ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第35話 プロポーズ

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 そして秀介の手は最後の頁に差し掛かった。ぎゅっと目を閉じてしまおうとする恐怖感が湧いてきそうになるが、ぐっとこらえて彼の顔を見つめ続ける。

「……読み終えたよ」

 2人だけの世界に浸透していた静寂を切り裂くような彼の言葉が、朗らかな笑みと共に紡がれる。

「どうでしたか?」
「うん……咲良から見た俺はこんなにも輝いていたんだなって」
「……嫌でしたか?」
「とんでもない。むしろ自信を持てたよ」

 手を組んで真剣に咲良を見つめる彼の目は、少しだけ淀んでいる。

「こんなに咲良からは輝いて見えていたなんて、思ってもみなかった。本当に君に出会えてよかったと心の底から思っている」

 ふふっと笑う彼の顔、一挙手一投足から目が離せられない。

「俺は、正直なんの面白味もない人間だと思っていたかもしれない」
(だから、そんな目をしているの……かな……?)

 そんな事ないです。と否定しようにも彼に圧倒されて言葉が喉奥から出てこない。

「自分が言うのもなんだけど、俺はモテてた。バレンタインのチョコレートとかラブレターとか、たくさんもらって来た。でも、俺の心を引くような子はどこにもいなかったんだ」

 バレンタインデーは毎年大騒ぎになっていたのを、咲良は鮮明に覚えている。勿論自分は彼へバレンタインチョコレートを出す勇気はなかったが、友人に誘われるようにコンビニで購入した、冬季限定品の生チョコレートを渡した思い出さえ、昨日の事のように思い出せる。

「だから、俺にとっての初恋は咲良なんだ」
「先輩……私が、初恋だったんですか」
「君を居酒屋で見つけた時、これだって思った。もう二度とこのチャンスを手放したらダメだって本能が言っていた」

 淀んでいた彼の瞳へゆっくりと光がさしていく。これだけ自分が秀介の中で大きな面積を占めているとは思ってもみなかった咲良は、口を半開きにして彼の表情を見つめるだけだ。

「先輩こそ、あの時私を見つけてくださってありがとうございます」
「あの時の君は大変だったもんな」
「まさか、先輩の家で過ごせるなんて夢でも見ているみたいでした」
「ははっ、そっか」

 これ、また帰ってから読み返していい? と聞かれたので首を縦に振る。同人誌を受け取り白い紙袋の中に仕舞った。
 それと同時に、咲良のお腹の奥からぐぅ……と音が鳴る。

「お腹空いちゃいましたね、ごめんなさい」
「いいよ全然」

 前菜とメインディッシュ、スープにデザートを頂いた後、咲良が夜景を眺めていた時。

「咲良」

 ふいに左手を秀介に掴まれる。気がついて視線を移すと、薬指に何かがはめられようとしていた。

「あ……」

 薬指でまばゆい光を放っているのは、ブリリアンカットされたダイヤモンドの指輪。
 天井のシャンデリアと乱反射し、虹色の輝きに包まれている。

「わあ……」

 あまりの神々しさに、思わず息を呑む。ファンタジーで幻想的な雰囲気に、今いる世界を忘れてしまいそうになるほどだ。

「すごい、綺麗……まるで魔法の指輪みたい……!」
「咲良ならそう言うと思った」
「これ、どこで買ったんですか……?」
「答えたい所だけど、内緒。だって魔法が解けちゃうだろ?」

 秀介のキレの良い返しに、咲良はクスッと笑って反応した。

「咲良、俺の妻になってください」

 ずっと言われたかった言葉がかけられると、身体の奥から熱を放つ。
 妄想ではなく現実で起きた事に対して、驚きはもうなかった。

「はい。こちらこそよろしくお願いいたします」
「こちらこそ」

 秀介の瞳を見て、何でもない笑いが出てくるのと同時に、ぽつりぽつりと涙がこぼれ落ちる。

「咲良」
「嬉し泣き……いいものですよね」
「おいやめろって。俺まで移りそうになるじゃんか」
「先輩が泣いてるとこ、そういやまだ見た事ないですね……」

 笑いと涙に溢れた2人を、シャンデリアと夜景、星空の光が穏やかに見守っていた。

◇ ◇ ◇

「咲良、好きなドレスを選んでいいよ」

 プロポーズから時は経ち。今は結婚式場でウェディングドレスを選んでいる最中だ。どれも綺麗で思わず目移りしてしまいそうになる咲良だが、彼女の中ではこれ! と決めていたデザインがある。

