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第四章 すれ違う想い
59. 実験
しおりを挟む第019日―1
……
…………
……段々とはっきりしてくる視界の中、僕はまだ、同じ広間のような場所に置かれた肘掛椅子に、両手両足を拘束されていた。
しかし意識を失う前と異なり、全身に得体の知れ無い電極のような装置がびっしりと取り付けられている。
顔を上げると、すぐ目の前に、あのマルドゥクがニヤニヤしながら立っていた。
「久し振りだな、少年」
僕は返事の代わりにマルドゥクを睨みつけた。
しかしマルドゥクは構わず言葉を続けた。
「ふふふ、そんな顔をしていられるのもあと少しだ。もうすぐお前は自我を失い、単に殲滅の力を放つ砲台の一部と化すのだからな」
砲台?
何の話だ?
その時になって、僕は身体に取り付けられた装置から広間の奥に向かって、無数の導線が伸びている事に気が付いた。
何人かの魔族達が、導線の周囲で、黙々と何かの作業に当たっている。
状況はいまだに不明だけど、このままだと、きっととてつもなくマズい事になるに違いない。
そう判断した僕は、この拘束から抜け出すため、再度霊力の展開を試みた。
しかし僕の中の霊力が枯渇しているのか、それとも装置か広間に何か細工が施されているのか、全くうまくいかない。
「くそぉ! 離せぇ!!」
苛立ちが絶叫となり、口をついて出たけれど、マルドゥクはそれを気にする風もなく、ただニヤニヤしながら佇んでいる。
と、広間に灰色のフード付きローブを頭からすっぽり被った、小柄な人物が入って来た。
その人物は僕の近くまで歩いて来ると、被っていたフードを取り去った。
「メイ……」
しかし彼女は僕を一瞥した後、マルドゥクに冷ややかな視線を向けた。
「相変わらず悪趣味ね」
「おや? 誰かと思えば半端者か」
マルドゥクは、嘲るような雰囲気で言葉を続けた。
「どうした? もしかして、もう一度こいつとニンゲンごっこがしたくなったか?」
「何とでも言うが良いわ。どうせ、あなたは『彼方の地』への扉を開けやしないし、結局、守護者を捕える事も出来なかった」
「フン。混じり者の分際でエラそうに」
不愉快そうな表情になったマルドゥクは、そのまま広間を出て行った。
彼女はそれをしばらく目で追った後、僕の方に向き直った。
彼女の表情からは、何の感慨も読み取れない。
そんな彼女に問い掛けてみた。
「一体、僕の身に何が起こる?」
能面のような無表情のまま、彼女が言葉を返してきた。
「霊力を利用した兵器の試射に付き合ってもらう事になっているわ。でも安心して。ちゃんと協力してくれるなら、自我を失ったりはしないはず」
その時、突如メイが両手で額を抑え、呻きながら蹲った。
彼女の額からは、一週間前の竜の巣の時と同様、眩いばかりの白く輝く光が放たれていた。
「メイ!?」
動けないとは分かっていても、思わず声を上げてしまった僕の視界の中、周囲の魔族達が、慌てた雰囲気でメイに駆け寄るのが見えた。
しかし彼女は、手を貸そうとする魔族達を手で制しながら、よろよろと立ち上がった。
「実験は繰り上げで実施ね……」
そう呟きながらメイは一人、広間から出て行った。
――◇―――◇―――◇――
自宅で眠れぬ夜を過ごしたハーミルは、翌朝、結社イクタスの面々と落ち合うため、帝都の転移の魔法陣に赴いた。
魔法陣では、先に到着していたらしいガスリン、ネバトベ、ミーシアの三人が、ハーミルを待っていた。
レルムスも来ているらしいが、ハーミルには、姿も気配も感じられない。
ミーシアがハーミルに声を掛けた。
「あっちの準備は順調よ。私とイクタスとで、常設型の転移の魔法陣を、北の塔最上階に設置し終えたわ。既にトムソン、ルビドオの二人には、あっちで魔法陣防衛の任務についてもらっている。もうすぐ、イクタスもこっちに戻って来るはずよ」
ハーミルは頷いた。
