57 / 239
第四章 すれ違う想い
57. 真実
しおりを挟む第018日―2
『イクタスさん、結社の方では、本当はメイの正体、分かっているんじゃないんですか?』
ハーミルからの唐突な念話に、イクタスの眉が一瞬跳ね上がった。
『正体とは?』
『メイはノルンの妹なんでしょ? で、宝珠も顕現出来るし、イクタスさん以上に数々の高度な魔術も使いこなせる。だけど今は魔王側に立って行動している。違う?』
『……気が強いだけかと思っておったが、聡い娘じゃ。さすがはサツキが見込んだだけはある、という所か。何故そう思った?』
『イクタスさんは、ノルンのお母さんのディース様や魔王エンリルと旧知なんでしょ? で、今まで“守護者”を護る為に魔王エンリル達と戦ってきた。なら、ディース様がメイを産んだ事情や、その後の事も知っているはず。どう?』
一方、念話が聞こえないノルンからすると、イクタスとハーミルが、急に黙り込んでしまったように見えた。
「二人共、難しい顔をしておるが、いかがいたした?」
イクタスはちらりとハーミルに視線を送った後、ノルンに向き直った。
「ノルン殿下、いずれ分かる事ですし、真実をお伝えいたしましょう」
「真実?」
「殿下はかつて、わしがディース様や死産とされた妹君について、何か知らぬか? とお尋ねでしたな」
ノルンは頷いた。
それは北の塔で、イクタスが真実の一片を明かした時に、答えて貰えなかった問い。
「メイは殿下のご想像通り、ディース様のお子、つまりあなた様の妹君に当たられる。ですが父親はガイウス様では無く、エンリルですじゃ」
突然のイクタスの言葉に、ノルンの目が驚愕で見開かれた。
「あの当時、ガイウス様とディース様とはうまくいっておりませなんだ。もっとはっきり申せば、完全に冷え切っておられました。ガイウス様は少々強引過ぎる手法で帝国を発展させようとして、ディース様と度々意見が衝突しておりました……」
ガイウスは有能であった。
彼は、極めて勤勉に帝国を発展させようとした。
些細な事で、傘下の名門王家をいくつも取り潰し、その旧領を帝国直轄領へと編入していった。
また、未だ支配に服さない亜人種や魔族に対しては、不服従を表明するだけで、次々とその集落を滅ぼしていった。
まだ魔王が誕生する前、絶対数が元々少なかった魔族は、特に大打撃を受けたという。
そんなガイウスのやり方に、ディースは度々諫言したが、それはガイウスにとってはただの雑音に過ぎなかった。
ガイウスに疎まれ遠ざけられたディースは、次第にガイウスと帝国の行く末に絶望していった。
「そんな時、ディース様はわしとエンリルに出会ったのです。研究の末、『彼方の地』への扉を開くには宝珠が必要との話を知って、ディース様は進んでご協力下さった。今考えると、ご自身が必要とされるその研究にこそ、ご自身の居場所を見出されてらっしゃったのやもしれませぬな……」
やがて研究が実を結び、『彼方の地』より『彼女』がこの世界に連れ出された。
『彼女』は多くの霊晶石をこの世界に齎した後、『彼方の地』への扉を完全に閉ざしてしまった。
「これで伝承はお伽噺になった。お前達の言う審判はもう二度と行われない」
そう言って、『彼女』は微笑んだ。
『彼女』は詳しい理由を語らなかったが、『彼方の地』への扉を開放し続けるのは、この世界にとってどうもよくない影響を齎すらしい事だけは推察出来た。
そして、エンリルは密かに自らの野望の準備を始めた。
「エンリルはいつか又扉を開くために、宝珠を顕現できる者を手中に収めようと画策していたのです。ディース様の心の隙間に入り込み、ディース様は一度だけ、エンリルと過ちを犯してしまわれた。だがその後、エンリルの野望が明らかになり、ディース様はエンリルとは袂を分かち、皇宮に戻られた」
しかし、彼女はその時既に懐妊していた。
密かに出産を試みたが、その際、ガイウスに気付かれた。
「メイは魔族と人間のハーフであったためか、元々右の片角しか持っておりませなんだ。聞くところによりますと、ディース様はその角を折り、幼子の出自を隠し、守ろうとされたが、ガイウス様に看破されてしまった……」
ガイウスの刃から幼子を守ろうとしたディースは、ガイウスに背中から斬られて絶命した。
