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第ニ章 北の地にて明かされる真実
33.秘術
しおりを挟む第013日―3
「イクタスさん、前に修業付き合って下さいまして、ありがとうございます。あの時の自動回復の魔法、もしかして、まだ僕に掛かったままなのでしょうか?」
僕の言葉を受けて、ノルン様も改めてあの時の事を思い出したようだ。
「そうであった。カケルは敵から致命傷を受けても、傷が見る見る塞がって復活しておったな……」
「傷が自動で回復?」
アレル達もその話に興味を示してきた。
イクタスさんが束の間怪訝そうな顔をした後、左の拳で、右の手の平をポンと打った。
「ああ、あれか……あれはたまたまじゃ。実は未完成の術式での。カケルは運良く掛かってくれたが、持続がどれほどか、或いは他の者にもうまくかかるかは、さっぱり不明じゃ」
それって、もしかして自分は実験台にされたという事だろうか?
でも、そのお陰で大怪我しても死なないならラッキー??
僕が複雑な心境で首を捻っているのとは対照的に、ノルン様は尊敬の眼差しをイクタスさんに向けた。
「さすがはイクタス殿。あの時は、カケルがアンデッドになったかと若干心配しておりましたが、未完成とは言え、不死身の呪法まで極めようとされているのですな」
アンデッドって……
さりげなくノルン様の正直な憂慮が垣間見えた気がして、思わず僕は苦笑した。
「さて、本題に入ろうぞ」
イクタスさんは、僕たち全員に視線を向けた後、言葉を続けた。
「アレル達は北の塔に行きたいのじゃろう?」
「はい。メイを守り切れなかったのは我々の責任ですから」
「勇者らしい。清々しい答えじゃ。気に入った。協力しよう」
「御同行頂けるのでしょうか?」
「こんな老いぼれ、連れて行っても足手纏いなだけじゃ。代わりに、おぬしらを北の塔に送ってやろう。但し、帰りは自力で戻って来ねばならぬがな」
「もしや、転移の魔法で!?」
「さすがのわしも、何も無しで一から構築は骨が折れる。が、座標が分かっておるなら、既存の魔法陣を利用して転移させられるぞ」
イクタスさんの言葉に対して、アレルさんが疑問を口にした。
「普通は転移先にも魔法陣が必要なはずですが……もし敵が予め、北の塔に転移の魔法陣を用意していたとしても、追撃を恐れて破壊しているのでは?」
イクタスさんがニヤリと笑った。
「心配いたすな。わしは転移先に魔法陣がなくとも、お前達を転移させる術を心得ておる」
皆が目を見張り、その様子をイクタスさんは愉快そうに眺めていた。
イクタスさんの突然の登場で、アレル達の計画は大きく変更となった。
その夜はイクタスさんも含めて村長の家に滞在し、明朝、一番近い転移の魔法陣があるマーゲルの街に、全員で向かう事となった。
そこからアレル達四人は北の塔へ、僕、ノルン様そしてハーミルの三人は帝都に、それぞれ転移する予定である。
夕食の席は、これまでの旅路で一番賑やかな物になった。
ノルン様、イリア、ウムサさんが、イクタスさんを囲んで質問攻めにし、彼が上機嫌でそれに答えていく。
「そこでわしが杖を振りかざすと、森羅万象が震えたのじゃ!」
イクタスさん、なんだか、威厳のある大魔導師というよりは、昔話が大好きなただの好々爺と化している。
しかしそうした和やかな雰囲気が、メルと離れ離れになっている僕の寂しさを紛らわせてくれたのもまた事実。
僕は心の中でイクタスさんに感謝しつつ、彼に話しかけてみた。
「ところで、ノルン様のお話では、所在不明ってお聞きしたんですが、イクタスさんは、ずっとあの魔法屋に住んでらっしゃるんですよね?」
「勿論ずっと住んでおるし、引越しの予定もない」
ノルン様が身を乗り出した。
「イクタス殿! その魔法屋、今度私もお伺いしても宜しいでしょうか?」
イクタスさんが悪戯っぽい笑顔になった。
「来るのは構いませぬが、お会い出来るかどうかは、保証出来かねますぞ?」
「お留守の事が多いという事でしょうか?」
「実は入口に空間魔法をかけておりましてな。わしが招き入れたい者以外は、中に入れんようにしておるのです」
そう口にしてから、イクタスさんはからからと笑った。
「なるほど、それ故に所在不明の噂が立っていたのですね。今一度、世に出るお気持ちはお持ちではないでしょうか? もしイクタス殿さえ良ければ、帝城にお迎えして……」
「ノルン殿下、先程も申し上げた通り、わしのような老いぼれ、引っ張り出しても何の役にも立ちませんぞ」
