【改稿版】僕は最強者である事に無自覚のまま、異世界をうろうろする

風の吹くまま気の向くまま

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第四章 すれ違う想い

73. 仲間

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第024日―2


やがてマロリーさんが戻ってきて、衛兵達の到着を告げた。
僕はジュノに横になっているよう伝えてから、彼等を現場へと案内した。
現場に到着すると、衛兵達と、彼等が帯同した魔導士達が、入念に戦いの痕跡を調査し始めた。

「これは……麻酔針ですね」

現場に散乱していた針のような物を手に取ったマロリーさんの目が、細くなった。
僕はあの時、襲撃者達が、自分に向けて針のような物を複数発射してきたことを思い出した。

「どうやら襲撃者達の目的は、カケル様の殺害では無く、拉致だったようです」

他に、魔族の血痕が残されていた事、襲撃者達が北方へと転移して逃れ去った事等が分かった。

「カケル様を襲ったのは、魔王の配下共だったと考えて、ほぼ間違いないでしょう」

マロリーさんの言葉で、拉致されて霊力砲に繋がれた時の事を思い出した僕は、思わず身震いした。

「あとは我々にお任せください」


衛兵達にうながされて、僕はマロリーさんと一緒に宿舎へと戻って行った。
自室に戻ると、ジュノは既に寝息を立てていた。
僕もエキストラベッドに横たわった。
考えてみれば、魔王エンリルが再び自分を捕えようとする事は、ある程度予測出来た事でもあった。
しかしあの時あの場所にいた【彼女】は、一体何者であろうか?
霊力を使用していたように感じられたけれど、『彼女サツキ』とは何か関係があるのだろうか?
答えの出ない疑問が頭の中を駆け巡り、僕がようやく夢の世界へといざなわれたのは、空が白みかける頃合いであった……


――◇―――◇―――◇――


第025日―1


その日、早朝から帝城内は騒然とした雰囲気に包まれていた。
事の発端は、三日ほど前から、帝国直轄領のヴィンダへの転移が不可能になった事である。
当初は転移の魔法陣の不調が疑われ、ヴィンダへ向けて調査団が派遣された。
しかし現地に到着した彼等が目にしたのは、破壊しつくされ、廃墟と化したヴィンダの街であった。
奇妙な事に、そこかしこに住民達の遺体が散乱する街中に、魔族やモンスターの痕跡は一切見られなかった。
まるで街中で暴動ないし、市街戦が行われ、勝手に壊滅したかのような状況であった。
さらに時を同じくして、魔王の領域と接する傘下の二国家――ボレア獣王国とヤーウェン共和国――に不穏な動きがあるとの知らせももたらされた。

「軍の動員を急げ。まずヴィンダへ先遣隊を派遣し、事の詳細を明らかにするのだ」

ガイウスは側近達に次々と指示を飛ばした。

「問題の二国も含めて、傘下の全諸王侯と知事達に、直ちに帝都へ参集するよう命じよ。それから、テミスとノルンを呼べ」

テミスはノルンの兄であり、ガイウスの長男、つまり皇太子であった。
元々内向的な彼は、表舞台に立つ事を好まず、いつも書斎で近臣達と古文書の研究まがいの事をして、日々を過ごしていた。
実は、ガイウスのテミスに対する評価はかんばしくない。
引っ込み思案で読書ばかりしているテミスより、聡明で自身にとって良き相談相手にもなれるノルンの方を高く評価していた。
しかし親征する事態になれば、やはり留守を任せるのは、皇太子でなければならない。

「テミス、お召しにより参上しました」
「テミスよ、場合によっては、予自ら出陣せねばならぬ。そなたも読書ばかりしておらず、政治向きの話もしっかり大臣達に諮問しもんしておくように」
「は、かしこまりました」

テミスが下がると入れ替わりに、ノルンがやってきた。

「父上、一体何が起こっているのでしょうか?」
「分からぬ。今判明しているのは、ヴィンダが滅びた事実のみ。魔王エンリルが裏で糸を引いているのか、或いは傘下の諸王侯がひそかに反乱を企んでいるのか……」
「或いは、その両方の要因が組み合わさっているかも……ですね」

うなずくガイウスに、ノルンが言葉を続けた。

「父上、愚考しますに、諸王侯へは、父上の威徳と恩愛をもう少しお示しになられては如何いかがでしょうか? 締め付けが過ぎますと、魔王エンリルごときに乗じられる隙を作ってしまうかと」
「分かっておる」

ガイウスは娘の言葉に渋い顔になった。

最近は諸王侯を統制するのに、以前程厳格に法を適用してこなかった。
彼なりに威徳と恩愛を示してきたつもりであった。
しかし結果、この事態である。
まだ真偽のほどは明らかでは無いものの、今回の事態に帝国内部の反対勢力の存在があるとすれば……

