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第52話 これは罰じゃ
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「えっ?! 薬師の美雪さん?!」
「あっ驚かせてしまってごめんなさい! 獨昭媛様の事、知りたいんです」
美雪よりも年下と思わしき彼女達は互いに顔を見合わせる。そして実は……。と小さな声で打ち明け始めた。
獨昭媛が体調を崩したのは今日の早朝。詳しい症状は知らないそうだ。
「申し訳ないです。それ以上はわからなくて……」
「いえ、教えてくださりありがとうございます」
獨昭媛がどんな状況にあるのか。そう考えただけで心臓の鼓動が速さを増していく。
(獨昭媛様の元へ急がなければ!)
「あっ美雪さん!」
右後ろへと振り向くと、朱美が小さな白い木箱を持っていた。
「これ、烈華殿へ持っていってくれる? 中には血流をよくする丸薬が3種類入ってるから!」
(烈華殿! 獨昭媛様がいらっしゃる場所!)
よくできた偶然に美雪は内心驚く。断る理由は全くない。
「わかりました! 行ってきます!」
「ごめん、急ぎみたいだからよろしくね……!」
木箱を持って彼女がいる烈華殿へ向けて、暁華殿を飛び出していこうとすると、部下達を引き連れて廊下を歩いていた朝日が目の前に現れる。
「美雪?!」
「朝日さん! れ、烈華殿へ……!」
「あっ、待ってくれ!」
服の裾を持ち上げた状態で石畳の地面を駆ける。烈華殿へ到着すると、扉の前で警備に当たる兵士達にすみません! と息を切らしながら声を掛けた。
「失礼ですが、どなたですか? ご用件を」
「暁華殿より参りました、皇后様付きの薬師である美雪と申します。こちら丸薬を届けに参りました。獨昭媛様のご容体はいかがでしょうか?!」
「獨昭媛様は寝込んでおられます。本来ならお会いできませんが、薬師であればお通ししましょう」
後ろから朝日が美雪! と叫ぶのが聞こえてきた。
「君、いきなり走り出すから……!」
「すみません! ご一緒に中へ……!」
「わかった……!」
「あなたは医師長の朝日様でございますか。どうぞ」
烈華殿に入り、正面右にある大きな花瓶の前で美雪は獨昭媛が体調を崩したと朝日に教えた。朝日は青い瞳を丸くさせて驚きを見せる。
「あれからさほど時間は経ってないぞ?!」
「そうですよね、何があったのか……」
目の前にある広い廊下を歩いて移動する。途中、通りがかった中年くらいの小柄な宮女へ獨昭媛がいる部屋の位置を尋ねつつ、獨昭媛がいる部屋の前へとたどり着いた。
部屋は以前話をした時とは違う場所。ひんやりとした空気が漂っており、ただならぬ気配がしてならない。
扉を警備する宮女と兵士へ用件を伝えると、静かに扉が開かれた。
「失礼いたします、獨昭媛様」
正面にある赤い架子台の上で、獨昭媛は白い寝間着を着て仰向けになっていた。前回あった時よりも更に痩せており、ぐったりとした様子だ。
「……美雪と、朝日か……」
「お薬をお届けに参りました。ご体調の程はいかがでございますか?」
はあ……。と大きなため息が部屋中に響き渡る。側で侍っていた宮女のひとりが美雪の持つ木箱を受け取ると、どこかへと姿を消した。
「吐き気がしてな……」
(吐き気。となればつわり……? もしかしてあの時既に……?)
「失礼いたしますが獨昭媛様。他にご症状はございますか?」
「朝日……。それと身体が重い位だな。以前、子を身ごもった時はここまでひどくはなかったのに」
――その前はつわりと言っても食べづわりの部類じゃった。
前回彼女と交わした会話が、頭の中で反響する。
(となれば、つわりではない?)
しかし美雪には子を孕んだ母親の苦しみは分からない。ここは医師である朝日の意見を聞いてみる事にした
「朝日さんは、どうお考えになりますか?」
「つわりは1番目の子と2番目の子で違う事もあるから、何とも言えないが……」
ここで架子台の奥で待機していた獨昭媛付きの医師からは、ご懐妊ではないと報告を受けた。初老の女性医師の言葉の端々に説得力が感じられる。
「教えてくれてありがとう。俺もそう考えていた所だ」
「私達の見立てとしては、病かとは。しかしながらきっかけとなるものが全く分からず」
「毒を盛られた可能性は?」
「それは……」
わかりやすい程に言葉に詰まっているのが見て取れる。
すると架子台からやはりそうなのじゃ……と獨昭媛のうめき声が聞こえた。
「これはわらわへの罰なのじゃ……」
「獨昭媛様、罰とは?」
「わらわはこれまで悪しき事にも手を出してきた。陛下の子を孕んだ者を殺そうとした事だって幾度かある……」
――わらわは確かに嫉妬深いと自分でも思う。子を孕んだ妃は殺してやりたい程に憎い……! ここだけの話、嫌がらせをした事もある。数え切れないほどに。
あの時、確かに獨昭媛は歯ぎしりをするほどに嫉妬をむき出しにしていた。それを思い出すと、もしかして……? と疑いの気持ちが顔を覗かせる。
(まさか。白雪さんを、殺したのは……)
「そうじゃ。これは罰なのじゃ。わらわへの罰なのじゃ……!」
声を震わせる獨昭媛の顔は恐怖に歪んでいた。大きな目には涙がたっぷりと浮かんでいる。
「獨昭媛様……」
あなたが白雪さんを殺したのですか? そう問いかけたいのに喉奥でとどまったまま言葉が出ない。
隣に立つ朝日は口を閉ざし、獨昭媛を注意深く観察している。
「わらわは殺されるのじゃ……これは祟りじゃ、怨念じゃ……!」
すっかり弱り切った獨昭媛の独り言が、部屋中にこだまする。美雪は彼女を黙って見つめるより他なかった。
「あっ驚かせてしまってごめんなさい! 獨昭媛様の事、知りたいんです」
美雪よりも年下と思わしき彼女達は互いに顔を見合わせる。そして実は……。と小さな声で打ち明け始めた。
獨昭媛が体調を崩したのは今日の早朝。詳しい症状は知らないそうだ。
「申し訳ないです。それ以上はわからなくて……」
「いえ、教えてくださりありがとうございます」
獨昭媛がどんな状況にあるのか。そう考えただけで心臓の鼓動が速さを増していく。
(獨昭媛様の元へ急がなければ!)
「あっ美雪さん!」
右後ろへと振り向くと、朱美が小さな白い木箱を持っていた。
「これ、烈華殿へ持っていってくれる? 中には血流をよくする丸薬が3種類入ってるから!」
(烈華殿! 獨昭媛様がいらっしゃる場所!)
