ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第32話 決着

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「あの、春日先生、何を仰っているのです?」

 静寂を切り裂いたのは母親の言葉だった。

「今さっき言ったとおりです。もう二度とうちには関わらないでほしい。貴方の件は警察にも相談済みだ」
「え? あ、え? 嘘でしょ?」

 楓華がした事は悪であると当の本人は全く理解していないようだ。

「そしてお義母さん。俺は咲良と離婚する気は毛頭ないので。ああ、咲良は勿論死ぬまで幸せにして見せます。あなたと一緒に暮らしている時よりもね」
「なっ……!」

 母親と楓華は何も言い返せないでいる。ここまで追い込まれた様子を見せるのは初めてだったので、少しだけ爽快感を感じてしまった。

「ねえ、咲良!」
「お母さん何? 離婚なんてしないよ」
「医者の妻だなんて大変に決まってるわ! だから……!」
「大変でもいいに決まってるよ」

 何を言ってるの? と母親からの反応がもたらされる。そんな反応で咲良の意志が変わる事はもうない。

「お母さん、お父さんが亡くなってからどれくらい大変だったかわかる? それに医者の妻を咲良が務まるなんて思えないわ」
「母さん、どうしてそう思えないのかな?」
「なっ理一……!」
「俺は咲良と秀介さんは素晴らしい夫婦だと思うけどな。母さんが勝手にそう思い込んでいるだけじゃないの? てか認めたくないんだろ」

 口をパクパクさせていた母親だったが、しばらくしてがっくりとうなだれていく。やがて力が抜けていくようにその場へ座り込んでしまった。

「理一、あなたはあれだけかわいがったのに……」
「俺は確かにそうだろうな。でも、咲良は? 勉強しろと厳しく当たって俺と同じ学校に行かせて。そそして今は愛する人との結婚を認めない。もう俺は母さんの子供でいたくない」
「理一……! お願い、理一までも出ていかないで頂戴!」

 座り込んでいた母親は即座に理一に抱き着く。が、理一はうっとおしいと言わんばかりに母親を振りほどいた。

「自分が気に入らないからって、いつまでもグダグダ言うの、うざい」
「ああっ……」
「それと楓華。君のやった事は許されない。一体どうして秀介さん方に迷惑をかけるような事をしてしまったんだ」
「……っ本当は! 春日先生と結婚したかったの!」

 咲良含め、楓華以外のその場にいる全員が彼女へと視線を向けた。

「私、春日先生の事大学時代に初めて見かけた時からずっと好きだった……! でもそれから、色んな人が気になっちゃって、ひとりに絞られなくて……そんな時に理一さんと出会ったの……」
「俺、あなたにとってはひとりじゃなかったんだ」
「だって仕方なかったでしょ?! ひとりになんて選べられなかったんだもん……!」

 わんわんと堰を切ったかのような勢いで号泣し始める楓華。しかし彼女へ同情を寄せる者はひとりもいない。咲良もそのひとりだ。

(いろんな人と同時に恋愛してたの……? 倫理感が全然違い過ぎて、話にならない……)
「楓華さん、どうしてひとりに選べられなかったんですか? 浮気はダメって習わなかったんですか?」
「ママにも相談したけど、それなら仕方ないって言ってくれたし……」

 ぞっと身の毛がよだつ感覚を覚えた咲良は、楓華から半歩ほど距離を取る。これ以上は何を言っても伝わらない。そう察知してしまったからだ。

「楓華さん。こんな事言うのは良くないと思うけど、咲良の執筆活動よりあなたの行為の方がよっぽど気持ち悪いと俺は思う」
「っ……!」

 完全に突き放す言葉に、楓華の嗚咽が更に大きくなった。あの日自分に言い放った言葉を覚えているのかいないのか、よくわからないが彼女のメンタルに大打撃を受けたのは確実と言える。

「とにかく。俺と咲良は離婚しないので」
「ああ……」
「あと、松原さんにもご迷惑をおかけした話を聞いた。そちらについても後ほどご連絡が行くかもしれませんから、誠実な対応を望みますとだけ」
「楓華。あとは弁護士を通して話をしよう。お腹の子には罪はない。けど君がまっとうに育てられるとは微塵も思っていないから」

 もはや会話は必要ないと察知し、秀介が先に引き上げようと踵を返した。彼へついていこうとすると左肩を掴まれる。

「ねえ咲良! 考え直して!」
「いや! 離して! もういい!」
 
 とっさに母親の手を振りほどく。ここまで触れられて嫌悪感を覚えたのは記憶に無い位の勢いだった。

「もうお母さんなんか知らない!」
「咲良……!」
「行こう咲良、俺もこんな母親なんて知らない」

 母親は何度も理一を呼ぶ声が聞こえて来るが、理一は振り返る事はない。楓華からの反応は全く感じられなかった。
 玄関で靴を履いた直後、咲良はふと後ろ髪を引かれるを思いを感じ、後ろへと振り返る。

(もうここには戻らない。私の部屋もないし……)

 しかし、どうしても自分の目で焼き付けておきたい欲が湧いてきた。再び靴を脱いで階段を上がり、かつて自分だけの世界が広がっていたそこへ、ドアを開いた。

「……やっぱり」

 そこには何にもない殺風景な空間が広がっていた。茶色い簡素なベッドも、小学校入学前に買い与えられた茶色い勉強机も、推しキャラのアクスタなどが飾られ、同人誌等が収まった本棚も何も残ってはいない。

「咲良」
「先輩……」

 後ろには、秀介と理一が心配そうに並んで立っている。

「ここ、私の部屋だったんです。ここだけが、私の世界だった……」
「俺との妄想も、この部屋ではかどらせていたってわけか」

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