【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

54. 盗難

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第017日―4


ハーミル、ミーシアの二人と別れた後、僕は道具屋へ向かった。
いくつかの消耗品の補充をしたかったのと、ついでに何か面白い物でも無いか、見てこようと思ったからだ。
さすがは帝都といったところであろうか。
商店の立ち並ぶ通りは、アルザスやマーゲルといった、僕の知るこの世界の街や村とは比較にならない位、大勢の人々――エルフや獣人といった、亜人も含めて――で賑わっていた。
ふと、どこからか美しい歌と音楽とが聞こえてきた。
音の方向に目を向けると、通りの一角に人々が集まっている。
どうやらその中心で、数人が音楽をかなで、歌を披露しているらしい。

吟遊詩人の一座みたいなのかな?

好奇心にかられた僕がそちらに近付こうとしたその時、いきなり小柄な人物がぶつかって来た。
僕は思わずよろめいてしまった。

「気をつけろ、にいちゃん!」

その人物は捨て台詞を残し、人混みをかき分けるように、通りの向こうへと走り去っていった。
気を取り直した僕は、改めて聴衆の輪に入って行こうとして……

近くでやけにあたふたしている二人の女性に気が付いた。
一人は質素ながらも小奇麗なドレスを着た、肩までかかる優しくウェーブした青髪の少女。
もう一人はメイド服のような衣類を身に着けた、少し頭に白いものが混じる年配の女性。
さながら、どこかのお嬢様とそのお世話係といった雰囲気だ。

なんだか困っているように見えるけれど、周囲の人々の間に、二人を気に掛ける様子はみられない。
恐らく二人とは反対方向、人々の輪の中心でかなででられる楽曲に、皆、引き込まれているからだろう。
僕は少しだけ逡巡してから、青髪の少女に声をかけてみた。

「どうかされましたか?」
「っ!?」

青髪の少女は、突然声を掛けられた事によほど驚いたのか、るように顔を上げて僕を見た。
僕は思わず浮かんだ苦笑を噛み殺しながら、頭を下げた。

「驚かせたみたいで、すみません。何か困っているように見えたもので」

僕と同年代と思われるその少女の綺麗な瞳に、見る見るうちに涙が溜まっていく。

「あの、私のネックレスが……」
「ネックレス?」
「すみません、ひめ……お嬢様が大事になさっているネックレスが、いつの間にか無くなってしまいまして……」

少女の代わりに、年配の女性が困ったような顔で説明してくれた。

「ここへ来るまでは、確かに首にかけてらっしゃったのですが」
「もしかすると、誰かにスリ盗られちゃった、とか?」

この人混みの中だ。
スリが潜んでいてもおかしくない、

青髪の少女はとうとう下を向いて、しゃくりあげだした。
困っているなら、なんとかしてあげたい。

そうだ!
自分なら、霊力使えば、少女のネックレスを見つけ出せるのでは?
400年前のあの世界で、サツキはミルムという見た事も無い少女の居場所を一瞬にして探り当てた。
ノルン様からは、みだりに使用するなとは言われたけれど、人助けだし。

そう考えた僕は、霊力を展開するため、懐にあるはずの紫の結晶に手を伸ばして……


あたふたする人間がもう一人増えた。


年配の女性が、僕に気の毒そうな視線を向けてきた。

「もしかして、あなた様も何か大切な物をくされたのですか?」
「あ、いえその……」

パニックを起こしかけた僕は、深呼吸をしてなんとか心を落ち着けた。

あの400年前の世界でサツキから貰った紫の結晶。
僕にとっては、彼女との繋がりを感じられる唯一の品でもあるわけで……

そんな事を考えていると、なぜかある一定の方角が、妙に気になって来た。
あの紫の結晶、膨大な霊力が封じ込められていた。
もしかすると、その霊力が漏れ出してきて、僕にその所在を教えてくれているのかもしれない。
少女のネックレスを見つけ出してあげる為にも、一刻も早く、あの紫の結晶を取り戻さないと。