 それはふんわりとしたシルエットに、胸元には大きなリボンのついた長袖のもの。肩を見せたり露出は苦手なのと、乙女のような可愛らしい要素を両立したデザインは学生時代から妄想し続けていたものだ。

 今日はそのデザイン画を手にやってきている。

「もう決めてありますからね。デザインは」
「もしかして、同人誌にもう出たりする?」
「ぎゃっ、ちょっと、その話はふたりっきりの時だけって言ってたじゃないですか……!」
「はは、ごめんごめん。つい……だって俺の好きな子が俺を書いてくれてたやつだから。嬉しくて」

 もう……と言いつつも作者冥利に尽きるのには変わりないので、笑みがこぼれだしてしまう。

「お客様よろしければ、デザイン画の通りにオーダーメイドする事も可能ですよ」
「えっほんとですか?! じゃあお願いします……!」
「おっじゃあ決まりだな」
「はい。やっぱりやるからには妄想を全部具現化したいじゃないですか」

 ウェディングドレスのオーダーメイドが決まり、当日の式の流れなどの打ち合わせも完了した所で2人はマンションへと戻り昼食を取る。

 午後のまどろみを覚えて目をこすりながら洗い物をしていると、秀介が突然咲良の背中に抱き着いてきた。

「なあ、咲良。さっきの話なんだけどさ。妄想を全部具現化したいって言ってたやつ」
「は、はい。秀介さん。もちろん、こだわりたいと思ったので」

 咲良が先輩呼びを辞めてからはまだ日が浅い。なのでまだ慣れたとは言い難い状況だ。

「じゃあさ、俺との子供も妄想通りって事で良いんだよね?」
(え?! えっと、そういえば……あ! そうだ! なんか3人くらい設定で書いた覚えが……!)

 当時の記憶を引っ張り出していると、秀介は強引に咲良の顎に手を添えて唇を塞いできた。

「んっ! むうっ~! んっ……! っふっ……!」

 苦しくなっていく上に、力が急激に落ちていく。体感で数十秒後に唇が離れていくと、肩を上下に揺らして新鮮な息を吸った。

「はあっはあっ……! はあっ……!」
「はあ、そんな誘うような目で見られたらさ、俺我慢できなくなる……」
「やっ、私は誘ってなんか……!」
「子供3人欲しいって事はそう言う事だって思ったけど。未だに恥ずかしい?」

 羞恥心に蹴落とされるようにして首を縦に振る。すると秀介はふふっといたずらっぽい笑みを浮かべた。

「ま、そんな謙虚な咲良も可愛いな。高校の時と全然変わってないし」
「うっ……」
「はあ、ちょっと我慢できそうにないからここでシてもいい、よな?」

 怖いもの見たさで後ろを振り返ると、にんまりと笑う秀介の顔があった。頬は既に紅潮していて蕩けた目じりは煽情的に見える。

(やっぱり、妄想よりもはるかにえっちだ。でも好き……) 

 こくりと小さく頷いた咲良はそれから秀介の手で朝まで抱きつぶされる事になる。
 その快楽はこれまで注がれてきたものとは比べ物にならない程気持ち良くて愛に満たされていた。

◇ ◇ ◇

 結婚式当日。昨夜から降り続いていた雨はすっかり止み、温かな日差しが降り注いでいる。
 目を覚ますと傍らに秀介の姿はなかった。

「おはようございます~」
「おはよ、咲良。寝れた?」

 紺色のトレーナーと黒いズボンを履いた秀介は台所に立ち、みそ汁を作っている。 
 いつもと変わらないのんびりとした姿に、今日が挙式であると忘れてしまいそうになった。

「お腹、空いちゃいましたね」
「式長いし、しっかり食べといた方がいいかなって」

 温かなみそと出汁の香りが鼻腔をついて幸福感を感じさせてくれる。
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