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第33話 世界の始まりと終わり
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「そうです。この部屋にひとり籠って、小説を書いている時はとっても楽しかった」
宿題と並行しながら今日は体操服姿の先輩が見れた。腹筋がちらっと見えてセクシーだった……などと思い出しながら、妄想を書きなぐったりしていた事を振り返る。
「推しキャラとの夢小説や、先輩を模したキャラクターを作ったりして、ひとりで遊んでいました。ここには私が創造してきたものが沢山あったんです」
「……俺、咲良の部屋時々入って小説読んでた事があったのを思い出したよ」
「え、兄さん?!」
突然の告白に、ぎょっとした目を理一に向けてしまう。
「ごめん。今まで黙ってて」
「あっ、いや……大丈夫」
「咲良の書く小説、俺も好きだ」
「兄さん……」
世界の終わりを痛感した後、自分の小説を好きだと言う声を耳にするなんて思ってもいなかった咲良の目からは涙があふれ出てきそうになる。
「ははっ……書くのやめないで本当によかった……」
ぽろりと零れ落ちる涙を手の甲で拭うと、かつて己だけの世界があった場所に別れを告げた。
◇ ◇ ◇
咲良と理一は母親と縁を断つ事となった。理一は楓華の子が生まれるまでは婚姻関係を続ける事にしたが、その後ある程度子が育ったら離婚したい意志を固めている。
理一は新たに新居を構え、日本のオフィスで再就職先をあっせんしてもらった。転職先は取引先でもあった大手の電子機器メーカーで、職場は大学病院の近くにあるオフィス街。彼とのかかわりは以前にもまして強いものとなった。
そして今、仕事から帰って来た秀介と理一と共に、理一の暮らす新居にて夕食を囲んでいる。食事は理一の好きな寄せ鍋だ。鶏肉と豚肉、そしてたっぷりの野菜に骨を取った鮭の切り身などがぎゅうぎゅうに詰まっている。
「やっぱり寄せ鍋はいつ食べても美味しいなあ。ほっこりする」
「兄さん、あったかい食べ物好きだもんね」
「理一さん意外だなあ。でも、俺も寄せ鍋好きなんですよね。こうして箸をつついてあったかい食べ物食べるの、ほっこりするのわかります」
温かい空気の中、理一はそういえば。と何かを思いついたかのような仕草を見せる。
「2人とも、式は決まった?」
「あ……まだ決まってはないような……」
「咲良、ごめん。本当は俺から色々提案すべきだったよな」
「いやいや! 先輩もお忙しいでしょうし!」
今日はまだいつもよりほんの少し早めに退勤して、食事を楽しんでいる。しかしここ最近は夜勤が続き更には急患への対応が増加したりと多忙さを極めている状況だ。
2日間自宅に帰らなかった日もあり、秀介の目元には若干クマが出来ているほど。
(先輩、今が踏ん張り時だろうから……結婚式とかは、もっと落ち着いてからの方が)
「こっちこそ申し訳ない。そこは2人で話し合って決めるべきでしょうし」
「兄さん気にしないでよ」
まだ理一に元気が戻ったとは言いにくい。楓華とのあれこれは弁護士である奥野の弟らと共に対応に当たっているし、自分の暮らしもある。
「はあ、鶏肉美味しい……」
「兄さん、鶏肉多めに入れといて良かったね」
「シメのラーメンも楽しみだな」
「私も楽しみです、先輩」
寄せ鍋に入れた鶏肉はもも肉。弾けるような歯ごたえは3人ともお気に入りだ。
あっという間に具材と白米はなくなり、シメのラーメンも満喫した後は、一息ついてから秀介の自宅へと帰宅する。
その途中、当たり前のように恋人繋ぎする秀介の指に意識が飛んだ。
(結婚指輪……先輩どんなのが好きなんだろう)
「ねぇ、先輩」
意を決して尋ねてみると、秀介は歩道の右脇に足を止めてう~んと考え込む。
「逆に咲良はどんなのがいい?」
「えっ、私ですか?」
「同人誌にはダイヤの指輪と書いてあったよなぁ」
咲良が妄想していたのは、ブリリアンカットされたダイヤモンドが頂点で輝く、まさに王道の結婚指輪だ。
自分がイメージしていた指輪をドギマギしながら伝える。
「いいなぁ、それ! めっちゃいい!」
「え、ほんとですか!?」
「なんか、夢って感じでいいかも! わかった。今度の休み、咲良にプロポーズするから」
突然のプロポーズ宣言に、咲良はえ!? と目をまんまるにさせた。
「もうてっきり、結婚したのかと……あれ? お試し契約は終わって、本当に結婚するってなりましたよね?」
「ああ、そうだな」
「先輩のお母さんにも挨拶して……あれ、婚姻届出しましたっけ?」
疑問が次から次へと湧き出してはとまらない。今の関係は自覚しているよりもあやふやなものに気がついた咲良は、じっと秀介を見つめた。
「その目……もしかして疑ってる?」
「ぎゃ」
咲良の視界を、不敵に笑う秀介の顔が占拠した。
「君は俺の妻だって事、ちゃんとはっきりさせないとな」
「先輩……顔、近いですって。ここ人多いですからっ……!」
「咲良は変わらないな」
「ま、まあ……」
夜空を見上げると、満月がきらきらと輝きを放っていた。
「でも、学生時代に見た咲良よりも解像度は格段に上がった」
「ふふっなんですかそれ。それは私のセリフですよ」
