【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
37 / 239
第三章 ついに巡り合う二人

37.焦燥

しおりを挟む

第015日―4

一方、ナイア達は……(第35話の続きです)


気が付くと、ナイアは冷たい石畳みの床の上に倒れていた。

「確か、黒い穴みたいなのに引きずり込まれて……?」

まだ身を伏せたまま、素早く魔力の感知網を広げ、周囲を探る。
あの魔力の暴風はいつのまにか消え去っていた。
周囲にはすでに動かなくなったゴーレム達が倒れている。
恐らく、彼等の召喚者がこの地を離れたことにより、魔力の供給が絶たれてしまったのであろう。
ナイアはふところのタリスマンを握りしめ、使い魔達の状態を確認した。
二日前に帝城への伝令に送り出した使い魔との繋がりが確認できない以外は、健在のようだ。
彼女は使い魔達を周囲に呼び寄せ、慎重に立ち上がった。

「ここは……?」

彼女の顔がいぶかしげに歪んだ。
周囲の様相は一変していた。
先ほどまでナイアが何者かと交戦していたのは、奥に祭壇らしきものが設置された、冷たい燐光を発する石壁に囲まれた広間のような場所だったはず。
ところが今は、すぐ傍らの祭壇こそ、先ほどまでと大差無いように見えるものの、彼女の周囲には、ごつごつとした荒削りの岩肌に囲まれた広大な空間が広がっていた。
岩肌がほのかな燐光を発しており、そこまで暗さは感じないものの、明らかに北の塔最上階とは異なる雰囲気の場所だ。
彼女はゆっくりと魔力の感知網を周囲に向けて広げようとした。
が、何故かこの広大な空間の外部の状況が感知できない。
もしかすると、何者かによって、どこか強力な結界が張られた場所へと転移させられたのかもしれない。

「さあて、どうしようかねぇ……」

打開策を考えようとしたナイアは、少し向こうで、先程北の塔最上階へと突如転移してきたとおぼしき四人が、うめきながら身を起こそうとしているのに気が付いた。
ナイアは彼等と距離を取り、使い魔達を従えて剣を構えた。

「あんた達、何者?」
「失礼ですが、勇者ナイア殿では?」

言葉を返してきた相手を見て、ナイアはその初老の男性が、以前色々世話になった事のある神官のウムサである事に気が付いた。

「ウムサのじいさんか。久し振り……と思い出話に花を咲かせる暇が無くてゴメンよ」

ナイアは油断無く戦闘態勢を解かない。

「勇者ナイア殿、我らは敵ではございませぬ。そこの青年もあなたと同じく、勇者の試練を乗り越えた者ですぞ」

ウムサの言葉を受けて、アレルが自己紹介を試みた。

「初めまして、勇者ナイアさん。僕はアレルといいます。半月ほど前、幸運に恵まれ、勇者となりました」

ナイアはアレルを一瞥した。

「すまないんだけど、突然戦場に出現した相手を、無条件に信用できる性格じゃなくてね。勇者ならあかしを見せてもらおうか」
「では、これでどうでしょうか?」

アレルはにっこり笑うと、腰の剣を抜いた。
彼の意思に答えて、手の中の剣が銀色の輝きを放つ。
全てを――魔力のような実体のないものすら――切り裂く聖剣。
その力を開放すれば、彼と仲間達の能力をも爆発的に高めることも可能となる、アレルの聖具であった。
聖具は、勇者のみが保持し、その力を解放できる。
勇者たるナイアには、アレルの持つ剣もまた、自身の持つタリスマン同様、聖具である事が正しく認識できた。

「なるほど、聖具を持っているなら、勇者で間違いないようだね」

ようやくナイアが剣を収めた。

「しかし、あんた達、どうやってあそこへ? 見間違いじゃ無ければ、まるで転移してきたように見えたけど?」
「あなたの見立ては間違っていないですよ。僕達は大魔導士イクタス殿の助けで、直接北の塔に転移させてもらったんです」

そしてアレルは、竜の巣でノルン達に出会った事、帰途メイがさらわれた事、その救出のため、自分達が北の塔にやって来た事等を説明した。

「そのメイってのは、もしかすると白い髪の子かい?」

ナイアは、北の塔最上階で巨大ゴーレムに捕えられているように見えた少女の特徴を、アレル達に伝えた。

「そうです。やっぱりここに捕えられていたんですね」
「どうだろう? なんか捕えられているにしては、様子がおかしかったような?」

ナイアは、メイらしき少女を見た時に抱いた違和感を思い出して首をひねった。

「ともかく、その子はここにはいないようだ。おまけに、ここは恐らく北の塔最上階ですらない」

ナイアの言葉に、アレル達は改めて周囲を見回した。
部屋全体を眺めてみて、彼等は奇妙な事実に気が付いた。

出入り口が無い!

ナイアが苦々しげに言い放った。

「あたしの魔力感知が、この空間の外に及ばない。多分、強力な結界の内部に閉じ込められている」

すぐさま、全員で部屋の壁を探り出した。

そして……

何の変哲もない、石造りの壁に見える部分の一点を、ウムサが指さした。

「どうやらこの部分に、部屋への出入り口が隠されているようですぞ」
「ここは僕に任せて」

アレルは一同に笑顔を向けて、腰の聖剣を抜いた。
聖剣が一際強く、銀色に光り輝いた。
彼は手の中の聖剣を、ウムサの指し示した部分で振り抜いた。


―――キン!


甲高い金属音が響き渡り、同時に石壁にしか見えなかった部分が空間ごと砕け散り、その先に小部屋が現れた。
その瞬間、突然、アレルとナイアがほぼ同時に自身の右手を抑えながら、苦しげなうめき声を上げた。
慌てて二人に駆け寄った仲間達は、二人の右手の甲に、選定の神殿での試練を突破した後、消滅していたはずのあの勇者の紋章が再び浮かび上がっているのを見た。
しかも紋章は血のように赤く不気味に輝いていた。

「これは一体!?」

アレルとナイアは、思わず顔を見合わせた。
二人を正体不明の焦燥感が襲う。


―――時間が無い、審判が始まる!


ナイアの顔に不敵な笑みが浮かんだ。

「何かあたしとアレルに良からぬ事が起こるようだね。もしかして、『大いなる力の干渉』ってやつかも?」

二人共、例の伝承についてはよく知っていた。

「兎に角、この場を離れましょうぞ」

ウムサにうながされ、一同は先程アレルが聖剣によって切り開いた穴を通って、小部屋の方へと移動した。
と、イリアが驚いたような声を上げた。

「! ここって、まさか一の部屋第4話……!?」

ここが一の部屋だとすると……。
イリアの脳裏に半月ほど前、この先の通路で、サイクロプスに襲われていたカケルとメイを助けた事が思い起こされた。
小部屋からは、さらに向こうへと通路が続いていた。
途中でサイクロプス等中級クラスの魔物がちらほら出現したが、彼等はそれらを瞬殺しながら通路を進んだ。
やがて彼等は、何本もの太い大理石のような柱で支えられた、明るい広間にたどり着いた。
そこは彼等にとって決して忘れることのできない場所。
アレルとナイアを勇者の高みに引き上げてくれた、試練を与える地。

「やはり選定の神殿!」
「奥にあのような空間があったとは……」

五人は、歩いてきた通路を振り返った。
神殿の奥が一種のダンジョンになっているのは有名な話だったが、一の部屋のさらに奥、祭壇が設置されていたあの広大な空間に関しては知られていなかった。
結界が強力過ぎて、今まで誰も気付く事が出来なかったのかもしれない。
穏やかな午後の日差しの中、神殿から外に出たナイアは、アレル達に告げた。

「ともかく、あたしは北の塔に向かうとするよ」

ナイアはタリスマンを握りしめ、巨大な『マンタ』を呼び出した。
そんな彼女に、アレルが声を掛けた。

「待ってください。僕らも同道させてもらえないですか?」

ナイアはアレル達を一瞥して少し思案した後、うなずいた。

「ま、旅は道連れって言うし、あんた達も北の塔に用があるみたいだしね。一緒に行こうか」

五人を背に乗せた『マンタ』はふわりと浮上し、一路、北の塔目指して飛行を始めた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

処理中です...