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第54話 わけのわからないまま
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児永はいつもと変わらず、紫色の瞳を細めて品のある笑みを浮かべている。そしてぱちぱちと手を叩き始めた。
「美雪さんなら必ず来てくださると思ったのですよ」
「あ、え、どういう事でしょうか? あの、さっきの若い男性の薬師の方は」
児永がなぜそう言っているのか全く理解できない。児永の左隣にいる宇鐘ははあっ。と大きなため息をついた。
「君、鈍感な割によくここで働けるよね」
「えっと、宇鐘さん? その、児永さんが仰るお話が理解できなくて」
「正直なのはいいと思うよ僕は。でもそのせいで記憶を一部失ったんだから、自業自得だよね」
「はい……?」
宇鐘がこちらへとゆっくり距離を詰めて来る。両手には白い布が握られていた。
捕まる。そう直感した美雪は踵を返すと詰所へと走り出す。が、宇鐘の方が反応が早かった。
「きゃあぅっ!」
宇鐘にそのまま押し倒され、白い布をかけられそうになる。白い布には布と同じような色合いをした粉が付着していた。
これは吸ってはいけないものだ――。美雪は白い布を両手で押し上げる。するとびりっと布は破れた。
「しつこいな!」
「あっ……ぐっ……!」
宇鐘に首を絞めつけられる。助けを求めるべく両手を掲げて声を出そうとしても声が出ない。ならばと首を絞めつけている宇鐘の手を爪でひっかく。
「ぐっ、そんな事をしても無駄だ! それ以上抵抗するなら姉と同じ所へ行ってもらうぞ……!」
「うぅ、ぐっ……!」
(姉と同じ所?! もしかして)
「宇鐘さん、手荒には済まさないでください。美雪さん、少々眠ってもらいますよ」
視界に飛び込んできた児永が白い小瓶を開封する。そして美雪の口元に無色透明の液体が注がれた。それを最後に美雪の意識はぱたりと閉じられる。
◇ ◇ ◇
瞼に明るい光が差し込んでいるのに気がついた美雪はゆっくりと目を開いた。乾燥した空気と冷ややかな風が頭に降りかかり、頬を含めて全身が冷たくて痛い。
「ん……」
視界に現れたのは灰色の世界だった。灰色の床と壁と天井。飾りなどは何にもなく、所々ひび割れているのが確認できるくらいだ。
そして前方には茶色の木製の扉がある。
「ここは……」
全く未知の空間に、美雪の胸の奥へ不安と驚きが到来する。ゆっくりと起き上がって周囲を確認すると、天井付近に格子状の窓があるのが見えた。
(ここは……もしかして半地下?)
後宮内にも半地下の空間や地下室は存在する。暁華殿でも地下室があり、そこは物置小屋として使用されているのだ。
そして半地下の場所として最も有名なのが、冷宮である。
(まさか。ここは……)
冷宮がどのような場所か、美雪はぼんやりとだが知っている。
一言で言えば、罪を犯した妃や寵愛を失った妃が入れられる、監獄の如き場所だ。一旦冷宮に入れば二度と外へは出られないとも聞いている。
――冷宮行きにならなかったから、まだ希望はあるかもしれない。
もしここが冷宮であれば、脱出は困難だ。
まさに絶体絶命の美雪である。
(外へ出るなら……あの扉を体当たりで強引に突破するか、それとも上から光が差し込んでいる格子窓から……)
試しに茶色い扉を両手で力いっぱい押してみる。鈍い金属音はするものの、鍵が締まっており開く気配はない。
次に強引に体当たりを敢行してみる。すると先ほど以上に金属音が激しくなった。
(! これは……!)
手ごたえを得た美雪は何度も扉を押したり体当たりを試みる。ここでじっとしてはいられない。必ず外へ出なければと決意を抱いた。
「美雪さんなら必ず来てくださると思ったのですよ」
「あ、え、どういう事でしょうか? あの、さっきの若い男性の薬師の方は」
児永がなぜそう言っているのか全く理解できない。児永の左隣にいる宇鐘ははあっ。と大きなため息をついた。
「君、鈍感な割によくここで働けるよね」
「えっと、宇鐘さん? その、児永さんが仰るお話が理解できなくて」
「正直なのはいいと思うよ僕は。でもそのせいで記憶を一部失ったんだから、自業自得だよね」
「はい……?」
宇鐘がこちらへとゆっくり距離を詰めて来る。両手には白い布が握られていた。
捕まる。そう直感した美雪は踵を返すと詰所へと走り出す。が、宇鐘の方が反応が早かった。
「きゃあぅっ!」
宇鐘にそのまま押し倒され、白い布をかけられそうになる。白い布には布と同じような色合いをした粉が付着していた。
これは吸ってはいけないものだ――。美雪は白い布を両手で押し上げる。するとびりっと布は破れた。
「しつこいな!」
「あっ……ぐっ……!」
宇鐘に首を絞めつけられる。助けを求めるべく両手を掲げて声を出そうとしても声が出ない。ならばと首を絞めつけている宇鐘の手を爪でひっかく。
「ぐっ、そんな事をしても無駄だ! それ以上抵抗するなら姉と同じ所へ行ってもらうぞ……!」
「うぅ、ぐっ……!」
(姉と同じ所?! もしかして)
「宇鐘さん、手荒には済まさないでください。美雪さん、少々眠ってもらいますよ」
視界に飛び込んできた児永が白い小瓶を開封する。そして美雪の口元に無色透明の液体が注がれた。それを最後に美雪の意識はぱたりと閉じられる。
◇ ◇ ◇
瞼に明るい光が差し込んでいるのに気がついた美雪はゆっくりと目を開いた。乾燥した空気と冷ややかな風が頭に降りかかり、頬を含めて全身が冷たくて痛い。
「ん……」
視界に現れたのは灰色の世界だった。灰色の床と壁と天井。飾りなどは何にもなく、所々ひび割れているのが確認できるくらいだ。
そして前方には茶色の木製の扉がある。
「ここは……」
全く未知の空間に、美雪の胸の奥へ不安と驚きが到来する。ゆっくりと起き上がって周囲を確認すると、天井付近に格子状の窓があるのが見えた。
(ここは……もしかして半地下?)
後宮内にも半地下の空間や地下室は存在する。暁華殿でも地下室があり、そこは物置小屋として使用されているのだ。
そして半地下の場所として最も有名なのが、冷宮である。
(まさか。ここは……)
冷宮がどのような場所か、美雪はぼんやりとだが知っている。
一言で言えば、罪を犯した妃や寵愛を失った妃が入れられる、監獄の如き場所だ。一旦冷宮に入れば二度と外へは出られないとも聞いている。
――冷宮行きにならなかったから、まだ希望はあるかもしれない。
もしここが冷宮であれば、脱出は困難だ。
まさに絶体絶命の美雪である。
(外へ出るなら……あの扉を体当たりで強引に突破するか、それとも上から光が差し込んでいる格子窓から……)
試しに茶色い扉を両手で力いっぱい押してみる。鈍い金属音はするものの、鍵が締まっており開く気配はない。
次に強引に体当たりを敢行してみる。すると先ほど以上に金属音が激しくなった。
(! これは……!)
手ごたえを得た美雪は何度も扉を押したり体当たりを試みる。ここでじっとしてはいられない。必ず外へ出なければと決意を抱いた。
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