ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第30話 止まり木にて

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「咲良どうする? 俺はいいけど」
「えっでも……いいんですか? お泊りするとは思ってなかったので、着替えとか……」

 ちらりとえり子を見ると、彼女はにこにこと微笑みながら大丈夫! と子供のように声を弾ませながら答えてくれた。

「もちろん! 下着とかガウンやアメニティもあるから心配しないで! サイズが合わなかったら用意させるから」
(わっホテルじゃん!)

 聞けば政財界の重鎮がこの豪邸に泊まる例は多々あったらしく、慣れているのだとか。

「だから2人ともゆっくりしていって」
「お気遣いありがとうございます……! ではお言葉に甘えまして、ごゆっくりさせていただきます」
「ええ! お夕飯どうしようかしら、せっかくだしご飯食べに行く?」
「俺はどこでも大丈夫。咲良はどうする?」

 どこでも良いと無難に返答すると、えり子は何かを思いついたような顔に変わる。

「じゃあ、SNSでリール動画見つけてから行きたいと思ってたレストランがあるの! そこでもいい?」
「はい!」
「母さんが行きたい所かあ、どこか気になるなあ」

 そんなこんなでタクシーで向かった場所はなんと、高級住宅街の外にあるカジュアルな洋食レストランだった。チェーン店と言う事もあって既に多くの客が詰めかけている。
 まさに意外な選択に咲良はもしかして似た名前のレストランと間違えたんじゃないか? と疑いのまなざしをえり子に向けてしまった。
 
「母さん、ここ? いつも高級な料亭とか焼肉とか行くイメージあったけど」
「そう! やってみたい事があって。さあ、入りましょうか」

 彼女の言うやってみたい事が何なのかよくわからないまま店内に入り、右奥のテーブル席に座るとえり子は即座にメニュー表を広げ、注文してもいいですか? と応対してくれている若い女性スタッフに声を掛けた。

「ええと、このチキンサラダとミートドリアとハンバーグステーキとたらこパスタください」
「え?!」
 
 生まれて初めて秀介とキレイぴったりにハモった瞬間だった。そこまでの量を年齢を感じさせないスタイルを誇るえり子は果たして食べられるのか。それとも私達の分も注文しているのか? と咲良の頭の中は混乱の坩堝に叩き落される。

「いやいや母さん食べ過ぎじゃ。普段から食べる方だとは思うけどさあ……!」
「SNSでここのレストランのメニュー爆食してみた! って動画見つけてからやってみたかったのよ!」
(そんな動画あるんだ)

 咲良も注文を終え、しばらくしてえり子が頼んだ品々がぞろぞろと机に並び始めた時。

「あれ、電話だ。ちょっと外に出ます……!」

 慌てて外に出た咲良がスマホ画面を見ると、そこには理一からの着信と表示されている。
 ちりちりとした空気を胸の奥で感じ取りながら電話に出ると、ざわざわとした環境音と共に理一の声が響いてきた。

「もしもし、兄さん? いきなりどうしたの?」
「咲良ごめん急に。今空港にいる。これから帰る所なんだ」
「え?! なんか急じゃない?!」
「結論から言うと実はリストラされて」

 開いた口が塞がらない。

「え、どういうこと?」
「それは俺も聞きたい。とりあえず長くなるけどいい?」

 どうやら理一が務める企業のトップであるCEOはアメリカトップの銀行頭取と仲が悪く、融資を得られない状況に至ったらしい。それにより世界中に支社がある理一の企業は大規模なリストラに踏み切ったのだった。

「ええ……どうするのそれ……」
「とりあえず俺は日本人だから日本の支社にいかないといけないみたいで」
「そっちで手続するって事?」
「そう。自国の支社でって上のもんにも言われた。ああ……楓華と母さんが知ったらどうなるかなあ、嫌な予感がする……」

 これまで母親は理一をこれでもかと溺愛してきていた。そして理一は母親からの期待を背負い、それらを裏切るような真似は一度もなかったと記憶している。成績はいつも母親が望むラインを余裕で超えていたし、就職先もそう。楓華との結婚だって母親は祝福してくれたのだ。

「母さん、どんな反応するかなあ……兄さんを見捨てたらひどいと思う」
「咲良……」
「あと、楓華さんもどう出るかだよね……」
「そうなんだよ。正直平和に終わる訳がないと思っている」

 すると後ろから右肩をぽんぽんと叩く感覚を覚えた。振り返ると秀介が心配そうにこちらを見ている。

「誰から?」

 口パクでそう問いかけてきた彼へスマホ画面を見せた。すると彼は首を縦に2度振り、一度店内へと戻っていく。

「兄さん、そういえば宿泊先とかどうするの?」
「ああ、実家に帰ろうとは思ってるけど……」
「よかったら、ちょっとうちに来ない?」

 ここでいううちとは、秀介の実家である。秀介のマンションだといくら兄妹とはいえ秀介以外の男性を住まわせるのはよろしくないと考えたからだ。
 理一からはいいのか? と遠慮気味の反応が返って来るので店内に戻った秀介を呼び出し、理一が置かれた状況を簡潔に伝えてからスマホを渡す。

「お久しぶりです。秀介です。話は咲良から聞きました。……母さん、ひとり増えるけど大丈夫?」
「秀介のお友達かしら? いいわよ!」
「と言う事でちょっとうちに来てほしいんです」
「はい、やっかいになりますがお願いします」

 理一が秀介の実家にやって来る。一気に緊張が走る事態になったが、ちらりと見るとえり子は満足そうな顔をしながらハンバーグを口に含んでいた。

(動じない方だ。社長令嬢だからってのもあるのかな?)
「ん~~おいしい! 咲良さん、秀介、早く食べないと冷めちゃうわよ!」

 咲良は注文したハンバーグセットにようやく手を付ける。デミグラスソースの甘さが興奮状態の胸の奥へぎゅっと染みわたっていく気がした。

◇ ◇ ◇

「お世話になります!」

 玄関に立つ青年……理一はモノクロの衣服に身を包み、センター分けにしたツーブロックの黒髪は毛先がウェーブがかっている。あごひげをはやしたその姿からは、疲労が溜まっているようにも感じ取れた。

「兄さん、大丈夫?」
「まあ、何とか」
「あらあら! どうぞあがって! 確か咲良さんのお兄さんよね? 私秀介の母です、はじめまして!」
「初めまして……! お招きいただいてありがとうございます」

 相変わらずなえり子の存在はとても大きい。理一をリビングに招くと秀介は話があると緊張感のある面持ちで切り出した。

 

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