僕は、青髪の少女と年配の女性に声を掛けた。

「ちょっとここで待っていて下さい」

僕は何かを言いかける二人を置いて、気になる方向へと駆け出した。
それは先程ぶつかってきた、怪しい小柄な人物が消えて行った方向でもある。
通りを抜け、裏路地に入ると、段々と結晶のある方向が鮮明になって来た。
進んでいくうちに、周りの空気が変わって来た。
どうも、治安の良くなさそうな地域に入ったようだ。
周囲に立つのは所謂いわゆる掘っ立て小屋。
家の前で、何をするでも無く座り込んでいる目付きの悪い男達が、僕に鋭い視線を向けてくる。
やがて、少し大きめの廃屋のような建物の前に出た。
紫の結晶霊力の気配は、この建物の中から濃密に漏れ出してきている。
僕は意を決して、その建物の扉を押し開けた。

建物の中には、数人の男達がたむろしていた。
かたわらには、いかにも盗品です、といった雰囲気の貴金属や宝石が、うず高く、テーブルの上に積みあげられていた。
僕はその中に、あの紫の結晶があり、それが淡く発光している事に気が付いた。

男達が、一斉に僕の方に顔を向けて来た。

「なんだぁ、てめぇは!?」

男達は皆、一様に人相が悪く、中には、短刀のような武器を手にしている者もいた。
思わず足がすくんだけれど、なけなしの勇気を振り絞って彼等に声をかけた。

「あの……ちょっと探し物をしていまして」
「探し物だぁ? 兄ちゃん、ここがどこだか分かってんのか?」

う~ん、なんとか穏便に、紫の結晶を取り戻す事は出来ないものか?

「ここがどこだかは分からないんですが、そのテーブルの上の、発光している紫の結晶だけでも、返してもらう訳にはいかないですか?」

僕は取り敢えず交渉――のつもり――を試みた。
男達はテーブルの上の品々を一瞥した後、僕に凄んできた。

「発光しているモノなんかねえぞ! それにもし返して欲しいんなら、対価ってのを出せや」

どうやら発光を感知出来るのは、僕だけのようだ。
あの発光は、霊力の光かもしれない。

そんな事を考えていると、男達の一人が近付いて来て、短刀のような武器を、首筋にぴたりと当てられた。

どうしよう?
もうこうなったら、強行突破で……

僕は紫の結晶目掛けて駆け出そうとして、一瞬早く、首筋に熱い何かを感じた。
急速に意識が……暗転……



男が、急に走り出そうとしたカケルの首筋を掻き切った瞬間、大量の血が天井に向かって吹き上がった。
そしてカケルはゆっくりと、膝から地面に崩れ落ちた。

「ベルメ! ここで殺すなよ。アジトが汚れちまうだろうが。おい、外に埋めて来い!」

彼等の首魁らしき男の一言で、男達がカケルの死体を動かそうとして……
彼等は悲鳴を上げながら後退あとずさった。
カケルの首の傷口がしゅうしゅうと湯気を立てながら勝手に塞がって行く。
そして絶命していたはずのカケルが、咳き込みながら起き上がった!



……急速に意識が回復していく。
首筋からしゅうしゅう湯気が上がっている所をみると、どうやらまたしても殺されてしまっていたらしい。
咳き込みながら起き上がった僕の視界の中、顔を引きつらせた男達が、呆然とした様子でこちらに視線を向けてきていた。

「ば、化け物!?」

男達が後退あとずさり、その隙に、僕は再度紫の結晶を手に取ろうと駈け出した。

「に、逃げろ!」

僕の行動を、どうやら自分達への攻撃の予備動作と勘違いしたらしい男達が、我先にと建物の外へと飛び出して行った。

「化け物って……まあ、首切られて生き返ったらびっくりするか……」

束の間落ち込んでしまったけれど、僕はすぐにテーブルの上の紫の結晶に手を伸ばした。
紫の結晶は、触った感じ、特に異常は感じられなかった。

今後は、ベルトか何かに嵌め込んで体に巻き付けてしまうとか、とにかく盗られたりくしたりしない何らかの工夫が必要だな。

僕は紫の結晶を握り締めた。
膨大な量の霊力が僕に流れ込んでくるのが感じられた。

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