今更愛していると言われても困ります。

二位関りをん

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第19話 賑やかになった診療所~バティスとシュタイナーのレスリング対決~

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 バティス兄様はジュリエッタを馬鹿にするように嗤う。

「アイツはソアリスと結婚したいって思ってるけど、ソアリスにはそのつもりはない。アイツがソアリスに選ばれたのも僕達の妹だからなんだろうな。ソアリスは気持ち悪いしジュリエッタは馬鹿なやつだ」

 ジュリエッタがソアリスと結婚したい、結婚出来ると考えているならそれは馬鹿すぎるのが改めてよく理解出来たしソアリス様とは早く離婚を成立させたい。

「私、屋敷を出る前にソアリス様宛に離婚届置いていったのよね」
「まだ役所からは離婚したという事にはなってないからアイツが持ってるか捨ててるか、だろうな」
「でしょうね……ねえ、バティス兄様」
「なんだ?」
「ソアリス様に離婚したいって言ったら、受け入れてくれると思う?」
「絶対無理だな」

 即答だった。あまりにもばっさりと言われたので私の脳内は一瞬思考を停止してしまった。

「あんなに人の話聞かないやつ初めてだよ。クソ親父もシュネルが修道院行きたいって言った時は聞いてくれたんだからさ。ここまで来たら国王権限による命令じゃなきゃ無理だろうな。いや、それでも嫌がりそうだけど」
「ええ……嘘でしょ」
「だから気持ち悪いんだよ」

 バティス兄様は肩をすくめながらいかにもソアリス様が気持ち悪いという風にアピールした。

「シュネルはどうすんだ? 国王陛下にお願いしてもらう?」
「ええ、確かに離婚はしたい気持ちはあるけど、でもそこまで大事にしたら国王陛下に対して迷惑なんじゃないかって……」
「まあ、離婚するのに国王陛下の承認がいるようになったと言う経緯だなんて、ここ10年は無かったはずだからなあ。珍しい事だよ」
「でしょ? だから気が進まないのよ。でも離婚したいって気持ちはある。なんだかこんがらがってきそうになるかもしれない……」
「気持ちは分かるさ。国王陛下に交渉するってなったら誰だって気が引けるさ。でもちゃんと交渉してバックに付いてくれれば強力な存在にはなる」
「そうよね。それはわかるわ」
「まあ、シュネルが決める問題だから僕はこれ以上口は出さないよ。アイツらの近況報告だけにとどめておく」
「ありがとうバティス兄様」
「いやいや。これからはデリアの町でもお世話になるんだから。ギルテット王子に仕えるのは僕にとってもこの上なく嬉しい事だからね」

 ふたりっきりの会話が終わり、ギルテット様とシュタイナーとも合流し少し雑談した後、私は宿泊する部屋へと戻りベッドでぐっすり眠ったのだった。
 そして出立の時が訪れた。ギルテット様のご兄弟にもあいさつしたかったが彼らは公務で忙しかったので会う事はなかった。それに兄のうち2人は今は他国に出ているそうだ。
 国王陛下と正妻である王妃様から見送られて私達はバティス兄様と共に馬車に乗り込み、デリアの町を目指す。

「いやあ、バティス様。まさかデリアの町でもご一緒するとはねえ」

 シュタイナーがあご下に手を乗せながら自慢げにかつしみじみとそう語っている。どうやらバティス兄様とは面識があるらしい。そういやバティス兄様は王立の全寮制の学校に通っていてそこにはギルテット様もいたはずだが。

「シュタイナーさんもお元気そうで良かったよ」
「ああ、思い出したんですけど町についたらあれ、やります?」
「ああ、いいですよ! ギルテット王子もあれ、やります?」
「俺は遠慮しておきます……」

