【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

57. 真実

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第018日―2


『イクタスさん、結社の方では、本当はメイの正体、分かっているんじゃないんですか?』

ハーミルからの唐突な念話に、イクタスの眉が一瞬跳ね上がった。

『正体とは?』
『メイはノルンの妹なんでしょ? で、宝珠も顕現出来るし、イクタスさん以上に数々の高度な魔術も使いこなせる。だけど今は魔王側に立って行動している。違う?』
『……気が強いだけかと思っておったが、さとい娘じゃ。さすがはサツキが見込んだだけはある、という所か。何故そう思った?』
『イクタスさんは、ノルンのお母さんのディース様や魔王エンリルと旧知なんでしょ? で、今まで“守護者”を護る為に魔王エンリル達と戦ってきた。なら、ディース様がメイを産んだ事情や、その後の事も知っているはず。どう?』

一方、念話が聞こえないノルンからすると、イクタスとハーミルが、急に黙り込んでしまったように見えた。

「二人共、難しい顔をしておるが、いかがいたした?」

イクタスはちらりとハーミルに視線を送った後、ノルンに向き直った。

「ノルン殿下、いずれ分かる事ですし、真実をお伝えいたしましょう」
「真実?」
「殿下はかつて、わしがディース様や死産とされた妹君について、何か知らぬか? とお尋ねでしたな」

ノルンはうなずいた。
それは北の塔で、イクタスが真実の一片を明かした時に、答えて貰えなかった問い第40話

「メイは殿下のご想像通り、ディース様のお子、つまりあなた様の妹君に当たられる。ですが父親はガイウス様では無く、エンリルですじゃ」

突然のイクタスの言葉に、ノルンの目が驚愕で見開かれた。

「あの当時、ガイウス様とディース様とはうまくいっておりませなんだ。もっとはっきり申せば、完全に冷え切っておられました。ガイウス様は少々強引過ぎる手法で帝国を発展させようとして、ディース様と度々たびたび意見が衝突しておりました……」

ガイウスは有能であった。
彼は、極めて勤勉に帝国を発展させようとした。
些細な事で、傘下の名門王家をいくつも取り潰し、その旧領を帝国直轄領へと編入していった。
また、いまだ支配に服さない亜人種や魔族に対しては、不服従を表明するだけで、次々とその集落を滅ぼしていった。
まだ魔王が誕生する前、絶対数が元々少なかった魔族は、特に大打撃を受けたという。
そんなガイウスのやり方に、ディースは度々たびたび諫言したが、それはガイウスにとってはただの雑音に過ぎなかった。
ガイウスにうとまれ遠ざけられたディースは、次第にガイウスと帝国の行く末に絶望していった。

「そんな時、ディース様はわしとエンリルに出会ったのです。研究の末、『彼方かなたの地』への扉を開くには宝珠が必要との話を知って、ディース様は進んでご協力下さった。今考えると、ご自身が必要とされるその研究にこそ、ご自身の居場所を見出されてらっしゃったのやもしれませぬな……」

やがて研究が実を結び、『彼方かなたの地』より『彼女守護者』がこの世界に連れ出された。
彼女守護者』は多くの霊晶石をこの世界にもたらした後、『彼方かなたの地』への扉を完全に閉ざしてしまった。

「これで伝承はお伽噺とぎばなしになった。お前達の言う審判はもう二度と行われない」

そう言って、『彼女守護者』は微笑んだ。
彼女守護者』は詳しい理由を語らなかったが、『彼方かなたの地』への扉を開放し続けるのは、この世界にとってどうもよくない影響をもたらすらしい事だけは推察出来た。
そして、エンリルは密かに自らの野望の準備を始めた。

「エンリルはいつか又扉を開くために、宝珠を顕現できる者を手中に収めようと画策していたのです。ディース様の心の隙間に入り込み、ディース様は一度だけ、エンリルと過ちを犯してしまわれた。だがその後、エンリルの野望が明らかになり、ディース様はエンリルとはたもとかち、皇宮に戻られた」

しかし、彼女はその時既に懐妊していた。
密かに出産を試みたが、その際、ガイウスに気付かれた。

「メイは魔族と人間ヒューマンのハーフであったためか、元々右の片角しか持っておりませなんだ。聞くところによりますと、ディース様はその角を折り、幼子の出自を隠し、守ろうとされたが、ガイウス様に看破されてしまった……」

