【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

65. 下問

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第019日―7


「陛下、只今帰還いたしました」

帝城に帰着したノルンは、その足ですぐに奏上のため、父ガイウスの居室を訪れていた。
やや疲れの見える彼女に、ガイウスが優しい表情で言葉を掛けた。

「ノルンよ、よくぞ無事で戻った。そなたが急に勇者達と同行すると申すから、仕方無く許可はしたが、朝から気を揉んでおった所じゃ。して、首尾はいかがであった?」
「ご心配をおかけしまして、申し訳ありません。やはり、メイとカケルをさらったのは、魔王エンリルでした。カケルは救出できたのですが、メイは……っ!」

感情が激したのであろう。
ノルンは唇を噛んでうつむいた。
しかしすぐに顔を上げ、北方の地での出来事について語り始めた。

彼女の話を聞き終えたガイウスは、少なからず衝撃を受けた。

「なんと! アレルの加護すら無効化してしまう兵器だと!?」

聞いている限りではまだ試作段階であるようだが、威力を上げる等、改良を加えられれば、それは帝国にとって由々ゆゆしき事態を引き起こしかねない。

ガイウスは思わずひとちた。

「やはり、カケルは我が帝国で庇護したほうが良いのやもしれぬな……」

魔王にその力を利用されないため、そしてあわよくば、自分がその力を利用するため。

取り敢えずは、誰かをカケルの近くに配置してその動向を報告させ、それと並行して、カケルを確実に帝国側に繋ぎ止める何らかの手立てを……

しばらく沈思黙考していたガイウスであったが、やがて顔を上げると、もう一つの関心事について、改めてノルンに問いかけた。

「今回は、メイは魔王に捕えられたまま、という事であったな?」
「はい」
「幸いつい先ほど、ナイアとも連絡が付いた。彼女にもメイ救出を指示した所じゃ」
「勇者アレルに勇者ナイアの二人なれば、きっと我等の期待に応えてくれましょう」
「それで敵の城内へは、ハーミルが突入したのじゃな? あと、彼女が依頼した冒険者達も、此度こたびの件で動いていたと申しておったな。彼等からも話を聞きたい」
「そうおっしゃると思いまして、ハーミルと冒険者達の代表者ミーシアと申すエルフには、父上からの御下問の可能性、既に伝えて御座います」
「では、その儀は明日早速手配させよう。後は、北の塔の魔法陣守衛の件だが……話では、今夜はアレル達がそこで野営しておるとか。今夜の内に、衛兵等を派遣し、守衛維持の手配をさせようぞ」


ノルンを退出させたガイウスは、改めて一人の側近を居室に呼び入れた。
彼の名はドミンゴ。
五十代半ば、灰褐色の髪を短く刈り上げた人物で、情報機関のトップを務める人物でもあった。

「お召しで御座いましょうか?」
「うむ。明日、ハーミルとカケル、それからミーシアと申すエルフから話を聞けるよう手筈てはずを整えよ。ミーシアは、アルザスの冒険者ギルドに所属しておるらしい」
「かしこまりました。直ちに手配いたします」
「それと……」

ドミンゴを傍に呼び寄せ、ガイウスは小声で何事かを指示した。
ドミンゴはうなずくと、やや強張こわばった表情で退出していった。

「さて、吉と出るか凶と出るか……」

ガイウスは居室の椅子に深く腰を沈め、一人つぶやいた。


――◇―――◇―――◇――


第020日―1


翌日、昼食をミーシアさんも交えて三人で楽しんだ後、僕とハーミルは、皇帝ガイウスからの下問に答えるため、帝城に向かう事なった。
因みにミーシアさんは既に午前中の内に下問が終わったとの事で、帝城に向かう僕達を笑顔で見送ってくれた。

参内さんだいした僕達は、そのまま皇帝ガイウスの居室へと通された。
居室では皇帝ガイウスと共に、ノルン様も笑顔で僕達を出迎えてくれた。

僕達をソファに座らせた皇帝ガイウスは、今回の出来事について、いくつか質問を投げかけて来た。
それらに対して、僕とハーミルは、事前にノルン様と打ち合わせていた内容に沿って答えていった。

話を聞き終えた皇帝ガイウスが、感心したような雰囲気になった。

「ハーミルはまことに素晴らしい働きじゃ。何か恩賞を下さねばならぬな。希望が有れば申してみよ」
「既に帝国により、手厚く父を介護して頂くという我儘わがままをお聞き頂いております。これ以上の恩賞は、贔屓ひいきと受け取られないかと」
「相変わらず欲の無い事よ。それではこれからも、我が帝国の為、尽くしてくれ」

皇帝ガイウスは、ハーミルをねぎらった後、僕に話を振ってきた。

「それにしても、此度こたびは、カケルが一番災難であったかもしれぬな」

まあ災難というより、僕なんかの救出の為に、ノルン様やアレル達まで駆り出されてしまった事に、改めて申し訳なさを感じた僕は、頭を下げた。

「すみません、ご迷惑おかけしまして」
「何を申すか。カケルも帝国の臣民の一人。それをむざむざ魔王如きにさらわれてしまった予の方こそ、脇が甘かったと言うべきぞ。希望すれば、手練てだれの者達を、そなたの警護につけるが……?」

そんな事になったら、かえって四六時中、気分が休まらなくなる。

「お気持ちだけ、ありがたく受け取らせて下さい。次からはそう易々とさらわれないよう工夫しますので」
「そうか。まあ今後もし必要を感じたら、いつでも遠慮なく申し出てくれ。」

皇帝ガイウスは、それ以上はその話を引っ張らず、ふと思いついたように話題を変えてきた。

「ところでカケルは、コイトスの王女、クレア姫の宝物を、賊から奪い返したとか?」
「コイトスの……?」

一瞬、首を捻った後、僕は二日前の出来事第55話を思い出した。

「あっ! そう言えば、ネックレスの件ですね?」
「うむ。クレア姫は三日ほど前から、帝都に遊びに来ておってな。昨日話す機会があったのだ。姫はいたく感謝しておって、是非カケルをコイトスに招きたい、と申しておったぞ。実はクレア姫の母親は、予の従姉妹でな。良ければ彼女の招待、受けてやってくれ」

そう言えば今回の騒動ですっかり忘れてしまっていたけれど、そんな話も出ていたっけ。
コイトスは海沿いの綺麗な国って話だし、息抜きにちょうど良いかも。

そんな事を僕が考えていると、ハーミルが僕に視線を向けてきている事に気が付いた。

「ん? どうしたの?」
「良かったね、カケル。コイトスのお姫様とお近付きになるチャンスだよ?」

しかし言葉とは裏腹に、何故かハーミルの目が怖い。
僕は皇帝ガイウスに申し出てみた。

「あの……その招待、ハーミルと一緒にお受けしても宜しいでしょうか?」
「ん? もちろん構わんと思うぞ。なんなら、予から姫に伝えておこう」
「宜しくお願いします」

僕は、そっと隣のハーミルに目をやった。
彼女の澄まし顔からは、機嫌の良し悪しを読み取る事は出来なかった。


ノルン様に見送られて城門を出た所で、僕はハーミルに聞いてみた。

「もしかして、コイトスに行くの、反対?」
「そんなこと無いよ。折角だし、私なんか連れて行かずに、お姫様と楽しんできたらよかったのに」

理由は不明だけど、なんだかねている風に感じられる。

「ハーミルを置いていくわけにはいかないでしょ?」
「どうして?」
「だって、ハーミルは僕にとって大事な……」
「えっ?」
「仲間だしね」

僕の返事を聞いたハーミルは、何故か噴き出した。
しかし、先程までの拗ねた感じはもう見られない。

「……まあいっか」

そう口にしたハーミルが、何かを思い出したような顔になった。

「カケル、紫の結晶、今持っているよね?」

言われて、僕は懐の中のそれをそっとハーミルに見せた。
彼女が問い掛けてきた。

「それ、携帯に便利に加工できないかなって言っていたでしょ?」
「うん。ベルトみたいに身体に巻き付けとけば、そうそう盗られないかな、と」
「実はこの近くに、宝石とかの加工が得意な人いるの。ミーシアさんに紹介してもらったんだけどね。良かったら、今から行ってみない?」
「そうだね。まだ日も高いし、ここから近いなら連れてってもらおうかな」

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