ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第29話 もっふもふの家族

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 ごほごほっと咳が止まらない。秀介とえり子が慌てて両サイドから背中をさすってくれたおかげでしばらくすると呼吸がしやすくなってきた。
 その間も咲良の膝の上で羽を伸ばしているももは、動じる様子すら見せずにくつろいでいる。

「はあっ……す、すみません……」
「お茶、持ってこようかしら?」
「いや母さん、更に詰まらせたら大変だし、ちょっと様子を見よう」
「確かにそうね、秀介の言う通りだわ」

 体感で1分後、ようやく呼吸が落ち着いた。

「ありがとうございます。もう大丈夫です」
「無理するなよ?」
「そうよぉ、しんどくなったらいつでも言ってね」
(こんなに心配してくれるなんて……お母さんとは違う)

 眉を八の字にして如何にも心配の表情を見せるえり子を見ていると、自分の母親の姿を連想してしまう。
 
(お母さんはこんな風に心配してくれなかった)
「どうしたの? またしんどくなっちゃった?」
「咲良……もしかして、自分の」
「そうなんです。私、お母さんからここまで優しくされた記憶が無かったものですから」

 苦笑いを作ったが、同時に涙がぽとぽとと意図せずあふれ出てきた。あれ? と口にしながら手で涙をぬぐっても止まる様子はない。

「咲良さん……! 大丈夫よ、私と秀介がいるからね。お父さんは今はいないけど、あなたの事はちゃんと気にかけているわ」
「咲良、これティッシュ使っていいよ。遠慮しないで」
「は、はいっ……ありがとう、ございます……」
「と言う訳で母さん。俺からあれこれ説明するよ。長くなるけど……」

 涙が止まらない自分に腹が立つ。だが、秀介の説明は簡易且つわかりやすくまとめられていた。言いたい事、思っていた事もちゃんと言語化されていたので、咲良としては申し分ない内容である。
 秀介からの告白を真剣に聞き届けたえり子はそうだったの……と呟いた後、絶句してしまった。

「母さん。俺らは心配しないでほしい。既に動いているから。今日挨拶に来たのは、咲良にとって父さんと母さんが味方でいてくれる事実をはっきりさせておきたかったんだ」
「秀介……そうよね。咲良さん、お父様は既にお亡くなりになって、お母様とはうまくいっていない。お兄様もご多忙となれば、私達が頼りにならなければならないものね」
「っ……ありがとう、ございます……」
「いいのよこれくらい。私達に出来る事があればなんだって言って。料理だって掃除だって、あとはファッションだってなんでも教えられるわ」

 咲良の背中にそっと手を添えて優しく微笑むえり子の姿は、咲良が欲しがっていた母性すべてを兼ね備えているように見えた。
 膝の上でくつろぐももは、咲良の掌に身体を預けたまま動かない。

「ほら、ももだって君をちゃんと受け入れている」
「先輩……ももちゃん、私、なんて思ってる?」

 ももはごろんとお腹を見せた。そっと触るともふもふとした柔らかい感触が咲良の嫌な部分を解してくれる。

「もも。咲良さんの事好きなのね。もしかしたら咲良さんの考えがわかるのかもしれないわ」
「えっ……」
「母さんは結構スピリチュアルなの信じてるから気にしないで。でも、その様子見ていたら君を信頼しているのは間違いないと思う」
「そっか……ふふっ、ももちゃん、ありがとう」

 お腹を優しくなでると、再びごろりと転がって背中を見せる。さっきよりかは躊躇のない手つきで触れると、ももはゆっくりと目を閉じた。

「もも、すっごい懐いてるじゃん。穏やかな子だけど一番爆速なのは咲良じゃない?」
「もも、本当に咲良さんが好きなのね」
「へへ……ももちゃん、これからもよろしくね」

 ももが鼻を鳴らす音を出す。彼女のぬくもりはこれまで求めてきたモノかもしれない。咲良はそう知覚する。
 
(先輩達と会えて本当に良かった。自分が欲しかったものがここにはある……)

 胸いっぱいに広がったぬくもりを忘れまいと脳裏に刻み込む。その間、ももは夢の世界に誘われていったらしい。

「もも寝ちゃったか」
「今日、朝からご飯たくさん食べてたから、眠たくなっちゃったのかもね」
「ははっ……」

 すうすうと寝息を立てて眠るももを小屋に戻した後は、3人でお昼ご飯を作る。食材は既にえり子が用意してくれていたので後は調理するだけだ。

「ご飯はもう炊いているから、あとはおかずだけねぇ。咲良さん、この中に苦手な食べ物とかアレルギーとかはある?」

 用意された食材は鶏肉と卵、それと野菜系がたくさん並ぶ。どれも口にできる食材だと伝えるとえり子はにこっと笑った。

「この鶏肉は卵とじにするの。親子丼のごはんなしバージョンみたいなやつね」
「へえ、美味しそうですね……!」
「後はれんこんとピーマンを蒸し焼きにするのと、かぼちゃはレンジでチン。野菜は茹でてドレッシングを和えていただきましょう。あっスープももう作ってあるの!ふふっ、結構な量になるわね……!」 

 鶏肉はもも肉で先に10分ほど加熱してから白出汁と溶き卵を加えて卵とじにする。その間、一口サイズに切ったかぼちゃを耐熱容器に並べて電子レンジで加熱。そして切ったれんこんとピーマンはぐりるで蒸し焼きにし、キャベツや玉ねぎなどの野菜をボイルしていく。
 えり子の手際の良さに、咲良は慣れをひしひしと感じ取っていた。

(日ごろからパーティー料理とか作り慣れているんだろうな。私の手伝う余地がない位すごい)

 こうしておかずが完成し、野菜たっぷりのミネストローネスープを温め終えた後はえり子が用意した五目御飯をお茶碗に盛った。テーブルの上には色とりどりの品々が、同じようにカラフルな色合いをした焼き物の食器に盛り付けられている。その様子はまるで花畑を上から見下ろしているようだ。

「いただきます!」

 最初にミネストローネスープに口をつける。じゃがいもと玉ねぎのうまみとトマトの酸味がぎゅっと詰め込まれていて、見た目以上に味は濃厚だった。
 ちなみにベーコンやお肉系は一切入っていない。また、マカロニこそ入っているがこれは米粉で作られたもの。

(とっても美味しい! すごいなあ……!)

 五目御飯も味付けは薄め。卵とじも白出汁だけで味付けしているので、味の濃さやしょっぱさ、くどい甘さは感じられない。どれもすっと胃の奥へと消えていくような優しい味わいだ。

「ごちそうさまでした!」
「咲良さん、美味しかった?」
「はい、とても! すっごく美味しくて食べても食べても食欲がわいてきて……!」
「ご飯とスープお代わりあるわよ! どうぞぉ」

 お言葉に甘えておかわりをよそう。そんな咲良の後に秀介もお茶碗を持ってやってきた。

「母さん、また料理うまくなった気がする」
「本当? 秀介がそう言うならそうなのかも!」
「咲良の料理もとても美味しいよ。今度2人でまた何か作ってほしいな」
「ですって! 咲良さん、ぜひ!」

 えり子の朗らかな声に咲良の声も自然と大きくなる。温かな空気に包まれたリビングで過ごす時間は癒しの言葉だけでは表現できない程のものだった。
 あっという間に高級感漂う白いシルクカーテンで彩られた窓の外から見える空は、橙色に変化する。時間の経過の速さに気がついた咲良は後ろ髪を引かれる思いをこらえるのがやっと。帰り支度をしようとバッグの中身を整理していた時だった。

「よかったら2人、泊っていく?」

 えり子の誘いに咲良はえ? と目を点にさせた。

「秀介の仕事にもよるけど……よかったら! 2階にゲストルームもあるから、好きに使って」


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