ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第31話 中崎家へ

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「話……」
「結論から言うと、あなたの妻は浮気している。俺へ」
「え? 楓華が、秀介さんに?」

 咲良が予想していた通り、理一は信じられない……と口にしながら両手で頭を抱える。

「でも、自分への愛はないんだなとは、察していました。それで秀介さんは楓華と会ってたんですか?」
「会った事は一度もないです。だけど、ストーカー被害を受けています」
「ストーカー?!」

 理一が目を丸くさせた。目が飛び出しそうな勢いに、咲良はそうなるのも無理はないと悟る。

「なっ、え? 楓華がストーカー……?」
「証拠はあります。手紙はうちの家や病院にも届いているし、たくさんコスメを送り付けられたり……」
「ええ……なんだそれ、楓華、一体何を考えてるんだ……」
「私もよくわからない。でもわかるのは兄さんよりも先輩の方が気持ちが強いって事だけ……」

 再び頭を抱えてうつむく理一に、咲良は兄さん……と声を掛けるより他なかった。

「秀介さんと咲良には申し訳ないし……子供、どうするんだ……」

 あの楓華がまともに子育てなんて出来る訳が無いと咲良は考えていた。だが、離婚すれば親権の問題が発生する。それも踏まえるとこの問題は非常に複雑だ。

「兄さん」
「まずは2人に謝りたいと思う。本当に迷惑をかけてしまって申し訳ない」
「理一さんは謝らなくていいですよ。あなたは何にも悪くない」
「そうだよ兄さん。だからあまり思いつめないで」

 ありがとう……と小さな声で返す理一は、これまで見てきた中で最も弱弱しいと感じてしまう。
 これほどまでに弱い面を見せた事はあっただろうか? と振り返るが、咲良の記憶にある理一はいつも立派な人物だった。

(なんだろう……先輩がいじわるに責めてきた時と同じような、ギャップみたいなのを感じる……)
「2人ともいいですかね。明日仕事から帰ったら、咲良の実家に赴いて挨拶に行こうかと考えています」


◇ ◇ ◇

 次の日。秀介は出勤し、咲良は理一と共に実家で待機する事になった。服などは秀介が用意してくれたので衣食住が困る要素はない。なお、秀介の父親とは未だに顔を会わせられていないが、多忙さを考えると仕方ない。
 えり子と料理を作っている間は現実を忘れられるが、それ以外は理一を目にするたびに楓華と母親がフラッシュバックしてしまう。
 彼女達へ久しぶりに会うと意識しただけで、身の毛がよだつのだ。

「今日のお夕飯、何にしようかしら。理一さん、咲良さん、食べたいものある?」
「あ……」
「もしかして緊張してる? 戦の前の腹ごしらえと思っていたのだけれど……」
「お気遣いありがとうございます。仰る通り緊張しちゃって……」

 すると後ろから理一がそっと歩み寄って来た。

「秀介さんがいる。だから大丈夫。咲良にとって一番心強いと思うからさ」
「兄さん……」
「俺はもう母さんの言いなりにはならない」

 決意を込めた表情を間近で見た咲良はごくりと唾を飲み込む。

「さあ! 今は楽しい事を考えましょう! あんまり気負い過ぎてもしんどいでしょうし!」
「ただいま~~」

 このタイミングでの秀介の帰宅に、咲良はほっと息を吐いた。やはり彼と一緒にいるのが一番落ち着く。

「おかえりなさい、先輩」
「ただいま。今日は忙しくなくて良かったよ。理一さん、20時だっけ、約束」
「そうですね、母さんは喜んでたけど、楓華はどうだろうかな……」
(母さん、やっぱり兄さんの事は大事なんだね)

 夕食は肉野菜炒めと秀介がコンビニで購入してきたチルドのハンバーグを電子レンジで温めて頂く。ごはんは十六穀米だ。
 食事を終え、着替えた後は3人で実家を後にする。

「気を付けてね」

 見送るえり子へ一瞥すると、秀介が呼んだタクシーに乗り込んだ。

◇ ◇ ◇

 久しぶりに戻った実家の周囲はしんと静まり返っている。窓から見える照明の光を見るに誰かいるのは理解できた。

「俺が押すよ」

 理一がインターホンを鳴らす。すると程なくして扉ががちゃりと開かれた。

「……え?」

 理一だけだと思っていたのだろう、黒いトレーナーに灰色のズボンとラフな格好をした母親はぽかんと口を開けたままだ。

「はじめまして。咲良の夫、春日秀介と申します。理一さんと咲良のご兄妹にはいつもお世話になっております」
「え、理一。ちょっと待って。3人で来るなんて聞いていないわよ? もしかして忘れてたの?」
「いや、母さんには黙ってたんだ。ごめんね」
「あ……」

 うろたえる母親へ、理一が入ってもいいよね? と冷たい眼差しと共に声を掛けた。

「え、ええ……」
「では、失礼いたします」

 秀介の後に続くように、実家の玄関に足を踏み入れた。懐かしい香りと共に、息が詰まるような空気を感じてしまう。
 リビングにはベージュ色の無地のワンピースを着用した楓華が白い革製のソファに座り、バラエティ番組を眺めていた。

「楓華」
「理一さん……ってえ?! 春日先生?! なんでここにいるんですか?!」

 がばっと立ち上がって秀介を見る楓華の顔は、完全に恋する乙女のそれだった。
 相反するように理一と秀介は刃の切っ先の如く冷たい眼差しを楓華に向けているが、どうやら彼女はそれには気がついていないらしい。

「春日先生~~! ずっとお会いしたかったんです! 今日はわざわざこんな夜遅くにお越しいただいて本当にありがとうございます! あの、今日こちらに来ていただいたのって……」
「結論から言うと、二度とうちと関わらないでほしい。それを言いに来た」
「え」

 氷で閉じ込められたかのようにフリーズする楓華の姿は哀れで滑稽としか言い表しようのないモノだった。
 
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