ずっと片思いしていたエリート外科医の溺愛は妄想と違って淫らな模様です

二位関りをん

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第36話 結婚式とその夜

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 出来上がった朝食がことことと並べられていく。ニンジンとゴボウとネギが入ったみそ汁に、ごはんと炒り卵、納豆はどれもおいしそうだ。

「これから先、ずっと朝ごはん一緒に食べたいですね」
「咲良からそう誘われるなんてな。もちろん、一緒に食べよう」

 朗らかな空気を全身に浴びながら朝食を食べ終え、支度を済ませて結婚式場に入る。
 
「じゃあ、またあとで」

 秀介とはここで一旦別れ、それぞれの控室に入る。
 そこでヘアセットと化粧しつつ、ドレスへ着替えた。
 鏡に映る自分が自分でなさそうな錯覚に至る中、控室の扉をノックする音がする。

「どうぞ!」
「失礼します。まあ、咲良……! 立派になって……!」

 そこに現れたのは咲良の母方の祖父母だった。
 あの騒動以来、実家・もとい母親とは連絡を絶っている。しかし祖父母とは時々連絡を送り合っていた。
 祖父母は会う度に優しく接してくれていたのだが、母親との仲はお世辞にも良いとは言えない。いがみ合っていた訳でもないが、いつもぴりぴりとした空気が少しだけ流れていたのを覚えている。
 そんな彼らから、母親が松原への示談金を支払わなければならなくなった為、実家を引き上げて売りに出し、今は母方の家で肩身の狭い思いをしていると聞いた事を思い出してしまった。

「おじいちゃん、おばあちゃん……!」

 祖父も祖母も真っ白な髪をしているが、祖父はオールバックに、祖母はひっつめ髪に黒いカチューシャを付けてしっかりとセットしているのが確認できた。祖父の明るめのグレーのスーツと、祖母の淡い桜色のパーティードレスが温かさを演出してくれているような気がする。

「元気そうでよかったよ。今日はおめでとう」
「本当は私達、来ない方がいいかなと思ってたの。でもやっぱり孫の晴れ姿はどうしても見たくなっちゃって」
「ううん。全然迷惑だなんて思ってないよ。むしろおじいちゃんとおばあちゃんに会えてとっても嬉しい!」

 すると祖父がジャケットの裏ポケットからピンク色の封筒を取り出した。お年玉をもらう際によく使っていたような封筒である。

「これ、よかったら」
「おじいちゃん、もしかして……!」

 封筒の中を透かして見ると、新札の1万円札が5枚入っていた。

「えっ、あなたご祝儀以外にもお金用意してたの?」

 祖母が目を丸くして封筒と祖父を見つめている。彼女曰く、先ほど咲良の元へ来る前にご祝儀を受付へ渡したそうだ。

「うん」
「うん?! もう……」

 祖父はにこにこと笑いながら封筒を差し出している。母親は祖母に隠れてお小遣いをもらった思い出を懐かしみながら、震える手で封筒を受け取った。

「いつもありがとう。2人とも」
「実は私も用意してたのよ」
「えっおばあちゃんも?!」
「お金は少ないけれど……もしよかったら使ってちょうだい」

 黒い革製のバッグから取り出されたのは、薄紅色の封筒と、黒いベルベットの四角いケース。ケースの大きさは大体握りこぶし一つ分くらい。そっとケースを開けてみると、中には真珠のイヤリングが仕舞われていた。

「おばあちゃん、これ……!」
「実はそのイヤリング、私が作ってみたの。よかったら今つけてみる?」
「うんうん! つけたい!」

 祖母がそっと両耳にイヤリングをつけてくれた。大きな白い真珠が光に当たってきらめきを放っているのが、鏡越しに見て取れる。
 より華やかになった姿に笑みを浮かべながら、時間が来るまで祖父母と楽しい時間を過ごしたのだった。
 スタッフに呼ばれ、いよいよヴァージンロードを歩く瞬間が訪れた。咲良の父は故人なので、祖父とヴァージンロードを歩く事になる。祖父の腕に触れると以前見た時よりもだいぶ肉が落ちて痩せたなと感じて思わず心配になってしまった。

「おじいちゃん、もっと食べなよ」
「ははっ、孫から心配されてしまった。今日は美味しいご飯が沢山出るし、ちっとはマシになるさ」
「ふふっ。おじいちゃんお肉大好きだもんね」

