19 / 41
第18話 兄とのやり取り
しおりを挟む
ちりちりと胸の奥が痛い。その痛みへ焦りや恐怖などがぞろぞろと集まっているような気さえしてしまう。
痛みを隠し切れず、ぎゅっと拳を心臓の上に当てた。しかし痛みは引かず、むしろ増していく。
「よくわからないな。こんなにコスメやらサジーやら送り付けて何がしたいんだ?」
「え? 先輩……?」
予想だにしていなかった言葉に、思わず目を見開いた。
「どうした咲良。何か心配だったか?」
「あっ……まあ、そうです。心配でした。もしかして、知り合いとかじゃないかって、勝手に……」
「知り合いだとしてもこんなこそこそやる奴はノーサンキューだよ」
きっぱりと吐き捨てた彼の腕が、ぎゅっと咲良を包み込んだ。甘い香りを嗅いだ瞬間、痛みはすっと消えていく。
「俺は君しかいらない。そうだろ?」
「あっ……それ、私の作品に出てきた、セリフじゃないですか……」
杞憂だった事に改めて安堵した咲良は、ふふっと笑みを浮かべる。秀介の腕がほどけていくと、少しだけ寂しさを感じてしまった。
「松原さん、全部廃棄でいいですよ」
「かしこまりました」
「もったいないかもしれないけど、俺らには必要ないモノですから」
さあ、行こう。と彼に肩を抱き寄せられ自宅へと戻る。夕食を囲んだ後はお風呂に入って洗いっこしながら破廉恥で甘い愛を囁かれ続けた。
◇ ◇ ◇
秀介との生活は問題なく続いている。ストーカーからの贈り物がほぼ毎日届いてはいるが、危ない目に遭遇したりストーキングされたりはしていない。なお秀介の提案で念のため警察に相談した結果、様子見の判断が降りている。
訪れた警察署には偶然、秀介のクラスメイトだった奥野と言う警察官がいて丁寧に対応してくれた。
――へえ、後輩だったんだ。やっぱ同じ学校同士で結ばれるパターン多いよなあ。
聞けば彼の妻も秀介や咲良と同じ学校出身で、咲良の1個上、秀介達の1個下にあたる学年だそう。こんな偶然もあるもんだなと秀介と奥野は互いに笑い合っていた。
――なあ春日。式、いつ挙げるんだ? その時が来たら教えてくれよ。
――勿論。奥野も式はこれからなんだろ?
そんな2人でブロマンスな妄想をしていたのを思い出した咲良は、ぎこちない笑みを見せるしかなかったのだが。
3か月のお試し契約期間が終わるまであと残り1か月。秀介がお風呂に入っている間、自室で執筆していると、突然着信音が鳴り響いた。
「兄さん……」
一瞬躊躇してしまうが、震える手で通話ボタンを押す。
「もしもし。咲良、元気か?」
久しぶりに聞く兄・理一の声は少し疲労が溜まっているように感じられた。スマホからは彼の声だけでなく、英語らしき声が入り混じり、雑音として耳の奥まで届いてくる。
「うん。元気。そっちはアメリカ?」
「ああ。でももうそろそろ帰れるかも。楓華も心配しているだろうし。そっちは仕事順調か?」
(楓華さんとのやり取り、知らないんだ)
「楓華さんとは連絡取っていないの?」
少し間をおいてあまり取れていないとの答えがもたらされた。
「兄さんごめん……こんな事聞いて」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。楓華、妊娠しているから心配で時々電話はかけてはいるんだけど、出ない日が多くて」
「そうだったんだ……」
