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第53話 私が本物の聖女です。
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それから1時間はとうに過ぎたが、レゼッタは一向に現れないままだ。貴族や王族方、平民達からはざわめきが起きている。
「おい、聖女は逃げ出したんじゃないか?」
「そんな、聖女様に限って……!」
「いやいや、聖女様は俺の病気を治してくれたんだ。そんな事をするわけがない!」
そのまま昼過ぎになった。さすがに私達へ軽食のサンドイッチやパンが配られる。それらを頬張りながらレゼッタが来るのを待つ。
「来ないわね……」
「ね、ルネはどう思う?」
「逃げたとしても無理じゃない? どっかで捕まるでしょ」
「そうね……」
私達はただ待つ事しかできない。その状態で大体15時過ぎだろうか。王宮の廊下からざわめきが一層激しくなったのが聞こえてきた。
「おい、あれが聖女か……?」
「あれは、侯爵様?」
声がした方を振り返るとそこにはカルナータカ侯爵がレゼッタを背中に担いでこちらへと歩み寄って来る姿が見えた。レゼッタはなんと男の服装をしている上に意識が無いのか抵抗どころか動くそぶりも見せない。その後ろからはカルナータカ夫人が手を縄で縛られた状態で歩いてくるのが見えた。彼女の横には兵が付き従っている。
「お待たせしました。聖女を連れてまいりました」
カルナータカ侯爵は王宮の中庭の地面にレゼッタを降ろし、あおむけにさせる。そこに何やら呪文を詠唱するとレゼッタの瞳がゆっくりと開けられた。
「ん、ここは……?」
「王宮の中庭だ。今から神託を受けてもらう」
「!」
レゼッタは勢いよく飛び上がる。しかしカルナータカ夫人が両手を縄で縛られている事。私達大勢の人達がいる事を理解したのかがくりと肩を落としたのだった。
「神託……受けなくても良いじゃあありませんか」
「……あなた。往生際が悪すぎない?」
王妃様がそう声をかける。そこにはいら立ちと怒りが隠し切れないでいた。だがレゼッタも王妃様にはひるむ様子は一切ない。
「往生際が悪くて何がいけないのよ。嫌な事は嫌。それは尊重されるべきだわ」
「じゃあ、あなた達のメイドへの扱いにもそう言えるんじゃないの?」
「メイドは貴族じゃないじゃない。あなただってそうでしょう?」
「……っ」
痛い所を突かれたのか、王妃様は黙り込んでしまう。しかし神託を受けないからと言って彼女の噂が消える訳ではない。
「レゼッタ嬢」
「……エドワード様?」
「託宣をお受けして頂きたい。それで疑いが晴れるなら君はそれで良いじゃあないか。聖女として助けてきた民達の為にもここは託宣を受けてほしい」
「……エドワード様がそこまで仰られるのなら……」
レゼッタは観念した様子でその場から立ち上がり、神官が用意した白いテーブルクロスが敷かれた台の前まで歩み寄った。その様子を国王陛下は黙って見ていたのだった。
「……では、託宣を始めます」
私とルネはレゼッタの隣に並ぶ。そしてまずはあの時と同じようにレゼッタに水晶玉が向けられた。神官がレゼッタの額に右手を触れ、神官が持っている水晶玉にレゼッタが両手を添える。水晶玉の色によって魔力量が変わるのだが、色が変わる気配は一向にない。
「おい、色が変わらないぞ……!」
「どうしたどうした……!」
観衆がざわめきだす。何度やっても水晶玉の色は変わらず無色透明のままだった。私が水晶玉に手を触れた時だった。水晶玉から黄金の光が一斉に放たれた。そう。あの託宣の日と同じように。
「これぞまさしく聖女の光!」
神官や観衆のテンションが急激に上がるのと同時にざわめきも更に増した。皆私やレゼッタの方にせわしなく目線を向けているがエドワード様とバンディ様は冷静だった。国王陛下も驚きながら私の方を見ている。そしてルネが触れた水晶玉は青く光った。これもあの日と全く変わらない。
「ルネさんは上位に相当……! これにて託宣は終わりです」
レゼッタは諦めたような顔つきをしている。そこへルネが勝ち誇った笑みを見せながら声をかけた。
「レゼッタお嬢様。これにて決着がついたようですわね。マルガリータ、言ってごらんなさい。あなたが正しい本物の聖女ですってね」
確かにそこははっきりとさせておかなければならない。そう、聖女は私なのだから。
「皆さん……私が本物の聖女です」
すると観衆からは歓迎ではなく驚きの声が上がる。
「じゃ、じゃあどうやって俺達を治してくれたんだ?」
「託宣はこれが初めてじゃないのよね? じゃあどういう事……? レゼッタ様はどうやって民を」
「これです」
ルネが持っていた魔法薬を天に掲げる。そこへ皆の視線はくぎ付けになった。
「私達が魔法薬を作っているからこそ、レゼッタ様は聖女として活動できたのです。そしてあの日。カルナータカ夫人は神官を殺してこの託宣を無かった事にしました」
「……!」
真実を知られたカルナータカ夫人は身体を震わせ、明らかに動揺していた。しかしレゼッタの様子は変わらない。
レゼッタの性格を考えると、むしろ不自然のように思えるが……。
(レゼッタらしくない)
その後。託宣はお開きとなる。そして裁判官達がどこからともなく一斉に現れ罪状が読み上げられた。用意の速さに感心しつつ私はあの2人を見る。
「国王陛下、いかがいたしましょうか。確かにレゼッタ様は聖女としてたくさんの民をお救いになりました」
「……ふむ」
「待って! あの女が毒を盛ったんじゃないの?」
王妃様が国王陛下に詰め寄る。レゼッタが毒を盛った? どういう事だ?
