婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

第42話 地方公務

　それにしても忙しい日が時間の流れを早くする程に続いていく。この日はアダン様は南部の地方へと2泊3日で公務に向かわれる。私も薬師として同行する事が決まっている。
　出発時にはハイダとメラニー、薬師達が朝早いにも関わらず玄関まで見送りに来てくれた。

「ジャスミンさん、お気をつけて」
「はい、医薬師長。あと薬師のみなさんとメラニーさん、私がいない間よろしくお願いします」

　馬車に乗って、アダン様よりも先に南部の町、ピレネーへと向かう。馬車は以前ユングミル城へ向かった時のものよりも少しだけグレードアップしたのか、ベルベットの紫色の座席がそこまで硬さを覚えない感触になっている。

（前よりもふかふかしてる）

　1人で乗り込んだ馬車は勢いよく風を切ってピレネーへと駆け出す。窓から見える景色はさまざまに移り変わって飽きさせない。

（南部はこんな街並みなのか）

　宮廷周りの街やユングミル周辺の町とは、建物の外観が少し違うように見受けられる。具体的に言うと建物の色が前者よりもカラフルで、まるでおとぎ話に出てきそうな色合いをしている。
　また、そんなカラフルなアパルトマンが数多く立ち並んでいる。その向こうには海も見えた。

（綺麗！）

　遠目ながらも太陽の光を浴びてきらきらと海面が輝いている様子が見て取れた。

（海行ってみたいな）

　宿泊先となる屋敷に到着した。腰と尾てい骨の痛みは若干あるものの、これくらいならどうとでもなりそうだ。
　大きなトランクを抱えるようにして馬車から降りて、玄関で出迎えるメイドに挨拶をする。

「ジャスミン・ヨージスです。アダン様の薬師です。よろしくお願いします」
「ジャスミンさんお待ちしておりました、どうぞこちらへ」

　中年くらいの背の高いメイドに案内された先にあるのはゲストルームだった。ユングミル城のゲストルームよりも更に広い。部屋のベッドは白い天蓋付きで柱は黄金の装飾が施されている。ソファに椅子と言ったほかの家具も王族が使っていてもおかしくないくらいの豪華絢爛さである。

「え、本当にここであってます……？」
「アダン様から、ここで良いと伺っております」
（そ、そうなのか……）
　
　部屋の中にはシャワールームも設置されてあった。白く金色に輝く蛇口のあるバスタブもぴかぴかで美しい。

「昼食お早めに召し上がりますか？」
（早めに食べておくか）
「はい、お願いします」

　しばらくしてメイドが部屋に昼食を持ってきてくれた。パンとスープ。そして果物だろうか。

「どうぞお召し上がりください」
「ありがとう、いただきます」