後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん

文字の大きさ
46 / 59

第45話 双貴妃・獨昭媛

しおりを挟む
(獨昭媛様は九嬪、双貴妃様は四妃のうちのひとり……どちらも位の高い妃だし、専属の医師団がついていらっしゃる)

 特に双貴妃は姜皇后の次に位が高い妃である。姜皇后の口から出た名前に驚きが波紋のように広がっていった。

「もう知っている部分もあるかもしれないけれど、とりあえず説明するわね。まずは獨昭媛から」

 獨昭媛は全体的に細身の女性。顔の特徴としては目は大きく吊り上がっていて、まるで猫のようだと姜皇后は語る。黒い髪はしっかりと手入れされており、いつも艶めきを放つほどだとか。獨昭媛の髪は皇帝も気に入っている。

「緑色の衣を身にまとう事が多いから、見たらすぐにわかると思うわよ」

 彼女は姜皇后よりも年下でまだ子供はいない。なお妊娠経験は一度あるが、早いうちに流産しているそうだ。

「彼女が嫉妬深いと言われる一因はそこだと私は思うわ。早く子が欲しい。それが焦りとなり嫉妬に繋がっているのだと」
「妊娠すれば確実に元気な子が生まれる。その保証はどこにもないからな」
「朝日の言う通りよ。私はたまたま運が良かっただけ」
(しっかりと刻み込んでおかなければなりませんね……)

 次に双貴妃について紹介しなければね。と姜皇后はお茶を含みながら語る。

「彼女が政略結婚で嫁いできたのはご存じかしら?」
「ああ、その話は聞いた事がございます」
「あなたが薬師として後宮入りする前に、貴妃は亡くなって空位になったの。そこへ当てはめられたと言う具合ね。双貴妃は景季国の元王妃だから、貴妃はふさわしい位だと思う」

 景季国の名前を聞いた瞬間、美雪ははっと息を呑んだ。

(林才人の、出身国……!)

 脳裏に林才人の姿が思い起こされる。もしかして彼女と縁があるのではないか? そんな疑いが身体の内からあふれ出す。

「皇后様、景季国は、林才人の出身国でもありましたね」
「そうね……でも双貴妃は林才人との関係はないとみて良いと思うわ。ここから少し話は長くなるけれどよろしいかしら?」

 美雪は大きく首を縦に振る。横にいた朝日もお願いします。と低い声音で返事した。
 まず、林才人の姉が死ぬ要因となった、暁月国との戦争は終結した後の事。景季国では民衆や商人らが主となり反乱が生じた。
 この反乱は王家に近い者達にも影響をもたらした結果、兵士や大臣達も加勢した。

「兵士や大臣達は反乱軍を先導しつつ、密かに王家を乗っ取る機会を企てていた……陛下はそう仰っていたわ。反乱軍へ火をくべるような真似はせず、静かに機を見て寝首を掻くのを待っていた、と」

 そして反乱軍へと寝返った大臣と兵士により景季国の王は暗殺された。この王の娘・第二公主こそが双貴妃だったのである。

「相当怖かったでしょうね……だって寝静まった夜に突然の騒ぎだったそうだもの」
「それで……」
「」

 この反乱により双貴妃の母親である王后、双貴妃含めた公主といった王家の女性達は皆助命されたものの、男性達は残らず処刑されている。
 そして暗殺を主導した大臣が新たな王となり、景季国の王家は生まれ変わった。

「だけど反乱でなりかわった王を陛下はどのような人物か見定めていた。己の敵になるのか、はたまた味方になってくれるのか……そこで交渉を重ねた結果、景季国から妃をひとりだす。と言う話になったのね」

 そこで白羽の矢が当たったのが他でもない双貴妃だった。
 このような経緯で嫁いできた双貴妃だが、子供はいない。皇帝との夜伽もほぼない状態がゆえにお飾りの妃となっている。
 それゆえ嫉妬深く、妊娠した妃を次々に毒殺していったという噂が広まっているらしい。

「あくまで噂程度に過ぎないから、証拠もないわ。これは獨昭媛にも言えるけれど」
「なるほど……」
「獨昭媛との違いは景季国との兼ね合いもあるから、でしょうね。迂闊に噂が事実かどうか、調べる事は出来ない。陛下としてはなるべく戦いは起こしたくないようだから」
(林才人の出来事が、よほど……)

 彼女が起こした事件は、皇帝の心の内で傷となり今も癒えずに残り続けている。そう考えただけで美雪の胸がずきりと痛んだ。
 
「ちなみに双貴妃様は一体どのようなお姿をしていらっしゃるのですか?」
「それがねえ、妃達の集まりの場にも中々姿を現さないから…」

 言われてみれば秋大宴祭の時、貴妃が座る席は無かった。皇后の次は淑妃の妃が座っていたのを思い出す。

「最後に見かけたときには赤みがかった髪は美しく結われていて、二重のぱっちりとした黄色い瞳をもった可愛らしい見た目をしていた記憶はあるの」
(ん……? 黄色い瞳?)

 黄色い瞳と言う言葉と共に、脳の奥からある人物の姿が思い起こされる。

「そのお方、もしかしてその時……薄い黄色の衣をお召しになられてはいませんでした……?」
「言われてみればそうだったわね……美雪、どうしたの?」
(そうだ。やはり、あの時あったお妃は……!)
「実は……私、双貴妃様とお話した事がございます」

 身体の震えが止まらない。
 なぜなら美雪が知っている双貴妃は、嫉妬深いなんて印象はひとつもなかったのだから。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

【完結】奇跡のおくすり~追放された薬師、実は王家の隠し子でした~

いっぺいちゃん
ファンタジー
薬草と静かな生活をこよなく愛する少女、レイナ=リーフィア。 地味で目立たぬ薬師だった彼女は、ある日貴族の陰謀で“冤罪”を着せられ、王都の冒険者ギルドを追放されてしまう。 「――もう、草とだけ暮らせればいい」 絶望の果てにたどり着いた辺境の村で、レイナはひっそりと薬を作り始める。だが、彼女の薬はどんな難病さえ癒す“奇跡の薬”だった。 やがて重病の王子を治したことで、彼女の正体が王家の“隠し子”だと判明し、王都からの使者が訪れる―― 「あなたの薬に、国を救ってほしい」 導かれるように再び王都へと向かうレイナ。 医療改革を志し、“薬師局”を創設して仲間たちと共に奔走する日々が始まる。 薬草にしか心を開けなかった少女が、やがて王国の未来を変える―― これは、一人の“草オタク”薬師が紡ぐ、やさしくてまっすぐな奇跡の物語。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

あやかし家族 〜五人の兄と愛され末妹〜

南 鈴紀
キャラ文芸
 妖狩りにより両親を奪われ、囚われの身となった半妖の少女・鈴音は浄化の狐火を利用するだけの道具のように扱われていた。呪いにより成長は止まり、容姿も思考も幼いまま、感情が消え失せてもなおただ生かされるままに生きていた。  しかし妖保護部隊本部第一部隊との出会いにより、鈴音の止まっていた時間が動き出す。  掴みどころはないが頼れる氏神・雅仁、兄には厳しいが弟妹には優しい狼の妖・千里、人間嫌いだが人当たりの良い振りが得意な人間・遥杜、可愛いもの好きで元気いっぱいの猫又・鴇羽、大人しいが思いやりに溢れる猫又・瑠璃。  五人の兄と過ごす時間の中で、無いものだらけだった鈴音にもやがて大切なものが増えていく。  妖×家族の心温まる和風ファンタジー。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇 ☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

【完結】母になります。

たろ
恋愛
母親になった記憶はないのにわたしいつの間にか結婚して子供がいました。 この子、わたしの子供なの? 旦那様によく似ているし、もしかしたら、旦那様の隠し子なんじゃないのかしら? ふふっ、でも、可愛いわよね? わたしとお友達にならない? 事故で21歳から5年間の記憶を失くしたわたしは結婚したことも覚えていない。 ぶっきらぼうでムスッとした旦那様に愛情なんて湧かないわ! だけど何故かこの3歳の男の子はとても可愛いの。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

私が生きていたことは秘密にしてください

月山 歩
恋愛
メイベルは婚約者と妹によって、崖に突き落とされ、公爵家の領地に倒れていた。 見つけてくれた彼は一見優しそうだが、行方不明のまま隠れて生きて行こうとする私に驚くような提案をする。 「少年の世話係になってくれ。けれど人に話したら消す。」

処理中です...