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第一章 気が付いたら異世界
7.全裸
しおりを挟む第001日―7
西日の中、僕は改めてレイアム村を目指して歩き出した。
メイも、当然の如くついてきている。
結局、振出しに戻った形になりはしたものの、考えようによっては、あんな事があった後だ。
戻れただけラッキーだったと言えるかもしれない。
僕は、隣を歩くメイに話しかけてみた。
「何か思い出した?」
メイは少し小首を傾げた後、ふるふると首を横に振った。
「でも、言葉は分かるんだよね?」
メイがこくんと頷いた。
それにしても、この白髪の少女に、一体何が有ったのだろうか?
ウムサは、この少女の記憶喪失には、魔族とやらが関与しているかもしれないって話していたけれど。
その後も道すがら、メイに色々話しかけてはみたけれど、殆ど何も新しい情報は入手出来なかった。
理由不明に、神殿に来るまでの記憶は完全にすっぽりと抜け落ちているようであった。
仕方ない。
とりあえず会話は成立するし、その内、記憶も自然に戻るかもしれないし。
僕達は、今度は休むこと無く歩き続けて、なんとか日没までにレイアム村に辿り着く事が出来た。
お使いクエストの最終目的地、ラビンさんの古道具屋は、事前に聞いていた通り、すぐに見付ける事が出来た。
ラビンさんの古道具屋を出ると、すっかり日が暮れてしまっていた。
今からアルザスの街に戻るとしたら、当然、夜道を行く事になる。
街道沿いに街灯のような設備は見当たらなかったし、かといって、何か照明器具を用意出来ているわけでもないし、それに何より、ここは僕にとって未知の世界だ。
記憶喪失の少女を連れて、暗がりの向こうに潜んでいるかもしれない何かに怯えながら長時間歩くのは、はっきり言って、精神衛生上宜しくない。
となれば、この村に一泊って話になるんだけど……
僕はとりあえず、宿泊出来そうな場所を探してみる事にした。
幸い、レイアム村はアルザスの街と比べてはるかにこぢんまりとしていたため、すぐに宿らしき場所を見付ける事が出来た。
扉を開けて中に入ると、木の板を組み合わせただけの簡素なカウンターの向こうから、気さくそうな親父さんが、僕等に声を掛けてきた。
「いらっしゃい。泊まりかい?」
「はい。二人なんですが、部屋、空いていますか?」
「ははは、こんな小さな村の宿が満室になるなんて、祭りの日ぐらいなもんだ。自慢じゃ無いが、今夜はガラガラだぜ?」
親父さんのノリに若干ついていけず、乾いた愛想笑いを浮かべながらも、僕は値段を聞いてみた。
今、背中に背負ったリュックの中には、僕の(この世界での)全財産、銅貨42枚が入った袋が収められている。
「二人泊まるなら、一泊一部屋銅貨30枚の部屋に二人分ベッドを並べるか、銅貨20枚の部屋……こっちは狭いから一人分しかベッドは置けねえが、二部屋借りるかだな。今夜の夕食と明日の朝食はサービスだ」
僕より年下に見えるとは言え、やはり女の子といきなり一晩同じ部屋っていうのは気恥ずかしい。
となると、二部屋借りるって事になるけれど、その場合の宿代、銅貨40枚を払ってしまえば、残るは銅貨2枚だけになってしまう。
まあ明日、アルザスに戻って依頼達成を報告すれば、銅貨80枚が手に入るはず。
いきなり自転車操業に陥っている気がしないでもないけれど、仕方ない。
「それじゃあ、二部屋お願いします」
「よし、部屋は二階の201と202を使ってくれ。風呂は共用だが、一階の奥にあるから。入る時には使用中の札を下げといてくれ。」
メイと一緒に夕食を食べ、お風呂――と言っても、僕が期待したような風呂桶は設置されておらず、水浴びしか出来なかったけれど――を交代で使った僕は、一人、自分の部屋へと戻って来た。
「ふう……なんか今日一日で色々あり過ぎだな……」
ベッドに寝転がって色々回想しているうちに、いつしか僕の意識は夢の世界へと落ちて行った。
…………
……
「カケル!」
誰かが泣いている。
「こんな……こんな形で再会するとはっ!」
誰だろう?
ゆっくりと、その人物の輪郭が浮かび上がってきた。
腰まで届く煌めくような黒髪、その瞳は星を映し出すかの如く、その肌は透き通るかの如く白い。
少女は不思議な輝きに包まれた薄紫色の軽装鎧を身に纏っていた。
この世の者とは思えない程の、その美しさに僕は息を呑んだ。
しかし、僕には全く見覚えの無い“はずの”少女。
「『この世界』ではカケルを救えない!」
悲痛な叫びをあげながら、しかし少女が何かを決意するのが見て取れた。
「お前を絶対に死なせない。例え私の蜈ィ縺ヲ繧貞キョ縺怜?縺吩コ九↓縺ェ縺」縺溘→縺励※繧……」
……
…………
「!?」
唐突に目が覚めた。
どうやら、いつの間にか眠っていたらしい。
それはともかく、何か夢を見ていたような?
ひとしきり、夢の名残を追いかけようとして……僕は違和感を抱いた。
「ん? なんだ?」
暖かくて柔らかい“何か”に包まれている。
ここの布団、こんなにふかふかだったっけ?
と、意識がよりはっきりと覚醒していくにつれて、それが布団では無いことに気が付いた。
「メ、メイ!?」
なぜか、隣の部屋に泊まっているはずのメイが、一緒の布団の中、僕に抱き着くような体勢で眠っている。
しかもこの感触……まさか……全裸!?
僕は慌てて彼女を揺すり起こした。
「……ナニ? カケル」
暗がりの中、メイが眠そうに目をこすりながら、上半身を起こした。
「いや、メイさん、ナニカケル? じゃ無くて、なんでここにいるの?」
「……ヒトリダト サビシカッタカラ ココニキタ」
「ふ、服は!?」
「ゴワゴワシテ キモチワルカッタカラ ネルトキヌイダ」
言われてみれば、メイが身に着けていた貫頭衣、素材不明だけど、確かにゴワゴワしてそうだったな。
当然、着替えなんか持っていないだろうし、そのまま寝ようとして、気持ち悪かったから……
って、違う!
僕はベッドの周囲に視線を向けてみた。
しかしあの貫頭衣は、どこにも見当たらない。
まさか……
僕は上半身を起こした彼女を、とりあえず布団で包み込みながら、問い掛けてみた。
「服はどこで脱いだの?」
「ジブンノヘヤ」
「……」
ということは……
自分の部屋で全裸になって、僕の部屋までやって来たって事か!?
だけど僕は部屋に戻って来た時、扉のカギは掛けたはずで……
「カギは?」
「ジブンノヘヤノカギ カケルノヘヤノトビラ サシタラマワッタ」
お~い、まさかお風呂だけでなく、鍵まで共用なのだろうか? この宿。
「と、とにかく服を……」
僕はメイから出来るだけ視線を逸らしつつ、自分のリュックの中を手探りで調べてみた。
すぐに何か布っぽいものが手に触れた。
そうだ!
確か最初に着ていた茶色のTシャツと、この世界で“拾った”布製のズボンを、リュックに仕舞い込んでいたっけ?
僕はTシャツとズボンを取り出して、目を背けたまま、メイに差し出した。
「とにかく、これを着て」
少なくとも、メイが最初に身に着けていた貫頭衣よりはゴワゴワしてないはず。
彼女が着替えているらしい衣擦れの音が数秒続いた後、彼女から声を掛けられた。
「キタヨ」
「ふうっ、これで一安心……じゃないっ!?」
そう言えば最初に着ていたTシャツ、胸元ビリビリになっていたのを忘れていた!
全裸よりもよっぽどアブない格好になってしまったメイに、すっかりパニックになってしまった僕は、自分が今身に着けている服を彼女に着せ、胸元ビリビリのTシャツを自分が着ることで、ようやく心を落ち着かせる事に成功した。
「服、買わないと……」
結局、メイが頑なに僕と一緒にいると言い張ったため、根負けした僕は、メイをベッドに寝かせ、自分はメイの部屋から持ちだして来た布団を床に敷き、そこで寝る事にした。
「まあよく考えたら、自分が誰かも思い出せていないんだもんな。不安になって当たり前か。でも、二部屋借りた意味、無かったな……」
こうして僕にとってこの世界で最初の夜は、僕のボヤキと共に更けていった。
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