今更愛していると言われても困ります。

二位関りをん

文字の大きさ
24 / 53

第23話 サナトリウムへ

しおりを挟む
「俺がサナトリウムへ?」

 この日の朝。王都から侍従が1人馬に乗ってやってきていきなりギルテット様はいないかと言い出して彼を呼ぶとそう言ったのだ。

「サナトリウムへ診察へ行く医者数名が急病になってしまい。ここから近いのがギルテット様しかいないもので」
「……それ急病じゃないでしょ。さぼりでしょ」
「多分そうかと思われます」

 話をまとめると、現在父親がいるサナトリウムは月に1度外部から医者を招いての健康診断が行われる。このサナトリウムは精神を病んだ者達が入るので健康状態はそこそこ良かったりするのだが……いかんせん相手は精神を病んだ者達である。前から医者が行きたがらないというのはよく聞いていたが……。まさかギルテット様にその番が回って来る事になるとは。

「仕方ありません。今回だけと医者達には伝えてください」
「かしこまりました。では今から移動をお願いします」

 侍従はギルテット様に頭を下げ、一足先にサナトリウムへと向かうと言い姿を消した。
 父親がいるサナトリウムに行かないと……行けないのだろうか。

「えっギルテット様いくんですか?」
「シェリーさん……他に行くと言ってくれる医者もそうそういないでしょうから。仕方ないですけど行きます。すみませんが皆さん一緒に同行お願いしますか? ああ、あの方にお会いしたくない気持ちはわかりますしそのようにしますから」

 ギルテット様がそう計らってくれるなら行くか。

「わかりました。参ります」
「王子がそう頼むなら仕方ないっすね。俺もサナトリウムがどのような場所かは気になってましたんで」
「……シェリー。いいのか?」
「バティス兄様。会わなければ大丈夫じゃない?」
「そうだよね。顔見せなければいっか。それか遠い所から様子を覗くのだけにとどめよう」

 遠くから見るだけならあの父親も気が付かないだろう。それに拘束が続いているなら迂闊には手を出せないはず。

(実際に現場見ないと判断できない事もあるしね)

 早速支度をしてサナトリウムへと向かう準備をする。診療所は薬屋の老婆が医術に詳しいという事もあり簡単な分野なら診ると言ってくれたので彼女にお願いする事になった。ちなみになんでもギルテット様が診療所に来る前は彼女も診察を行っていたそうだ。
 老婆が私達を診療所にて見送ってくれた。

「留守は任せなさい。気を付けていくんじゃぞ」
「はい。ありがとうございます」
「王子、ご無事で」

 彼女に見送られながら、馬に乗ってサナトリウムへの移動が始まった。
 今回はある程度急ぐので馬車ではなく騎乗での移動になる。乗馬なんていつぶりかしら。でも何とか様にはなっていると思う。
 ここは島国とはいえそれなりに面積があるので草原だってある。草原には所々廃墟や遺構らしきものがある。これはギルテット様曰く500年くらい前の遺跡だと聞いた。
 草原で一旦休憩し、馬にその辺に生えている草を食べさせながらこちらもパンを食べたり水を飲んだりして休憩してからまた移動に戻る。それを何回か繰り返した後、北部にあるサナトリウムへと到着した。
 島の一番北の端にあるという事で草原と海と崖のコントラストは美しく見える。だが風が強く寒さを感じるので私はバティス兄様からストールを1枚貰ってそれを羽織った。

「冷えますね……皆さん大丈夫ですか?」

 ギルテット様も寒さに気が付き、言葉をかけてくれた。ストールを羽織れば寒さはだいぶ軽減出来ているようには感じる。
 サナトリウムは正面から見るとさながら白亜の洋館といった具合か。外観はおそらく4階建てで貴族の屋敷とそこまで遜色なく見えるような。ここだけの話もっと汚くぼろぼろなのを想像していたので少し驚く。
 正面の門には門番の兵士が4.5人くらいいた。そのうちの1人にギルテット様が話しかけるとサナトリウムの中まで案内してくれるそうで、私は彼の元へとゆっくり歩を進めながらついていった。

「どうぞ、中へとお入りください」

 兵士に促されいよいよサナトリウムの建物の中へと入る。内装も普通の貴族の屋敷とそこまで変わらない。だがどうやら正門付近のこの区画は主に使用人や兵士の為の部屋がある事が分かる。突き当りに階段があるのでどうやらそこを登ると患者がいる区画になるんだろう。

「あっ王子。お越しになられたんですね」

 左側のドアからひょっこりと看護婦ではなく使用人の女性が顔を出した。その瞬間2階から言葉にならない怒鳴り声が鈍く聞こえて来る。

「はい。よろしくお願いします」
「では早速診察始めてください」
「そのようにするつもりです」
「患者は2階から4階にいます。ベッドは満床ではなく半分くらいは空いている状況ですね」
「そうですか。教えてくださりありがとうございます。ちなみにグレゴリアス子爵はどの部屋に?」
「2階です。今も拘束しつつひどいときは眠り薬で鎮静させている状況です。気を付けてください」
「了解しました」

 という事で早速2階から……それもまさかの父親から診察が始まった。このサナトリウムはどうやら建物内の清掃やベッドメイキングなどを担当している使用人がいるらしい。私とバティス兄様は階段を登った所で待っているようにとギルテット様から指示を受ける。
 確かにその方が良いだろう。だが今の父親がどうなっているか。この目で見てみたい気持ちもあったので遠くからバティス兄様と一緒に見てみる事にした。

「こっそりだぞ」
「わかってるって」

 ドアの隙間からこっそりと部屋の中を見た。
 やはり父親はベッドの上で黒いベルトにより拘束されていた。それに顔の表情も正気……もっと言うと生きる気力的なモノを失っているかのようにも見える。

「グレゴリアス様。ギルテット王子にございますよ」

 と、使用人が声をかけた。

「そうか……王子が、か……」
「こんにちは。ギルテットと申します。これから診察させてくださいね」
「……バティスが世話になったな」

 うわごとのようだがはっきりと、そう耳に入って来る。バティス兄様は口をあんぐりと開けていた。まさかここで彼の名前が出るとは私も思ってなかったし彼も思ってなかったのだろう。
 ギルテット様は父親の肺や心臓の音を聞いたりして診察して回った。

「異常はありませんよ」
「そうか、よかった……」
「……ご家族さんに何かお伝えしたい事はありませんか?」

 ギルテット様の質問が、部屋から廊下まで冷たく響き渡って来る。

「ジュリエッタが心配だ……」
「バティスは?」
「あいつも……いや、あいつは元気だろう。そうだろう?」
「ええ、バティスは元気ですよ。俺とよく話しますからね。……シュネルは?」
「……すまなかった」

 それはぽつりと水滴が滴り落ちるようにこぼれ出た言葉だった。その言葉を聞いた瞬間、私の腹の底からこれまで体験した事無いような怒りがこみあげて来る。今更謝罪しても遅い。

「……このクソ親父!!!」

 私は制止しようとするバティス兄様を押しのけて部屋の扉を開けて、ベッドの上で拘束している父親へ向けてそう怒鳴りつけた。

「あんた今更謝ったって遅いのよ!! アンタのせいで私どれだけ辛い思いしたか分かってる?! バティス兄様へもひどい事してジュリエッタだけは可愛がって!! こうなったのは全部全部アンタのせいよ!!! アンタが私達へひどい事してきたからよ!!」

 私が怒鳴っている間、父親も使用人もギルテット様も皆目を開けていた。だが、私を止めようとする者はいない。
 出来るならこのクソ父親を殴りつけたい所だけど、それは理性が寸での所で止めてくれた。

「……シュネル。お前をなぜ、躾けなければいけないと思い込んだのだろうな……やっぱり俺のせいなのか? 俺が全部悪いのか?」
「そんなの知らないわよ。あんたが勝手にそう思い込んだだけでしょ。ソアリス様もジュリエッタも悪いけど悪いのは全部アンタよ」
「……そうだな。すまなかった……どうして……」

 無表情なままな父親のすまなかった。という空虚な一言とどうして。という空っぽな一言が、部屋中に冷たく響き渡った。



あとがき
父親のざまぁはまだ続きます。
サナトリウムの使用人は現代で言う看護助手的なイメージです
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

さよならをあなたに

キムラましゅろう
恋愛
桔梗の君という源氏名を持つ遊君(高級娼婦)であった菫。 たった一人、州主の若君に執着され独占され続けて来たが、 その若君がとうとう正妻を迎える事になった。 と同時に菫は身請けをされるも、彼の幸せを願い自ら姿を消す覚悟を決める。 愛していても、愛しているからこそ、結ばれる事が出来ない運命もある……。 元婚約者としての矜持を胸に抱き、彼の人生から消え、そして自らの人生をやり直す。そんな菫の物語。 ※直接的な性描写はないですが行為を匂わす表現が作中にあります。 苦手な方はご自衛ください。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】旦那様は、妻の私よりも平民の愛人を大事にしたいようです

よどら文鳥
恋愛
 貴族のことを全く理解していない旦那様は、愛人を紹介してきました。  どうやら愛人を第二夫人に招き入れたいそうです。  ですが、この国では一夫多妻制があるとはいえ、それは十分に養っていける環境下にある上、貴族同士でしか認められません。  旦那様は貴族とはいえ現状無職ですし、愛人は平民のようです。  現状を整理すると、旦那様と愛人は不倫行為をしているというわけです。  貴族の人間が不倫行為などすれば、この国での処罰は極刑の可能性もあります。  それすら理解せずに堂々と……。  仕方がありません。  旦那様の気持ちはすでに愛人の方に夢中ですし、その願い叶えられるように私も協力致しましょう。  ただし、平和的に叶えられるかは別です。  政略結婚なので、周りのことも考えると離婚は簡単にできません。ならばこれくらいの抵抗は……させていただきますよ?  ですが、周囲からの協力がありまして、離婚に持っていくこともできそうですね。  折角ですので離婚する前に、愛人と旦那様が私たちの作戦に追い詰められているところもじっくりとこの目で見ておこうかと思います。

【完結】新婚生活初日から、旦那の幼馴染も同居するってどういうことですか?

よどら文鳥
恋愛
 デザイナーのシェリル=アルブライデと、婚約相手のガルカ=デーギスの結婚式が無事に終わった。  予め購入していた新居に向かうと、そこにはガルカの幼馴染レムが待っていた。 「シェリル、レムと仲良くしてやってくれ。今日からこの家に一緒に住むんだから」 「え!? どういうことです!? 使用人としてレムさんを雇うということですか?」  シェリルは何も事情を聞かされていなかった。 「いや、特にそう堅苦しく縛らなくても良いだろう。自主的な行動ができるし俺の幼馴染だし」  どちらにしても、新居に使用人を雇う予定でいた。シェリルは旦那の知り合いなら仕方ないかと諦めるしかなかった。 「……わかりました。よろしくお願いしますね、レムさん」 「はーい」  同居生活が始まって割とすぐに、ガルカとレムの関係はただの幼馴染というわけではないことに気がつく。  シェリルは離婚も視野に入れたいが、できない理由があった。  だが、周りの協力があって状況が大きく変わっていくのだった。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

夫に愛想が尽きたので離婚します

しゃーりん
恋愛
次期侯爵のエステルは、3年前に結婚した夫マークとの離婚を決意した。 マークは優しいがお人好しで、度々エステルを困らせたが我慢の限界となった。 このままマークがそばに居れば侯爵家が馬鹿にされる。 夫を捨ててスッキリしたお話です。

あなたの仰ってる事は全くわかりません

しげむろ ゆうき
恋愛
 ある日、婚約者と友人が抱擁してキスをしていた。  しかも、私の父親の仕事場から見えるところでだ。  だから、あっという間に婚約解消になったが、婚約者はなぜか私がまだ婚約者を好きだと思い込んでいるらしく迫ってくる……。 全三話

【完結】処刑後転生した悪女は、狼男と山奥でスローライフを満喫するようです。〜皇帝陛下、今更愛に気づいてももう遅い〜

二位関りをん
恋愛
ナターシャは皇太子の妃だったが、数々の悪逆な行為が皇帝と皇太子にバレて火あぶりの刑となった。 処刑後、農民の娘に転生した彼女は山の中をさまよっていると、狼男のリークと出会う。 口数は少ないが親切なリークとのほのぼのスローライフを満喫するナターシャだったが、ナターシャへかつての皇太子で今は皇帝に即位したキムの魔の手が迫り来る… ※表紙はaiartで生成したものを使用しています。

処理中です...