【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

55. 王女(挿絵付)

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第017日―5


紫の結晶を握り締めると、そこから膨大な量の霊力が僕の中に流れ込んでくるのが感じられた。
僕は紫の結晶を懐に戻してから。試しに霊力を使って、戸外の様子を探ってみた。
先程の男達がこの建物を遠巻きにして、様子を伺っているのが“視えた”。

このまま出て行っても良いんだけど……

彼等が再び襲ってきたら、復活するにしても、反撃するにしても、結局、霊力を使用せざるを得なくなる。
ノルン様の言葉を引き合いに出すまでも無く、この僕の“力”、あんまり大っぴらに他人には見せない方が良いだろう。
ならば、ここからこのまま転移して立ち去るのが一番かな。

僕は心の中に、先程の青髪の少女と年配の女性がいるであろう場所を思い浮かべようとして……
思い直して中止した。
二人が居た場所の周囲には大勢の人々がつどっていた。
あんな場所にいきなり転移したら、ちょっとした騒ぎになるかもしれない。

代わりの転移先として、ハーミルの家の中で僕が寝泊まりしている部屋はどうだろう?
あそこなら、他人に見とがめられる心配は無いはず。
今日はハーミルの父親の介護を任された年配の女性が一人、帝国から派遣されてきてはいたけれど、彼女が僕の部屋の中にいる可能性は限りなくゼロに近いだろう。

霊力の力場を展開し、転移の準備を整えた僕は、テーブルの上にうず高く積み上げられた貴金属や宝石類に、改めて視線を向けた。
どうせ盗品だろうし、ノルン様に相談すれば、元の持ち主達に返してあげられるかもしれない。
部屋に転移するんだったら、ついでに持ち出してしまおう。

貴金属や宝石類の上に覆いかぶさってから、僕は心の中に、僕の部屋の情景を思い浮かべてみた。
周囲の景色がグニャリと歪み、次の瞬間、僕の視界は見覚えのある部屋の中へと切り替わっていた。
覆いかぶさったのが良かったのか、僕の霊力を操る“練度”が上がったのか、いつぞやと違い、今回は無事、貴金属や宝石類もまとめて全部一緒に転移出来たようであった。
改めてそれらに視線を向けた僕は、その中に何故か気になるネックレスが一つ、含まれている事に気が付いた。
何とはなしにそのネックレスを手に取った瞬間、僕の脳裏にあの青髪の少女――コイトス王国の第一王女、クレア――のイメージが“視えた”。
そしてどうやら同じスリ小柄な人物が、僕と彼女の大事な品をスリ盗っていった事も。
この霊力という力、思った以上に色んなモノを“視る”事が出来るようだ。

それはそうと、早くこのネックレスを彼女に返してあげないと。

僕は持ち出した貴金属や宝石類を、一旦、部屋の引き出しに仕舞っておく事にした。
そして改めて、ハーミルが帰宅しているかどうか、家の中を探してみた。
彼女はまだ帰宅していないようであった。
家の中には、ハーミルの父親の介護の為に派遣されてきている年配の女性が一人いるだけだった。
彼女は、知らない間に僕が帰ってきていた事にやや驚いていたけれど、家が広過ぎて、帰宅の物音に気が付かなかったのだろう、と勝手に納得してくれた。
僕は彼女に再度外出する旨を告げてから、青髪の少女クレアのネックレスを握りしめ、彼女達がまだいるであろう、あの通りに急いで向かう事にした。


商店街の大通りを駆け抜けて、先程の青髪の少女達と別れた場所に戻ってきた時、吟遊詩人の一座らしき集団は、まだ美しい楽曲をかなでていた。
しかし肝心の二人の姿は、そこには無かった。
思い返せば、二人と別れてから既に1時間以上は経過している。
諦めて帰ってしまったのかもしれない。

どうやって探そうか?
霊力使えば、彼女達の行先、分かったりしないかな?

試しに僕は左手にネックレスを持ち、右手で懐に収めた紫の結晶に触れながら、意識を集中してみた。
すると、ぼんやりとではあるけれど、二人がある場所に向かって、とぼとぼと歩いて行った情景が浮かび上がって来た。
僕は急いで、その方向に向かって走り出した。
到着した先は、僕も泊めてもらったことのある、あの迎賓館第18話だった。
門の前には、槍を手にした衛兵が二人立っていた。

「すみません、以前、ここに泊まった事のある冒険者のカケルと言います。執事のデニスさんにお会いしたいのですが」

幸い、衛兵の一人は僕の事を覚えていてくれた。
呼ばれてすぐに、デニスさんがやって来た。
彼がにこやかな雰囲気で声を掛けて来た。

「これはカケル殿、お久し振りですね」
「デニスさん、その節はお世話になりました」

彼は二週間近く前、僕とメイがここに泊まった時、宮中での礼儀作法の基本を教えてくれた人物でもあった。

「あの、ここに青髪の少女は宿泊されてないでしょうか? お届けしたい物が御座いまして……」

僕はデニスさんに少女の特徴を詳しく伝え、彼女がくして困っているネックレスを、盗賊団のアジトで偶然見つけた旨を伝えた。
僕の話を聞き終えたデニスさんが口を開いた。

「恐らくその女性はクレア様ですね。街にお忍びで出られた時に大事な品をくされた、と酷く落ち込んで戻って来られましたから」

やはりあの青髪の少女の名前はクレアと言うらしい。
自分がネックレスから読み取った情報に間違いが無ければ、彼女はコイトス王国の王女様のはず。

「とにかく立ち話もなんですし、こちらへどうぞ」

デニスさんは、僕を迎賓館の中の応接室のような所に案内してくれた。

「クレア様をお連れしますので、しばらくお待ち下さい」


デニスさんが部屋を出て数分後、応接室の扉が開かれ、あの青髪の少女と年配の女性が案内されてやってきた。
ソファから立ち上がって迎えた僕に気付いた青髪bの少女が、目を大きく見開いた。

「あなたはあの時の?」



僕は彼女に軽く頭を下げた。

「あの時はどうも……僕は冒険者のカケルと言います。これ、くしたネックレスではないですか?」

自己紹介をしながら、僕は懐からネックレスを取り出した。
それを彼女に手渡すと、彼女の大きな瞳が見る見る潤んできた。

「あ、ありがとうございます。なんとお礼を申したら宜しいのでしょうか」

余程大事な物だったのだろう。
少女はネックレスを胸元に抱きしめ、何度も僕に頭を下げてきた。

「申し遅れました。私、コイトス王国の王女、クレアと申します。こちらは侍女のキラです」
「クレア様のお世話をさせて頂いております、キラです。姫様に代わりまして、重ねてお礼を申し上げます」

そう口にしながら丁寧に頭を下げてきたキラさんは、顔を上げると、少し不思議そうな雰囲気でたずねてきた。

「それにしてもカケル様は、私達がここに滞在していると、よくお分かりになられましたね?」

あっ!
そう言えば教えてもらってもいないのに、ここへ辿たどり着く事が出来たのは、やや不自然だったかも。
僕はとりあえずの言い訳を試みた。

「実は、気配感知の能力を持っておりまして……それでクレア様のおられる所が分かりました。ネックレスを取り返せたのも、その能力のお陰です」

まあ実際、使ったのは、気配感知みたいな“能力”だし、嘘は言っていない。
それはともかく、僕の言葉を聞いた二人は、感心したようにうなずき合った。

「成程、さすがは冒険者様ですね」

どうやら、納得してくれたようだ。


話が一段落した所で、僕はデニスさんに声を掛けた。

「デニスさん、ちょっとお願いがあるのですが」
「なんでしょうか?」
「盗賊団のアジトらしき場所で見つけた、盗品と思われる他の品々も回収しているので、あとで誰かに取りに来て頂けないでしょうか?」
「どちらまでお伺いすれば宜しいですか?」
「ハーミルの家なんですが……ご存知でしょうか?」
「名高き剣聖殿のお家ですね。よく承知しております。お帰りの際、衛兵を同行させますので、その際、お引き取りさせて頂きましょう」

僕達の会話を聞いていたクレア様が、僕に尊敬の眼差しを向けてきた。

「カケル様は、もしや高名な冒険者様でいらっしゃいますか? あっと言う間に私の宝物を取り返して下さいましたし、あの剣聖様のお家に招かれていらっしゃるなんて、さすがです」

あの時、僕自身も同じスリの被害に遭って、クレア様と一緒にあたふたしていたという残念なイベントは、無かった事にしてくれているらしい。
僕は苦笑しながら言葉を返した。

「冒険者としては、まだまだ全然ですよ。クレア様のネックレスを取り返せたのも偶然ですし、ハーミルの家には、色々都合で泊めてもらっているだけです」
「なんと謙虚な方でいらっしゃるのでしょうか。そうだ、今度是非、コイトスにお越し下さい。今回のお礼もさせて頂かないといけませんし。海に面している小さな国ですが、自然豊かな美しい場所ですよ」

おっとりした感じのクレア様に柔らかい笑みを向けられ、僕は心がぽかぽかしてくるのを感じた。

「お招きありがとうございます。お礼抜きで、機会があれば是非コイトス、お伺いさせて頂きます」

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