「あの女から頂いた菓子を食べてから私は体調が悪くなったの! すぐに薬を飲んだから死なずには済んだのよ陛下!」
「だが、レゼッタから頂いた菓子以外にも他の貴族の令嬢から頂いた菓子を食べていただろう? それに食あたりの可能性もある。調べないとわからないぞ。それに全て食べてしまったのなら調べようがないのではないか?」
「……っ。そんな……!」
レゼッタが王妃様に毒を盛った件についてはおいおい調査する事に決まった。しかし王妃様は罰だけでも早く与えるべきだと訴えたので国王陛下は仕方ない。という表情でレゼッタ達の方を向いた。
「レゼッタとカルナータカ夫人は貴族から平民に落とす!」
レゼッタとカルナータカ夫人に向かって兵が近寄る。その時レゼッタはポケットから小瓶を取り出して蓋を開けると躊躇無くぐいっと飲んだ。そしてぱたりとその場に倒れ込んだのだった。
(……自分で毒を盛った?)
まさか。レゼッタが自決するなんて。
「おい、聖女は逃げ出したんじゃないか?」
「そんな、聖女様に限って……!」
「いやいや、聖女様は俺の病気を治してくれたんだ。そんな事をするわけがない!」
そのまま昼過ぎになった。さすがに私達へ軽食のサンドイッチやパンが配られる。それらを頬張りながらレゼッタが来るのを待つ。
「来ないわね……」
「ね、ルネはどう思う?」
「逃げたとしても無理じゃない? どっかで捕まるでしょ」
「そうね……」
私達はただ待つ事しかできない。その状態で大体15時過ぎだろうか。王宮の廊下からざわめきが一層激しくなったのが聞こえてきた。
「おい、あれが聖女か……?」
「あれは、侯爵様?」
声がした方を振り返るとそこにはカルナータカ侯爵がレゼッタを背中に担いでこちらへと歩み寄って来る姿が見えた。レゼッタはなんと男の服装をしている上に意識が無いのか抵抗どころか動くそぶりも見せない。その後ろからはカルナータカ夫人が手を縄で縛られた状態で歩いてくるのが見えた。彼女の横には兵が付き従っている。
「お待たせしました。聖女を連れてまいりました」
カルナータカ侯爵は王宮の中庭の地面にレゼッタを降ろし、あおむけにさせる。そこに何やら呪文を詠唱するとレゼッタの瞳がゆっくりと開けられた。
「ん、ここは……?」
「王宮の中庭だ。今から神託を受けてもらう」
「!」
レゼッタは勢いよく飛び上がる。しかしカルナータカ夫人が両手を縄で縛られている事。私達大勢の人達がいる事を理解したのかがくりと肩を落としたのだった。
「神託……受けなくても良いじゃあありませんか」
「……あなた。往生際が悪すぎない?」
王妃様がそう声をかける。そこにはいら立ちと怒りが隠し切れないでいた。だがレゼッタも王妃様にはひるむ様子は一切ない。
「往生際が悪くて何がいけないのよ。嫌な事は嫌。それは尊重されるべきだわ」
「じゃあ、あなた達のメイドへの扱いにもそう言えるんじゃないの?」
「メイドは貴族じゃないじゃない。あなただってそうでしょう?」
「……っ」
痛い所を突かれたのか、王妃様は黙り込んでしまう。しかし神託を受けないからと言って彼女の噂が消える訳ではない。
「レゼッタ嬢」
「……エドワード様?」
「託宣をお受けして頂きたい。それで疑いが晴れるなら君はそれで良いじゃあないか。聖女として助けてきた民達の為にもここは託宣を受けてほしい」
「……エドワード様がそこまで仰られるのなら……」
レゼッタは観念した様子でその場から立ち上がり、神官が用意した白いテーブルクロスが敷かれた台の前まで歩み寄った。その様子を国王陛下は黙って見ていたのだった。
「……では、託宣を始めます」
私とルネはレゼッタの隣に並ぶ。そしてまずはあの時と同じようにレゼッタに水晶玉が向けられた。神官がレゼッタの額に右手を触れ、神官が持っている水晶玉にレゼッタが両手を添える。水晶玉の色によって魔力量が変わるのだが、色が変わる気配は一向にない。
「おい、色が変わらないぞ……!」
「どうしたどうした……!」
観衆がざわめきだす。何度やっても水晶玉の色は変わらず無色透明のままだった。私が水晶玉に手を触れた時だった。水晶玉から黄金の光が一斉に放たれた。そう。あの託宣の日と同じように。
「これぞまさしく聖女の光!」
神官や観衆のテンションが急激に上がるのと同時にざわめきも更に増した。皆私やレゼッタの方にせわしなく目線を向けているがエドワード様とバンディ様は冷静だった。国王陛下も驚きながら私の方を見ている。そしてルネが触れた水晶玉は青く光った。これもあの日と全く変わらない。
「ルネさんは上位に相当……! これにて託宣は終わりです」
レゼッタは諦めたような顔つきをしている。そこへルネが勝ち誇った笑みを見せながら声をかけた。
「レゼッタお嬢様。これにて決着がついたようですわね。マルガリータ、言ってごらんなさい。あなたが正しい本物の聖女ですってね」
確かにそこははっきりとさせておかなければならない。そう、聖女は私なのだから。
「皆さん……私が本物の聖女です」
すると観衆からは歓迎ではなく驚きの声が上がる。
「じゃ、じゃあどうやって俺達を治してくれたんだ?」
「託宣はこれが初めてじゃないのよね? じゃあどういう事……? レゼッタ様はどうやって民を」
「これです」
ルネが持っていた魔法薬を天に掲げる。そこへ皆の視線はくぎ付けになった。
「私達が魔法薬を作っているからこそ、レゼッタ様は聖女として活動できたのです。そしてあの日。カルナータカ夫人は神官を殺してこの託宣を無かった事にしました」
「……!」
真実を知られたカルナータカ夫人は身体を震わせ、明らかに動揺していた。しかしレゼッタの様子は変わらない。
レゼッタの性格を考えると、むしろ不自然のように思えるが……。
(レゼッタらしくない)
その後。託宣はお開きとなる。そして裁判官達がどこからともなく一斉に現れ罪状が読み上げられた。用意の速さに感心しつつ私はあの2人を見る。
「国王陛下、いかがいたしましょうか。確かにレゼッタ様は聖女としてたくさんの民をお救いになりました」
「……ふむ」
「待って! あの女が毒を盛ったんじゃないの?」
王妃様が国王陛下に詰め寄る。レゼッタが毒を盛った? どういう事だ?
「あの女から頂いた菓子を食べてから私は体調が悪くなったの! すぐに薬を飲んだから死なずには済んだのよ陛下!」
「だが、レゼッタから頂いた菓子以外にも他の貴族の令嬢から頂いた菓子を食べていただろう? それに食あたりの可能性もある。調べないとわからないぞ。それに全て食べてしまったのなら調べようがないのではないか?」
「……っ。そんな……!」
レゼッタが王妃様に毒を盛った件についてはおいおい調査する事に決まった。しかし王妃様は罰だけでも早く与えるべきだと訴えたので国王陛下は仕方ない。という表情でレゼッタ達の方を向いた。
「レゼッタとカルナータカ夫人は貴族から平民に落とす!」
レゼッタとカルナータカ夫人に向かって兵が近寄る。その時レゼッタはポケットから小瓶を取り出して蓋を開けると躊躇無くぐいっと飲んだ。そしてぱたりとその場に倒れ込んだのだった。
(……自分で毒を盛った?)
まさか。レゼッタが自決するなんて。
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