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第3話 偽物の聖女
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私とルネは気が付いたら自室のベッドの上に寝かされていた。あれからレゼッタが疲れるまで叩かれ続け、メイドや執事達に回収されたのだという。
鏡に映る私の顔はぱんぱんに赤く腫れあがっていた。それはルネも同じだった。治癒魔法を互いに掛け合うとただでさえ消耗しきった体力を更に消費してしまったので途中で止めた。代わりに冷水で布切れを濡らしてそれで顔を冷やしたら少し痛みはましになった。
「ほんと、痛いわ」
「私もよ、ルネ……」
メイド達は明日は休んでいい。と言ってくれたがレゼッタと夫人が何を言うかたまったものではないのでとりあえず出ますとだけはメイドに伝えたのだった。顔を冷水で濡らした布切れを小さく折りたたんで当てながら夕食の野菜スープとパンを食べながら私とルネは小声で会話をする。
「お嬢様……レゼッタ様、魔力無いのね」
「ええ、あれは貴族の令嬢としては致命傷よ」
「ルネ、そうなの?」
「ええ。シスターから聞いたけど貴族の令嬢は魔力が高ければ高い程価値が上がるって聞いたわ。だから逆に魔力がほとんど無い令嬢の扱いはよろしくないって……」
「ああ、だから夫人はあのような事を……」
「でしょうね……」
あの神官は結局事故死したものとして処理なされたのだろうか。考えたって無駄な気がしたので私は彼についてはこれ以上考えない事にした。
「ねえ、私達どうなるのかしら」
「ルネ……」
「だってマルガリータは聖女、私も上位の魔力量と言われた。だから嫌な事になりそうで怖いと言うか」
「あなたの勘は結構当たってる気がするからね……私も気を付けておく」
このルネの勘は約1週間後、当たる事となる。
あの託宣の日から約1週間後の午前中。私とルネ、それに年上のメイド達併せて5人がカルナータカ夫人とレゼッタに呼び出された。
「全員そろったわね」
カルナータカ夫人が私達をじろじろと見渡す。そしてついてきなさい。と一言告げた後、彼女は部屋から出て階段を降り地下に向かっていった。
地下に降りるとある空き部屋にカルナータカ夫人は入っていく。
「皆、ここよ」
彼女に部屋へ入るよう促される。そこはかなり広々としたスペースだった。
「今からここは魔法薬を作る工場にするわ。あなた達は日々の業務と並行してこの工場で魔法薬を作ってもらう」
(……工場を作る?)
貴族は基本領地経営によって財を成している。工場を経営する貴族なんてあまり聞いた事が無い。ルネや他のメイドもきょとんとした顔つきをしているがカルナータカ夫人に質問する者は私含めて誰もいなかった。
「今からここの掃除をして、そして医療用の魔法薬を作ってもらう。出来上がったものはあの木箱に入れて1階にある大広間に持ってきなさい。マルガリータとルネがいるんだからそれくらい出来るでしょう?」
カルナータカ夫人はそれだけを言い残してその場から去っていった。私とルネは先輩方がどう出るか見ていたが彼女達は無言のままだった。
彼女が部屋を去ると早速掃除が始まった。床を綺麗に掃いて真ん中に机を置く。不要なものは処分した。掃除が終わった後は休憩はほぼ取らずに魔法薬を作る工程に入る。
「魔法薬ってどのように作るのかしら……?」
メイド達は勿論そのような知識は無い。私も魔法薬を作った事は無いがなんとか頭の中を巡らせていた。するとある案が思いつく。
「あの、薬草に術をかけるとかはどうですか……?」
思い切ってルネや先輩のメイド達にそう話しかけてみた。
