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第四章 すれ違う想い
52. 結社
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第017日―2
「あなたはカケル君を助けて、一緒に彼の力の秘密を探りたいのよね?」
ミーシアのその言葉で、ハーミルの中の警戒心が最高レベルに跳ね上がった。
ミーシアは笑顔のまま、言葉を続けた。
「安心して。私達も彼を支えたいと思っている仲間よ。って、突然こんな話をしても信じて貰えないと思うけれど、会ってもらいたい人がいるの」
「私を攫っても、あんまり利用価値無いと思いますけど。剣で切り抜けるか、自害するかですし」
「ふふふ、イクタスの言う通り、気の強いお嬢さんね。でも約束するわ。私達はあなたがカケル君の味方である限り、決してあなたに危害を加えない」
ハーミルはミーシアの目をしばらくの間じっと見つめた後、口を開いた。
「時間は1時間。時間内でも、私がその人物との会見に価値が無い、と判断したらすぐ帰らせてくれる事。これが条件よ」
ミーシアが頷いた。
「じゃあ、早速案内するわ」
ミーシアはすぐ近くの古民家へとハーミルを案内した。
古民家の扉を開けると、見知った顔がハーミルを出迎えた。
「ようこそ、『結社イクタス』へ。わしが副総裁のイクタスじゃ」
「イクタスさん? こんな所に居たんですね。皆心配していましたよ。急に居なくなるから」
気さくな感じでそう口にしながらも、ハーミルは油断なく、イクタス、ミーシア、そして周囲の様子に視線を巡らせた。
イクタスやミーシアからは、毛先ほどの殺気も感じられない。
この古民家も、外観同様、内部も至って普通の調度品があつらえてあり、罠が仕掛けられている気配もない。
少なくとも、ハーミルの感覚では危険を感じられなかった。
ハーミルはイクタスに話しかけた。
「ところで、結社イクタスって何ですか? ミーシアさんが会わせたかった人物って、あなたですか?」
「残念ながらわしでは無い。おぬしに会わせたいのは、当結社の総裁じゃ。おぬしの知りたい事全て、直接、総裁の口から聞けると思うぞ」
そして奥へ続く廊下を指差しながら、ミーシアにハーミルを案内するよう促した。
ハーミルが、ミーシアについて行くと、廊下の突き当りに扉があった。
「失礼します」
『どうぞ、お客人を中へ』
促されて、ハーミルだけが部屋の中に入った。
後ろで扉が閉まる。
鍵がかけられた気配は無い。
窓の無いその場所は、広目の書斎のような部屋であった。
中央部分には、巨大な半透明のクリスタルが浮遊している。
そしてそのクリスタルの向こう、正面の机には、灰色のローブを目深に被った何者かが座っていた。
『ようこそ。貴女とこうして話せる日を心待ちにしていました』
年齢不詳、性別不詳のその何者かは、にこやかに語りかけてきた。
ハーミルには、目の前の人物の年齢、性別を推し量る事が出来なかった。
身に着けている灰色のローブかこの部屋、或いは両方に、何らかの細工が施されているようであった。
「あなたが結社イクタスの総裁さん? どう言ったご用件かしら?」
『話をする前に、これだけは確認しておきたい。まず大前提として、貴女はいかなる事があっても、カケルを守り抜く覚悟をお持ちか?』
「私の望みは彼の望みをかなえる事。それを妨げるものは、例え相手が帝国といえども戦う覚悟よ」
改めてハーミルは、自身の決意を披露した。
ハーミルの言葉に、相手は深く満足しているようであった。
『素晴らしい覚悟だ。やはり貴女なればこそ、大事を話せる』
「大事?」
『17年前、イクタス、エンリルそしてディースの三人が、『彼方の地』への扉を開き、そこに居た守護者を見出したことは、貴女も知っているはずだ』
ハーミルは頷いた。
その話は、北の塔最上階で、イクタス本人の口から聞いた。
『彼等は知的好奇心から、『彼方の地』への扉を開いた……少なくとも、イクタスとディースはそうであった。そして守護者は彼等の要請に答えて、彼等と共に『彼方の地』を去る事を選んだ。最初、彼等と守護者は友好的な関係を結び、守護者は『彼方の地』に蓄えられた莫大な霊力の結晶、霊晶石を大量にこの世界へもたらした。それは本来、この世界の人間には利用不可能な霊力を、一定条件下で利用可能にする物であった』
総裁を名乗るその人物は、ローブの陰から、ハーミルをじっと見つめながら話を続けた。
