【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

文字の大きさ
60 / 239
第四章 すれ違う想い

60. 試射

しおりを挟む

第019日―2


イクタスの手引きにより、一同は、次々と北の塔最上階へと転移して行った。
ハーミル、ガスリン、ミーシア、ネバトベ、そしてレルムス――但し彼女の姿は、誰にも認識出来なかったけれど――の五人は、北の塔でノルン達に別れを告げ、早速、紫の結晶が探知された地点へと出立していった。

彼等の出立を見送った後、ノルンは祭壇へと近付いた。
イクタスがいぶかしげに声を掛けた。

「ノルン殿下、どうかなさいましたかな?」
「少し試したい事があってな……」

そう答えたノルンは、詠唱を開始した。
彼女の額が青く輝き出し、濃密な魔力があふれ出してくる。
やがて額に、菱形に輝く青の宝珠が顕現した。
彼女はそのまま祭壇に手を添え、なお自身の魔力を増大させていく。
その場の皆が固唾を飲んで見守る中、突如祭壇が白く閃光を放ち、ノルンがよろめいた。
慌ててアレルがノルンに駆け寄り、手を貸した。

「ノルン殿下!?」
「大丈夫。どうやらうまくいったようだ」

アレルに支えられ、肩で息をするノルンの額からは、宝珠は既に消え去っていた。
ノルンがアレルにささやいた。

「メイの居場所が分かった」
「もしや、先程宝珠を顕現させたのはそのため……?」
「以前竜の巣で、私が祭壇に向けて宝珠の力を解放した時、メイも反応して宝珠を顕現させようとしておった。応用すれば、共鳴して場所を特定できるのでは? と考えたのだ」

そしてノルンは、イクタスの方を振り向いた。

「イクタス殿、すまぬが、我等を今から伝える座標へ転移させてもらえないだろうか?」
「メイかカケルの居場所が特定出来たのですな?」
「そうだ。しかし、恐らく向こうも私がメイの居場所を探ったのを気付いたに違いない。何らかの対策を取られる前に、急いで送ってもらいたい」
「わかり申した」

イクタスは答えると、魔法陣の中心に立ち、指定された座標を転移先に組み込むための詠唱を開始した。



ノルン、アレル、イリア、エリスの四人が転移した先は、冷たい風が吹き抜けるだけの原野であった。

「ここにメイがいるんですか?」

アレル達は不思議そうに周囲を見渡した。
その瞬間、アレルは得体の知れない悪寒に襲われた。
彼は反射的に横へ跳ね飛んだ。


―――ドゴォォォン!


凄まじい轟音が響き渡り、寸前まで彼がいた場所の大地が大きくえぐられた。

「これは、一体!?」

どこから放たれたものかは不明だが、攻撃された事は確かなようであった。
ノルンが今の攻撃を即座に分析したが、そこに魔力は感じられなかった。
まるでガンビク第24話の村でカケルが放ったあの力霊力のように。

「これは魔法では無い未知の力! まさか……守護者?」

全員の顔に緊張が走った。
しかし次の攻撃は訪れず、しばらく奇妙な沈黙があたりを支配した。
と、ふいにアレルが腰の聖剣を抜き放ち、その力を開放した。
彼はそのまま、その輝く聖剣を何もない原野の真ん中で振り抜いた。
瞬間、甲高い金属音が響き、見えていた景色がガラスのように砕け散った。
彼等の目の前に、結界に隠されていた要塞のような巨城が、その姿を現した。


――◇―――◇―――◇――


カケルが拘束されている広間を出たアルラトゥは、急いで最上階へ向かった。
最上階は城外を一望できる展望台のようになっていた。
そこには、巨大な砲台のような兵器が設置されており、傍らに、側近に囲まれた魔王エンリルの姿があった。
息を切らせながら駆け上がって来たアルラトゥに、エンリルが声をかけた。

「アルラトゥよ、何かあったのか?」
「父上、あの女が北の塔の祭壇で宝珠を使い、私の居場所を探り当てた可能性があります」

エンリルの目が一瞬鋭くなった。

「ほう……この短時間でノルンが北の塔に到達している、とすれば、イクタスあたりが絡んでおるか。いずれにせよ、彼女本人が乗り込んでくるという事は、相応の戦力を帯同しているはず。とすれば、ノルンがハーミル、或いは勇者達を連れて、ここへ現れるかもしれん、という事だな?」