昨夜のうちにイクタス達は北の塔へ転移し、張り直されていた結界を解除、内部に再配置されていたモンスター達を殲滅して、北の塔を制圧していた。
その辺の進捗状況については、メンバー間の念話を通じて、ハーミルも逐一把握していた。
と、向こうから転移の魔法陣に近付いてくる一団があった。
その中の一人、ハーミルも良く知る人物が、驚いたような顔で声を掛けてきた。
「ハーミル!? それに、そこにおるのは……もしやガスリン殿か?」
その一団は、ノルンとアレル達であった。
ガスリンは笑顔でノルンに片手を上げて見せ、ミーシア達は臣礼を取った。
ハーミルはノルンに問い掛けた。
「どうしたの?」
ノルンが厳しい表情で言葉を返した。
「父上から勇者アレル達に、カケルとメイを救出せよ、との命が下った。私も志願して加わったのだ」
「もしかして、ナイアも?」
「勇者ナイアとはまだ連絡が取れておらぬ。だが連絡取れ次第、同じ命令が下されるはずだ」
話しながらノルンは、ハーミルと一緒にいるガスリンやミーシア達に視線を向けた。
「ところでハーミルよ。おぬしがここ転移の魔法陣で、この者達と一緒にいるという事は、おぬしもまた、カケル救出に動こうとしている、という事か?」
ミーシアが、ハーミルに代わって言葉を返した。
「ノルン殿下、私達は、カケル君の救出をハーミルさんから依頼された冒険者の一団です。大魔導士イクタス殿のお導きで、北方へ転移させてもらうため、こちらで待ち合わせている所です」
「イクタス殿が来られるのか? 我等も可能であれば、北方への転移をお願いしてみてはどうだろうか?」
そう口にしながら、ノルンがアレル達に顔を向けた。
「それは良い考えですね。僕達もイクタス殿を、こちらで待たせてもらっても良いでしょうか?」
ミーシアはアレルの言葉に笑顔で頷いた。
「それは構わないと思いますよ。私達もお願いしている立場ですし」
数分後、転移の魔法陣が発光し、イクタスが現れた。
「おや? これはノルン殿下にアレル達まで。皆さんもカケルとメイの件ですかな?」
「イクタス殿、ハーミル達を北方に転移する際、我等も一緒に連れて行ってはもらえぬであろうか? 謝礼は当然、弾ませて頂こう」
「他ならぬノルン殿下のご要望、御協力させて頂きましょうぞ。此度は例の北の塔最上階に、常設型の転移の魔法陣を設置しておりますからな。そこまでの往復は比較的安全に行えますぞ」
「この短期間で常設型を? さすがはイクタス殿。必要があれば、我等の中から、その魔法陣防衛のための人員を割かせて頂きましょう」
「そうですな……」
イクタスは束の間考える素振りを見せた後、ノルンに言葉を返した。
「既に防衛に当たってくれている冒険者はおるのじゃが、ウムサ殿あたりにも御助力、お願いしましょうかな」
アレル達が頷いた。
イクタスは自分の右耳を触りながら、ハーミルやミーシア達にちらりと視線を向けた。
「ただ、北の塔から先は、ハーミル達には独自の計画があるようですぞ? ノルン殿下御一行には、ご自身達で動いてもらう事になると思いますが……」
「構わぬ。元々我等のみで動く予定であった。決して、ハーミルやイクタス殿の計画の邪魔はせぬ」
話が一段落した後、イクタスは改めて北の塔へ皆を転移させるための準備を始めた。
待つ間、ハーミルは憔悴しきった感じのノルンに近付き、こっそり囁いた。
「大丈夫?」
「大丈夫だ。おぬしこそ、カケルの事が心配で眠れなかったと顔に書いてあるぞ」
ノルンは軽口を叩いたが、その表情は暗いままだった。
「ハーミルは、カケル救出が最優先であろう? であれば、私はメイの救出を優先させてもらおう。ただ、もし応援が必要ならば言ってくれ。おぬしの計画とやらを邪魔せぬ程度に手伝わせてもらうぞ」
「ありがと。ノルンも無理しないで。カケルもメイも連れて、またここへ一緒に帰って来ようね」
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