たわいのない話で笑い合う。求めていた幸せを噛み締めながら夜の道を歩いていく。
そして――約束の日が訪れた。
宿題と並行しながら今日は体操服姿の先輩が見れた。腹筋がちらっと見えてセクシーだった……などと思い出しながら、妄想を書きなぐったりしていた事を振り返る。
「推しキャラとの夢小説や、先輩を模したキャラクターを作ったりして、ひとりで遊んでいました。ここには私が創造してきたものが沢山あったんです」
「……俺、咲良の部屋時々入って小説読んでた事があったのを思い出したよ」
「え、兄さん?!」
突然の告白に、ぎょっとした目を理一に向けてしまう。
「ごめん。今まで黙ってて」
「あっ、いや……大丈夫」
「咲良の書く小説、俺も好きだ」
「兄さん……」
世界の終わりを痛感した後、自分の小説を好きだと言う声を耳にするなんて思ってもいなかった咲良の目からは涙があふれ出てきそうになる。
「ははっ……書くのやめないで本当によかった……」
ぽろりと零れ落ちる涙を手の甲で拭うと、かつて己だけの世界があった場所に別れを告げた。
◇ ◇ ◇
咲良と理一は母親と縁を断つ事となった。理一は楓華の子が生まれるまでは婚姻関係を続ける事にしたが、その後ある程度子が育ったら離婚したい意志を固めている。
理一は新たに新居を構え、日本のオフィスで再就職先をあっせんしてもらった。転職先は取引先でもあった大手の電子機器メーカーで、職場は大学病院の近くにあるオフィス街。彼とのかかわりは以前にもまして強いものとなった。
そして今、仕事から帰って来た秀介と理一と共に、理一の暮らす新居にて夕食を囲んでいる。食事は理一の好きな寄せ鍋だ。鶏肉と豚肉、そしてたっぷりの野菜に骨を取った鮭の切り身などがぎゅうぎゅうに詰まっている。
「やっぱり寄せ鍋はいつ食べても美味しいなあ。ほっこりする」
「兄さん、あったかい食べ物好きだもんね」
「理一さん意外だなあ。でも、俺も寄せ鍋好きなんですよね。こうして箸をつついてあったかい食べ物食べるの、ほっこりするのわかります」
温かい空気の中、理一はそういえば。と何かを思いついたかのような仕草を見せる。
「2人とも、式は決まった?」
「あ……まだ決まってはないような……」
「咲良、ごめん。本当は俺から色々提案すべきだったよな」
「いやいや! 先輩もお忙しいでしょうし!」
今日はまだいつもよりほんの少し早めに退勤して、食事を楽しんでいる。しかしここ最近は夜勤が続き更には急患への対応が増加したりと多忙さを極めている状況だ。
2日間自宅に帰らなかった日もあり、秀介の目元には若干クマが出来ているほど。
(先輩、今が踏ん張り時だろうから……結婚式とかは、もっと落ち着いてからの方が)
「こっちこそ申し訳ない。そこは2人で話し合って決めるべきでしょうし」
「兄さん気にしないでよ」
まだ理一に元気が戻ったとは言いにくい。楓華とのあれこれは弁護士である奥野の弟らと共に対応に当たっているし、自分の暮らしもある。
「はあ、鶏肉美味しい……」
「兄さん、鶏肉多めに入れといて良かったね」
「シメのラーメンも楽しみだな」
「私も楽しみです、先輩」
寄せ鍋に入れた鶏肉はもも肉。弾けるような歯ごたえは3人ともお気に入りだ。
あっという間に具材と白米はなくなり、シメのラーメンも満喫した後は、一息ついてから秀介の自宅へと帰宅する。
その途中、当たり前のように恋人繋ぎする秀介の指に意識が飛んだ。
(結婚指輪……先輩どんなのが好きなんだろう)
「ねぇ、先輩」
意を決して尋ねてみると、秀介は歩道の右脇に足を止めてう~んと考え込む。
「逆に咲良はどんなのがいい?」
「えっ、私ですか?」
「同人誌にはダイヤの指輪と書いてあったよなぁ」
咲良が妄想していたのは、ブリリアンカットされたダイヤモンドが頂点で輝く、まさに王道の結婚指輪だ。
自分がイメージしていた指輪をドギマギしながら伝える。
「いいなぁ、それ! めっちゃいい!」
「え、ほんとですか!?」
「なんか、夢って感じでいいかも! わかった。今度の休み、咲良にプロポーズするから」
突然のプロポーズ宣言に、咲良はえ!? と目をまんまるにさせた。
「もうてっきり、結婚したのかと……あれ? お試し契約は終わって、本当に結婚するってなりましたよね?」
「ああ、そうだな」
「先輩のお母さんにも挨拶して……あれ、婚姻届出しましたっけ?」
疑問が次から次へと湧き出してはとまらない。今の関係は自覚しているよりもあやふやなものに気がついた咲良は、じっと秀介を見つめた。
「その目……もしかして疑ってる?」
「ぎゃ」
咲良の視界を、不敵に笑う秀介の顔が占拠した。
「君は俺の妻だって事、ちゃんとはっきりさせないとな」
「先輩……顔、近いですって。ここ人多いですからっ……!」
「咲良は変わらないな」
「ま、まあ……」
夜空を見上げると、満月がきらきらと輝きを放っていた。
「でも、学生時代に見た咲良よりも解像度は格段に上がった」
「ふふっなんですかそれ。それは私のセリフですよ」
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そして――約束の日が訪れた。
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