あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第8話 ブリの煮付け①

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 初冬からさらに冬が進んだ。あれから、熱は引いて喘息の発作も落ち着いた。
 だが、季節柄まだ油断は出来ない。

「今日も1日頑張るとしますか」
 
 島暮らしではあるが、新聞等で陸軍海軍の戦果にまつわる情報はこちらにも定期的に届いている。

(本当に順調に行ってるのだろうか)

 という疑問もうっすら抱いてはいるが、それは心の中に留めて置く。下手に話せば憲兵沙汰になっても困るし

(この島にも憲兵いそうだし)

 この月館島にはそろそろ、軍の基地が出来るという噂がある。どうやら本土決戦も視野に入れての基地だそうだ。
 島民の間では

「新型兵器の開発をこの島でやるらしい」
「全国から若い男達が集められて、兵器開発を行うらしい」

 というような、真偽不明の噂が飛び交っている。

(どうなるんだろう)

 私はもやもやした何かを抱えながら、桟橋を歩く。遠くには例の二等辺三角形をした黒い背びれ……光さんがいる。

「光さーーん」

 光さんがこちらへとやって来た。どうやら自前の網を咥えた光さんともう1頭シャチがいる。そのシャチは光さんと違って鎌みたいな形をした背びれだ。

「おう、千恵子。あれから体調はどうなんだ? 沼霧から話は聞いたけど」
「おかげさまでよくなったよ」
「良かった良かった。しっかり食って用心しとけよ」
「ありがとう。ところでその子は?」
「ああ、俺の甥っ子だ。遊びに来たのよ。こいつの親で俺の姉ちゃんも近くにいる」

 聞けばシャチは最初は皆鎌形の背びれだそうで、オスだけ成長するに従い鎌形から二等辺三角形になるそうだ。メスは変わらないらしい。

「ほら、挨拶しな」
「ぴーー……」

 この子は喋られないらしく、ぴーーという音しか私には聞こえて来なかった。

「お父さんは?」
「そんなもんいねえよ。俺らにとっての親はあんたらにとっての母親だけだからな」
「でも、父親がいないと生まれないんじゃない?」
「それはそうだな。まあ、俺の子もどっかの海にいるんじゃねえのかなあ」

 シャチの世界は人間とはまた違うらしい。

「ああ、そうだ。良いもんやる」

 光さんが網を投げた。その中にはきらりと光る大きな魚がいる。

「何これ……いや、重っ」
「ブリだよ。寒ブリってやつだっけか。今が旬なんだろ?取れたばっかだから刺し身でもいけるんじゃねえの?」

 ブリは身が乗っていて、立派な見た目をしている。

(刺し身もいいけど……煮付けにもしてみようか……)
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