40 / 88
第39話 浩明、倒れる
しおりを挟む
雪家当主の正妻が亡くなってから7日間が経過した。
「……流行病?」
「そのようでございます」
浩明は玉座にて、家臣から宮廷近くの街で流行病が生じているとの報告を受けた。主な症状は高熱と咳に加え、倦怠感や関節痛、更には頭痛など多岐にわたるようだ。
「感染者はどれくらいいるのだ?」
「かなりの数がいると聞いております。もしかしたら治療院にも……」
「……まずいな。治療院に感染者が来たら宮廷中に感染が広まってしまう」
(美華には申し訳ないが、ここは閉鎖するより他ない。ひとつでも多く経路を絶たねば)
浩明は即、治療院の閉鎖に踏み切った。命令を受けた宦官は治療院へと走る。
「皇后様! いらっしゃいますか?!」
「! は、はい! こちらに!」
いつものように椅子に座り、患者へ手かざしを行っている美華へ、宦官が大変な事態が起きています。と低い声音で告げる。
「この近くの街で流行病が発生しております。陛下よりもし宮廷で感染が広まってはいけないという事で治療院の閉鎖の命令が下りました」
「っ! そ、そうなのですか……」
宮廷で感染爆発が起これば大変な事になると美華はちゃんと理解している。自分の理念を遂行したい気持ちは有り余るほどあるのだが、ここは浩明の命令を素直に聞く事を選んだ。
「……仕方ないですよね。宮廷中に感染が広まったら大変な事になってしまいます」
美華は覚悟を決めた。唾をごくりと飲んでから皆さん! と治療院で働く女性達に声をかける。
「申し訳ありませんが、治療院をしばらく閉鎖します!」
「……!」
明らかに動揺が一瞬で広がる。四夫人達も互いに顔を見合わせていた。
「この近くの街で流行病が発生していると聞きました」
「流行病!」
「とうとう、その時が来たのね……」
「私もこの治療院は閉鎖したくはありませんが、陛下のおっしゃる通り、宮廷で流行病が広がってはいけません」
閉鎖します。と美華が絞り出すような口ぶりで告げると、妃達はわかりました。とだけ言って並んでいた患者達への説明や後片付けを始める。
「……皇后様、絶対自分を責めてはいけませんよ」
「周徳妃様」
「皇帝陛下の判断は正しい。ですから自信を持ってください。患者方を救うのも、私達が病で倒れないのもどちらも大事。先手を打たねばなりません」
周徳妃の低い声からは、彼女の意志の強さが感じられる。美華は何度も確かめるようにして頷いて椅子から立ち上がったのだった。
その頃、玉座にて……。
「陛下?」
(なんだ? さっきから頭が痛いぞ……それに寒気もして……)
突如、浩明の視界がぐちゃぐちゃに歪んだ。
「陛下!?」
浩明は力なく、玉座から崩れ落ちたのである。
「……流行病?」
「そのようでございます」
浩明は玉座にて、家臣から宮廷近くの街で流行病が生じているとの報告を受けた。主な症状は高熱と咳に加え、倦怠感や関節痛、更には頭痛など多岐にわたるようだ。
「感染者はどれくらいいるのだ?」
「かなりの数がいると聞いております。もしかしたら治療院にも……」
「……まずいな。治療院に感染者が来たら宮廷中に感染が広まってしまう」
(美華には申し訳ないが、ここは閉鎖するより他ない。ひとつでも多く経路を絶たねば)
浩明は即、治療院の閉鎖に踏み切った。命令を受けた宦官は治療院へと走る。
「皇后様! いらっしゃいますか?!」
「! は、はい! こちらに!」
いつものように椅子に座り、患者へ手かざしを行っている美華へ、宦官が大変な事態が起きています。と低い声音で告げる。
「この近くの街で流行病が発生しております。陛下よりもし宮廷で感染が広まってはいけないという事で治療院の閉鎖の命令が下りました」
「っ! そ、そうなのですか……」
宮廷で感染爆発が起これば大変な事になると美華はちゃんと理解している。自分の理念を遂行したい気持ちは有り余るほどあるのだが、ここは浩明の命令を素直に聞く事を選んだ。
「……仕方ないですよね。宮廷中に感染が広まったら大変な事になってしまいます」
美華は覚悟を決めた。唾をごくりと飲んでから皆さん! と治療院で働く女性達に声をかける。
「申し訳ありませんが、治療院をしばらく閉鎖します!」
「……!」
明らかに動揺が一瞬で広がる。四夫人達も互いに顔を見合わせていた。
「この近くの街で流行病が発生していると聞きました」
「流行病!」
「とうとう、その時が来たのね……」
「私もこの治療院は閉鎖したくはありませんが、陛下のおっしゃる通り、宮廷で流行病が広がってはいけません」
閉鎖します。と美華が絞り出すような口ぶりで告げると、妃達はわかりました。とだけ言って並んでいた患者達への説明や後片付けを始める。
「……皇后様、絶対自分を責めてはいけませんよ」
「周徳妃様」
「皇帝陛下の判断は正しい。ですから自信を持ってください。患者方を救うのも、私達が病で倒れないのもどちらも大事。先手を打たねばなりません」