ガイウスの刃から幼子おさなごを守ろうとしたディースは、ガイウスに背中から斬られて絶命した。
ガイウスが残った幼子も斬らんとした矢先、エンリルが帝城の結界を強引に突破して現れ、その幼子を連れ去った。

「エンリルは、幼子が宝珠を顕現出来る事を確認すると、彼女に『アルラトゥ』という名を与え、手元に置く事にしたのです。彼女は人間ヒューマンを憎む他の魔族達からは半端者はんぱものさげすまれ、ただ宝珠を顕現出来る便利な道具として養育されたのです……」

ノルンは語られる話の重さに耐えかねてよろめいた。
その顔は蒼白であった。
慌ててハーミルが、彼女の身体を支えた。

「座ったほうが良いよ」

ハーミルの言葉に、ノルンはその場にへたり込んだ。
イクタスはそんなノルンをじっと見つめた後、言葉を続けた。

メイアルラトゥは恐らく『彼方かなたの地』への扉を開く事こそが、自分が周囲から、特に父親であるエンリルからも認めて貰える唯一の手段、と堅く信じておるはず。故に宝珠を顕現させて、各地の祭壇の封印を解いて回っておったのでしょう。彼女のあふれんばかりの魔導の才をもってすれば、転移の魔法を駆使して帝城から脱出する事等、造作も無かったに違いありませぬ。そして恐らく何らかの思惑を以って、カケルを連れ去ったのも彼女と見て間違いないでしょう」

語り終わったイクタスはそっと目を閉じた。
そのまぶたの裏に去来する想いは、誰にも推し量る事は出来なかった。


――◇―――◇―――◇――


ハーミルの家で衝撃の真実を聞かされたノルンは、昼前には帝城の居室に帰り着いていた。
馬車に揺られて帰ってきたはずだが、道中の記憶が飛んでいる。
本来なら、ハーミルの家で得た情報を、直ちに父に奏上しなければいけなかった。
しかし彼女は部屋に戻るなり、着替えもせず、ベッドに突っ伏して動けなくなった。

メイはやはり自分の妹だった?
母が父を裏切って彼女を産んだ?
そして、父が母を斬り殺した?

メイの行方を捜しに行ったら、カケルまで消えてしまっていた。
自分は一体どうすればよいのか?

まとまらない考えが頭の中で堂々巡りを繰り返す。
そのまま一時間近く経過した頃、扉がノックされた。
ノルンはのろのろと身を起こし、扉を開けた。
宮廷付きの侍女達が、扉の外で一斉に臣礼をとった。

「皇帝陛下がお召しでございます」

帰城後、中々奏上に現れないノルンを心配したのであろう。
ガイウスが、侍女達を迎えに寄越したようであった。
正直、まだ何をどう報告していいのか、全く考えがまとまっていない。
しかし、父をいつまでも待たせるわけにもいかず、彼女は侍女達に着替えを手伝ってもらい、父の居室へと向かった。



「陛下、奏上が遅くなりまして、申し訳ございません」
「いかがいたした? 体調でも悪いのか?」

ガイウスは、居室に入って来た時から様子のおかしい娘に、心配そうに声をかけた。

「大丈夫です……実は、ハーミルの家に参りましたら、カケルまで消えておりました」
「何? まさか、メイをさらった何者かが、カケルまでさらったと申すか?」
「……分かりません。ですが、カケルの部屋で転移の魔法が使用されたのは間違いなさそうです」
「転移先は判明したのか?」
「それはまだ……偶然居合わせたイクタス殿が、相手は複数回の転移を繰り返して逃れ去った可能性を指摘しておりましたが……」

ガイウスは、ノルンの言葉に考え込んでしまった。
宝珠を顕現させられる者と、守護者の力を継承した者が同時にさらわれた?
もしや、魔王エンリルがかかわっているのか?

ガイウスは、かつて幼子を目の前で強引に奪い去って行った、あの白髪の魔族の事を思い出した。

奴ならば、今回の件、可能ではなかろうか?
やはり、ここは勇者達に任せるしかない。

そう考えたガイウスが顔を上げた時、自分を凝視するノルンと目が合った。
一瞬、その瞳の奥に暗い炎が燃え盛っている“錯覚”に捕らわれた。
しかしそれは、ノルンがまばたきした次の瞬間には消え失せていた。

「ノルンよ。そなたやはり疲れておるようじゃ。今日はもう良い。下がってゆっくり休め」


ノルンが臣礼を取り部屋を退出すると、改めてガイウスは側近達を呼び、勇者達を呼び戻すよう命令を下した。

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