「シスター達がやっていたような?」
「ルネ、そうそれ」
「わかった。じゃあマルガリータの言うとおりにまずはしてみよう」
「私、薬草はなんとかわかるよ」
私の案が採用され、すぐに屋敷の裏山に向かって止血効果や痛み止めの効果のある薬草を採った。薬草をごとごととすりつぶして粉状にしてさらにそこへ水を注ぐ。混ぜ合わせるとそこに私は両手を組み、治癒魔法を使う時をイメージしながら魔力を注いでみた。薬草ではなく、薬草を摂取した者を癒す必要があるからだ。
「これで……」
「誰がためす?」
「……私が試してみます」
私はナイフで自分の左腕に傷を入れた。痛みが走るがこれくらい我慢できる。そこへ魔法薬を垂らした所傷口はすぐさま綺麗に元通りになった。痛みも残っていない。
「おーー!」
結果は成功。周囲からは小さな歓声が上がる。その後も実験を繰り返しようやく魔法薬が完成したのだった。
完成品は木箱に納められ、先輩方が大広間へと持って行ってくれた。そうこうしている間に夕方……カルナータカ夫人とレゼッタの夕食の時間が訪れる。この日は父親は領地の視察に訪れており不在である。
「皆、手伝って! 今日は豪華なディナーにしたいって夫人から……!」
メイドが地下に来て手伝うように言われた。私と先輩が手伝いに行く事になりルネと何人かのメイドはそのまま地下に留まる。
テーブルセッティングを済ませた時、レゼッタとカルナータカ夫人が食堂に現れる。
「ふふっ明日が楽しみだわ!」
レゼッタは上機嫌で食堂の椅子に座る。何かあったのだろうか。
「うふふふっ……」
私を見るや否や急に勝ち誇った笑みもしたレゼッタ。するとカルナータカ夫人が屋敷にいる執事とメイドを全員食堂へと呼ぶように指示した。
「わかりました」
彼女に言われた通りその事をルネ達メイドや執事らに伝え、全員が食堂に集まり1列に並ぶ。
「全員そろったわね。では、明日レゼッタは聖女として神官から祝福を受ける事になったわ。そして聖女として民を救うべく、施しも行う事にした」
レゼッタが聖女……? 魔力量がほぼないレゼッタが聖女になんてなれるのだろうか。と感じた瞬間、私はあ。と小さく声が出た。
(魔法薬……もしかして)
そうだ。だから魔法薬を作らせたのか。魔力量がほぼ無いのを魔法薬で補うという訳か。
「何度も言うけれどレゼッタこそ聖女よ。疑うような事があればクビでは済まないからよろしく」
「はっ!」
すると私とルネの元ににやにやとあくどい笑みを浮かべながらレゼッタが近づいてきた。
「ふふっ残念ねえ。誰がなんと言おうと私が聖女よ? マルガリータお姉様?」
「……ええ、そうですね。お嬢様」
ここで反抗しても叩かれるか罵倒されるかのデメリットしかない。なので淡々と彼女が聖女である事を肯定するにとどめた。レゼッタは眉をひそめ、ふぅんと呟く。
「面白くないわね。でもいいわ。反抗するよりかはましだし」
「お嬢様が聖女である事は紛れもない事実ですので」
「……へえ。ルネはどう思っているの?」
「私もマルガリータと同じ意見です。レゼッタお嬢様は紛れもなく聖女です。その聖女としてのお力を存分に振るう事が出来ましたらこの国もより豊かになる事でしょう」
ルネも私と同じように淡々とした口調で語った。レゼッタはルネの言葉を半ば信じたのか、両手を頬にやり本当かしら? と問う。
「ええ、聖女であるレゼッタお嬢様ならできますとも」
「そう? ルネありがとう!」
「私も同じ考えです。お嬢様!」
「あら、お姉様もそうなのね? 嬉しいわあ!」
間髪入れずに私がルネに賛同したのが功を奏したのか、その後。レゼッタは有頂天の気分を保ったままデザート付きの豪華なディナーをカルナータカ夫人と共に頂いたのだった。
それからはレゼッタは聖女・レゼッタとして人々を癒す為に活動を始めた。私とルネは地下の工場で魔法薬を作る日々が始まったのである。
鏡に映る私の顔はぱんぱんに赤く腫れあがっていた。それはルネも同じだった。治癒魔法を互いに掛け合うとただでさえ消耗しきった体力を更に消費してしまったので途中で止めた。代わりに冷水で布切れを濡らしてそれで顔を冷やしたら少し痛みはましになった。
「ほんと、痛いわ」
「私もよ、ルネ……」
メイド達は明日は休んでいい。と言ってくれたがレゼッタと夫人が何を言うかたまったものではないのでとりあえず出ますとだけはメイドに伝えたのだった。顔を冷水で濡らした布切れを小さく折りたたんで当てながら夕食の野菜スープとパンを食べながら私とルネは小声で会話をする。
「お嬢様……レゼッタ様、魔力無いのね」
「ええ、あれは貴族の令嬢としては致命傷よ」
「ルネ、そうなの?」
「ええ。シスターから聞いたけど貴族の令嬢は魔力が高ければ高い程価値が上がるって聞いたわ。だから逆に魔力がほとんど無い令嬢の扱いはよろしくないって……」
「ああ、だから夫人はあのような事を……」
「でしょうね……」
あの神官は結局事故死したものとして処理なされたのだろうか。考えたって無駄な気がしたので私は彼についてはこれ以上考えない事にした。
「ねえ、私達どうなるのかしら」
「ルネ……」
「だってマルガリータは聖女、私も上位の魔力量と言われた。だから嫌な事になりそうで怖いと言うか」
「あなたの勘は結構当たってる気がするからね……私も気を付けておく」
このルネの勘は約1週間後、当たる事となる。
あの託宣の日から約1週間後の午前中。私とルネ、それに年上のメイド達併せて5人がカルナータカ夫人とレゼッタに呼び出された。
「全員そろったわね」
カルナータカ夫人が私達をじろじろと見渡す。そしてついてきなさい。と一言告げた後、彼女は部屋から出て階段を降り地下に向かっていった。
地下に降りるとある空き部屋にカルナータカ夫人は入っていく。
「皆、ここよ」
彼女に部屋へ入るよう促される。そこはかなり広々としたスペースだった。
「今からここは魔法薬を作る工場にするわ。あなた達は日々の業務と並行してこの工場で魔法薬を作ってもらう」
(……工場を作る?)
貴族は基本領地経営によって財を成している。工場を経営する貴族なんてあまり聞いた事が無い。ルネや他のメイドもきょとんとした顔つきをしているがカルナータカ夫人に質問する者は私含めて誰もいなかった。
「今からここの掃除をして、そして医療用の魔法薬を作ってもらう。出来上がったものはあの木箱に入れて1階にある大広間に持ってきなさい。マルガリータとルネがいるんだからそれくらい出来るでしょう?」
カルナータカ夫人はそれだけを言い残してその場から去っていった。私とルネは先輩方がどう出るか見ていたが彼女達は無言のままだった。
彼女が部屋を去ると早速掃除が始まった。床を綺麗に掃いて真ん中に机を置く。不要なものは処分した。掃除が終わった後は休憩はほぼ取らずに魔法薬を作る工程に入る。
「魔法薬ってどのように作るのかしら……?」
メイド達は勿論そのような知識は無い。私も魔法薬を作った事は無いがなんとか頭の中を巡らせていた。するとある案が思いつく。
「あの、薬草に術をかけるとかはどうですか……?」
思い切ってルネや先輩のメイド達にそう話しかけてみた。
「シスター達がやっていたような?」
「ルネ、そうそれ」
「わかった。じゃあマルガリータの言うとおりにまずはしてみよう」
「私、薬草はなんとかわかるよ」