周徳妃の低い声からは、彼女の意志の強さが感じられる。美華は何度も確かめるようにして頷いて椅子から立ち上がったのだった。
その頃、玉座にて……。
「陛下?」
(なんだ? さっきから頭が痛いぞ……それに寒気もして……)
突如、浩明の視界がぐちゃぐちゃに歪んだ。
「陛下!?」
浩明は力なく、玉座から崩れ落ちたのである。
10
あなたにおすすめの小説
後宮に咲く毒花~記憶を失った薬師は見過ごせない~
二位関りをん
キャラ文芸
数多の女達が暮らす暁月国の後宮。その池のほとりにて、美雪は目を覚ました。
彼女は自分に関する記憶の一部を無くしており、彼女を見つけた医師の男・朝日との出会いをきっかけに、陰謀と毒が渦巻く後宮で薬師として働き始める。
毒を使った事件に、たびたび思い起こされていく記憶の断片。
はたして、己は何者なのか――。
これは記憶の断片と毒をめぐる物語。
※年齢制限は保険です
※数日くらいで完結予定
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
【完結】『左遷女官は風花の離宮で自分らしく咲く』 〜田舎育ちのおっとり女官は、氷の貴公子の心を溶かす〜
天音蝶子(あまねちょうこ)
キャラ文芸
宮中の桜が散るころ、梓乃は“帝に媚びた”という濡れ衣を着せられ、都を追われた。
行き先は、誰も訪れぬ〈風花の離宮〉。
けれど梓乃は、静かな時間の中で花を愛で、香を焚き、己の心を見つめなおしていく。
そんなある日、離宮の監察(監視)を命じられた、冷徹な青年・宗雅が現れる。
氷のように無表情な彼に、梓乃はいつも通りの微笑みを向けた。
「茶をお持ちいたしましょう」
それは、春の陽だまりのように柔らかい誘いだった——。
冷たい孤独を抱く男と、誰よりも穏やかに生きる女。
遠ざけられた地で、ふたりの心は少しずつ寄り添いはじめる。
そして、帝をめぐる陰謀の影がふたたび都から伸びてきたとき、
梓乃は自分の選んだ“幸せの形”を見つけることになる——。
香と花が彩る、しっとりとした雅な恋愛譚。
濡れ衣で左遷された女官の、静かで強い再生の物語。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。内容も少し変更しておりますので、あわせてお楽しみください。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。
楠ノ木雫
恋愛
若くして亡くなった日本人の主人公は、とある島の王女李・翠蘭《リ・スイラン》として転生した。第二の人生ではちゃんと結婚し、おばあちゃんになるまで生きる事を目標にしたが、父である国王陛下が縁談話が来ては娘に相応しくないと断り続け、気が付けば19歳まで独身となってしまった。
婚期を逃がしてしまう事を恐れた主人公は、他国から来ていた縁談話を成立させ嫁ぐ事に成功した。島のしきたりにより、初対面は結婚式となっているはずが、何故か以前おにぎりをあげた使節団の護衛が新郎として待ち受けていた!?
そして、嫁ぐ先の料理はあまりにも口に合わず、新郎の恋人まで現れる始末。
主人公は、嫁ぎ先で平和で充実した結婚生活を手に入れる事を決意する。
※他のサイトにも投稿しています。
嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。
しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い!
声が出せないくらいの激痛。
この痛み、覚えがある…!
「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」
やっぱり!
忘れてたけど、お産の痛みだ!
だけどどうして…?
私はもう子供が産めないからだだったのに…。
そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと!
指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。
どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。
なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。
本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど!
※視点がちょくちょく変わります。
ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。
エールを送って下さりありがとうございました!
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる