後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第40話 流行病のおそろしさ

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 倒れたままの浩明に家臣達は素早く近寄る。だが、彼に触れた瞬間、身体の熱さを理解した彼らは浩明の身体から距離を取った。

「陛下は流行病にかかられておるやもしれん!」
「どうするのだ! このまま放置する訳にも……!」
「皇后様を連れてくるのは……」
「流行病だぞ!? 皇后様も病に倒れられたら叶わぬ!」

 結局、口に布を巻いた宦官らが、浩明を担架に乗せて閨まで運ぶ。
 駆けつけた医者により、浩明は流行病に冒されている事が判明した。

「皇后様はじめ、妃の方々へお伝えしてください!」
「かしこまりました!」

 宦官により、浩明が流行病に倒れた事が宮廷中に伝わった。
 美華は当然の如く浩明を治しに行きたい気持ちに駆られるが、自身が流行病を貰う可能性も考え、鶴龍殿に留まる事を選ぶ。

「……陛下のお身体が心配です」
「皇后様、私達も同じ気持ちでございます」
「流行病ですから、移動はしない方が良いですよね……」

 美華はぎゅっと唇を噛む。後宮入りしてから初めての自体に、不安と心配が制限なく湧き上がってくる。

(仕方ないよね……)

 次の日。とうとう流行病が後宮内でも確認された。
 感染者は周徳妃付きの女官である。

「症状はどうなのですか?」
「高い熱と倦怠感、関節痛に寒気との事でございます」
(一度に複数の症状……流行病の特徴かもしれない)
「把握しました。皆様、気を付けて」

 ピリピリとした空気が身が凍るような冷たさを感じた美華は、目隠しの布を取る。

「はあ……」

 目隠しの布をと取っただけで目が見えるようになる訳がないのに……。と心の中で呟く。
 
(こういう時、目が見えないと思ったより不便なのね)

 美華が各部屋で待機している間、浩明は医者達の診察を受けていた。
 高い熱のせいで意識が朦朧とし、さらに倦怠感と関節痛のせいでほぼ寝たきり状態となっている。しかも家臣や宦官からも感染者が出始めていた。

(辛い……美華の力を受けたいが、美華に病をうつすわけには……)

 辛い症状に耐えるには、寝るしかない。しかしそれでも人気に反応してかまぶたが開いてしまう。

(くそ、終わりが見えぬ……)

 そしつ美華のいる鶴龍殿で、雑用担当の下女が複数倒れたという情報が飛び込んでくる。

(いよいよ……こっちにも感染が……)

 忍び寄る流行病の魔の手は、確実に美華を窮地に陥れようとしているのは確実だった。

「?」

 そしてがしゃんという音が美華の鼓膜に飛び込んでくる。

「きゃあっ!」

 女官のひとりがふらふらと倒れそうになったのだ。隣にいた女官に支えられ、床に倒れる事は無かったが、その際に小物が机から落ちてしまったらしい。がしゃんという音はその時のものだった。

「ねえ、大丈夫?!」
「なんだか、寒くてふらふらする……」
「もしかして流行病じゃ……!」

 女官は意識こそあるようだが、それでも受け答えがはっきりとしないようだ。

(彼女達の反応を見る感じ、流行病かもしれない……)
「その女官をすぐに別室へ連れて行ってください、どなたか医者も呼んでください」
「かしこまりました、皇后様!」
「仰せのままに!」

 症状が出ている女官は別室に隔離され、そこで医者達の診察を受ける。案の定流行病と診断された女官は症状が落ち着くまでの間はこのまま隔離を続ける事となった。

「……という訳でございますので、よろしくお願いいたします。皇后様」

 医者達の声色には疲労が隠しきれていない。美華はわかりました。と答えると医者達はさっさと鶴龍殿を後にしていった。

「……感染が広まり始めておりますね」
「はい、何かいい対策はないかしら……」

 劉貴妃に聞いてみようかと考えた美華。しかし彼女の元へ直接向かう訳にもいかないので、女官へ文を書いてもらう。

「……書き終えました。宦官には建物の外にわかりやすく文を置いておくようにと指示しておきます」
「それが良いでしょうね。お願いします」

 夕方。劉貴妃からの返信が届いた。

「なんて書いてありますか?」
「私の読んでいた医学書には、なるべく人との接触を避けると書いてありました。と記されています」
「接触、ですね……」
「ですが皇后様は目が見えませんから、必然的に必要な人数は多くなります。難しいでしょう……」

 それでもある程度接触を減らすべきだと考えた美華は、今日の夜勤分から女官の数を減らす事を女官達に提案する。

「一気に減らすと負担が大きくなりますし、少しずつという事で……それと、何かを運んだりする際は極力外に置いてもらうとかも……」
「なるほど、確かに皇后様のおっしゃる通りではございますね」

 感染の拡大を食い止める為に、美華ら妃達は知恵を振り絞るのである。

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