何だろう、何だか楽しいな。今の瑠璃ちゃんは、化け物に浮かされた瑠璃ちゃんじゃない。私を、私だけを見つめている瑠璃ちゃんだ。ああ、踊ってるみたい。岩場の上で波を音楽にステップを踏む。ずっとずっとこの時間が続けば良いのに。
けれど、それは突然に終わった。私の身体を回していたはずの瑠璃ちゃんが突然蹲った。瑠璃ちゃんから赤いものが流れていた。血だった。私と瑠璃ちゃんの間を繋いでいたはずの包丁は、いつの間にか私の手を離れて瑠璃ちゃんのお腹に深く刺さっていた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話
穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
せんせいとおばさん
悠生ゆう
恋愛
創作百合
樹梨は小学校の教師をしている。今年になりはじめてクラス担任を持つことになった。毎日張り詰めている中、クラスの児童の流里が怪我をした。母親に連絡をしたところ、引き取りに現れたのは流里の叔母のすみ枝だった。樹梨は、飄々としたすみ枝に惹かれていく。
※学校の先生のお仕事の実情は知りませんので、間違っている部分がっあたらすみません。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃった件
楠富 つかさ
恋愛
久しぶりに帰省したら私のことが大好きな従妹と姫はじめしちゃうし、なんなら恋人にもなるし、果てには彼女のために職場まで変える。まぁ、愛の力って偉大だよね。
※この物語はフィクションであり実在の地名は登場しますが、人物・団体とは関係ありません。
春に狂(くる)う
転生新語
恋愛
先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる