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思い出
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朝、目を覚ますと、今までなかった部分に記憶があるのがわかった。
母親に首を絞められる光景も、薄暗い自室でただ虚空を見つめていた光景も、家族でラーメンを食べに行った光景も思い出される。
辛い記憶も幸せだった記憶も同居していて、どちらを思い出すたびに、心の奥で一喜一憂した。
全部忘れていた頃は、なんて楽だったのだろうと思いながら、不意に思い出す記憶を丁寧にしまっていった。
卵かけご飯も、母親は塩を少し入れていたなと思って、塩を追加した。
引きこもるまでは、台所で母親の手伝いをするのが好きだった。味付けはいつも母親がしていたけど、炒めたり、野菜を切ったりするのはよくしていた。
そのとき母親がしていた味付けを思い出しながら、今朝は味噌汁も作った。味見をしつつ作ったが、味噌が違うのかあまり似ていなかった。
そうやって朝食の準備をしていると、チャイムが鳴る。
覗き穴を見ると、天真が立っていた。
「どうしたの? おはよう」
今日は休日だ。昨日、和久井少年の母親が起こした凶行のための、大川が指定した休日だった。
そのことを昨日一緒にラーメンを食べたときに伝えたはずだが、なにかあったのだろうか。
「おはよ。大丈夫か?」
「え?」
「いや、ほら。昨日記憶戻ったばかりで大丈夫かなって」
どうやら心配して、様子を見に来てくれたらしい。自分を心配してくれる存在は、茜にはありがたかった。
「ありがとう。大丈夫」
「昨日ラーメン食べてたけど、一応な。これ作ったから」
そう言って天真が差し出したのは、ビニール袋に入ったアルミホイルの固まりだった。
「なにこれ」
「おにぎり」
「え?」
「これくらいなら食べれるかなって」
「うん。食べる」
茜がビニール袋を受け取ると、天真は安堵したように笑って、役所へ向かっていった。
アルミホイルを触るとまだ温かい。
朝から自分のために作ってくれたというのが嬉しかった。朝食の卵かけご飯と味噌汁はもうできているから、これは昼食にしよう。
今日は出かけたいから、お弁当代わりに持って行ってもいい。
茜が部屋の中に戻る。台所で味噌汁をお椀によそって、作った卵かけご飯と一緒にローテーブルに持って行く。
いただきますと言って食べ始めると、やっぱり味噌汁は悪くない出来だが、母親のものとは別物だと思った。今日は冷蔵庫に残っていたもやしを入れたが、茜が好きだった具は蕪だと思い出したから、次は蕪の味噌汁を作ろう。
少し塩を入れた卵かけご飯は、懐かしい味に近い気がして、これは満足の出来だった。実家ではスーパーで買うごく普通の卵を使っていたから、この高級卵では卵の味が濃くて、もっと美味しい。
及第点な朝食を済ませると、茶碗を洗う。それから歯磨き、洗顔して、化粧をする。あの頃は化粧をするなんて思いもよらなかった。
高校は化粧禁止だったし、周りの女子たちが化粧をし出す頃には、引きこもって交流を絶ったから、茜が化粧をする機会なんてなかった。
思い出を深く遡れば、化粧をしたのは七五三かピアノの発表会くらいだ。成人式だって家から出なくて、届いた案内のハガキはその場でゴミ箱に捨てた。
今なら、振り袖を着たかったと思う。でもあの頃はそれすら嫌でたまらなかった。順風満帆に歩んでいる同級生に会いたくなかったし、なにより自分が一番嫌いだった。
人は変わるものだ。
引きこもってから殺されるまで、ずっとスウェットかティシャツしか着ていなかったのに、今は服を選ぶ余裕だってある。靴だって欲しいし、服装に合ったバッグも欲しい。
ティシャツだってなんでもいいわけじゃない。
あの世で服を買うようになって、好きになったブランドがいくつかある。
そのブランドの一つで買ったロングティシャツを着て、同じブランドのパーカーを羽織る。ラフな格好に会うバッグに必要なものを入れて、その中に保冷バッグと天真にもらったおにぎりも入れた。
準備ができたら、スニーカーを履いて出発する。
いつも働いている平日にどこかに行くというのは初めてだ。まるで秘密のお出かけみたいで、楽しい。生前だって、熱が出て学校を休んだ日は、特別な感じがしたのを覚えている。
社宅を出て、向かうのは駅だ。
一度行ったから、目的地までの地図は頭に入っている。
目的地は川井が働いていた「笹井養鶏場」。今日は純粋に卵を買いに行くのだ。シュークリームも買いたいし、いろいろ助けてもらった天真にお裾分けもしたい。
庇ってくれた神代にも、シュークリームを差し入れたかった。日持ちがしないなら、あの鯛焼きでもいい。
心配をかけた麗たちにも、あのシュークリームの美味しさを教えたいし、何個買えばいいだろうかと頭の中で計算する。
それだけの数がまだ残っていたらいいがと思っていると、養鶏場の最寄り駅についた。
ホームに降りて、階段を下り、改札を通る。
前に来たときと同じ養鶏場方面に向かおうとした時、背後から声をかけられた。
「ハチ?」
「あれ、神代さん?」
振り返れば神代がいる。どうやら神代も大川から休みを言い渡されたらしい。
昨日腹を刺されたのだ。傷はすぐに癒えるといっても、用心に越したことはない。
「神代さん、傷はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、もう痛くないし、傷跡もない」
「すごいですね」
「ハチはまだ少し跡が残ってるな」
「でも大丈夫ですよ。私もなんともないです」
茜の首には、昨日和久井の母親に絞められた跡がまだうっすらと残っている。やられたすぐ後に鏡で見たときより消えてはいるが、怪我のようにすぐ消えるわけではないらしい。
「神代さんも卵を買いに来たんですか?」
「そうだ。シュークリームも食べたくてな」
「あ、だったら私にシュークリーム奢らせてください! 庇ってもらったお礼に」
「そんなこと気にしなくていいのに」
「私が奢りたいんです」
「だったらお願いしようかな」
「はい!」
二人で駅を出て、養鶏場への道を歩く。三十分の道のりは一人では長く感じるが、道連れがいると話は別だ。
神代が知る丑区での美味しいものを教えてもらいながら、歩いていく。途中あの鯛焼き屋の前を通ると、平日の午前中でも行列ができていた。
不意に、前回来たときのことを思い出す。
鯛焼きを食べた公園で、神代が許嫁という女性と会ったことを。追いかけて、拒絶され、呆然とする神代の横顔は見たことのない表情だった。
「ここから更に三駅行ったところに、美味い蕎麦屋があるから行ってみるといい」
「神代さん、甘いもの以外も詳しいんですね」
「とんこつラーメンは専門外だがな」
くつくつ笑う神代は、役所で会うよりリラックスしている様子だ。
「醤油ラーメンなら巳区に美味い店がある」
「今度行ってみます」
これでは甘党というより、グルメだ。なにか食べたくなったら、それを神代に聞くと美味しい店が返ってきそうで、今度やってみようと茜は思った。
「神代さんは美味しいもの好きですね」
「戦時中は食が豊かでなかったからな。あの頃は……」
ふっと神代の声が止まる。それと同時に足も止まった。
どうしたのだろうかと神代を見上げると、ある一点を見つめている。なんだろうかとその視線の先をたどると、八百屋の前に立っている女性を見ているのがわかった。
あれは、神代が美代と呼んだあのときの綺麗な女性だ。
美代は神代に気づいていないようで、店先に置いてあった葡萄を吟味している。
「神代さ」
「美代さん!」
茜の声を遮るように、神代が走り出す。名前を呼ばれた美代はこちらを見ると、恐怖の表情になって逃げ出した。
「美代さん! なんで逃げるんだ」
「来ないでください!」
逃げる美代と追いかける神代。そんな二人を放っておけなくて、茜もそれについて走り出した。
「神代さん、ちょっと待って! 落ち着いてください!」
茜の声など聞こえないかのように、神代は走る足を緩めない。すぐに美代は神代に捕まって、あの日と同じく手を掴まれた。
「道生さん、離してください」
「嫌です。離したら貴女は逃げるでしょう」
「……」
沈黙は肯定。
美代は逃げたくてたまらないのだ。かつての許嫁に出会って嬉しいという表情は、美代からは伺えない。
二人の間になにがあったのだろう。神代は美代になにかしたのだろうか。そんなことを考えても、茜の元に答えはやってこない。
ただ見守るだけしかなくて、それがもどかしくて、自分にできることなど、この場においてなにもないのだと思った。
「美代さん」
「離してください」
何度目かわからないそのやりとりをしたとき、第三者の声がした。通りでやりとりをしたから、野次馬が首を突っ込んだのだろうかと思った。
「美代に触るな」
その名を呼ぶのだから、知り合いなのだろう。茜が振り返ると、どことなく見たことのある男性が立っていた。
答えはすぐにやってきた。
「照生か?」
神代が驚いたように名前を呼ぶ。どうやら神代と美代両方の知り合いらしい。
「兄貴?」
照生と呼ばれた男性が、神代をまっすぐに見る。既視感があったのは兄弟だからだ。二人を見比べると、どことなく似ている。
会いたいと言っていた家族に会えたのだと思っていたが、照生の方は再会を喜ぶような雰囲気ではなかった。
「照生、いつここに来たんだ? 俺が死んでから家族はどうなった?」
そう問う神代を無視して、照生は神代に近づいて、美代を掴んでいる手を掴んだ。
「美代から手を離せ」
「照生?」
「美代は俺のだ」
「は?」
神代が困惑の表情を浮かべる。美代を掴んでいた手を離すと、すぐに美代は照生の背後に隠れた。
「美代さん?」
「言っただろう? 美代は俺のだ」
「どういうことだ?」
「兄貴が死んだ後、俺たちは夫婦になったんだよ」
その言葉に、神代が絶句するのが見えた。
「俺たちは兄貴が死ぬ前から恋仲だったんだよ。親父たちや兄貴は知らなかっただろうけどな。兄貴が戦死したって聞いて嬉しくてたまらなかった。これで美代は俺のもんだってな」
「……照生」
「優秀で親父やお袋の自慢の息子だった兄貴にはわっかんねぇよな。病弱で戦争にもいけない家の恥の俺の気持ちなんて。ずっと俺は兄貴が重かった。羨ましかった。美代と許嫁になったと聞いて憎くてたまらなかった。死んでまで俺たちの邪魔しないでくれよ!」
悲痛な叫びが照生から発される。
神代は動けないまま、ただ呆然と弟とかつての許嫁を見ていた。
「美代さんは」
「照生さんの言った通りです」
きっぱりとそう言いきる美代が、照生の腕に自分の手を絡ませる。愛し合っている者同士というのは明白だった。
「……照生も美代さんもこの区画なのか?」
「いや、俺は違う。でも偶然会えてからは、休みの日は会いに来てるんだ」
「照生は今なにしてる?」
「タクシー運転手」
「ああ、お前は自動車が好きだったもんな」
ぽつりぽつりと会話のやりとりが続く。それは神代からの一方的な質問だったが、照生は律儀に答えた。まるでもう二度と会わないと言うように。
神代以外の家族が戦争を生き抜いたこと、両親は長生きをして、兄弟全員それぞれ独立して家庭を持ったこと。そんなことを聞いて、神代はやっと質問することを止めた。
「もう、帰っていいか?」
「ああ」
「じゃあな。もう二度と会うことはないだろうけど」
「そうだな」
照生が美代を連れて歩き出す。その背を茜は目で追いかけたが、二人が振り向くことはなかった。
立ち尽くす神代に、茜はどう話しかけていいかわからず、そっと傍に寄った。ここにいると、その存在を表すように。
「ハチ」
「はい」
「悪かったな」
「いえ」
「家族といっても、こんなものか」
視線を地に落とし、神代が呟く。絶望が神代の身体を纏っている気がして、茜は神代の腕を掴んだ。
「神代さん!」
「どうした?」
「来てください!」
「え?」
神代の腕を引っ張って、通りを横に逸れる。曲がって進んで、確かこのあたりだったと歩いていると、前回鯛焼きを食べた公園にたどり着いた。
その中に入って、前回とは違う空いているベンチに神代を座らせる。
「ハチ?」
バッグを探るとキャラメルの箱を取り出す。それを一個出すと、神代の手に握らせた。
「甘いもの、食べましょう」
「は?」
「神代さん言ってたでしょう。消化できないことは、甘いものを食べれば癒されるって」
「言った、な」
「鯛焼きがいいなら私買ってきますし」
「いや、これでいい」
キャラメルの包みを開いて、それを口に入れる。ゆっくりと噛む様子を見ながら、それが神代の癒しの足しになればいいと思った。
「俺が小さい頃たまに親父がキャラメルを買ってきてくれてな。それを食べるのが楽しみだった。照生はすぐ下の弟で、よくキャラメルの取り合いをしていた」
「私も、妹とよく喧嘩しました」
茜の言葉に、神代が驚いたように見てくる。
「ハチ。記憶が?」
「戻りました」
「よかったな」
「でもいい記憶じゃなくて。私、引きこもりで、家のお荷物で、無理心中させられたんです。母親に首を絞められて殺されるくらい」
できるだけ明るく言った。もう泣かないように。今辛いのは神代で、自分じゃない。自分はもう昨日泣いたし、受け入れると決めたのだ。
「無理に笑わなくていい」
「もう吹っ切れました」
「辛かったな」
「……はい」
「辛いな」
二度目のそれは、きっと神代自身に向けられたものだ。どうすればいいのか、全然わからなかった。記憶が戻っても、茜は人生経験が少ない。麗だったらこういうとき気のきいた言葉の一つでもかけられるのかもしれないが、茜にはまだその術がなかった。
だから、神代の頭を抱きしめた。
「ハチ?」
「泣いてもいいんですよ」
「男はそう簡単に泣いてはいけないと教えられた」
「いつの時代ですか。そこから何十年経ってると思うんですか」
「そうだな」
腕の中で、神代が笑う気配がした。
「……愛してたんだ」
しばらく抱きしめていたら、ぽつりと神代からそうこぼれ落ちた。
「許嫁に決まったときは嬉しかった。戦争から帰ってきたら祝言をあげるんだと思っていた。それは彼女も同じ思いだと思っていたのに」
戦死した許嫁を思って独り身を貫いて欲しかったわけじゃない。別の男と幸せな家庭を持っても構わなかった。ただ、愛していたのが自分だけだったという事実が辛いのだと、神代は茜の腕の中で打ち明けた。
茜は親からの愛情を知っている。だが、恋愛は知らない。初恋というものは、戻った記憶の中になかった。
しばらくそうして、神代からゆっくりと離れていった。
「帰る」
「神代さん、卵は?」
「今日はいい。ハチが必要なら一人で行ってくれ」
それだけ言うと、神代は立ち上がって公園を出て行った。その背中は、もう泣いてもいなかったし、いつもの真っ直ぐ伸ばされた神代のものだった。
結局、茜も養鶏場まで行く気がしなくて、鯛焼き屋で鯛焼きを十個買って帰った。おにぎりは社宅に帰ってから、朝の残りの味噌汁と一緒に食べた。
それから昼寝をして、夕方起きたら、天真の家のドアノブに鯛焼きを二つ、アルミホイルに包んでビニール袋に入れてかけておいた。十七時過ぎに天真からお礼のメールが届いた。
昨日今日と、いろいろなことが起きて、もう茜の許容オーバーだ。
明日はどんな顔をして神代に会えばいいのだろうか。神代の深い部分に思いがけず触れてしまった。神代の許可なく、隠れていた部分を見てしまったのだ。
許して欲しいと言う問題じゃない。
忘れることもできないし、見てないというわけにもいかない。
抱きしめたときの、神代の固い髪質がまだ手に残っている。
明日は神代に鯛焼き二つ渡そうと思って、茜は明日の準備をした。
母親に首を絞められる光景も、薄暗い自室でただ虚空を見つめていた光景も、家族でラーメンを食べに行った光景も思い出される。
辛い記憶も幸せだった記憶も同居していて、どちらを思い出すたびに、心の奥で一喜一憂した。
全部忘れていた頃は、なんて楽だったのだろうと思いながら、不意に思い出す記憶を丁寧にしまっていった。
卵かけご飯も、母親は塩を少し入れていたなと思って、塩を追加した。
引きこもるまでは、台所で母親の手伝いをするのが好きだった。味付けはいつも母親がしていたけど、炒めたり、野菜を切ったりするのはよくしていた。
そのとき母親がしていた味付けを思い出しながら、今朝は味噌汁も作った。味見をしつつ作ったが、味噌が違うのかあまり似ていなかった。
そうやって朝食の準備をしていると、チャイムが鳴る。
覗き穴を見ると、天真が立っていた。
「どうしたの? おはよう」
今日は休日だ。昨日、和久井少年の母親が起こした凶行のための、大川が指定した休日だった。
そのことを昨日一緒にラーメンを食べたときに伝えたはずだが、なにかあったのだろうか。
「おはよ。大丈夫か?」
「え?」
「いや、ほら。昨日記憶戻ったばかりで大丈夫かなって」
どうやら心配して、様子を見に来てくれたらしい。自分を心配してくれる存在は、茜にはありがたかった。
「ありがとう。大丈夫」
「昨日ラーメン食べてたけど、一応な。これ作ったから」
そう言って天真が差し出したのは、ビニール袋に入ったアルミホイルの固まりだった。
「なにこれ」
「おにぎり」
「え?」
「これくらいなら食べれるかなって」
「うん。食べる」
茜がビニール袋を受け取ると、天真は安堵したように笑って、役所へ向かっていった。
アルミホイルを触るとまだ温かい。
朝から自分のために作ってくれたというのが嬉しかった。朝食の卵かけご飯と味噌汁はもうできているから、これは昼食にしよう。
今日は出かけたいから、お弁当代わりに持って行ってもいい。
茜が部屋の中に戻る。台所で味噌汁をお椀によそって、作った卵かけご飯と一緒にローテーブルに持って行く。
いただきますと言って食べ始めると、やっぱり味噌汁は悪くない出来だが、母親のものとは別物だと思った。今日は冷蔵庫に残っていたもやしを入れたが、茜が好きだった具は蕪だと思い出したから、次は蕪の味噌汁を作ろう。
少し塩を入れた卵かけご飯は、懐かしい味に近い気がして、これは満足の出来だった。実家ではスーパーで買うごく普通の卵を使っていたから、この高級卵では卵の味が濃くて、もっと美味しい。
及第点な朝食を済ませると、茶碗を洗う。それから歯磨き、洗顔して、化粧をする。あの頃は化粧をするなんて思いもよらなかった。
高校は化粧禁止だったし、周りの女子たちが化粧をし出す頃には、引きこもって交流を絶ったから、茜が化粧をする機会なんてなかった。
思い出を深く遡れば、化粧をしたのは七五三かピアノの発表会くらいだ。成人式だって家から出なくて、届いた案内のハガキはその場でゴミ箱に捨てた。
今なら、振り袖を着たかったと思う。でもあの頃はそれすら嫌でたまらなかった。順風満帆に歩んでいる同級生に会いたくなかったし、なにより自分が一番嫌いだった。
人は変わるものだ。
引きこもってから殺されるまで、ずっとスウェットかティシャツしか着ていなかったのに、今は服を選ぶ余裕だってある。靴だって欲しいし、服装に合ったバッグも欲しい。
ティシャツだってなんでもいいわけじゃない。
あの世で服を買うようになって、好きになったブランドがいくつかある。
そのブランドの一つで買ったロングティシャツを着て、同じブランドのパーカーを羽織る。ラフな格好に会うバッグに必要なものを入れて、その中に保冷バッグと天真にもらったおにぎりも入れた。
準備ができたら、スニーカーを履いて出発する。
いつも働いている平日にどこかに行くというのは初めてだ。まるで秘密のお出かけみたいで、楽しい。生前だって、熱が出て学校を休んだ日は、特別な感じがしたのを覚えている。
社宅を出て、向かうのは駅だ。
一度行ったから、目的地までの地図は頭に入っている。
目的地は川井が働いていた「笹井養鶏場」。今日は純粋に卵を買いに行くのだ。シュークリームも買いたいし、いろいろ助けてもらった天真にお裾分けもしたい。
庇ってくれた神代にも、シュークリームを差し入れたかった。日持ちがしないなら、あの鯛焼きでもいい。
心配をかけた麗たちにも、あのシュークリームの美味しさを教えたいし、何個買えばいいだろうかと頭の中で計算する。
それだけの数がまだ残っていたらいいがと思っていると、養鶏場の最寄り駅についた。
ホームに降りて、階段を下り、改札を通る。
前に来たときと同じ養鶏場方面に向かおうとした時、背後から声をかけられた。
「ハチ?」
「あれ、神代さん?」
振り返れば神代がいる。どうやら神代も大川から休みを言い渡されたらしい。
昨日腹を刺されたのだ。傷はすぐに癒えるといっても、用心に越したことはない。
「神代さん、傷はもう大丈夫なんですか?」
「ああ、もう痛くないし、傷跡もない」
「すごいですね」
「ハチはまだ少し跡が残ってるな」
「でも大丈夫ですよ。私もなんともないです」
茜の首には、昨日和久井の母親に絞められた跡がまだうっすらと残っている。やられたすぐ後に鏡で見たときより消えてはいるが、怪我のようにすぐ消えるわけではないらしい。
「神代さんも卵を買いに来たんですか?」
「そうだ。シュークリームも食べたくてな」
「あ、だったら私にシュークリーム奢らせてください! 庇ってもらったお礼に」
「そんなこと気にしなくていいのに」
「私が奢りたいんです」
「だったらお願いしようかな」
「はい!」
二人で駅を出て、養鶏場への道を歩く。三十分の道のりは一人では長く感じるが、道連れがいると話は別だ。
神代が知る丑区での美味しいものを教えてもらいながら、歩いていく。途中あの鯛焼き屋の前を通ると、平日の午前中でも行列ができていた。
不意に、前回来たときのことを思い出す。
鯛焼きを食べた公園で、神代が許嫁という女性と会ったことを。追いかけて、拒絶され、呆然とする神代の横顔は見たことのない表情だった。
「ここから更に三駅行ったところに、美味い蕎麦屋があるから行ってみるといい」
「神代さん、甘いもの以外も詳しいんですね」
「とんこつラーメンは専門外だがな」
くつくつ笑う神代は、役所で会うよりリラックスしている様子だ。
「醤油ラーメンなら巳区に美味い店がある」
「今度行ってみます」
これでは甘党というより、グルメだ。なにか食べたくなったら、それを神代に聞くと美味しい店が返ってきそうで、今度やってみようと茜は思った。
「神代さんは美味しいもの好きですね」
「戦時中は食が豊かでなかったからな。あの頃は……」
ふっと神代の声が止まる。それと同時に足も止まった。
どうしたのだろうかと神代を見上げると、ある一点を見つめている。なんだろうかとその視線の先をたどると、八百屋の前に立っている女性を見ているのがわかった。
あれは、神代が美代と呼んだあのときの綺麗な女性だ。
美代は神代に気づいていないようで、店先に置いてあった葡萄を吟味している。
「神代さ」
「美代さん!」
茜の声を遮るように、神代が走り出す。名前を呼ばれた美代はこちらを見ると、恐怖の表情になって逃げ出した。
「美代さん! なんで逃げるんだ」
「来ないでください!」
逃げる美代と追いかける神代。そんな二人を放っておけなくて、茜もそれについて走り出した。
「神代さん、ちょっと待って! 落ち着いてください!」
茜の声など聞こえないかのように、神代は走る足を緩めない。すぐに美代は神代に捕まって、あの日と同じく手を掴まれた。
「道生さん、離してください」
「嫌です。離したら貴女は逃げるでしょう」
「……」
沈黙は肯定。
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二人の間になにがあったのだろう。神代は美代になにかしたのだろうか。そんなことを考えても、茜の元に答えはやってこない。
ただ見守るだけしかなくて、それがもどかしくて、自分にできることなど、この場においてなにもないのだと思った。
「美代さん」
「離してください」
何度目かわからないそのやりとりをしたとき、第三者の声がした。通りでやりとりをしたから、野次馬が首を突っ込んだのだろうかと思った。
「美代に触るな」
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「照生か?」
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「兄貴?」
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会いたいと言っていた家族に会えたのだと思っていたが、照生の方は再会を喜ぶような雰囲気ではなかった。
「照生、いつここに来たんだ? 俺が死んでから家族はどうなった?」
そう問う神代を無視して、照生は神代に近づいて、美代を掴んでいる手を掴んだ。
「美代から手を離せ」
「照生?」
「美代は俺のだ」
「は?」
神代が困惑の表情を浮かべる。美代を掴んでいた手を離すと、すぐに美代は照生の背後に隠れた。
「美代さん?」
「言っただろう? 美代は俺のだ」
「どういうことだ?」
「兄貴が死んだ後、俺たちは夫婦になったんだよ」
その言葉に、神代が絶句するのが見えた。
「俺たちは兄貴が死ぬ前から恋仲だったんだよ。親父たちや兄貴は知らなかっただろうけどな。兄貴が戦死したって聞いて嬉しくてたまらなかった。これで美代は俺のもんだってな」
「……照生」
「優秀で親父やお袋の自慢の息子だった兄貴にはわっかんねぇよな。病弱で戦争にもいけない家の恥の俺の気持ちなんて。ずっと俺は兄貴が重かった。羨ましかった。美代と許嫁になったと聞いて憎くてたまらなかった。死んでまで俺たちの邪魔しないでくれよ!」
悲痛な叫びが照生から発される。
神代は動けないまま、ただ呆然と弟とかつての許嫁を見ていた。
「美代さんは」
「照生さんの言った通りです」
きっぱりとそう言いきる美代が、照生の腕に自分の手を絡ませる。愛し合っている者同士というのは明白だった。
「……照生も美代さんもこの区画なのか?」
「いや、俺は違う。でも偶然会えてからは、休みの日は会いに来てるんだ」
「照生は今なにしてる?」
「タクシー運転手」
「ああ、お前は自動車が好きだったもんな」
ぽつりぽつりと会話のやりとりが続く。それは神代からの一方的な質問だったが、照生は律儀に答えた。まるでもう二度と会わないと言うように。
神代以外の家族が戦争を生き抜いたこと、両親は長生きをして、兄弟全員それぞれ独立して家庭を持ったこと。そんなことを聞いて、神代はやっと質問することを止めた。
「もう、帰っていいか?」
「ああ」
「じゃあな。もう二度と会うことはないだろうけど」
「そうだな」
照生が美代を連れて歩き出す。その背を茜は目で追いかけたが、二人が振り向くことはなかった。
立ち尽くす神代に、茜はどう話しかけていいかわからず、そっと傍に寄った。ここにいると、その存在を表すように。
「ハチ」
「はい」
「悪かったな」
「いえ」
「家族といっても、こんなものか」
視線を地に落とし、神代が呟く。絶望が神代の身体を纏っている気がして、茜は神代の腕を掴んだ。
「神代さん!」
「どうした?」
「来てください!」
「え?」
