後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん

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第39話 浩明、倒れる

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 雪家当主の正妻が亡くなってから7日間が経過した。

「……流行病?」
「そのようでございます」

 浩明は玉座にて、家臣から宮廷近くの街で流行病が生じているとの報告を受けた。主な症状は高熱と咳に加え、倦怠感や関節痛、更には頭痛など多岐にわたるようだ。

「感染者はどれくらいいるのだ?」
「かなりの数がいると聞いております。もしかしたら治療院にも……」
「……まずいな。治療院に感染者が来たら宮廷中に感染が広まってしまう」
(美華には申し訳ないが、ここは閉鎖するより他ない。ひとつでも多く経路を絶たねば)

 浩明は即、治療院の閉鎖に踏み切った。命令を受けた宦官は治療院へと走る。

「皇后様! いらっしゃいますか?!」
「! は、はい! こちらに!」

 いつものように椅子に座り、患者へ手かざしを行っている美華へ、宦官が大変な事態が起きています。と低い声音で告げる。

「この近くの街で流行病が発生しております。陛下よりもし宮廷で感染が広まってはいけないという事で治療院の閉鎖の命令が下りました」
「っ! そ、そうなのですか……」

 宮廷で感染爆発が起これば大変な事になると美華はちゃんと理解している。自分の理念を遂行したい気持ちは有り余るほどあるのだが、ここは浩明の命令を素直に聞く事を選んだ。

「……仕方ないですよね。宮廷中に感染が広まったら大変な事になってしまいます」

 美華は覚悟を決めた。唾をごくりと飲んでから皆さん! と治療院で働く女性達に声をかける。

「申し訳ありませんが、治療院をしばらく閉鎖します!」
「……!」

 明らかに動揺が一瞬で広がる。四夫人達も互いに顔を見合わせていた。

「この近くの街で流行病が発生していると聞きました」
「流行病!」
「とうとう、その時が来たのね……」
「私もこの治療院は閉鎖したくはありませんが、陛下のおっしゃる通り、宮廷で流行病が広がってはいけません」

 閉鎖します。と美華が絞り出すような口ぶりで告げると、妃達はわかりました。とだけ言って並んでいた患者達への説明や後片付けを始める。

「……皇后様、絶対自分を責めてはいけませんよ」
「周徳妃様」
「皇帝陛下の判断は正しい。ですから自信を持ってください。患者方を救うのも、私達が病で倒れないのもどちらも大事。先手を打たねばなりません」

 周徳妃の低い声からは、彼女の意志の強さが感じられる。美華は何度も確かめるようにして頷いて椅子から立ち上がったのだった。
 その頃、玉座にて……。

「陛下?」
(なんだ? さっきから頭が痛いぞ……それに寒気もして……)

 突如、浩明の視界がぐちゃぐちゃに歪んだ。

「陛下!?」

 浩明は力なく、玉座から崩れ落ちたのである。
 
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