 ギルテット様が苦笑いを浮かべている。それにしてもあれとはなんだろうか? 気になったのでバティス兄様に聞いてみる。

「あれとは何?」
「レスリングさ。王立学校で騎士団の騎士からこれでもかというくらい鍛えられたからね。年1で学校主催の大会もあったくらいだよ」

 なるほど、レスリングか。レスリングと言えば昔から伝わる格闘技である。貴族や騎士団、兵士は大体このレスリングを習うとか。さらにこのレスリングはアルテマ王国で独自の進化を遂げていると聞いている。確かに剣術や馬術などの他にも体術を身に着けておくのは理解できる。

「実際どっちが強いんですか?」

 と、シュタイナーとバティス兄様に質問してみた。

「俺っす!」
「僕だね!」

 ぴったりと誤差なく出た言葉に若干笑ってしまいそうになるのをこらえて、デリアの町に付いたらどっちが強いかお見せくださいね。と声をかけたのだった。
 そして何度か休みを挟み、デリアの町に到着した。なお、今回はエリンの家及びその集落では休憩を取る事はなかったので彼女とは会わなかった。元気に暮らしていると良いが。
 デリアの町に到着し、馬車から降りると私達を待っていた町の人々が次々に押し寄せてきた。

「おかえりなさい!」
「王子おかえりなさい! お待ちしてました!!」

 熱烈な歓迎の中、荷物を持って家の中に入ったシュタイナーとバティス兄様は早速レスリングを始めようとうずうずしているのが見える。
 せっかくだ。やるなら町の人々が大勢やってきているこのタイミングだろう。だが場所はちょっと移動してもらう必要がある。

「シュタイナーさん、バティス兄様! ちょっと移動しましょう。町の真ん中にある広場が丁度よいかと」
「おっ確かにシュ、シェリーさんの言う通りだな。シュタイナーさんはどうする?」
「俺も賛成で!」
「本当に君達レスリングやっちゃうんですか? 怪我だけはしないでくださいね?」
「王子、勿論すよ」
「ギルテット王子、そこはご心配なく」
「まあ、2人とも威勢が良いようで。では審判は俺がするとしますか」

 家に到着し私と荷物を置いていたギルテット様ははあっと息を吐きながら、腕まくりをしてシュタイナーとバティス兄様へ広場へ行くようにと告げる。

「シェリーさんも行きますか?」
「ええ、せひ。シュタイナーさんと兄のどっちが強いのか見たいので」
「でしょうね。そう言うと思ってました。戸締りしっかりしてから行きましょう」
「はいっ」

 戸締りをきちんとしてから家を出て、広場へと向かう。広場に到着した2人はもうすでに腰を落として低い姿勢を保っていた。

「2人とも、準備はいいですか?」
「王子、こっちは大丈夫っす!」
「ギルテット王子、こちらも大丈夫です!」
「では……はじめ!」

 両者は低い姿勢のまま互いにタックルを仕掛けていき、がっちりとズボンのベルト付近に手をやり組みあって動かない。観客と化した人々はみな静かに戦況を見守っている。
 だが両者の体格に関してはシュタイナーの方が有利だ。結局シュタイナーはそのままバティス兄様を上手で投げて勝利したのだった。

「勝者、シュタイナー!」

 ギルテット様の声が高らかに響き渡る。そして町の人々がわっと歓声を挙げた。シュタイナーは両手を天に掲げてよっしゃあ!!! と雄たけびをあげるが敗れたバティス兄様は四つん這いに転がりはあはあと息を切らしていた。
 が、がばっと起き上がりシュタイナーの元へと勢いよく飛び出していく。

「シュタイナーさん! もう1回お願い!」
「おっいいっすよ! 王子の護衛を任されたならその意気っす!!」
「今度は勝つ!」
「やれやれ……シュタイナーもバティスも怪我だけはしないでくださいよーー」

 それから日が暮れるまでこの2人はずっとレスリングに興じていたのだった。2人ともにこんなに体力があるとは驚きである。
 でもバティス兄様が新たに加わった事で、これからはもっとにぎやかになりそうだ。



あとがき
このアルテマ王国のレスリングはこの世界で言うところのレスリング+大相撲を足して2で割ったような感じに進化を遂げています。アルテマ王国が島国ならではの側面もあるのかもしれないです。
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