『ところがエンリルは違った。彼が『彼方の地』へと足を踏み入れ、守護者をそこより連れ出したのは、実は自身の秘めたる野望の為であった。彼は『彼方の地』に蓄えられた霊力と、守護者自身の力を我が物にせんと望んでいた。彼の野望に気付いた守護者は、イクタスと共に彼と袂を分かった。彼が霊晶石の力で魔王となった後、イクタスと守護者はこの結社を作った。そして心ある同志達を集め、魔王エンリルから、守護者を守り続ける事にしたのだ』
「あなたは“守護者”……って口にしているけれど、それはカケルの事じゃないわよね? カケルは守護者の力を継承した、そうイクタスさんは話していたけれど、“『彼方の地』から連れ出された守護者”をあなた達は守っているわけよね?」
『我等の目的は、守護者の力を個人の野望に利用される事を防ぐ事。故に、今の我等が守るべき対象は、守護者の力を継承したカケルだ』
「カケルに力を継承させたという、その“元”守護者はどうなったの?」
ローブの陰に隠されているその人物の貌に、幾ばくかの寂しさが点った。
『ある事情からカケルを救うため、守護者はカケルに自身の全て――守護者としての力――を与えた。そして『彼女』は人間になった』
「つまりあなた達は、私もこの結社と協力ないし、結社の一員として、カケルを共に支えていこう、そういうわけね?」
『その通りだ。どうか我等に力を貸して欲しい』
ハーミルは、目の前の人物の見えざる貌をじっと見つめた。
「あなたの話は分かったわ。でも、あなた達がカケルを利用しないと言い切れる? 魔王エンリルのように、野望を隠してないという保証は?」
ローブの下の口元に笑みが浮かんだ。
『さすがは剣聖ハーミル。一筋縄では協力を取り付けられぬか』
そして少しの間を置いて、言葉を続けた。
『実は、私にも初めて人を愛するという感情を知った瞬間があった……まあ、正確には思い出した、と言うべきか……』
唐突に聞こえる話題転換に、ハーミルが怪訝な顔をした。
しかしその人物は、彼女に構わず言葉を継いだ。
『とにかく、精一杯の告白を試みたのだ』
話しながら、その人物が、顔を隠すローブに手をかけた。
そして、それをゆっくりと脱ぎ去っていく。
声が次第に明瞭になり、カケルの中にいたハーミルが、カケルと共に聞いたあの声で、あの言葉が紡がれた。
『私と共に、悠久の時をこの世界で過ごしてみぬか? と」
「あなたはカケル君を助けて、一緒に彼の力の秘密を探りたいのよね?」
ミーシアのその言葉で、ハーミルの中の警戒心が最高レベルに跳ね上がった。
ミーシアは笑顔のまま、言葉を続けた。
「安心して。私達も彼を支えたいと思っている仲間よ。って、突然こんな話をしても信じて貰えないと思うけれど、会ってもらいたい人がいるの」
「私を攫っても、あんまり利用価値無いと思いますけど。剣で切り抜けるか、自害するかですし」
「ふふふ、イクタスの言う通り、気の強いお嬢さんね。でも約束するわ。私達はあなたがカケル君の味方である限り、決してあなたに危害を加えない」
ハーミルはミーシアの目をしばらくの間じっと見つめた後、口を開いた。
「時間は1時間。時間内でも、私がその人物との会見に価値が無い、と判断したらすぐ帰らせてくれる事。これが条件よ」
ミーシアが頷いた。
「じゃあ、早速案内するわ」
ミーシアはすぐ近くの古民家へとハーミルを案内した。
古民家の扉を開けると、見知った顔がハーミルを出迎えた。
「ようこそ、『結社イクタス』へ。わしが副総裁のイクタスじゃ」
「イクタスさん? こんな所に居たんですね。皆心配していましたよ。急に居なくなるから」
気さくな感じでそう口にしながらも、ハーミルは油断なく、イクタス、ミーシア、そして周囲の様子に視線を巡らせた。
イクタスやミーシアからは、毛先ほどの殺気も感じられない。
この古民家も、外観同様、内部も至って普通の調度品があつらえてあり、罠が仕掛けられている気配もない。
少なくとも、ハーミルの感覚では危険を感じられなかった。
ハーミルはイクタスに話しかけた。
「ところで、結社イクタスって何ですか? ミーシアさんが会わせたかった人物って、あなたですか?」
「残念ながらわしでは無い。おぬしに会わせたいのは、当結社の総裁じゃ。おぬしの知りたい事全て、直接、総裁の口から聞けると思うぞ」
そして奥へ続く廊下を指差しながら、ミーシアにハーミルを案内するよう促した。
ハーミルが、ミーシアについて行くと、廊下の突き当りに扉があった。
「失礼します」
『どうぞ、お客人を中へ』