「また御謙遜を。ですが、気が変われば気軽に帝城をお訪ね下さい」
第014日―1
翌朝、僕達はピエールさんの操る竜車に乗り込み、ガンビクの村に別れを告げた。
そして途中、竜車内で一泊し、次の日のお昼にマーゲルの街に帰り着いた。
第015日―1
街では、知らせを受けていたらしい知事のレバン公が衛兵を引き連れ、僕達を出迎えてくれた。
「ノルン殿下、よくぞ御無事で!」
「レバン公、出迎え感謝する。早速だが、転移の魔法陣を使用したい」
レバンの案内で、僕達は直ちに転移の魔法陣に向かった。
イクタスさんが早速魔法陣の中心に立ち、何かを唱え出した。
彼の周囲を僕でも分かる位濃密な魔力が覆い、魔法陣全体が脈打つように燐光を放ち始めた。
その様子を食い入るように見つめるノルン様達が交わす言葉が聞こえて来た。
「噂に名高いイクタス殿の秘術を、実際目の当たりに出来るとは……」
イクタスさんは、その燐光が安定するのを待ってから魔法陣の外に出て、アレル達の方を振り向いた。
「これでいつでも行けるぞ」
アレルが頷き、三人の仲間と共に魔法陣の中央に並んで立った。
イクタスさんが何かを唱えた瞬間、彼等の姿は眩い光に包まれ、北の塔へと転移して行った。
アレル達を送り出してすぐ、今度は僕、ノルン様、ハーミルの三人が転移の魔法陣の中央に立った。
ノルン様がイクタスさんに軽く頭を下げた。
「イクタス殿、お世話になりました。良い薬草、採取できること願っております」
「ノルン殿下もお元気で。機会があれば、また老いぼれの昔話でもお聞かせしましょうぞ」
僕もイクタスさんに声を掛けた。
「イクタスさん、メイが戻ってきたら、必ず一緒に魔法屋へ挨拶に行きますから、その時は入れて下さいね」
「カケルとメイならいつでも歓迎じゃ」
ハーミルも口を開いた。
「イクタスさん……そう言えば私、イクタスさんと殆ど絡みが無かったですね」
イクタスさんが愉快そうな顔になった。
「ま、ハーミルも達者でな」
イクタスさんやレバン公達に見送られる中、僕等の視界が切り替わった。
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皆を送り出した後、イクタスは右耳のピアスに手を添えながら独り言ちた。
「いよいよじゃな……」
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帝都に転移すると、ノルン様が僕とハーミルに声を掛けて来た。
「恐らく、父上から二人に御下問(※質問)があるはずだ。此度の調査に関する褒賞の件もあるゆえ、二人には、しばらくの間、帝都にて待機してもらいたい。ハーミルは実家にいるとして、カケルは、宿の心当たりが無ければ、また迎賓館を用意するが?」
「迎賓館は立派過ぎて落ち着かないので、どこか宿を探してみます」
帝都って大きな街だし、お金もそこそこ持っているし、宿泊先が確保出来ない、なんて事態にはならないはず。
そんな僕に、ハーミルが声を掛けて来た。
「そうだ! 私の家に泊まればいいよ。ノルンからも連絡取り易いだろうし」
「いやいや、それはもっと落ち着かないよ。ハーミルのお父さんもいるだろうし」
言葉を返してから、ハッとした。
ハーミルの父は、彼女を庇って半身不随になって自宅で療養中と聞いている。
そして彼女はそんな父に対して、大きな負い目を抱いている、と告白してくれた。
しかしハーミルは僕の心配を他所に、おどけた感じで言葉を返してきた。
「父の事は心配しなくて大丈夫。眠っているから、『こら~娘は渡さんぞ!』とかならないし」
僕等のやり取りを聞いていたノルン様が口を開いた。
「そうだな。二人が一所にいてくれれば、私も連絡が取り易くなる」
「じゃあ、そうと決まれば私の家へ出発!」
ノルン様に手を振ったハーミルは、僕の返事も聞かずに僕の腕を掴むと、勝手にズルズル引きずり出した。
「ちょ、ちょっと、ハーミルさん?」
さすが剣聖という所か、一見細腕なのに、相当な腕力だ。
そんな僕達に、微笑ましいものを見る目を向けながら、ノルン様が声を掛けてきた。
「ではカケル、ハーミル、しばしの別れだ。二人共、あんまり羽目を外さぬようにな」
羽目を外すなって、どういう意味だろうか?
何か激しい誤解が内在しているに違いないそのセリフを訂正する暇も無く、僕はそのまま、強引にハーミルの家へと連れられて行った。
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