神代の腕を引っ張って、通りを横に逸れる。曲がって進んで、確かこのあたりだったと歩いていると、前回鯛焼きを食べた公園にたどり着いた。
その中に入って、前回とは違う空いているベンチに神代を座らせる。
「ハチ?」
バッグを探るとキャラメルの箱を取り出す。それを一個出すと、神代の手に握らせた。
「甘いもの、食べましょう」
「は?」
「神代さん言ってたでしょう。消化できないことは、甘いものを食べれば癒されるって」
「言った、な」
「鯛焼きがいいなら私買ってきますし」
「いや、これでいい」
キャラメルの包みを開いて、それを口に入れる。ゆっくりと噛む様子を見ながら、それが神代の癒しの足しになればいいと思った。
「俺が小さい頃たまに親父がキャラメルを買ってきてくれてな。それを食べるのが楽しみだった。照生はすぐ下の弟で、よくキャラメルの取り合いをしていた」
「私も、妹とよく喧嘩しました」
茜の言葉に、神代が驚いたように見てくる。
「ハチ。記憶が?」
「戻りました」
「よかったな」
「でもいい記憶じゃなくて。私、引きこもりで、家のお荷物で、無理心中させられたんです。母親に首を絞められて殺されるくらい」
できるだけ明るく言った。もう泣かないように。今辛いのは神代で、自分じゃない。自分はもう昨日泣いたし、受け入れると決めたのだ。
「無理に笑わなくていい」
「もう吹っ切れました」
「辛かったな」
「……はい」
「辛いな」
二度目のそれは、きっと神代自身に向けられたものだ。どうすればいいのか、全然わからなかった。記憶が戻っても、茜は人生経験が少ない。麗だったらこういうとき気のきいた言葉の一つでもかけられるのかもしれないが、茜にはまだその術がなかった。
だから、神代の頭を抱きしめた。
「ハチ?」
「泣いてもいいんですよ」
「男はそう簡単に泣いてはいけないと教えられた」
「いつの時代ですか。そこから何十年経ってると思うんですか」
「そうだな」
腕の中で、神代が笑う気配がした。
「……愛してたんだ」
しばらく抱きしめていたら、ぽつりと神代からそうこぼれ落ちた。
「許嫁に決まったときは嬉しかった。戦争から帰ってきたら祝言をあげるんだと思っていた。それは彼女も同じ思いだと思っていたのに」
戦死した許嫁を思って独り身を貫いて欲しかったわけじゃない。別の男と幸せな家庭を持っても構わなかった。ただ、愛していたのが自分だけだったという事実が辛いのだと、神代は茜の腕の中で打ち明けた。
茜は親からの愛情を知っている。だが、恋愛は知らない。初恋というものは、戻った記憶の中になかった。
しばらくそうして、神代からゆっくりと離れていった。
「帰る」
「神代さん、卵は?」
「今日はいい。ハチが必要なら一人で行ってくれ」
それだけ言うと、神代は立ち上がって公園を出て行った。その背中は、もう泣いてもいなかったし、いつもの真っ直ぐ伸ばされた神代のものだった。
結局、茜も養鶏場まで行く気がしなくて、鯛焼き屋で鯛焼きを十個買って帰った。おにぎりは社宅に帰ってから、朝の残りの味噌汁と一緒に食べた。
それから昼寝をして、夕方起きたら、天真の家のドアノブに鯛焼きを二つ、アルミホイルに包んでビニール袋に入れてかけておいた。十七時過ぎに天真からお礼のメールが届いた。
昨日今日と、いろいろなことが起きて、もう茜の許容オーバーだ。
明日はどんな顔をして神代に会えばいいのだろうか。神代の深い部分に思いがけず触れてしまった。神代の許可なく、隠れていた部分を見てしまったのだ。
許して欲しいと言う問題じゃない。
忘れることもできないし、見てないというわけにもいかない。
抱きしめたときの、神代の固い髪質がまだ手に残っている。
明日は神代に鯛焼き二つ渡そうと思って、茜は明日の準備をした。
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