ガイウスは改めて、帝国経営の難しさを再認識した。

「とにかく、もしかすると予が親征する必要があるやもしれぬ。その時はテミスに留守を任せ、そなたを同行させる故、準備をしておくように」

ノルンが退出した後、ガイウスは居室の椅子に深く腰掛けた。
そう言えば、カケルは今頃コイトス王国のはず。
場合によっては、カケルの力が必要になるかもしれない。

ガイウスは再び立ち上がると、カケルとハーミルを呼び戻す手配をするため、側近を呼んだ。


――◇―――◇―――◇――


「カケル!」

翌早朝、僕はいきなり部屋に飛び込んできたハーミルの声で目が覚めた。

「……ハーミル?」

寝ぼけまなこで身を起こした僕に、ハーミルが物凄い剣幕で詰め寄って来た。

「なんで私を起こさなかったの!?」

起床後、どうやら昨晩の騒ぎをマロリーさんあたりから聞いてきたらしい。
と、本来なら僕が寝ているはずのベッドの上で、ジュノが身を起こした。

「朝っぱらからうるせえなぁ」

まぶたこすりながら、まだ眠そうにしているジュノの姿を目にしたハーミルが、大きく目を見開いた。

「! ちょっと、なんであなたがカケルのベッドに寝ているの!?」

僕はハーミルをなだめつつ、とりあえずの説明を試みた。

「昨晩は、僕とジュノで撃退できたし、その後は衛兵がやって来て事後処理していただけだから、今朝起きてから伝えようと……」
「その襲撃者達が、また戻ってくるかもしれなかったじゃない!」

ハーミルがベッドの上で上半身を起こした僕にしがみつき、胸に顔をうずめてきた。

「また一人で無茶をして……私がどんなに心配したか……」
「心配かけてごめんね」

半分涙声になってしまったハーミルの背中に、僕はそっと手を添えた。
そんな僕達の様子を眺めていたらしいジュノが、うんざりしたような声を上げた。

「いちゃつくなら他所よそでやれ」

ハーミルが、ガバっと顔を上げて、ジュノを思いっきり睨みつけた。

「あなたねえ、ここはカケルの部屋よ? 出て行くのはあなたの方でしょ!」
「まあまあ、昨晩、ジュノは僕を助けようと、大怪我してね……」

僕は改めて、昨晩の出来事――もちろん、霊力のくだりは省いて、だけど――について、ハーミルに詳しく説明した。

「……という訳で、ジュノは少し安静にしてないといけないんだ。朝ご飯を食べたら、ジュノを治療院に連れて行ってあげよう」
「まあ、そういう事情なら仕方ないけど……」

不承不承ふしょうぶしょう、納得しかけたハーミルだったけれど、すぐに怪訝そうな雰囲気になった。

「ところでどうして、ジュノはそんなうまいタイミングで、カケルの襲われた現場に居合わせたの?」

ジュノの目が泳いだ。

「そ、それは……」

ハーミルの目が険しさを増した。

「私達の事、ストーカーしていたのね?」

「……仲間にして欲しかったんだ」
「仲間? あなた、それならその協調性ゼロの性格、なんとかしてからにしなさい」
「オレはどうしても最強の冒険者にならなきゃいけないんだ。そうしないと……」

そこまで口にしたジュノの目に、みるみる涙が溜まっていく。
ハーミルが少し慌てた声を上げた。

「ちょ、ちょっと……あなた、泣いているの?」

僕はハーミルの耳元で、そっとささやいた。

「ジュノは剣聖ハーミルとか、腕利きの魔法使いの僕とかと一緒にいれば、自分も強くなれるんじゃないかって思っているみたいなんだよ」
「腕利きの魔法使い?」
「昨日の襲撃者、ジュノは、僕が魔法で撃退したって勘違いしているみたいなんだ。でも、霊力の事は教えるわけにはいかないだろうし」
「……分かったわ。でも、ジュノを仲間にしたりはしないよね?」
「でも、あれだけ仲間になりたがっているし。冒険に行く時だけでも、一緒に連れて行ってあげない?」

僕の提案に、ハーミルが目をいた。

「ええっ!? それ、本気で言っている?」
「じゃあさ、お試しでって言うのはどうかな? 仮入部みたいな形で。もちろん、宿は自分で探してもらって」

ハーミルは少しの間、考える素振りを見せた後、ふっと息を吐いた。
そしてジュノに声を掛けた。

「まあ、経緯はどうあれ、あなたがカケルを守ろうと行動してくれた事は確かだし、冒険の時限定で、試しに一緒に行動してみましょう。ただし、あんまり協調性ない事したら、それっきりだからね!?」

ジュノがパッと顔を上げた。
あどけなさの残る顔には、満面の笑みが浮かんでいた

「本当か!? よし、オレがどれだけ役に立つか、見せてやるぜ」
「だからその自信過剰な物言い、なんとかしなさいって」

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