理一と楓華が一夜限りの関係を持ち、それにより楓華の妊娠が発覚した点は咲良も十分理解している。
既に関係は自分が予想していたよりも冷え込んでいるのかもしれないと察した咲良は、楓華について尋ねるのはやめた。
「兄さん、それでどうして電話かけてきたの? もしかしてアメリカで何かあった?」
「ああ、さっきも言ったけど休みの目途が立ったから、もし帰国したら咲良にも会えないかって。実家であれこれ話すのが嫌なら、レストランでもいい。俺がおごるからさ」
「兄さん……」
理一の提案は咲良の心を大きく揺るがす。
彼は咲良にとって唯一の味方とも言える存在だが、それと同時に嫉妬に近い存在でもあった。母親のようにあれこれ言ってこないのは救いだし、同人活動も理解しているのは助かっている。
しかし、母親からの溺愛を受けて育った彼を見ていると、ぐちゃぐちゃと黒いヘドロが胸の内から湧いてくる感覚を覚えてならないのだ。
そして咲良が抱えている悩みはそれだけではない。
(どうしよう。兄さんには先輩の事、伝えて良いのかな……)
秀介の存在を明かすべきか、それとも秘密にすべきか。咲良は答えを出せないまま口を閉ざしてしまう。
(でもこういう時、ひとりで行ったら先輩に誤解させちゃうよね)
勇気を出して口を開こうとした時、手にしていたスマホがひょいっと消えていった。
痛みを隠し切れず、ぎゅっと拳を心臓の上に当てた。しかし痛みは引かず、むしろ増していく。
「よくわからないな。こんなにコスメやらサジーやら送り付けて何がしたいんだ?」
「え? 先輩……?」
予想だにしていなかった言葉に、思わず目を見開いた。
「どうした咲良。何か心配だったか?」
「あっ……まあ、そうです。心配でした。もしかして、知り合いとかじゃないかって、勝手に……」
「知り合いだとしてもこんなこそこそやる奴はノーサンキューだよ」
きっぱりと吐き捨てた彼の腕が、ぎゅっと咲良を包み込んだ。甘い香りを嗅いだ瞬間、痛みはすっと消えていく。
「俺は君しかいらない。そうだろ?」
「あっ……それ、私の作品に出てきた、セリフじゃないですか……」
杞憂だった事に改めて安堵した咲良は、ふふっと笑みを浮かべる。秀介の腕がほどけていくと、少しだけ寂しさを感じてしまった。
「松原さん、全部廃棄でいいですよ」
「かしこまりました」
「もったいないかもしれないけど、俺らには必要ないモノですから」
さあ、行こう。と彼に肩を抱き寄せられ自宅へと戻る。夕食を囲んだ後はお風呂に入って洗いっこしながら破廉恥で甘い愛を囁かれ続けた。
◇ ◇ ◇
秀介との生活は問題なく続いている。ストーカーからの贈り物がほぼ毎日届いてはいるが、危ない目に遭遇したりストーキングされたりはしていない。なお秀介の提案で念のため警察に相談した結果、様子見の判断が降りている。
訪れた警察署には偶然、秀介のクラスメイトだった奥野と言う警察官がいて丁寧に対応してくれた。
――へえ、後輩だったんだ。やっぱ同じ学校同士で結ばれるパターン多いよなあ。
聞けば彼の妻も秀介や咲良と同じ学校出身で、咲良の1個上、秀介達の1個下にあたる学年だそう。こんな偶然もあるもんだなと秀介と奥野は互いに笑い合っていた。
――なあ春日。式、いつ挙げるんだ? その時が来たら教えてくれよ。
――勿論。奥野も式はこれからなんだろ?