ガイウスが残った幼子も斬らんとした矢先、エンリルが帝城の結界を強引に突破して現れ、その幼子を連れ去った。
「エンリルは、幼子が宝珠を顕現出来る事を確認すると、彼女に『アルラトゥ』という名を与え、手元に置く事にしたのです。彼女は人間を憎む他の魔族達からは半端者と蔑まれ、ただ宝珠を顕現出来る便利な道具として養育されたのです……」
ノルンは語られる話の重さに耐えかねてよろめいた。
その顔は蒼白であった。
慌ててハーミルが、彼女の身体を支えた。
「座ったほうが良いよ」
ハーミルの言葉に、ノルンはその場にへたり込んだ。
イクタスはそんなノルンをじっと見つめた後、言葉を続けた。
「メイは恐らく『彼方の地』への扉を開く事こそが、自分が周囲から、特に父親であるエンリルからも認めて貰える唯一の手段、と堅く信じておるはず。故に宝珠を顕現させて、各地の祭壇の封印を解いて回っておったのでしょう。彼女の溢れんばかりの魔導の才をもってすれば、転移の魔法を駆使して帝城から脱出する事等、造作も無かったに違いありませぬ。そして恐らく何らかの思惑を以って、カケルを連れ去ったのも彼女と見て間違いないでしょう」
語り終わったイクタスはそっと目を閉じた。
その瞼の裏に去来する想いは、誰にも推し量る事は出来なかった。
――◇―――◇―――◇――
ハーミルの家で衝撃の真実を聞かされたノルンは、昼前には帝城の居室に帰り着いていた。
馬車に揺られて帰ってきたはずだが、道中の記憶が飛んでいる。
本来なら、ハーミルの家で得た情報を、直ちに父に奏上しなければいけなかった。
しかし彼女は部屋に戻るなり、着替えもせず、ベッドに突っ伏して動けなくなった。
メイはやはり自分の妹だった?
母が父を裏切って彼女を産んだ?
そして、父が母を斬り殺した?
メイの行方を捜しに行ったら、カケルまで消えてしまっていた。
自分は一体どうすればよいのか?
纏まらない考えが頭の中で堂々巡りを繰り返す。
そのまま一時間近く経過した頃、扉がノックされた。
ノルンはのろのろと身を起こし、扉を開けた。
宮廷付きの侍女達が、扉の外で一斉に臣礼をとった。
「皇帝陛下がお召しでございます」
帰城後、中々奏上に現れないノルンを心配したのであろう。
ガイウスが、侍女達を迎えに寄越したようであった。
正直、まだ何をどう報告していいのか、全く考えが纏まっていない。
しかし、父をいつまでも待たせるわけにもいかず、彼女は侍女達に着替えを手伝ってもらい、父の居室へと向かった。
「陛下、奏上が遅くなりまして、申し訳ございません」
「いかがいたした? 体調でも悪いのか?」
ガイウスは、居室に入って来た時から様子のおかしい娘に、心配そうに声をかけた。
「大丈夫です……実は、ハーミルの家に参りましたら、カケルまで消えておりました」
「何? まさか、メイを攫った何者かが、カケルまで攫ったと申すか?」
「……分かりません。ですが、カケルの部屋で転移の魔法が使用されたのは間違いなさそうです」
「転移先は判明したのか?」
「それはまだ……偶然居合わせたイクタス殿が、相手は複数回の転移を繰り返して逃れ去った可能性を指摘しておりましたが……」
ガイウスは、ノルンの言葉に考え込んでしまった。
宝珠を顕現させられる者と、守護者の力を継承した者が同時に攫われた?
もしや、魔王エンリルが関っているのか?
ガイウスは、かつて幼子を目の前で強引に奪い去って行った、あの白髪の魔族の事を思い出した。
奴ならば、今回の件、可能ではなかろうか?
やはり、ここは勇者達に任せるしかない。
そう考えたガイウスが顔を上げた時、自分を凝視するノルンと目が合った。
一瞬、その瞳の奥に暗い炎が燃え盛っている“錯覚”に捕らわれた。
しかしそれは、ノルンが瞬きした次の瞬間には消え失せていた。
「ノルンよ。そなたやはり疲れておるようじゃ。今日はもう良い。下がってゆっくり休め」
ノルンが臣礼を取り部屋を退出すると、改めてガイウスは側近達を呼び、勇者達を呼び戻すよう命令を下した。
0
あなたにおすすめの小説
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる