ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第27話 秀介の実家訪問へ

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 ただ……。の後に続く言葉は何なのか、咲良はごくりと唾を飲み込みつつじっと埼玉を見つめる。

「子供を産む事については、あんまり乗り気じゃないのかなって」
「あ~~、なるほどな……」
「埼玉先生、教えてくださりありがとうございます。確か、楓華さんはうちの兄とずっと付き合ってたとかそういう関係ではないので……」
「ですよね。それは診察の時にも仰っていました。あんな事するんじゃなかったって」

 楓華が理一を愛していない事実を知り、咲良の胸の奥がぎゅっと締め付けられるかのような痛みを覚える。彼が彼女の気持ちを知った時、どのような反応をするのだろうか……そう考えるだけで彼へ同情が湧いてきた。
 咲良にとって理一は羨望の存在でもあり、数少ない味方でもある。彼が傷つくのはあまり見たくない。

「ちなみに先輩、先輩が埼玉先生に結婚したって教えたんですか」
「ああそうだな。さいさんには学生時代から世話になっているから」
「本当に申し訳ありませんでしたっ……! こんな事になるなんて、思わなくて……!」

 自分のせいだと責任を感じているのか、目に涙を貯めて頭を下げる埼玉。彼へ謝らないでください! と手を振って制する。

「埼玉先生は知らなくても当たり前だと思います。わざわざ患者さんのプライベートなんて根掘り葉掘り聞かないでしょうし……」
「そうだぞさいさん。あんたの落ち度じゃない。悪いのは咲良の兄嫁だからな。アイツが勝手にしている事なんだから」
「なあ春日。で、どうしたいんだ? これまでの話聞く感じ、やろうと思えば弁護士用意して反撃に出るって事も出来ると思うけど。俺の弟、弁護士だからそいつ紹介しようか?」
「そうだな。頼む。咲良の兄さんについても色々あるだろうからな」

 確かに理一側からしても複雑な事態だ。咲良は私からもぜひ。と緊張しながらも答える。

「あと、俺いい事考えたんだけどさ」
「先輩?」
「さきに俺の両親へ挨拶済ませておくか?」
「え」

 唐突な提案に咲良はぽかんと口を開けたままふさがらない。

(え、先輩のご両親……?!)
「先輩の、お父さんとお母さん、ですよね?」
「そうだけど? どうしたんだ?」
「ええっ?!」

 脳裏にこれまで自分が成してきた創作や見てきたドラマの映像がフラッシュバックする。両親への挨拶、それは咲良の妄想の中では立ちはだかる高い壁であり、極限の緊張が強いられるイベントだからだ。

(ど、どうしよう! 先輩のお母さん、絶対金持ちの女の人って感じよね?! もし嫌われたら……!)
「もしかして嫌われたらどうしようとか考えてる?」

 的確に指摘されたので嘘はつけないまま、はい……と素直に返事するしかなかった。

「大丈夫。そんな怖い人じゃないし。俺、怒鳴られたりした事ないもん」
「そ、そうなんですか?」
「咲良さん大丈夫よ。春日くんのお父様、結構子供みたいな人だし。お母様も穏やかな人で粗相をしても気にしたりするような人ではないから」
(教授が言うなら、そうなのかも……)

 いずれせよいつかは秀介の両親の元へも挨拶に赴かねばならないのは重々承知している。咲良はよろしくお願いいたします。と丁寧に返すと、秀介はははっと軽く笑った。

「そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。俺も一緒だからさ。と言う訳でちょっと連絡取ってみるな」
「お願いします」
「じゃ、ここで一旦まとめましょう。おふたりは春日くんのご両親へご挨拶して、多分この事についてもご報告するのよね? そして警察の方は弁護士を紹介してくださると。以上で合っているかしら?」

 合っている事が確認されると、佳苗の目は埼玉に向けられた。

「埼玉先生は通常通り業務を続けた方が良いわ。あとで産婦人科の教授にも話を通しておくわね」
「僕も一緒に行きます。僕の患者ですし」
「わかった。本来なら病院への立ち入りを禁じたいけれど、今は下手に刺激してはいけない。でも何もしないで淡々と過ごすのも怖いものねえ……そうだ。いい事考えた」