よくできた偶然に美雪は内心驚く。断る理由は全くない。
「わかりました! 行ってきます!」
「ごめん、急ぎみたいだからよろしくね……!」
木箱を持って彼女がいる烈華殿へ向けて、暁華殿を飛び出していこうとすると、部下達を引き連れて廊下を歩いていた朝日が目の前に現れる。
「美雪?!」
「朝日さん! れ、烈華殿へ……!」
「あっ、待ってくれ!」
服の裾を持ち上げた状態で石畳の地面を駆ける。烈華殿へ到着すると、扉の前で警備に当たる兵士達にすみません! と息を切らしながら声を掛けた。
「失礼ですが、どなたですか? ご用件を」
「暁華殿より参りました、皇后様付きの薬師である美雪と申します。こちら丸薬を届けに参りました。獨昭媛様のご容体はいかがでしょうか?!」
「獨昭媛様は寝込んでおられます。本来ならお会いできませんが、薬師であればお通ししましょう」
後ろから朝日が美雪! と叫ぶのが聞こえてきた。
「君、いきなり走り出すから……!」
「すみません! ご一緒に中へ……!」
「わかった……!」
「あなたは医師長の朝日様でございますか。どうぞ」
烈華殿に入り、正面右にある大きな花瓶の前で美雪は獨昭媛が体調を崩したと朝日に教えた。朝日は青い瞳を丸くさせて驚きを見せる。
「あれからさほど時間は経ってないぞ?!」
「そうですよね、何があったのか……」
目の前にある広い廊下を歩いて移動する。途中、通りがかった中年くらいの小柄な宮女へ獨昭媛がいる部屋の位置を尋ねつつ、獨昭媛がいる部屋の前へとたどり着いた。
部屋は以前話をした時とは違う場所。ひんやりとした空気が漂っており、ただならぬ気配がしてならない。
扉を警備する宮女と兵士へ用件を伝えると、静かに扉が開かれた。
「失礼いたします、獨昭媛様」
正面にある赤い架子台の上で、獨昭媛は白い寝間着を着て仰向けになっていた。前回あった時よりも更に痩せており、ぐったりとした様子だ。
「……美雪と、朝日か……」
「お薬をお届けに参りました。ご体調の程はいかがでございますか?」
はあ……。と大きなため息が部屋中に響き渡る。側で侍っていた宮女のひとりが美雪の持つ木箱を受け取ると、どこかへと姿を消した。
「吐き気がしてな……」
(吐き気。となればつわり……? もしかしてあの時既に……?)
「失礼いたしますが獨昭媛様。他にご症状はございますか?」
「朝日……。それと身体が重い位だな。以前、子を身ごもった時はここまでひどくはなかったのに」
――その前はつわりと言っても食べづわりの部類じゃった。
前回彼女と交わした会話が、頭の中で反響する。
(となれば、つわりではない?)
しかし美雪には子を孕んだ母親の苦しみは分からない。ここは医師である朝日の意見を聞いてみる事にした
「朝日さんは、どうお考えになりますか?」
「つわりは1番目の子と2番目の子で違う事もあるから、何とも言えないが……」
ここで架子台の奥で待機していた獨昭媛付きの医師からは、ご懐妊ではないと報告を受けた。初老の女性医師の言葉の端々に説得力が感じられる。
「教えてくれてありがとう。俺もそう考えていた所だ」
「私達の見立てとしては、病かとは。しかしながらきっかけとなるものが全く分からず」
「毒を盛られた可能性は?」
「それは……」
わかりやすい程に言葉に詰まっているのが見て取れる。
すると架子台からやはりそうなのじゃ……と獨昭媛のうめき声が聞こえた。
「これはわらわへの罰なのじゃ……」
「獨昭媛様、罰とは?」
「わらわはこれまで悪しき事にも手を出してきた。陛下の子を孕んだ者を殺そうとした事だって幾度かある……」
――わらわは確かに嫉妬深いと自分でも思う。子を孕んだ妃は殺してやりたい程に憎い……! ここだけの話、嫌がらせをした事もある。数え切れないほどに。
あの時、確かに獨昭媛は歯ぎしりをするほどに嫉妬をむき出しにしていた。それを思い出すと、もしかして……? と疑いの気持ちが顔を覗かせる。
(まさか。白雪さんを、殺したのは……)
「そうじゃ。これは罰なのじゃ。わらわへの罰なのじゃ……!」
声を震わせる獨昭媛の顔は恐怖に歪んでいた。大きな目には涙がたっぷりと浮かんでいる。
「獨昭媛様……」
あなたが白雪さんを殺したのですか? そう問いかけたいのに喉奥でとどまったまま言葉が出ない。
隣に立つ朝日は口を閉ざし、獨昭媛を注意深く観察している。
「わらわは殺されるのじゃ……これは祟りじゃ、怨念じゃ……!」
すっかり弱り切った獨昭媛の独り言が、部屋中にこだまする。美雪は彼女を黙って見つめるより他なかった。
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