婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第31話 アダン様との作戦会議と即位記念パレード

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「わかりました」
「じゃあ、早速だけど作戦会議をしよう。昼のパレードは薬師として出席してもらって大丈夫だ。問題は夜。とりあえずジャスミンには、舞踏会に出て欲しい」
「なぜ私を舞踏会に?」
「貴族から結婚相手について聞かれるのが面倒なのと、斡旋を受けるのをなるべく避けたいから。こう言うの頼めるのジャスミンしかいないからさ」
「斡旋?」

 聞けば、舞踏会にてアダン様と踊ってくれるようにと貴族達から斡旋を受ける事がよくあるのだという。これで去年トラブルが発生し、解決したものの面倒くさい事になったからとアダン様は嘆いていた。

「いやあ、あの時は本当に面倒くさかった。令嬢同士が取っ組み合いの喧嘩するんだもん」
「それは……」
(確かに面倒くさいな)
「アダン様。この際ですけど実は王妃様にアダン様がこうして私と親しくしているのを知っているという事を言われまして……」

 その事を聞いたアダン様。ふうん。とさも当然のように鼻を鳴らす。

「だろうね。アネーラの事だし知っていると思ったよ」
「あの、大丈夫なんですか?」
「アネーラは元奴隷で後ろ盾はいないに等しいからその辺はさほど気にしなくていいよ。君は仮にもヨージス侯爵家出身だ。それに俺もいるから下手に手は出せない。彼女に王位継承権もなければ、政治に関わるのも出来ない」
「なるほど……」
「アネーラは実は読み書きもそこまで出来ないからね。だから、子供がほしい訳だ。男子が産まれればその子を王太子につけられると思って躍起なのさ。そうでもしないと後ろ盾は手に入らないと思っているから」

 奴隷出身の身分であるアネーラを見下すようにアダン様は笑う。そんなアネーラだが、更に詳しく出自についてアダン様が教えてくれた。
 彼女は元は他国の平民出身で、両親を流行り病で亡くしてからはジプシーに合流して踊り子となり、決まった家は持たずに各地を仲間達と放浪していたようだ。だが、戦争に巻き込まれた彼女はこの国の奴隷となってしまった。そこで国王陛下に気に入られ、宮廷入りして王妃まで登りつめたのだった。

(知らなかった)

 後ろ盾がいないのも、頼れる人物が国王陛下以外にいないというのも頷ける。

「彼女が王妃になる時、実際貴族達のほとんどが反対していたからね。おばあさまもそうだ。それに俺を産んだ母上は、ジャスミンと同じ侯爵家出身の令嬢だった。父上は反対を押し切る形で結婚したんだ」
「今は、どうなってるんです?」
「貴族からもあまりよくは思われていないかな。本人は子供を産んで見返したいみたいだけど」

 王妃アネーラについての話が一通り済んだ所で、作戦会議に戻る。

「とりあえず君は俺と踊ってくれるだけで良い。晩餐会は任せる」
「裏で料理を頂いても?」
「勿論」
「わかりました。では、晩餐会が終わった後に合流ですね」
「ああ。仮面を忘れずにつけてほしい。ドレスや化粧はハイダやメイド達に任せる」
「了解しました」
「ダンスが終われば、そのまま退出してくれていいよ。長居すれば両親や妹夫婦にバレる危険性も増すだろうし」

 確かに彼の言う通りだ。さっさと踊るだけ踊って出ていった方が良い。

「では、そのように行きましょう」
「ああ、よろしく頼むよ。本音を言うと君とダンスを踊りたいという気持ちもある」

 アダン様がにこりと私へ微笑みを向け、作戦会議は幕を閉じた。
 パレード当日の朝。朝食を食べ終えアダン様への診察も終えた私は、ハイダらと共に宮廷から出て、外にある大通りの隣にある広場へと向かう。広場横のアパルトマンを貸し切り、そこからパレードを見学するのだ。
 広場には既に歩兵と軍馬、大砲が待機してある。

「豪華ですねえ」
「そうでしょう、ジャスミンさん。あなたはどの兵が好き?」
「メラニーさん。私はやはり騎馬隊ですかね。馬も好きなので」
「いいわよねお馬さん。かわいくて私も好きだわ」

 アパルトマンの3階から広場を見降ろす。軍馬は時折首を動かしたり。耳をくるくると色んな向きにしながら、パレードが始まるのを行儀よく待っている。

「皆さん、もうすぐ始まるみたいです」

 いつもと同じ薬師としての服装をしているハイダからそう告げられ、私は口を結んで広場に視線を飛ばす。すぐに騎馬楽団の演奏が始まり、兵の行進が始まる。

(始まった)

 騎馬楽団が列を先導しながら広場を回り始める。その後を歩兵、槍を持った騎馬兵、大砲と続いて、大通りから白馬に跨った軍服姿のアダン様が広場へと入ってきた。
 赤い軍服姿に剣を腰に装着したその姿は凛々しく、かっこいい。

(アダン様かっこいいな。軍服も似合っている)

 そして、その後ろをアダン様と同じく軍服姿の国王陛下がおそらく青鹿毛と思わしき黒い馬に騎乗して、現れた。
 更に国王陛下の後ろには金色に光り輝く丸い馬車が現れる。

「あの馬車は?」
「あそこに王妃様と王太后様がいらっしゃいます」
「医薬師長教えていただきありがとうございます」

 そう言えば、アダン様は王妃アネーラとの結婚の際、王太后様も反対されていたと聞いた。仲はあまりよろしくはなさそうだが、同じ馬車の中大丈夫なのかという疑問が湧く。

(まあ、うまい事やってるか)

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