22 / 239
第ニ章 北の地にて明かされる真実
22.魔族
しおりを挟む第008日―3
説明を聞き終えた僕は苦笑した。
「なんだ、お忍びの遊びじゃなくて、ちゃんとした調査して戻って来られるところだったんですね」
ノルン様が怪訝そうな顔になった。
「ん? 私が遊びに出ていた等と話していたのは誰だ?」
「恩賞の儀の参列者の方だと思うのですが、転移の魔法陣のところにいた魔導士の方が話していましたよ。お忍びで遊びに出ていたノルン様を、僕が助けたって」
「帝都の転移の魔法陣という事は……モルソンのやつか。まあ、恐らく父上がそのように説明したのであろうな。調査の性格上、あまりおおっぴらに全部話すわけにもいかないだろうし」
「ところで宝珠って、帝国皇室に連なる皇女様方のみに受け継がれるってお聞きしたのですが」
僕はガスリンさんから聞いた話を思い出しながら、たずねてみた。
彼の話通りとすれば、調査対象になっている“第二の宝珠の所持者”もまた、皇室関連の女性、と言う事になりそうだけど……
僕の言葉を聞いたノルン様の顔に、複雑な感情が浮かぶのが見えた。
「……その辺の話は、時期が来るまで待ってくれぬか」
どうやら、ノルン様にとってこの話題は好ましい物では無かったようだ。
僕達の話題は、自然と他に移っていった。
第009日―1
結局その晩は竜車の中で泊まり、翌日午後、僕達はガンビクの村に到着した。
ガンビクは人口数百人の小さな村であった。
北方に目をやると、鬱蒼とした原生林とその彼方に白く輝く山々が広がっているのが見えた。
そこはもはや帝国の支配限界外、魔王の棲む地へ連なる領域だ、とピエールさんが教えてくれた。
ピエールさんは、この村には何度も訪れているようであった。
そのためか、彼が竜車を村の一角に止めると、村人達が三々五々、集まって来て彼と談笑し始めた。
ノルン様は村長の家に挨拶に出向くとの事で、その間、手持無沙汰になった僕は、メイやハーミルと一緒に、村内を散策する事にした。
「私、この村初めて」
ハーミルは元々の性格がそうなのであろう、いかにも好奇心旺盛といった目を周囲に向けてはしゃいでいた。
「見て見てあそこ。野生の雪リスがいる!」
「ユキリス オイシイ?」
「美味しいかもしれないけれど……って、食べ物としてでは無くて、愛玩動物として楽しもうね!?」
ハーミルとメイの会話を聞いていると、僕の方まで楽しくなってきた。
「でも意外だな。ハーミルって結構色んな所に遊びに行ってそうなイメージだったけど」
性格も明るいし、少なくとも家の中でじっとしている風には見えない。
「全然! お父さんが帝国の剣術師範なんてしていたせいで、一人っ子の私も小さい頃から剣術の修業ばっかりだったしね……だから、実は冒険者的なのって、結構昔から憧れていたんだ」
「じゃあこの調査終わったら、ハーミルも僕達と一緒に冒険者やればいいよ」
彼女なら、グレートボアよりもっと強いモンスターでも、瞬殺出来るんじゃないだろうか。
「お誘いありがと。でも、お父さんのお世話があるからね。今はノルンの計らいで帝国の人達が介護してくれているけれど、この調査終わったら、やっぱり私がしないとね……」
ハーミルが少し寂しそうに微笑んだ。
そんなハーミルにかける言葉を探そうとして……
僕はふと、頭の片隅に違和感を抱いた。
唐突に何か大きな危険が迫っているという感覚。
「どうしたの?」
急に黙り込んでしまった僕に違和感を抱いたのであろう、ハーミルが不思議そうな顔で声を掛けてきた瞬間……
僕達の頭上を突然巨大な影が通り過ぎた。
「ドラゴン!」
僕とほぼ同時に空を見上げたハーミルが鋭く叫んだ。
小型飛行機ほどもあろうか。
巨大な翼を広げた金色のドラゴンが、悠然と空を舞いながら僕達を追い越して行った。
上空の異変に気付いた村人達も騒ぎ出している。
「とにかく、竜車の方に急いで戻ろう」
お互い声を掛け合った僕達は、慌てて竜車の方に走り出した。
――◇―――◇―――◇――
カケル達を追い抜いて行った黄金のドラゴンは、竜車が停められている村の広場に、轟音と共に着地した。
その背には、黒っぽいローブのようなものを身に纏った何者かが騎乗していた。
背中へと流れる頭髪は雪のように白く、その頭髪を貫くように二本の黒い角が生えていた。
「初めまして、人間の皆さん。私は魔王の息子にして代弁者、マルドゥクだ」
災厄は突如として舞い降り、鷹揚に自己紹介を始めた。
巨大なドラゴンとマルドゥクと名乗る魔族の出現で、村は大騒ぎになっていた。
マルドゥクはその様子を、ドラゴンの背中から愉快そうに眺めている。
やがてノルンが村長の老人と共に、カケル達に先んじて、竜車のもとに戻ってきた。
マルドゥクはノルンに視線を向けると、彼女に呼びかけた。
「これはノルン姫、御機嫌麗しゅう」
「マルドゥクとか申したな? これは何の騒ぎだ?」
ノルンは村長を庇うように一歩前に出て、マルドゥクを睨みつけた。
「別に意味も無く人間達を殺戮しようとか、そんなつもりはありませんのでご安心を」
マルドゥクは物騒なセリフを口にすると、気取った感じで大仰に頭を下げた。
「ノルン姫にほんのちょっとお願いがあるだけでございます」
「私に?」
「宝珠をご提供頂きたいのです」
「……宝珠なんぞを手に入れて何とする? おぬしらには無用の長物のはず」
マルドゥクはニヤニヤ笑いながらノルンに言葉を返した。
「帝国に名立たる宝、魔王様も是非その目で見てみたいと話しておられる……というのはどうでしょう?」
「そんな言葉を信じられると思うか? 何を企んでおるかは知らぬが、どのみち、宝珠は他人に易々と譲るような代物でも無い。諦めて立ち去るが良い」
「困りましたな……それでは仕方ありません、代わりにこの村に滅んで頂くしかなくなりますが、宜しいでしょうか?」
マルドゥクは、遠巻きに様子を伺っている村人達を見渡し、いかにもそれは自分の本意では無いのだという風に嘆息した。
あからさまな脅迫に、ノルンは唇を噛み締めた。
と、突然裂帛の気合が響き渡り、ドラゴンの首筋から血しぶきがあがった。
ドラゴンが苦悶の叫びを上げたが、その傷は見る見る内に塞がっていく。
マルドゥクがやや驚いた感じで向けるその視線の先に……
抜刀したハーミルがいた。
彼女は騒動の現場にカケル達よりも先に到着し、直ちにドラゴンに一撃を浴びせたのであった。
「さすがはドラゴン。というより、何かの加護でもかかっているのかしら? ドラゴンスレイヤー(※ドラゴン特効の武器)とかじゃないと、致命傷は難しいかもしれないわね」
ハーミルは独り言ちたが、すぐにドラゴンから距離を取ると、油断無く剣を構え直した。
――◇―――◇―――◇――
僕とメイがその場所に駆けつけた時、既に黄金のドラゴンは着地していた。
そして抜刀したハーミルが、ドラゴンの背に乗る魔族と思われる男を睨みつけていた。
魔族の男が感心したような雰囲気で、ハーミルに声を掛けた。
「人間にしては凄まじい剣技だな。そのような通常武器で我が騎竜が傷つけられるとは。さすがは噂の剣聖殿だ」
と、男がふいに僕達に視線を向けてきた。
男が眉根を顰めるのが見えた。
「これは……こんな所で何をしている?」
「?」
どうやら男は、メイに問い掛けているようであった。
突然声をかけられた形になったメイは、困惑したような表情を浮かべている。
「私の事が分からないのか……? もしや前回の儀式の影響で? フフフ、面白い。半端者は所詮半端者だったというわけか」
僕は男を睨みつけた。
「メイの事を……何か知っているのか?」
しかし男は僕の事等、眼中に無いといった雰囲気で呟いた。
「まあ、後から回収すれば良いか……半端者とはいえ、道具としては、なかなかに役に立つからな」
そして凶悪な笑みを浮かべたまま、ノルン様に向き直った。
「さて、少々脱線してしまったが、話を戻しましょう。どうされますかな? ノルン姫よ」
「……宝珠は渡せぬ。早々に立ち去るが良い」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる