【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第ニ章 北の地にて明かされる真実

36.約束

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第016日―1


翌朝、起床した僕が着替えを終えて台所に向かうと、既に朝食の準備が整えられていた。
テーブルの上には、パンやスープ、カットフルーツにサラダ、紅茶的な飲み物等が、所狭ところせましと並べられていた。

僕に気付いたハーミルが笑顔を向けて来た。

「おはよう! ちょっとだけ待っていてね」

そう言い置いてから、ハーミルはテーブルの上に置かれたパンやスープを手に、父親の部屋へと出向いて行った。 
十五分後、半分以上残された料理を片手に、彼女が戻って来た。
彼女はそれを洗い場に置いてから、改めて僕と一緒に食卓に着いた。
僕は気分を変える意図もあって、わざと明るい口調でハーミルに話しかけた。

「この料理って、ハーミルが全部一人で用意したの?」

留守中、彼女の父親の介護に当たっていたというあの年配の女性を含めて、今朝はハーミル以外の人の姿はない。

「そうよ。それより食べて食べて」

うながされて僕は食卓の上の料理に手を伸ばした。

「美味しい! もしかしてハーミルって、料理得意だったりして?」
「ふっふん! まあ、一応これでも女の子ですから」

ハーミルが嬉しそうに取り分けてくれる料理は、本当にどれも美味しかった。

「部屋も綺麗だし、ご飯も美味しいし、これで宿代安かったら、冒険の拠点としては最高だね」

冗談めかしてそう口にした僕に、ハーミルが試すような視線を向けて来た。

「もしさ……カケルさえ良ければ、ずっとここにいてもいいんだよ?」
「えっ?」

ハーミルが焦ったような雰囲気で言い直した。

「あ、ほら、冒険の拠点にしてもいいよって」
「そうだね。確かに帝都になじみの宿は無いし、帝都にいる間はお世話になろうかな。あ、勿論、ちゃんとお金は払うよ」
「お金なんかいらないわよ。代わりに身体で払ってもらうから」
「か、身体!?」

思わず素っ頓狂な声が出てしまった僕に、ハーミルが悪戯っぽい笑顔を向けて来た。

「あら? 剣術教室、手伝ってくれるんじゃ無かったの?」
「あ、そういう話ね」
「そういう話って、他にどんな話と思ったのかな~?」
「このサラダにかかっているドレッシングみたいなの、美味しいな~」
「話、逸らした!」
「ほらハーミル、食べながら話すと行儀悪いよ?」

……こうして和気藹々わきあいあい? ハーミルと二人きりの朝食の時間は過ぎて行った。


食後、部屋で少しくつろいでいると、ハーミルが部屋をたずねてきた。

「カケルって、帝都、詳しくないよね?」
「そうだね……」

十日程前に恩賞の件で帝都を訪れた後、すぐに竜の巣の調査に同行したりしていたので、帝都の街中を歩く機会はほとんど無かった。

「じゃあさ、私が案内してあげるから出掛けない?」

午前中いっぱいを使って、僕達は、街の中心部に立ち並ぶ道具屋や武器防具の店、魔法屋、それによく分からないモニュメントが立ち並ぶ広場等を見て回った。
隣ではしゃぐハーミルのお陰で、メイがいない不安や寂しさを幾分かは紛らわす事が出来た僕は、心の中で、そっと彼女に感謝した。

昼食を外で食べた後、連れ立ってハーミルの家に戻ってくると、門前に見覚えのある瀟洒しょうしゃな馬車が止まっていた。
確かあの馬車……
記憶を辿たどろうとしたその矢先に、馬車の中から一人の人物が下りて来た。

「カケル! ハーミル!」

馬車から下りて来たのはノルン様であった。
何故か彼女の顔には、焦りの色がにじんで見えた。
僕達は、彼女に言葉を返した。

「ノルン、どうしたの?」
「もしかして、皇帝陛下が話を聞きたがってらっしゃる、とかですか?」

近付いて来たノルン様が、周囲に視線を向けながら少し声のトーンを落とした。

「ここで話すのははばかられるゆえ、中に入れてくれぬか?」

…………
……

「勇者ナイアに不測の事態が発生したようだ」

ハーミルの家の応接室に通されたノルン様は開口一番、そう語った。

「勇者ナイアが定期的に使い魔を介して、知らせを寄越してきているのは存じておろう」

僕達はうなずいた。
竜の巣の調査は、彼女のそうした知らせ――結果的には、マルドゥクにより情報が改変されてはいたけれど――に基づいて実施された。

「使い魔達は距離とは無関係に、勇者ナイアの魔力をかてに行動しておる。それを利用して、彼女は使い魔達にある仕掛けをほどこしておったのだ。彼女の魔力を得られなくなった使い魔達は、帝城に知らせをもたらす際、ある符丁(※仲間内だけで通用する合図)に従って発光するようになっておる」
「もしかして……最新の知らせをもたらした使い魔が発光したのでしょうか?」