 白い扉が開かれ、雪のような白いチャペルの壁と深紅の絨毯が視界に飛び込んでくる。緊張の面持ちで歩いていくと、白いウェディングスーツに身を包んだ秀介の姿がそこにはあった。
 何度も結婚式を妄想してきたが、やっぱり現実にはかなわない。振り返ってにこやかに微笑む彼の顔を見ながら咲良は幸せをかみしめたのだった。

◇ ◇ ◇

 挙式も披露宴も無事終わり、今は夜の22時。自宅に戻った咲良はかつて執筆した同人誌のサンプルをスマホで眺めていた。サンプルは某投稿サイトにアップしているもの。今も時々閲覧者が来ているのかブックマークなどが増えつつある。

「結婚式場は白くて小さな教会……かぁ。今日式を挙げた所とほぼ同じだ。で、こっちは神前結婚式。う~~んこっちもよきだなあ。和服姿の先輩絶対かっこいいもん」

 実際披露宴でお色直しをした際、黒い紋付袴姿となった秀介は品のある色気と爽やかさを身にまとっていた。その姿はしっかりと咲良の脳内フォルダに保存済みである。

(ああ、この脳内フォルダから直接画像プリント出来たらなあ……!)
「咲良、入っていいか?」
「あっ、はい! どうぞ!」

 白いトレーナーと黒いズボンを身に着けた秀介が、扉を開けて中へ足を踏み入れる。

「まだ起きてたんだ。疲れてないか?」
「いや、なんか逆に元気って感じで」
「なるほど、興奮状態ってやつか。入院している患者さんがそうなってるのたまに見るからそれかな?」
「眠れないやつですよね、それです!」

 じゃあ俺が寝かしつけてあげようか? と誘って来たので、咲良はえっ。と小さな声を出す。

「子守歌でも歌ってくれるんですか?」
「子守歌、なにがいい?」
「ええ……ダメだ、ねんねんころりよ~くらいしか思いつかないです」

 ははっと笑い合っていると、椅子に座っている咲良の後ろから秀介が抱き着いてきた。

「あの日、夢の中で咲良はさ、何に抱き着いてた?」
「夢? いつの事でしょうか?」
「俺と久しぶりに会った時。酔っ払ってたじゃん。あんまり覚えてないか」
「ああ……ちょっと待ってくださいね! 今思い出しますので!」

 秀介と再会し、話が弾んだ後。咲良の視界には樹齢数百年クラスの桜の大樹が草原の中央に鎮座していた。桜の幹を掌で触れると温かく、癒された心地になったのを覚えている。

(桜の木にどうか私に衣食住と、出来たら春日先輩とデートかハグがしたいってお願いしたんだっけ)
「あの時の咲良、まさかあんなに積極的だとは思ってなかったから驚いたんだよなあ」
「うっ……笑わないでください」
「バカにはしないよ。驚いたけど」

 このままネタにされ続けるのはごめんだと思っていた所に、秀介の吐息が左耳にかかる。

「あっ……」
「ああ、ごめんごめん。ちょっと離れた方がいい?」
「……わざとですよね?」
「どっちだと思う?」

 振り返るといたずらっぽく笑う秀介の姿があった。こんな時も綺麗だなんてずるい。と心の中でつぶやいた咲良は、じっと彼の顔を見つめ続ける。

「……咲良」
「秀介さん、わざとじゃないんですか?」
「正解。で、咲良はどっちがいい?」

 ふふっと笑う彼の頬は少しだけ紅潮している。お風呂上りにしてはもうだいぶ時間も過ぎているので、なぜ紅潮しているかの答えはひとつしかない。
 そして秀介にどうされたいかの欲求と向き合った瞬間、咲良のお腹の奥がじゅっと熱を放った。

「……ぎゅっとしてください」
「それだけでいいんだ?」
「それと、っと……頭、撫でてほしいなって」
「いいよ。よしよし」

 再び後ろから腕を回され、右手でぽんぽんと優しく頭を撫でられる。彼の手にそのまま甘えたくなる気持ちが湧いてきた。

「もうちょっと撫でてもらってもいいですか?」
「いいよ。咲良が気が済むまで。でも椅子に座りっぱなしじゃ体勢きついだろうし、ベッドいく?」

 ベッドと言う単語が、咲良の全身を稲妻の如く駆け巡っていった。

「もしかして……誘ってますか?」
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