後宮浄魔伝~視える皇帝と浄魔の妃~

二位関りをん

文字の大きさ
29 / 79

第29話 龍羽池の人魚②

しおりを挟む
「えっしゃ、しゃべってる?!」

 桃玉の目には人魚は見えない。しかし人魚が発する声は聞こえていると言う何とも不思議な状態だった。また人魚の声は池の岸で待機している龍環付きの宦官にも聞こえているようである。
 人魚は龍環に下半身……人間で言う所の太ももに当たる箇所を刺されてはいるが、なおも健在である。
 人魚の外見は何も服を身に着けておらず、上半身はぱっと見人間の女性と全く変わらない。肉付きも良く胸もまあまあ大きい。だが、顔つきはとびぬけて美人という訳でもなく、言ってしまえば地味な部類ではあるか。
 そして魚のような下半身は、あの銀色の鱗で覆われていた。

「っこれは……!」
「龍環様?」
「あやかしの中でも、人語を話すものは強敵であると、書物で読んだ覚えがある」
「うそっ……!」
「桃玉、心してかかれ!」
「ふん、そんな娘に……何が出来ると言うのじゃ!」

 人魚は水面を右手で叩くと、その水が人魚を護る盾となった。

「ぐっ!」

 人魚が身体をくねらし、その力で人魚を刺していた龍環の槍が引き抜かれる。龍環は体勢を崩すも何とか踏ん張った。
 その間に桃玉は、人魚へ自身の両手のひらを向けて浄化の力を放出する。が、青白い光の球である浄化の光は人魚の身体に近づいた瞬間、陶器が床に落ちて割れるかのようにぱりん! と割れていった。

「なんと! 浄化の力を使えるのは仙女だけだと聞いてはいたが……! しかしどうあがこうとも無駄じゃ。この身体は人間のもの。浄化の力は使えんぞ?」
「なっ……! でも、身体は見えないのに!」
「桃玉、身体が見えないのはあの人魚が何か術をかけているからだろう……! この槍を使え! 俺は剣を使う!」

 龍環は持っていた槍を桃玉に軽く投げた。彼女がそれを受け取るのを見計らってから龍環は剣を鞘から抜く。
 水の中に潜り込んだ人魚だが、水位が下がっているせいで背中など身体の一部は丸見えになってしまっていた。龍環と桃玉はすかさず何度も剣や槍で突く攻撃で人魚を攻める。

「桃玉、俺が剣で突いた箇所を突くんだ!」
「わかりました!」
 
 だが、人魚も龍環と桃玉の攻撃をしぶとく回避する。

「ただでは死なんぞ……!」
(この身体を攻撃して、使い物にならなくなれば……どうなる?)
「龍環様。どうすれば浄化の力を……!」
「! 分かった、桃玉……! 人魚よ。その身体の持ち主は一体誰だ?」

 龍環からの問いに対し人魚はくだらぬ。と吐き捨てる。

「ただでは死なんとさっき言っていただろう? その身体の持ち主は誰なのだ」
「ふん、そのような事を言ってもオマエ達にはなんら関係が無いだろう……!」

 人魚はばっと桃玉の首めがけて水中から飛び上がった。そこを龍環が桃玉の前に割って入り、剣で薙ぎ払うようにして斬った。龍環の攻撃は人魚の首に思いっきり命中する。

「ぐっ……!」

 人魚はそのまま水柱をあげながら崩れ落ちた。桃玉はすかさず両手を伸ばし、力を放出させる。
 青白い球が人魚の身体にまとわりつくと、人魚の背中から何やら幽霊のようなものが浮かび上がって来た。勿論この幽霊のようなものが見えているのは龍環だけである。

「おのれ……我が真の姿をさらす事になるとは……」
「やはり憑依していたのか。桃玉、力を抜くな!」
「はい! ……はああああっ!!」

 桃玉はありったけの力をこめ、浄化の力を放つ。
 そして己の身体に戻ろうとする幽霊のようなもの……人魚の真の姿は、幼い少女の人魚のような見た目をしていた。下半身は同じ銀色の鱗で覆われているが、髪は銀色で耳は三角にとんがったような形になっている。そして口元には牙が上下合わせて4本見えていた。

「ああ……おのれ、この肉体の無念を晴らそうとしていた所に……」

 浄化され、消えていく人魚の真の姿は、悔しそうにつぶやく。先ほどまで憑依していた身体の下半身は魚のようなものから普通の人間の女性の下半身へと変化していた。
 人魚のつぶやきを聞いた桃玉は肩で息をしながらなぜこういう事をしたの? と質問した。

「この肉体は……元は人間の妃の遺体だったのじゃ……」
「えっ……妃のものだったの?」
「ああ、だが彼女は不細工とバカにされた。そしてこの龍羽池に人知れず身を投げた。その一部始終を見ていた私はその遺体を奪い、死んだ彼女の為に復讐をしていたのじゃ……」
「……人魚よ。それでは彼女は幸せにはならないと思う」
「なんだと? 皇帝よ」
「死ぬところまでは望んでいなかったかもしれないじゃないか。今となっては知る由もないが」

 龍環の言葉を受けた人魚は、さっきまで憑依していた妃の遺体を見る。そしてああ……。と顔を覆って泣きながら青白い光の球と共に消滅していった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~

二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。 彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。 毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。 はたして、己は何者なのか――。 これは記憶の断片と毒をめぐる物語。 ※年齢制限は保険です ※数日くらいで完結予定

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

後宮妃よ、紅を引け。~寵愛ではなく商才で成り上がる中華ビジネス録~

希羽
ファンタジー
貧しい地方役人の娘、李雪蘭(リ・セツラン)には秘密があった。それは、現代日本の化粧品メーカーに勤めていた研究員としての前世の記憶。 ​彼女は、皇帝の寵愛を勝ち取るためではなく、その類稀なる知識を武器に、後宮という巨大な市場(マーケット)で商売を興すという野望を抱いて後宮入りする。 ​劣悪な化粧品に悩む妃たちの姿を目の当たりにした雪蘭は、前世の化学知識を駆使して、肌に優しく画期的な化粧品『玉肌香(ぎょくきこう)』を開発。その品質は瞬く間に後宮の美の基準を塗り替え、彼女は忘れられた妃や豪商の娘といった、頼れる仲間たちを得ていく。 ​しかし、その成功は旧来の利権を握る者たちとの激しい対立を生む。知略と心理戦、そして科学の力で次々と危機を乗り越える雪蘭の存在は、やがて若き皇帝・叡明(エイメイ)の目に留まる。齢二十五にして帝国を統べる聡明な彼は、雪蘭の中に単なる妃ではない特別な何かを見出し、その類稀なる才覚を認めていく。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

処理中です...