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ファミリーサーチ
しおりを挟む「おはよ」
「おはよう」
ドアを開けると、ちょうど天真が自宅の鍵をかけているところだった。
「梅雨明けしたな」
「うん。洗濯物が乾くのがいいね」
天真とは友達と言えるくらいの関係になっていた。玄関を出て出会えば一緒に出社をするし、食堂で会えば一緒に食べる。誘われれば、天真オススメのあの定食屋に行くこともある。
これが友達としての正しいあり方かはよくわからないが、知らないものは仕方ない。これが友達というものだと思うことにした。
社宅を出ると、強い日差しが肌を刺す。
役所までは一分もかからないのだから、日傘をさすまでもないが、とりあえず日焼け止めだけは塗るようにした。麗と六花オススメの日焼け止めは、さらりとしていい匂いがしてお気に入りだ。
「そういえば、お前ん家。まだテレビないの?」
「ないよ。ニュースとか動画とかスマホで見れるし」
「そうだけどさ。ゲームとかは?」
「しないなぁ」
「お前家でなにしてんの?」
「雑誌読んだり、家事したり」
必要最低限の家電は揃っているし、スマホは買った。テレビはというとそんなに必要なのかわからない。
ここでは現世の番組とあの世だけの番組が見れると天真が言っていた。天真は亡くなったお笑い芸人の番組が好きらしく、窓を開けていたら一人笑う天真の声が聞こえてくる。
「スマホの画面じゃちっちゃいだろ。映画とか見るの」
「まぁ確かに」
「給料貯まったら買えよ。で、ゲームしよーぜ」
「ええ、ゲーム?」
「やれば楽しいって」
「そういえばさ、天真ってアプリ入れてる?」
ゲームと言われて思い出したのは、スマホに入れているアプリのことだ。ゲームアプリを入れている人も多くいると聞くし、天真のスマホには色々入ってそうだ。
「入れてるよ。SNSとかゲームとか。なんかオススメしりたい?」
「いやそうじゃなくて、家族を捜せるアプリって知ってる?」
「ああ、ファミリーサーチな」
「ふぁみ?」
「ファミリー、サーチ。家族捜しのアプリだろ。それがどうした?」
「天真は入れてる?」
入れたアプリの名前はしっかりと覚えていないが、確かそんな名前だった気もする。手を繋いだアイコンが、茜のなにもないスマホの画面で存在感を放っていた。
「んー一応入れてる」
「誰か会えた?」
「んにゃ。友達はまだ全然生きてるだろーし。親も死ぬには早いし、じーちゃんばーちゃんも元気だったんだよね。ひーじーちゃんとかになるといると思うけど、会ったことなくて実感ないし。お前入れた?」
「うん。一応。覚えてないから、知り合いいるかどうかわからないけど」
「いるといいなっていうのも変だけど、そのうち会えるといいな」
「うん」
もし家族がいたのなら、まだ元気に生きていて欲しい。そうして寿命が来たらここにくればいい。
「オレは、自分の家族を迎えに行くのが夢なんだ」
「いいね。それ」
お迎え課で現世に亡くなった人を迎えに行く天真なら、その可能性はゼロではない。そのとき家族はびっくりするだろうか、それとも喜ぶだろうか。
「そのときは教えてよ。再会のお祝いしよう」
なんだかその反応を知りたくて、そう言った。自分には生前の記憶を持って、憧れたお迎え課に配属された天真に嫉妬していた。だが、今の輪廻転生案内課の仕事に慣れると、この仕事も悪くないと思えるのだ。
実際お迎え課は屈強な男性の集まりで、茜が落選したのもわかる気がするが、なかなか受け入れがたいものもあった。季節が変わって、やっと茜自身の考え方にも変化があったようだ。
たまに窓から見る、空から降りてくるお迎え課のバイクをいいなと思うことはあるが、転生のお知らせを送って、転生の扉で立ち会うことも大切な仕事だと思えるようになった。
「じゃあね、天真」
「おう。居眠りすんなよ」
「そっちこそ事故んなよ」
そんなことを言って、茜と天真は自分の課に行く。
今日も転生案内の書類を折って、封筒に入れて、郵送する。そうして転生の扉を見守る。
いつもと同じ日が始まるなと思いながら、茜は輪廻転生案内課と書かれたプレートの下を目指した。
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