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第1話 セフレと同じ顔が2つ
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今頃「あの人」は一体何をしているんだろう。初めて会って2カ月しか経ってないけど、少なくとも生きるモチベーションは大幅に上がった。なぜなら彼と「セックス」している時が、ここ数年で一番楽しさとぬくもりを感じられたからである。
この都内某所にある大学病院だが、患者数のピークは2つある。まずは受付が始まる朝イチの時間帯で、もうひとつはまさに今、夕方だ。
仕事を早退したり、部活を休んでやってくる患者さんが多いからだろう。私・島内加恋は総合受付のカウンターに手診察を終えた患者さん達から専用ファイルを受け取り、発行された会計番号を渡していた。
すると私から見て左側にある、グレー色のソファに腰かけていたおじいさんが杖を突きながらこちらへと近づいてくる。その顔は見飽きるほど見てきたしかめっ面だ。
「おい! 会計はまだかぁ!」
また始まった。いやまあ待たされて嫌な気持ちはわかるけどね?
「大変申し訳ございません、あともう少しで番号が表示されるかと思いますので、もう少々お待ちいただけますでしょうか?」
おじいさんの持つ会計番号は635。現在表示されているのは630。なので正味数分もすれば表示されるはずだ。
総合受付の近くにはカフェとかパン屋さんにケーキ屋さんとか図書館とか時間潰す場所はいくらでもあるのでそっちにいけばいいのに。と言いたい気持ちをぐっとこらえつつ眉を八の字に下げる。
「ねえ、おじいちゃん! 何してるの~?」
小学校低学年くらいの女の子が薄い紫色のランドセルを背負って現れた。ぴょこぴょこと無邪気にはしゃいでいる姿に、おじいさんの険しい顔つきは崩れていく。
「ああ、お会計まだかって聞いていたんだよ」
「さっきあっちのパン屋さんにミルクフランスあったよ! おじいちゃん買って!」
これはナイスタイミング。会計が出来るまで待つのもしんどうだろうし、女の子のお買い物に付き合ってはどうかと提案した所、快く受け入れてくれた。
「よかった」
女の子の手を引いて西側にあるパン屋へと向かっていくおじいさんの背中を見つめながら、心の中で息を吐いたのだった。
それからは特に大きなトラブルもなく、17時30分ピッタリで外来受付業務は終了。今日もよく頑張った自分! と心の中で自分自身を褒める。
同じ部署の先輩や上司達は肩を大きく回したり、煙草を吸いにいったりと各々退勤へのルーティンにはまっていく。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「島内さんお疲れさま~」
先輩1人同僚2人と一緒に地下にあるロッカーへと足早に降りていく。
ロッカーで着替えている最中は皆、仕事の話はしない。プライベートの話は少しだけするけど、あんまり会話はしない。皆自らの事で精一杯だから。
私服に着替え終わった私が、涼やかな秋風が吹く病院の正門に出た時。
「加恋ちゃんお疲れ~! 今から飲みに行かない?」
くそ、面倒なやつが来た。振り返るとグレーのスーツ姿に深い茶色のツーブロックヘアをした長身の男性が手を振りながらにやにやと笑っている。
「森川さん……お疲れ様です」
この男は森川義之。同僚のひとりだが彼の所属部署は入院事務業務なので私とは違う。いわゆる陽キャな今時の若者って感じで、軽そうなところとか舐められているみたいで生理的に無理。
「もう~いっつも堅苦しいなあ。あっ今日俺と飲みに行かない? 他にも行く人いるから楽しいと思うよ?」
「や、いいです。疲れているので」
「即答! でも飲んだら疲れもぱぁっと楽になるよ! 加恋ちゃんいっつも気を張り詰めてるんだからたまには肩の力抜きなって」
アルコールにそんな力あるわけあるかい。と突っ込みそうになるのをぐっとこらえながら、無視して足を踏み出す。
「ちょ、無視?!」
「すみません、聞こえていなかったので……」
「え~ほんとうに~? あ、もしかして俺の事考えていたから気がつかなかったとか?」
いつまでウザ絡みを続ける気なんだろう。大きくため息を吐くと左前方からちょっといい? と聞いた事のある声が聞こえてきた。
でも声音が低くて明らかに怒りの感情がこもっているのが分かる。
「え?」
背中が震えるのを感じながら声がした方を見ると、同じ顔が2つあった。
どちらも金髪マッシュルームカットで、ぱっちりとした二重に端正な顔立ちをしている。よ~く見てみると右側の白いタートルネックのトップスに黒いパンツを着た人物の目つきは鋭くて、左側にいる黒いジャージ姿の男性の目つきはたれ目寄りだ。
彼らの顔はどちらも知っているし覚えていないわけがない。だけど、知っている顔がなんでか2つ並んでいるのだから、動揺が抑えきれない。
「しゅ、しゅうさん?」
私はおそるおそる顔の持ち主たる名前を呼んだ。どうして2人いてここにいるのかとか数えきれないほどの疑問が頭の中を駆け巡っているのに、うまく言葉に出来ない。
「あ、あ……えっと」
2人から同時に睨まれている森川は、まるでカミナリを落とされる前の子供みたいに顔を引きつらせている。なんだかいい気味だ。
「その子に近づかないでくれるかな? 大事な子にそんな事しちゃ迷惑なんだよね」
右側の人物はそう言って、輝きの全くない目をしたままうっすらと笑った。
しゅうがこんな表情をするのは初めて見るなと気がついた途端、ぞくりと背筋が凍り付いた。森川はというと、ひぃっと情けない小さな悲鳴を漏らし、全速力で逃げ出す。
邪魔な森川がいなくなったので、この場にいるのは私と彼らの併せて3人となる。
「え、えっと……その……」
「カレコちゃん驚かせてしまってごめんね?」
「兄貴、俺らが双子っての、カレコさんには言ってなかったんだっけ。あ、久しぶりだね。俺とシたの思い出してくれた?」
黒ずくめのジャージ姿の男性が言い放った、双子というワードに頭の奥深くから光がぱっと差し込んでくるような感覚を覚えた。
そりゃあ、これだけ似ているんだからそうなのだろうけど。
「じゃ、改めて自己紹介しよっか。俺が本物のしゅう。崎田秀人。兄の方ね。で、左側にいるのが弟の静人。安心して。カレコちゃんはどっちともシてるから」
「えっ……じゃあ、私のセフレは2人いたって、事ですか?」
にっこりと笑って頷く秀人と真一文字に口元を結ぶ静人の表情を交互に見つめていると、これまで彼らと交わしてきたやり取りと情事の数々の記憶をたどるようにして思い起こされる。
「あ、もしかして……」
「カレコちゃん。どっちがどっちだったか……わかるかな?」
――どうやら2週間前にしゅうと再会した際に感じた「違和感」は、これだったのか。
この都内某所にある大学病院だが、患者数のピークは2つある。まずは受付が始まる朝イチの時間帯で、もうひとつはまさに今、夕方だ。
仕事を早退したり、部活を休んでやってくる患者さんが多いからだろう。私・島内加恋は総合受付のカウンターに手診察を終えた患者さん達から専用ファイルを受け取り、発行された会計番号を渡していた。
すると私から見て左側にある、グレー色のソファに腰かけていたおじいさんが杖を突きながらこちらへと近づいてくる。その顔は見飽きるほど見てきたしかめっ面だ。
「おい! 会計はまだかぁ!」
また始まった。いやまあ待たされて嫌な気持ちはわかるけどね?
「大変申し訳ございません、あともう少しで番号が表示されるかと思いますので、もう少々お待ちいただけますでしょうか?」
おじいさんの持つ会計番号は635。現在表示されているのは630。なので正味数分もすれば表示されるはずだ。
総合受付の近くにはカフェとかパン屋さんにケーキ屋さんとか図書館とか時間潰す場所はいくらでもあるのでそっちにいけばいいのに。と言いたい気持ちをぐっとこらえつつ眉を八の字に下げる。
「ねえ、おじいちゃん! 何してるの~?」
小学校低学年くらいの女の子が薄い紫色のランドセルを背負って現れた。ぴょこぴょこと無邪気にはしゃいでいる姿に、おじいさんの険しい顔つきは崩れていく。
「ああ、お会計まだかって聞いていたんだよ」
「さっきあっちのパン屋さんにミルクフランスあったよ! おじいちゃん買って!」
これはナイスタイミング。会計が出来るまで待つのもしんどうだろうし、女の子のお買い物に付き合ってはどうかと提案した所、快く受け入れてくれた。
「よかった」
女の子の手を引いて西側にあるパン屋へと向かっていくおじいさんの背中を見つめながら、心の中で息を吐いたのだった。
それからは特に大きなトラブルもなく、17時30分ピッタリで外来受付業務は終了。今日もよく頑張った自分! と心の中で自分自身を褒める。
同じ部署の先輩や上司達は肩を大きく回したり、煙草を吸いにいったりと各々退勤へのルーティンにはまっていく。
「お疲れ様です。お先に失礼します」
「島内さんお疲れさま~」
先輩1人同僚2人と一緒に地下にあるロッカーへと足早に降りていく。
ロッカーで着替えている最中は皆、仕事の話はしない。プライベートの話は少しだけするけど、あんまり会話はしない。皆自らの事で精一杯だから。
私服に着替え終わった私が、涼やかな秋風が吹く病院の正門に出た時。
「加恋ちゃんお疲れ~! 今から飲みに行かない?」
くそ、面倒なやつが来た。振り返るとグレーのスーツ姿に深い茶色のツーブロックヘアをした長身の男性が手を振りながらにやにやと笑っている。
「森川さん……お疲れ様です」
この男は森川義之。同僚のひとりだが彼の所属部署は入院事務業務なので私とは違う。いわゆる陽キャな今時の若者って感じで、軽そうなところとか舐められているみたいで生理的に無理。
「もう~いっつも堅苦しいなあ。あっ今日俺と飲みに行かない? 他にも行く人いるから楽しいと思うよ?」
「や、いいです。疲れているので」
「即答! でも飲んだら疲れもぱぁっと楽になるよ! 加恋ちゃんいっつも気を張り詰めてるんだからたまには肩の力抜きなって」
アルコールにそんな力あるわけあるかい。と突っ込みそうになるのをぐっとこらえながら、無視して足を踏み出す。
「ちょ、無視?!」
「すみません、聞こえていなかったので……」
「え~ほんとうに~? あ、もしかして俺の事考えていたから気がつかなかったとか?」
いつまでウザ絡みを続ける気なんだろう。大きくため息を吐くと左前方からちょっといい? と聞いた事のある声が聞こえてきた。
でも声音が低くて明らかに怒りの感情がこもっているのが分かる。
「え?」
背中が震えるのを感じながら声がした方を見ると、同じ顔が2つあった。
どちらも金髪マッシュルームカットで、ぱっちりとした二重に端正な顔立ちをしている。よ~く見てみると右側の白いタートルネックのトップスに黒いパンツを着た人物の目つきは鋭くて、左側にいる黒いジャージ姿の男性の目つきはたれ目寄りだ。
彼らの顔はどちらも知っているし覚えていないわけがない。だけど、知っている顔がなんでか2つ並んでいるのだから、動揺が抑えきれない。
「しゅ、しゅうさん?」
私はおそるおそる顔の持ち主たる名前を呼んだ。どうして2人いてここにいるのかとか数えきれないほどの疑問が頭の中を駆け巡っているのに、うまく言葉に出来ない。
「あ、あ……えっと」
2人から同時に睨まれている森川は、まるでカミナリを落とされる前の子供みたいに顔を引きつらせている。なんだかいい気味だ。
「その子に近づかないでくれるかな? 大事な子にそんな事しちゃ迷惑なんだよね」
右側の人物はそう言って、輝きの全くない目をしたままうっすらと笑った。
しゅうがこんな表情をするのは初めて見るなと気がついた途端、ぞくりと背筋が凍り付いた。森川はというと、ひぃっと情けない小さな悲鳴を漏らし、全速力で逃げ出す。
邪魔な森川がいなくなったので、この場にいるのは私と彼らの併せて3人となる。
「え、えっと……その……」
「カレコちゃん驚かせてしまってごめんね?」
「兄貴、俺らが双子っての、カレコさんには言ってなかったんだっけ。あ、久しぶりだね。俺とシたの思い出してくれた?」
黒ずくめのジャージ姿の男性が言い放った、双子というワードに頭の奥深くから光がぱっと差し込んでくるような感覚を覚えた。
そりゃあ、これだけ似ているんだからそうなのだろうけど。
「じゃ、改めて自己紹介しよっか。俺が本物のしゅう。崎田秀人。兄の方ね。で、左側にいるのが弟の静人。安心して。カレコちゃんはどっちともシてるから」
「えっ……じゃあ、私のセフレは2人いたって、事ですか?」
にっこりと笑って頷く秀人と真一文字に口元を結ぶ静人の表情を交互に見つめていると、これまで彼らと交わしてきたやり取りと情事の数々の記憶をたどるようにして思い起こされる。
「あ、もしかして……」
「カレコちゃん。どっちがどっちだったか……わかるかな?」
――どうやら2週間前にしゅうと再会した際に感じた「違和感」は、これだったのか。
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