アルラトゥがうなずくのを確認したエンリルは、側近達に、砲台のような兵器――霊力砲――の起動を急ぐよう命じた。
霊力砲は、霊力を自在に操れる存在――知られている限りでは、守護者のみ――から強制的に霊力を徴集し、それを攻撃力として、砲身から打ちだす事を想定した兵器であった。
エンリルが配下と共に作り上げたその兵器は、しかし現在に至るまで、いまだその威力を試す機会に恵まれなかった。

エンリルが、不敵な笑みを浮かべた。

「もし勇者達が現れるのなら好都合。せいぜい、試射の的として楽しませてもらおう」


やがて城の結界外の原野に転移の光が輝き、ノルン、アレル、イリア、エリスの四人が姿を現した。
彼等からはこの砲台はおろか、城自体も感知出来ていないはずだ。
果たして、彼等は不思議そうに周囲を見回している。

「アレルを狙え。但し、ノルンには当てるなよ?」

エンリルの言葉に、霊力砲の操作を担当する魔族が射線の調整を行う。
砲身が唸りを上げて紫の不可思議なオーラに包まれた直後、アレルにむけて“力”が発射された。
アレルが不可視であるはずのそれを、尋常ではない運動能力でかわすのが見えた。
エンリルが感心したような声を上げた。

「“力”の発射には成功したが、さすがは勇者。不可視の攻撃をかわすか。続けて撃て!」

しかし、砲台は沈黙している。
怪訝そうに振り返ったエンリルに、操作を担当する魔族が答えた。

「徴集できる霊力が、想定よりも少な過ぎます!」

アルラトゥは魔力を展開して、階下の広間でこの兵器への霊力を供給しているはずのカケルの様子を探ってみた。
カケルは全身から血を噴き出しながら痙攣していた。
傷口はしゅうしゅうと湯気を立てながら修復されていくものの、塞がり切る前に新たな傷が生じ、そこから血が噴出している。
許容範囲を超えて霊力をしぼり取られているようにしか見えない。
凄惨な情景に、アルラトゥは絶句した。

「父上、カケルの回復が追いついていません!」

エンリルは、焦るアルラトゥに冷ややかな視線を向けた。

「それがどうした? 守護者の力を継承しているなら、死にはせん」

そして彼は配下に、霊力の徴集をさらに急ぐように指示を出した。

アルラトゥの感知の網の中、限界を超える負荷に、カケルは絶叫を上げていた。
想像を絶する苦しみの中にいるであろう彼の姿は、アルラトゥの心を大きく揺さぶった。
アルラトゥは再びエンリルに声を掛けた。

「このままでは、カケルの精神がもたないのでは? 壊してしまっては元も子も無いかと」
「あの少年の精神など関係ない。むしろ自我を崩壊させた方が、余計なたがが外れて、霊力を徴集しやすくなるかもしれない位だ」

アルラトゥが、さらに言葉を重ねようとした矢先、城全体が大きく揺れた。
どうやら、結界が破られたらしい。

「なるほど、聖剣の力を使って結界を破ったか。モンスター共を放て、勇者達を城外に押しとどめるのだ。霊力砲の準備はまだか?」

エンリルは眼下の勇者達を眺めながら、配下に次々と新たな命令を出していく。
直ちに巨大なモンスター数十体が、城門より勇者達に向かって突進を開始した。
アレル達が迎撃態勢に入るのが見えた。
そこへ、ようやく霊力の充填に成功した霊力砲が、アレルに向かって第二撃を発射した。
その“力”は、射線上のモンスター達を粉砕し、その死角にいたアレルに襲いかかった。



目前の巨大なモンスターと交戦していたアレルは、その攻撃をかわし切れなかった。
彼は鎧ごと右脇腹を大きくえぐられた。
傷口からはおびただしい量の血があふれ出し、彼は苦痛に顔を歪めて膝をついた。

「アレル!」

仲間達が慌てて彼の元へと駆け寄った。
エリスがアレルをかばい、イリアが大魔法で巨獣の群れを牽制する中、ノルンが直ちに治癒の術式を構築していく……



満足そうに成り行きを見守りながら、エンリルは側近に言葉を掛けた。

「アレルの鎧には、確か加護がかかっていたな?」
「物理、魔法を問わず、ほとんど全ての攻撃を著しく減弱させる、特殊な鎧であったかと」
「それを破壊出来るという事は、実験はほぼ成功だ」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

処理中です...