促されて、ハーミルだけが部屋の中に入った。
後ろで扉が閉まる。
鍵がかけられた気配は無い。
窓の無いその場所は、広目の書斎のような部屋であった。
中央部分には、巨大な半透明のクリスタルが浮遊している。
そしてそのクリスタルの向こう、正面の机には、灰色のローブを目深に被った何者かが座っていた。
『ようこそ。貴女とこうして話せる日を心待ちにしていました』
年齢不詳、性別不詳のその何者かは、にこやかに語りかけてきた。
ハーミルには、目の前の人物の年齢、性別を推し量る事が出来なかった。
身に着けている灰色のローブかこの部屋、或いは両方に、何らかの細工が施されているようであった。
「あなたが結社イクタスの総裁さん? どう言ったご用件かしら?」
『話をする前に、これだけは確認しておきたい。まず大前提として、貴女はいかなる事があっても、カケルを守り抜く覚悟をお持ちか?』
「私の望みは彼の望みをかなえる事。それを妨げるものは、例え相手が帝国といえども戦う覚悟よ」
改めてハーミルは、自身の決意を披露した。
ハーミルの言葉に、相手は深く満足しているようであった。
『素晴らしい覚悟だ。やはり貴女なればこそ、大事を話せる』
「大事?」
『17年前、イクタス、エンリルそしてディースの三人が、『彼方の地』への扉を開き、そこに居た守護者を見出したことは、貴女も知っているはずだ』
ハーミルは頷いた。
その話は、北の塔最上階で、イクタス本人の口から聞いた。
『彼等は知的好奇心から、『彼方の地』への扉を開いた……少なくとも、イクタスとディースはそうであった。そして守護者は彼等の要請に答えて、彼等と共に『彼方の地』を去る事を選んだ。最初、彼等と守護者は友好的な関係を結び、守護者は『彼方の地』に蓄えられた莫大な霊力の結晶、霊晶石を大量にこの世界へもたらした。それは本来、この世界の人間には利用不可能な霊力を、一定条件下で利用可能にする物であった』
総裁を名乗るその人物は、ローブの陰から、ハーミルをじっと見つめながら話を続けた。
『ところがエンリルは違った。彼が『彼方の地』へと足を踏み入れ、守護者をそこより連れ出したのは、実は自身の秘めたる野望の為であった。彼は『彼方の地』に蓄えられた霊力と、守護者自身の力を我が物にせんと望んでいた。彼の野望に気付いた守護者は、イクタスと共に彼と袂を分かった。彼が霊晶石の力で魔王となった後、イクタスと守護者はこの結社を作った。そして心ある同志達を集め、魔王エンリルから、守護者を守り続ける事にしたのだ』
「あなたは“守護者”……って口にしているけれど、それはカケルの事じゃないわよね? カケルは守護者の力を継承した、そうイクタスさんは話していたけれど、“『彼方の地』から連れ出された守護者”をあなた達は守っているわけよね?」
『我等の目的は、守護者の力を個人の野望に利用される事を防ぐ事。故に、今の我等が守るべき対象は、守護者の力を継承したカケルだ』
「カケルに力を継承させたという、その“元”守護者はどうなったの?」
ローブの陰に隠されているその人物の貌に、幾ばくかの寂しさが点った。
『ある事情からカケルを救うため、守護者はカケルに自身の全て――守護者としての力――を与えた。そして『彼女』は人間になった』
「つまりあなた達は、私もこの結社と協力ないし、結社の一員として、カケルを共に支えていこう、そういうわけね?」
『その通りだ。どうか我等に力を貸して欲しい』
ハーミルは、目の前の人物の見えざる貌をじっと見つめた。
「あなたの話は分かったわ。でも、あなた達がカケルを利用しないと言い切れる? 魔王エンリルのように、野望を隠してないという保証は?」
ローブの下の口元に笑みが浮かんだ。
『さすがは剣聖ハーミル。一筋縄では協力を取り付けられぬか』
そして少しの間を置いて、言葉を続けた。
『実は、私にも初めて人を愛するという感情を知った瞬間があった……まあ、正確には思い出した、と言うべきか……』
唐突に聞こえる話題転換に、ハーミルが怪訝な顔をした。
しかしその人物は、彼女に構わず言葉を継いだ。
『とにかく、精一杯の告白を試みたのだ』
話しながら、その人物が、顔を隠すローブに手をかけた。
そして、それをゆっくりと脱ぎ去っていく。
声が次第に明瞭になり、カケルの中にいたハーミルが、カケルと共に聞いたあの声で、あの言葉が紡がれた。
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