あやかしとシャチとお嬢様の美味しいご飯日和

二位関りをん

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第64話 正月

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「あけましておめでとうございます」

 朝7時。篝先生が1人で部屋にいる私へ挨拶に訪れた。

「あけましておめでとうございます。篝先生」
「今年もよろしくお願いしますね、千恵子さん」
「はい」

 それにしても、篝先生は姿勢が良い。背中はいつもピシッと真っ直ぐに向いている。

「ではお早いですが診察していきます。朝食は診察後にご用意させて頂きます」
「わかりました先生。お願いします」

 篝先生は手で、首に下げた聴診器の丸い部分を温めてから私の服越しに胸の音を聞いていく。

「息を吸って……吐いて。止めて……また大きく深呼吸してみて……」
「すっ……はあっ……」
「じゃあ、背中当てます。息吐いて……吸って……」
「はあっ……すうっ」
「はい大丈夫ですよ。胸の音は正常です。もうじき退院でよろしいでしょう」

 篝先生から退院出来ると聞き、私は思わず嬉しくなってよしっ!と拳を握りしめた。

「薬が効いているようで良かったです」
「先生。あの、丸薬ですよね?」
「はい。あれ実は、あやかしと人間双方使える薬なんです」

 それは初耳だった。

「丸薬には妖力も少しばかり入っているので、それが炎症を抑えるのに効果があるんです。ばっちり効いたようで良かった」

 やはり沼霧さんが海風に渡した、あの丸薬と同じ種類だったようだ。

「では、朝食をご用意いたしますね。お腹空いたでしょう」
「はい、空きました!」
「今日はお正月ですからね、豪華ですよ」

 篝先生が直々に持ってきた朝食は、お雑煮とおせちの詰め合わせだった。温かいお茶もある。

「わあ……」
(病院でおせちが食べられるとは思わなかったな)

 お雑煮はすまし汁で、中には丸く切った大根とニンジンに長方形の焼いた餅が入っている。おせちは各煮しめと伊達巻が漆塗りの重箱に詰められている。

「それでは、ごゆっくりどうぞ。お餅はよく噛んでちょびちょび食べるのをおすすめします。喉に詰まらせないよう気を付けて」

 篝先生はそう告げると、病室内にある椅子に座る。

「食べ終わるまで、ここで待ちましょうかね」
「いいんですか?」
「正月なので診察も無いですし。1人で餅を詰まらせてしまったら大変ですしね」

 確かに篝先生の言う通りではある。ちなみに私は幼少期に一度餅を詰まらせた事がある。その場で対処し、吐き出せたので事なきを得たが、今振り返っても危ないと感じる思い出だ。

「では、頂きます」
「どうぞ」
「篝先生はもう食べたんですか?」
「一足お先に頂きました。とても美味しかったですよ」

 先生はもう食べているのか。では私も頂かなくては。
 最初にお雑煮のだしを飲む。しょうゆに、だしはかつおぶしと昆布だろうか?しっかり効いていて美味しい。
 お餅はゆっくりよく噛んで頂く。顎が疲れるくらいに弾力がある。

(おせちはどうかな)

 煮しめも味がしっかり効いているのと、柔らかくて食べやすい。伊達巻はとにかく甘い。まるで甘味を食べているようだ。

「ごちそうさまでした」

 朝からこれだけ食べると、お昼は大丈夫だろうか?と気になるくらいには量もあり、満足な正月料理だった。

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