そんな2人でブロマンスな妄想をしていたのを思い出した咲良は、ぎこちない笑みを見せるしかなかったのだが。
3か月のお試し契約期間が終わるまであと残り1か月。秀介がお風呂に入っている間、自室で執筆していると、突然着信音が鳴り響いた。
「兄さん……」
一瞬躊躇してしまうが、震える手で通話ボタンを押す。
「もしもし。咲良、元気か?」
久しぶりに聞く兄・理一の声は少し疲労が溜まっているように感じられた。スマホからは彼の声だけでなく、英語らしき声が入り混じり、雑音として耳の奥まで届いてくる。
「うん。元気。そっちはアメリカ?」
「ああ。でももうそろそろ帰れるかも。楓華も心配しているだろうし。そっちは仕事順調か?」
(楓華さんとのやり取り、知らないんだ)
「楓華さんとは連絡取っていないの?」
少し間をおいてあまり取れていないとの答えがもたらされた。
「兄さんごめん……こんな事聞いて」
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。楓華、妊娠しているから心配で時々電話はかけてはいるんだけど、出ない日が多くて」
「そうだったんだ……」
理一と楓華が一夜限りの関係を持ち、それにより楓華の妊娠が発覚した点は咲良も十分理解している。
既に関係は自分が予想していたよりも冷え込んでいるのかもしれないと察した咲良は、楓華について尋ねるのはやめた。
「兄さん、それでどうして電話かけてきたの? もしかしてアメリカで何かあった?」
「ああ、さっきも言ったけど休みの目途が立ったから、もし帰国したら咲良にも会えないかって。実家であれこれ話すのが嫌なら、レストランでもいい。俺がおごるからさ」
「兄さん……」
理一の提案は咲良の心を大きく揺るがす。
彼は咲良にとって唯一の味方とも言える存在だが、それと同時に嫉妬に近い存在でもあった。母親のようにあれこれ言ってこないのは救いだし、同人活動も理解しているのは助かっている。
しかし、母親からの溺愛を受けて育った彼を見ていると、ぐちゃぐちゃと黒いヘドロが胸の内から湧いてくる感覚を覚えてならないのだ。
そして咲良が抱えている悩みはそれだけではない。
(どうしよう。兄さんには先輩の事、伝えて良いのかな……)
秀介の存在を明かすべきか、それとも秘密にすべきか。咲良は答えを出せないまま口を閉ざしてしまう。
(でもこういう時、ひとりで行ったら先輩に誤解させちゃうよね)
勇気を出して口を開こうとした時、手にしていたスマホがひょいっと消えていった。
3
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~
ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」
中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。
そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。
両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。
手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。
「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」
可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。
16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。
13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。
「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」
癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。
諦めて身を引いたのに、エリート外交官にお腹の子ごと溺愛で包まれました
桜井 響華
恋愛
旧題:自分から身を引いたはずなのに、見つかってしまいました!~外交官のパパは大好きなママと娘を愛し尽くす
꒰ঌシークレットベビー婚໒꒱
外交官×傷心ヒロイン
海外雑貨店のバイヤーをしている明莉は、いつものようにフィンランドに買い付けに出かける。
買い付けの直前、長年付き合っていて結婚秒読みだと思われていた、彼氏に振られてしまう。
明莉は飛行機の中でも、振られた彼氏のことばかり考えてしまっていた。
目的地の空港に着き、フラフラと歩いていると……急ぎ足の知らない誰かが明莉にぶつかってきた。
明莉はよろめいてしまい、キャリーケースにぶつかって転んでしまう。そして、手提げのバッグの中身が出てしまい、フロアに散らばる。そんな時、高身長のイケメンが「大丈夫ですか?」と声をかけてくれたのだが──
2025/02/06始まり~04/28完結
政略結婚の相手は、御曹司の元カレでした〜冷たいはずの彼が甘過ぎて困ってます〜
蓮恭
恋愛
『契約からはじまる、真実の愛――冷徹御曹司と、再会から紡ぐ一途な結婚譚』
「――もう、他人のままでいられないと思った」
美しいが、一見地味で物静か、けれどどこか品を纏った静香と、頭脳明晰で冷徹と噂される若き副社長の礼司。
六年前、身分違いの恋に終止符を打った二人が再会したのは――政略結婚の書類の上だった。
契約から始まる一年という期限付きの夫婦生活。
いつしか優しい嘘も、張りつめた距離も崩れていく。
すれ違いの中で募っていく想い。交錯する家同士の事情、嫉妬、そして隠されていた過去。
それでも、何度でも惹かれ合う二人の先にあったのは、『家族』という名の奇跡だった。
真実の愛を知ったとき、男はその名すら捨てて、彼女の人生を選んだ――
これは、ただ一度きりの契約が、本当の運命へ変わるまでの物語。
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる