後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん

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第31話 さあ、解毒薬を作ろう

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「なるほど、進捗はどうだ?」
「朝日さんって言ったわね。実はもう既に完成間近までたどり着いているの」

 え? と驚きの声が漏れだす。まさかそこまで至っているとは予想だにしていない展開なだけに驚愕の波は止まらない。
 それだけでなく、怠惰的な要素から来る嬉しさも知覚する。

「でも正直これで正解なのかよくわからないんだよね」

 けだるさと強気さを纏っていた凝雨がここで初めて見せた弱さもまた、視界と脳へ強烈に刻まれた。

「自信がないのか?」
「そう。笑っちゃうよね。完成しそうだってのに」
「いえ、そんな事はございませんよ。誰だって不安な事はございますから」
「そうだ。気にするな。ちなみにどこら辺が気になっているんだ?」

 凝雨の話曰く夢生薬の解毒薬については全く手がかりが残されていない。薬を作るのに必要な薬草全ての種類の効能を調べ尽くしてから、逆算していく……と言うやり方で試みている為、これでそもそも合っているのか? となっているらしい。

「夢生薬の作り方自体は何とか資料が残っていたから、それは助かるんだけどね」
「資料、残っていたのですか?! それ、見せて頂いても……!」
「美雪だっけ。君ならそう言うと思ったよ。この古びた紙がそう」
「これ、どれも南方で採取される薬草が使われていますね……幻覚を見せたりするような毒薬もこんなに……」

 やっぱりすぐにわかる辺り薬師だね。と褒めているのかよくわからない凝雨の声が頭にかかる。

「そうなんだよね。だからそれらに使われている毒薬の解毒薬をかき集めて、混ぜれば解毒薬が生まれるんじゃないかって」
「確かに凝雨さんのお考えは理にかなっていると私は思います」
「ありがとう。でもそれだけじゃだめなんだよね」
「ひとつずつ使用している解毒薬を確認させて頂いてもよろしいでしょうか?」

 凝雨から許可を取り、何の薬が使われているかを精査する。まずはそこからだと美雪の直感がそう踏んだからだ。

奥菜薬おきなやく……それから佳辰条かしんじょう……」

 組み合わせがまずいものがないか。本当にこの解毒薬でいいか、使用しているものよりも効能が高いもの……すなわち上位互換があるものだったりするかなどを頭の中で繰り返し唱えながら確かめていく。
 後宮内の詰所にある薬棚と、夢で見た未知の薬棚両方が美雪の脳内によぎっては消え、また映し出されるのを繰り返しながら。
 
「この麻亜任まあにん、効果は薄くなるので城東亜任じょうとうあにんに変えた方がよろしいかと存じます」

 この2つの薬はいずれも毒消しとして一般的な薬だ。以前新葉が手のかぶれを訴えた時、朝日が使った毒消しに麻亜任は含まれている。

「えっ、そうなの?」
「含まれている毒薬のうち、麻亜壬に耐性があるものが2種類含まれておりますので」
「わかったわ、確か薬草は……無い。調達してこないと」

 迷う間は無く私が行きます! と力強く意思を見せる。
 数秒ほど経って朝日から、俺も付いていく! と発せられた。

「確かに男の人が誰かひとりいた方がいいかもね。この辺り虎とかいるから」
(そんな気はしていましたが、やはり……)
「君はひとりで大丈夫なのか?」
「あぁ、外出する時は匂いがきつい香を焚いているから大丈夫。あとは槍とか武器はあった方がいいかもね?」

 兵士から借りた槍を手に、一度凝雨の家を出て薬草を取りに行く。山を登り、急斜面となっている部分に自生している薬草をある程度回収し終えると、また凝雨の家に帰還した。
 外に出ている間、虎などの肉食動物に出会わないか戦々恐々としていた美雪。幸いにも彼らと出くわす事はなかったのだった。

「回収ありがとう。水分を飛ばさなきゃいけないんだけど、時間がないから……」
「火で炙ってみましょうか?」
「お願いできる?」
「はい、お任せください」

 厨房の釜には小さな種火が光を宿している。その種火から火を汲み、薬草をあぶって出来るだけ水分を取った。
 薬草を切り刻みすり鉢で更に細かく粉状にしていくと、即席ながら城東亜任が完成した。

「これを入れて、後は……もっと強度のある解毒薬系の薬を足した方がより確実かもしれないと私は考えたのですが、朝日さんはどう思われます?」
「俺も美雪の考えに異論はない。凝雨はどうだ?」
「2人がそう言うなら、私もそうだと思うわ。夢生薬は強力な毒薬だもの、毒消しもより強力なのがいいはず」

 凝雨は腕を組みながらまさか2人が来てからこんなに研究が進むなんて……と驚きと共に感慨に浸る。
 
「これも何かの縁かもしれませんね」
「そうね、私の知らない知識がもたらされた事でこんなにひょいひょい進むなんてね」
「それにしても、夢生薬はどうやって誕生したんだろうな?」
「あぁ、どうやら作ったのは明京のおじいさんらしいんだよね」

 いきなりの未知の情報に、美雪は朝日と顔を見合わせ驚愕を共有する。

「明京が作った訳じゃないんだな?」
「そう。明京のお父さんは早くに亡くなったらしくて、おじいさんに育てられたみたいで」
「へぇ……」
「あ、待って。明京のおじいさんが残した日記があるんだけど……でも見ちゃだめだってお母さんから言われているしどうしよう……」
 
 聞けば開けたら呪われると母親から聞かされているとか。朝日は本当に呪術がかけられているのか? と懐疑的だが、美雪はここに来る前に出会ったあの僧侶を思い出す。

(あの僧侶のお方は確かに私にまつわる漢字を言い当てていた……なら、呪術、不思議な力があってもおかしくはない)
「呪術がかけられていらっしゃるなら、解呪出来る者にお願いしてみては?」
「そうだな。凝雨。華南に寺か何かそういう場所はあるか?」
「あるよ。お坊さんに見てもらうって訳ね」

 理解が早くて助かる。と返す朝日に、凝雨はいや待ってよ……。と何かに気が付きそうな素振りを見せ始める。

「あの、凝雨さんいかがなされました?」
「……って事は、私家から出ないとじゃん!」

 突如凝雨は頭を抱えていやだいやだ……。と拒否反応を示し始めた。
 家の外に出るのがどうして嫌なのか、美雪は全く見当もつかない。

「何か不都合な事でもございましたか?」
「だ、だって! 私の姿見られるじゃん! どうせ物好きなやつらにあれこれヒソヒソと言われるのよ! わかってるんだから……!」

 目を見開き、両手で頭を押さえてしゃがみ込む凝雨の額からは冷や汗が流れ落ちている。
 美雪はなんて声をかけるべきか……。と思案するがふさわしい言葉が見つからない。

「そんなくだらないもの、言わせておけばいいんだ」
「はぁ!? そんなの無理よ! だって勝手に耳に入ってくるもの! 変なやつとか、明京の子孫とか、引きこもりの行き遅れ薬師だとか……!」
「俺も悪評をさんざん言われたさ。でもそのような奴らには共通点がある」
「共通点……?」

 ゆっくりと立ち上がる凝雨とほぼ同時に、美雪は凛とした顔の朝日の眼を見つめた。

「簡単だ。俺より馬鹿、と言うわけだ」
「俺より馬鹿!?」
(すごい、見下していらっしゃる……!)
「いいか? 悪評など気にしてはいけない。己の意志を曲げるな。俺はそう言いたい」

 あ……と凝雨は声にならない声を漏らし、立ち尽くす。

「私のやってきた事は、間違っていない……!」 
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