 佳苗が埼玉の左耳元にそっと耳打ちし始めた。埼玉はええ?! と驚きの様子を見せる。はたして一体何が語られたのか、咲良は気になるもののここは敢えて聞かない方が良いと判断に回った。
 こうして面談室内での話し合いは終了。何かあってはいけない。と佳苗の計らいで咲良は秀介の仕事が終わるまで院内で時間をつぶす。コンビニでチョコレートのロールケーキを買って食べた後は、図書館で栄養に関する本を読んでいると、あっという間に時間が過ぎていった。

「総合受付のシャッター、もう締まってる」

 外来診療が終了した後も患者や家族と思わしき人達はあちこちに点在する。総合受付の右手前に設置された看板には、入院患者の面会時間は21時までと記されてあった。
 なお、救急搬送されてきた患者の付き添いや、未成年患者への付き添い入院はその限りではないそう。

(だからこの時間でも人、いるんだ。大学病院だもんなあ……)
「咲良!」

 後ろへ振り向くと、私服姿の秀介が大きな黒いリュックを背負ってやってきていた。

「お疲れ様です」
「今日は早めに終わって良かったよ。さあ、帰ろう」
「はい」

 彼と一緒なら大丈夫。そう心の中でつぶやきながら秀介の右手を握りしめた。

◇ ◇ ◇

「緊張しているよね?」

 あれから日が経ち、今日はいよいよ秀介のご両親へ挨拶に向かう日だ。朝早めに起床した咲良は秀介と朝食を食べた後、いつも以上に気合の入ったメイクを施していた。

「あ、はい……」
「なんか、手つきが震えてたから」
「わかりやすい、ですね……はは……」
「俺も緊張してる。ほら、手汗やばいもん」

 ほら、と左掌を見せて来る秀介。彼の手をそっと指の腹でなぞると確かに濡れているのを感じられる。

「ほんとだ、濡れてますね」
「だろ? 実の親相手にここまで緊張するのは初めてだと思う」

 秀介が電話で事前に報告した時、母親はええ――?! と大きな声で驚きを表していたのを咲良は思い出した。

「どうなるかな……」
「大丈夫。あれから母さんは楽しみってメッセージ送ってたから」
「えっそうだったんですか?! もっと早く知りたかったです……」
「ごめんごめん。髪、結ってあげようか?」

 彼が用意してくれた、深い緑色の上品なワンピースに着替えると、彼に背中を見せる。

「どれどれ……ん、こんな感じで良いかな? ハーフアップ、上品でいいと思う」
「ふふっ、なんだかお嬢様になった感じがしますね。先輩髪セットするの本当に上手でうらやましいです」
「そうか? そう言ってくれて嬉しいよ」

 ここで秀介からふわっと後ろ髪をかきあげられる。そしてうなじにちゅ、と唇が当たった。

「あ、ちょっと」
「大丈夫。痕ついても見えないから」
「た、たしかに、そうかもしれませんが……!」

 最初はあれだけ恥ずかしかったのに、今はそこまで羞恥心を強く感じなくなっているのは彼を身体が覚えてしまったからかもしれない……などと不埒な考えを巡らせていると、じゅるじゅると力強く吸われる感覚を覚えた。

「やっ……!」
「ぷはっ……! はあ、ここまでにしておこう」
「もうっ……やりすぎですよ」
「でも、気持ち良かったでしょ。目がそう言ってる」

 むぅ。と頬を膨らませる。これまでは憧れ一辺倒だった気持ちも今ではここまで悪態をつけるようになったのを考えると、関係性に適応したのかもしれないと感じる。

「ははっ、そういう咲良も可愛い」
「あ、ありがとう、ございます……」
「よし、そろそろ行こうか。怖くなったら俺の手、握って良いから」
「じゃあ、握らせていただきます。多分怖くなると思うので」

 たとえ怖くなっても彼がいるなら大丈夫、絶対の安心感をゆだね、秀介が選んでくれた白いパンプスを履いたのだった。

(うん、大丈夫)
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