僕の問い掛けに、ノルン様がうなずいた。

「残念ながらそうだ。勇者ナイアが三日前にこちらへ送り出した使い魔が、今朝帝城に知らせをもたらした。知らせでは、勇者ナイアは昨日、北の塔に攻撃を掛けたはずだ」

ハーミルが口を挟んだ。

「昨日という事は、時間帯によってはアレル達とかぶったかもね」
「でもその使い魔が発光しているという事は??」

ノルン様が沈痛な面持ちになった。

「勇者ナイアが……最悪、もはやこの世界に存在しないかもしれない、という事だ」
「!」

ハーミルが問いかけた。

「使い魔とナイアの繋がりが一時的に途切れているだけ、とかの可能性は無いの? 或いは、ナイアが魔力を消耗してしまって、今回復中とか」
「ハーミル、勇者ナイアが聖具のタリスマンを所持しているのは知っておろう。聖具の効果で、彼女と使い魔の繋がりは決して切れぬし、彼女の魔力が枯渇する事も無い」

僕はノルン様の反応を確認しながら切り出してみた。

「もしかしてその……『大いなる力の干渉』の影響って可能性は無いでしょうか?」

ノルン様はこの前、複数の勇者が誕生しても、『大いなる力の干渉』により、勇者は必ず一人だけになる、と教えてくれた。

「実は一番それを心配しておる。しかし、勇者アレルの安否も不明な現状、結論の出しようがない」

僕達の間に重苦しい空気が流れる中、ノルン様が言葉を続けた。

「ここで悩んでいても詮無き事。私は北の塔へ行ってみようと思う」
「えっ!?」
「昨日の今日だ。急いでマーゲルの街に向かえば、イクタス殿はまだ近辺におられるやもしれぬ。イクタス殿に今一度、北の塔への転移をお願いしようと思う。父上には一応、許可は頂いておるのだが、その条件として、おぬしら二人の同行が必要なのだ。頼む、おぬしたちも一緒に来てくれぬか?」

北の塔にはメイも捕らわれているはず。
僕はすかさずうなずいたけれど、何故かハーミルは逡巡している。

「ハーミルよ。おぬしにも是非力を貸して欲しい。おぬしの父上は帝国が責任をもって介護する」

重ねてノルン様に懇願されたハーミルが、僕の方を見た。

「カケル、私がもし剣術教室始めたら……必ず手伝ってくれる?」
「? ああ、勿論だよ。約束したじゃないか」
「剣術教室? 何の話だ?」

唐突過ぎるその話題転換に、ノルン様が困惑したような顔になった。
そんなノルン様に、ハーミルが明るい口調で説明した。

「カケルが剣術教室始めたらって勧めてくれたの」
「おお! それは妙案だ。折角のおぬしの妙技、後世に伝えぬ手は無いぞ」

ハーミルは改めて僕の方に向き直った。

「カケルは北の塔行き、私を連れて行きたい?」
「そりゃ、ハーミルがいてくれたら、滅茶苦茶心強いよ」
「そっか……じゃあ、私も行くわ。但し、今回はノルンの手伝いじゃなくて、カケルの用心棒って事で。ハーミル剣術教室の助手には、ここへ無事に帰ってきてもらわないといけないからね」
「よく分からぬ理屈だが、同行してくれる、という事でいいのだな?」

首をかしげるノルン様に、ハーミルが笑顔でうなずいて見せた。


一時間後、僕とハーミルは準備を整え、ノルン様と共に馬車で転移の魔法陣へと向かった。
魔法陣までは10分程で到着したが、意外な人物が僕達を待ち受けていた。

「イクタス殿!? なぜこちらに?」
「ノルン殿下、昨日ぶりですな。この老いぼれ、何かのお役に立てぬものかと、こちらで待たせてもらっておりました」

そう口にしながら、イクタスさんはからからと笑った
しかし逆に、ノルン様の表情は険しくなっていく。

「イクタス殿、もしや何かご存知なのでしょうか?」
「北の塔で何かが起こったのでしょう? ノルン殿下の顔に書いておりますわい」
「イクタス殿がいくら傑出した大魔導士といえども、人の心を読むすべを心得てらっしゃるとは思えないのですが」
「まあまあ、そう警戒なさるな。此度こたびは非常事態故、わしも同行しましょうぞ」

まるで僕達の窮状を予見していたかのような、イクタスさんの登場であった。
不可解な点はあるものの、元々、イクタスさんの転移魔法頼みで北の塔に向かおうとしていたところでもあった。
ノルン様は改めてイクタスさんに謝意を示し、僕達は魔法陣の中心に立った。

既に僕達の到着前に北の塔が目標地点に選ばれていたのだろう。
イクタスさんが何かを唱えた瞬間、僕達の視界は切り替わった。

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