私の案が採用され、すぐに屋敷の裏山に向かって止血効果や痛み止めの効果のある薬草を採った。薬草をごとごととすりつぶして粉状にしてさらにそこへ水を注ぐ。混ぜ合わせるとそこに私は両手を組み、治癒魔法を使う時をイメージしながら魔力を注いでみた。薬草ではなく、薬草を摂取した者を癒す必要があるからだ。
「これで……」
「誰がためす?」
「……私が試してみます」
私はナイフで自分の左腕に傷を入れた。痛みが走るがこれくらい我慢できる。そこへ魔法薬を垂らした所傷口はすぐさま綺麗に元通りになった。痛みも残っていない。
「おーー!」
結果は成功。周囲からは小さな歓声が上がる。その後も実験を繰り返しようやく魔法薬が完成したのだった。
完成品は木箱に納められ、先輩方が大広間へと持って行ってくれた。そうこうしている間に夕方……カルナータカ夫人とレゼッタの夕食の時間が訪れる。この日は父親は領地の視察に訪れており不在である。
「皆、手伝って! 今日は豪華なディナーにしたいって夫人から……!」
メイドが地下に来て手伝うように言われた。私と先輩が手伝いに行く事になりルネと何人かのメイドはそのまま地下に留まる。
テーブルセッティングを済ませた時、レゼッタとカルナータカ夫人が食堂に現れる。
「ふふっ明日が楽しみだわ!」
レゼッタは上機嫌で食堂の椅子に座る。何かあったのだろうか。
「うふふふっ……」
私を見るや否や急に勝ち誇った笑みもしたレゼッタ。するとカルナータカ夫人が屋敷にいる執事とメイドを全員食堂へと呼ぶように指示した。
「わかりました」
彼女に言われた通りその事をルネ達メイドや執事らに伝え、全員が食堂に集まり1列に並ぶ。
「全員そろったわね。では、明日レゼッタは聖女として神官から祝福を受ける事になったわ。そして聖女として民を救うべく、施しも行う事にした」
レゼッタが聖女……? 魔力量がほぼないレゼッタが聖女になんてなれるのだろうか。と感じた瞬間、私はあ。と小さく声が出た。
(魔法薬……もしかして)
そうだ。だから魔法薬を作らせたのか。魔力量がほぼ無いのを魔法薬で補うという訳か。
「何度も言うけれどレゼッタこそ聖女よ。疑うような事があればクビでは済まないからよろしく」
「はっ!」
すると私とルネの元ににやにやとあくどい笑みを浮かべながらレゼッタが近づいてきた。
「ふふっ残念ねえ。誰がなんと言おうと私が聖女よ? マルガリータお姉様?」
「……ええ、そうですね。お嬢様」
ここで反抗しても叩かれるか罵倒されるかのデメリットしかない。なので淡々と彼女が聖女である事を肯定するにとどめた。レゼッタは眉をひそめ、ふぅんと呟く。
「面白くないわね。でもいいわ。反抗するよりかはましだし」
「お嬢様が聖女である事は紛れもない事実ですので」
「……へえ。ルネはどう思っているの?」
「私もマルガリータと同じ意見です。レゼッタお嬢様は紛れもなく聖女です。その聖女としてのお力を存分に振るう事が出来ましたらこの国もより豊かになる事でしょう」
ルネも私と同じように淡々とした口調で語った。レゼッタはルネの言葉を半ば信じたのか、両手を頬にやり本当かしら? と問う。
「ええ、聖女であるレゼッタお嬢様ならできますとも」
「そう? ルネありがとう!」
「私も同じ考えです。お嬢様!」
「あら、お姉様もそうなのね? 嬉しいわあ!」
間髪入れずに私がルネに賛同したのが功を奏したのか、その後。レゼッタは有頂天の気分を保ったままデザート付きの豪華なディナーをカルナータカ夫人と共に頂いたのだった。
それからはレゼッタは聖女・レゼッタとして人々を癒す為に活動を始めた。私とルネは地下の工場で魔法薬を作る日々が始まったのである。
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